めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

円城塔 / バナナ剥きには最適の日々

バナナ剥きには最適の日々

バナナ剥きには最適の日々

円城塔 / バナナ剥きには最適の日々 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 伊藤計劃の作品オモスレーって読んでた時に、この方のお名前もよく見かけた。これは作者名が同じア行で、書店の本棚で目に付いたという理由も大いにある。何を1作目に読んでみようかと裏表紙の解説を見ていると、どうも本作はどうやら「わからないけどおもしろい、の理由が少しわかるかもしれない」短編集だという。薄くて読みやすそうだし、ということでこれが円城塔の1冊目になったのです。

2.内容

 2012年に早川書房から単行本化され、2014年に文庫入り。既存短編9編にボーナストラック1篇の計10編が収録された短編集です。
 うむ、確かに何がなんだかわからない。分からない中で雰囲気や文章を楽しむものなのだろうか…。難しい理屈とわからない出来事が跋扈する中で、個人的には無人探査機がお仕事している短編『バナナ剝きには最適の日々』と、文章を読む・書くということについてのトリッキーな論考『Automatica』が気に入っています。なぜかというと、これはちょっとわかる気がするからです。…もう一度読んでみようかな。今度は分かるかもしれない。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 嫌いじゃない。嫌いじゃないけど分からない。分からないので、長編に手を出すのをためらっている。そんな感じ。『屍者の帝国』は良かったけどね。

4.どのような人に推奨するか

 SFか?SF要素もあると思います。でも、やっぱり分からないという感想に落ち着く。解説でも触れられている通り、あらすじは重要ではなく(こと短編ではその傾向が強い気がする)、あくまで文章表現そのものの妙味が持ち味であると思います。そんな感じ。ひねくれた人におススメ。ちなみに、私は音楽としてのプログレが好きです。

中曾根康弘 / 自省録-歴史法廷の被告として-

中曾根康弘 / 自省録-歴史法廷の被告として- のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 高橋是清『随想録』を読んで、政治家個人が語る歴史は面白いと思っていたところで、本屋を徘徊していたら見つけたのがこの『自省録』。先日までご存命だった方ではあるが、氏が首相を務めた頃にはまだ自分は生まれてないし…十分「歴史」の範囲なんだよなぁ。

2.内容

 底本は2004年に刊行された同名の書籍で、2017年の本文庫化にあたり新潮45の記事と解説が追加されている模様。氏は結構な数の書籍を書いてきたようだが、本作はコンパクトに政治と歴史がまとまった読みやすいボリューム感になっている。
 読んでいて、政治家としての軸がご本人にしっかりある感じがしました。政治家は自分の信じる政策をやるものであって、国民の希望をポピュリズム的にやるものではないと。それはその通りだと思うのです。政治家は国民の代表ではあるけれど、国民の総意(そんなものが現実にあるかどうかは置いといて)を反映するということを意味しない。それだったら直接民主制でやればいいわけで…間接民主制を取る限り、我々は政策そのものではなく、それを立案・実行できる人を推すことになる。そして本書は、そういった推された側・選ばれた側がどういった指導者であるべきか、という点に多く触れた本になっているわけです。
 同世代の他の政治家を語る場面も結構多いんだけど、好悪がハッキリしているというか、評価するところは評価するが、ダメなところはボロクソです。手心がなくて面白い。あと、防衛や憲法改正に対する意識って、戦争経験者(中曾根氏は海軍で太平洋戦争を経験している)は全然違うんだね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 面白い。刊行当時のホットな話題であるイラク戦争(2003年)などにも言及されている。2021年現在でご存命であればどんなことを語ってくれただろうか、と思ったりもした。

4.どのような人に推奨するか

 別の記事でも書いたけど、自分は本人が語る言葉に価値を置きたい。ということで、中曾根氏の思想や活動を本人の言葉で知りたい人におススメ。値段もボリュームもお手頃で、手に取りやすいというメリットもあるよ。

高橋是清 / 随想録

随想録 (中公文庫プレミアム)

随想録 (中公文庫プレミアム)

高橋是清 / 随想録 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 半藤一利の『昭和史』と三島由紀夫の絡みで、二二六事件に興味を持つ。江戸東京たてもの園に遊びに行く。赤坂から移築された高橋是清邸があり、この家で暗殺されたことを知る。高橋是清について知りたい。という動機です。『高橋是清自伝』と迷っただけど、自伝は上下巻セットと長いので、単刊のこっちを選択したというわけ。

2.内容

 高橋是清の秘書官である上塚司が、高橋是清の様々な言葉(文章や講演、対談記録など)を随想録としてまとめていた者。高橋是清が二二六事件で凶弾に倒れてしまったので、死後の出版となった。前書きとして上塚司が刊行に対する痛切な想いが書かれている。昭和11年3月21日と、死後1か月も経っていないのでそりゃそうだろう…。仮名遣いなどを改め、2018年に中公文庫から刊行されたのが本作です。
 政治・経済の施策、かかわりのあった政治家たちの話、宗教観や家庭人のあり方などを語る高橋是清。晩年(大正~昭和)時期のものが大半です。いろんな媒体から引かれているので文体はフランクだったりやたらに硬かったりと様々です。フランクな方の会話文のような文章は、本当に現代令和の日本語と大差ないなぁ…と思う一方で、書面で書かれたものは読みづらさを感じる。二二六事件の音声をyoutubeで聞いたときにも感じたことだが、100年前の日本語も会話という観点では大差ないんだなぁという点と、文言は乖離しているなぁという点が印象的です。渾名されるとおりのダルマさんな見た目の是清が「とうとう死んじゃった」とか言っていると思うとなんかカワイイよなぁ。
 序盤の他の政治家との関わりについて語られるパートが面白い。懇意にしていた人物や評価が分かること、晩年だからということもあろうが総理も大臣もやりたくなかったということ、日本国のために働こうという強い意思を持った御仁だったのだなぁということなどが文章から伝わってくる(自伝なのでいいように書いている部分があるにしても、だよ)。
 経済施策についての章はお金のレートの違いや経済知らんこともあってまぁあまりピンとこないんだけど、「経済を回す」という発想が明確に書かれていたのはちょっと驚いた。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ちょっと読むのが大変(というか読み飛ばした)ところもあるけど、首相や大蔵大臣などを歴任した高橋是清の人となりを知ることができて良かった。

4.どのような人に推奨するか

 多分こういう偉人・政治家を語る本はいっぱいあると思う。研究者が説明する本もいいと思うが、個人的には本人が語る言葉に価値を置きたい。ということで、高橋是清の思想や活動を本人の言葉で知りたい人にとってはおススメできる本でしょう。巻末解説や年表もあるので、時代背景もセットで抑えることができると思います。自伝読んでないから、比較はできないけれど…

三島由紀夫 / 手長姫・英霊の声 1938-1966

手長姫 英霊の声 1938 -1966 (新潮文庫)

手長姫 英霊の声 1938 -1966 (新潮文庫)

三島由紀夫 / 手長姫・英霊の声 1938-1966 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『英霊の聲』が河出文庫からしか出ていないんだなぁと思っていたら、まさかの2020年の新潮文庫新刊で、本作が出ていた。まぁ三島由紀夫の新刊ということで、河出文庫の方と同時に購入。やはり没後50年だからそれに合わせたリリースがあったということかなぁ。

2.内容

 2020年に新潮文庫からリリースされた、1938年(当時13歳)の『酸模』から晩年と言っていい1966年の『英霊の聲』まで幅広い年代の作品を収録されている。三島は新潮文庫から大量の作品が出ているが、全て初の新潮文庫化ということらしく、既存作品との被りはない模様。
 河出文庫では『英霊の聲』、本作は『英霊の声』と、声の旧字体が改められている。前者の方がカッコイイですね。河出文庫の方は二二六事件三部作という明確にコンセプチュアルで統一感のある作品だったけど、こちらは複数年代の作品から編まれたコンピレーションなので、それだけでも読後の印象派が違うものですね。
 1つ1つの作品についてはまぁそんなにどれが凄い好きというのはないんだけれども。初の小説、13歳にしては語彙力ありすぎませんかね…?という感想。文庫のつくりとして、各作品についてのちょっとした説明と時代背景が差し込まれているのは好印象。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 まぁ未収録作品を集めた文庫ということで、出たことに価値があると思います。リリースありがたい。

4.どのような人に推奨するか

 個人的には『英霊の声』は河出文庫の方で読んでほしいです。三島は作品数が多いですが、読む順番としてはこれは後回しでもいいような。

Caligula's Horse / Moments from Ephemeral City

Moments from Ephemeral City (Re-issue 2017) [Explicit]

Moments from Ephemeral City (Re-issue 2017) [Explicit]

  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: MP3 ダウンロード

オーストラリアのプログレッシブメタル、Caligura's Horse / Rise Radiantをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 5th『Rise Radiant』と同時購入。

2.内容

 2011年にインディーズリリースされたバンドのデビュー作です。その後Inside Outから2017年にリイシューされており、手持ちはリイシューの方。Metallumで調べる限り、収録曲に差はなくリマスター等もされていないようなので、どっちを買ってもいいでしょう。
 今に続く音楽的なベースは既に出来ていると言えます。雄大なボーカルライン、入り組んだリズムでユニゾンするリズム隊、アコースティックな要素、弾きまくりのギターといった要素は、5thでも見られたものです。
 とはいえ、メロディも演奏も相当に充実していた5thと比べると、高品質ながらも未熟感というか、既存バンド「っぽさ」をそこかしこに感じてしまうんだなぁ。特にギターフレーズにおいて、Steve Vai(あるいはZappa)っぽい、Dream TheaterのPertucciっぽいと思う場面がちょくちょくあった。個々のパーツは悪くないのだけれど、楽曲構成もややとっ散らかった印象。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 うーん、後発の作品の方が完成度が高くて好きかな。

4.どのような人に推奨するか

 最近の作品から聞いていって、気に入ったら1stに向かって遡っていく感じでどうぞ。テクニカルプログレメタラーには訴求する内容ではあるし、高品質ではあるので、この作品から入るのも悪くはない。

柳美里 / JR上野駅公園口

JR上野駅公園口 (河出文庫)

JR上野駅公園口 (河出文庫)

柳美里 / JR上野駅公園口 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 府中の書店でプッシュされていたのと、全米図書賞 翻訳文学部門を受賞したという帯タタキに魅かれて。ページ数が少なく、600円とお手頃価格だったのもある。話題書をたまには読もうと思うよね。柳美里さんの作品を読むのはこれが初めて。

2.内容

 2014年に河出書房から単行本リリースされたものが、2017年に河出文庫からリリースされたもの。なんで今話題沸騰なのかというと、やはり全米図書賞受賞という点で、後追いで日本で評価され始めたってこと?
 明仁天皇と同じ日に生まれた福島県出身の男の、人生の物語。徳仁天皇と同じ日に生まれた息子とその死。ホームレスになった自分と、同じ日に生まれた明仁天皇の対比。若くして死んでしまった息子と、首尾よく成長していく徳仁天皇の対比。上野恩賜公園を中心とするホームレスの描写などが中心です。
 柳美里の作品は初めて読んだけど、多分に詩的で修辞と擬音の多い文章が特徴的だと感じた。3点リーダも多いですね・・・。作品がかなり、主人公の男の「心」を追う内容なだけあって、この文体が合うか合わないかがまず一つの分水嶺ではないかと。

 ホームレスの生活や、地方における葬儀の慣習などをよく調べて書いたのだと思う。あと、上野恩賜公園周りの歴史だとか天皇の御幸だとかは史実に基づいているようで、そこは勉強になるなぁと思った。
 一方。主人公の男が置手紙を残して突然孫娘の前から去りホームレスになるのがよくわからないとか、妻や孫娘も突然に死んでいったりとか、最終盤における東日本大震災の描写(主人公の男が巻き込まれたのかと思って読んでたんだけど、全然違って、孫娘が津波に巻き込まれた)とか、「おや?」と思う点がいくつかありました。帯タタキにあるように「感動」する作品だったかというと、そうではないと思います。
 あと、作者本人の後書きはともかく、解説は読まなくてイイかなと思います。政治思想史のセンセイが「天皇制の呪縛」という点にのみフォーカスして作品を…というか天皇制について語っている内容です。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 詩的な文章を読むこと自体はまぁ嫌いではなかった。内容はそんなに。解説はマイナス。

4.どのような人に推奨するか

 詩的な文章・表現に溢れた小説ですので、そういうのがイケる方。ストーリー的には…誰におススメというのはないです。

半藤一利 / 昭和史 1926-1945

半藤一利 / 昭和史 1926-1945 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻ライブラリーから拝借。以前書店で見かけて気になってはいたんだけど、買うには至っていなかった作品ではあるんだが、なんか妻が買ってました。

2.内容

 半藤氏の寺子屋的昭和史講座を元に、書籍として再構成された昭和史の講話集。  元が講話だけあって、あくまで語り掛ける形式で展開される本文は非常に読みやすい。自身が戦中に少年時代を過ごしたからこそ出てくる体験談も、貴重な記録と言っていいのでは。扱っている範囲は年号で想像がつくと思うが、満州事変~日中戦争~太平洋戦争に連なる一連の戦争と、それにまつわる政治の移り変わりが中心で、これが結構わかりやすくまとまっている。格調高さはない(し、そんなものは求めていない)が、軽妙で読み物として面白いと思います。昭和の通史に明るくない人には勉強になると思います。
 語り手(=著者)の情報は、1930年生まれで文芸春秋の編集長であるという点としか知らないので、政治思想等は知りません。でも、今調べてみると、東京裁判史観…戦勝国によって後付けされたシナリオ…に基づいており、客観性がない自虐史になっているという批判があるようです。まぁ、そういう側面があるということと、個人の体験・歴史観に基づくものであるということを前提に読めばいいんじゃないでしょうか(たとえ様々な一次資料を用いていたとしても、その資料の信ぴょう性、選択の恣意性があるので…)。というか、そういうツッコミが出来る人は昭和史に詳しい人だろうから、この本を読む必要はないと思われます。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 面白い。B面もセットでこの後読みます。あと、東京裁判史観に反対する立場の本も併せて読んでみようと思います。

4.どのような人に推奨するか

 私のような日本史(昭和史)をあんまり知らない、大まかなイベントは覚えているけど…というレベルの人向けです。

Cultes Des Ghoules / Henbane

Henbane

Henbane

ポーランドのブラック/デスメタルバンド Cultes Des Ghoules / Henbaneをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 さっき1stを聞いたので、次いでに2ndも聞いている。ちな、現時点で持っているのはこの2ndまで。

2.内容

 2008年の1stから何枚かのスプリットとEPを挟んで、2011年にリリースされた2ndフルアルバム。これもHells Headbangers Recordsから出ている。今出てこないけど、多分手持ちはそれだと思う。  5年経ってますが、基本的な音楽性は1stから変わっていない。相変わらず毛羽立った歪みのギターがリフで先導する中で、高速/低速が入れ替わり立ち代わりの楽曲展開を見せる。1stと比較すると、リフのオカルト感が増したのと、ドラムの体感速度が速くなったなぁと思う。1つ1つのリフがより印象的になり(ただし決してメロディアスではない)、前作では見られなかった高速ブラストも聞かれ、ボーカルパフォーマンスもドスの利いた低音から演説風のスピーキング、シアトリカルな悲鳴、怪しい笑い声と様々。
 #1 "Idylls of the Chosen Damned"や#2 "The Passion of a Sorceress"はリフの魅力が詰め込まれた勢いに溢れた佳曲。#3 はスローでドゥーミーで、ディストーションギターの音も殆ど聞かれないスピーキングパートもあるタイトル通り"Vintage Black Magic"な黒魔術ソング。7:00過ぎあたりからの妖しさ満点のサウンドスケープはある意味スゴイ。前作よりプロダクションはいい意味で荒々しくなったと思うが、リフが何を弾いているかは十分に聞き取れるレベル。オカルティズムな雰囲気の向上と、静動のメリハリによる楽曲の印象付けという点で、全体的に質の向上が見られる快作だと思います。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 雰囲気あるなあ。怖いっす。

4.どのような人に推奨するか

 前作よりカルト度や呪い度が上がっているけど、バンドの個性というか神髄はこっちなんだろうなと思う。単純にプリミティブブラックとして聞くならば、もしかすると前作の方が好きな人もいるような気がするのだが、オカルトな雰囲気を存分に楽しみたい方や前作の「妖しさ」に魅かれた方には、本作はより訴求する作品になっていると思う。

Cultes Des Ghoules / Haxan

Haxan

Haxan

  • 発売日: 2011/05/24
  • メディア: MP3 ダウンロード

ポーランドのブラック/デスメタルバンド Cultes Des Ghoules / Haxanをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 特に理由なくブログ書きながら聞いてたのでついでにレビュー。汚らしいプリミティブ/ベスチャルスタイルのブラックメタルを買い求めたいた時期に買ったものです。普通にディスクユニオンで見かけて買った記憶があるぞ。

2.内容

 バンドのフルアルバムとしては第一作目。2008年にリリースされました。Hells Headbangers Recordsからもリイシューされているようなので、そこそこ流通しているんじゃないでしょうか?オリジナル盤も1000 Copiesってあるけど、1000枚限定程度だと普通に手に入ったりするからね、このジャンルは…。
 さて音楽性は、何に似ているといえばいいのかね。ささくれ立ったとげとげしいギターの歪みによるオカルティズム溢れた反復的なトレモロリフと、荒々しくプリミティブにドカドカと叩きならされる中速ブラストビートとスローテンポによるブレークダウンを行き来する展開、どことなくMayhemの『De Mysteriis Dom Sathanas』の時のAttila氏を思われる呪言めいたうめき声ボーカル、8分から~16分の長尺曲(あんまり展開は覚えてない)で構成されています。汚らしいけどしっかりと構成されたブラックメタルという印象です。なんだろう、ギターリフはメロディアスではないんだけど、口ずさめるようなキャッチーさもあり。#3 "Stegoica Dance"なんていいリフが詰まっている佳曲だと思います。同郷のBestial RaidsさんなんかがBeheritとかBlasphemy的な突撃ブラックやってるのに比べると、本作は大分音楽的に聞きやすいんじゃないでしょうか。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 まぁまぁ。

4.どのような人に推奨するか

 プリミティブブラックっぽさとドゥームデスっぽさを両方備えたハイクオリティなカルト音楽」って感じ。リフもしっかりしているし、聞きやすいと思います。

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版]

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『ファイトクラブ』と同じような理由で、映画で作品は有名だけど読んだことねぇなと思ったのと。映画よりも激しくシャープ、との帯タタキにより購入。まぁ映画も見たことないんだけど。

2.内容

 原作は1962年で、1980年に早川書房から単行本化。本作はそれに当時未収録の最終章を付与した「完全版」として2008年にハヤカワepi文庫からリリースされたものです。
 何が完全版かを先に述べておきます。本作は3部×各7章の21章構成で書かれたものが故国英国ではオリジナルでリリースされていたのだが、初米国版のリリース時に第3部7章(最終章)が削られて発行されてしまったらしいのですね。で、これを底本とした当初の日本語翻訳版も米国版同様の構成になってしまったということのようですな。
 作品は3部構成で明確に分割されている。強盗暴行強姦なんでもアリ反省なしのトンデモないクズ野郎である主人公の少年アレックスの悪辣悪童ぶりが存分に描かれる第一部。殺人の罪でついに警察に逮捕されてからの獄中生活と、政治的なパフォーマンス目的を多分に含んだ人格矯正プログラムを受ける日々の第二部。矯正プログラムによって倫理的に正常な行動以外を選択できなくなったアレックスのその後が描かれる第三部。
 第二部第三部と悲惨な目にあうアレックスだが、第一部でやっていることが悪すぎて同情する気にはならない。また、第三部の最終盤で結局この矯正プログラムは解けてしまうんだよね…。でも、人格矯正されて自分の選択が行えない人間(=Clockwork Orange)であることから逃れるというエンディングはきっと必要だったんだろうとは思う。
 追加された最終章では、手下のようにこき使っていたかつての仲間がロシア語交じりのティーン用語も使わなくなり結婚して所帯を持っているのを目の当たりにしたアレックスが、「若さの終わり」と人生を前に進めるべき時であると自覚するようなエンディングになっている。解説でも触れられている通り、この最終章がないと「おれはしょうきにもどった!」だけで終わってしまって余韻がない感じがしてしまうので、あって良かったんじゃないかな。
 なお、本作は主人公アレックスの一人称視点で進み、先に触れたティーン語がとにかく頻出するので読みにくさを感じると思う。まさしく若者言葉を聞いているようで、ある意味リアルな読みづらさである。が、その言葉遣いそのものが重要なわけではないので、テキトーに飛ばし読みしてしまってそんなに差し支えはないです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 若さでは片づけられないクズっぷりだと思うんだけどなぁ…という。罪に対する罰が不十分に感じられてしまう。

4.どのような人に推奨するか

 裏の書籍紹介には「近未来の高度管理社会…」とあるけど、あんまり近未来感や管理社会的なディストピア感はないです。まぁ人格矯正プログラムやそれを実行する政府というのは、それに当たるとおもうんだけど、それ自体はあまり重要でないというか。人格矯正により人生の選択肢を持つことができない人間ってどうなるんだろう?っていう話です。あと非常に暴力的で犯罪的な描写が多いので、そういった毒の要素にドキドキすることができます。

バリントン・J・ベイリー / ゴッド・ガン

バリントン・J・ベイリー / ゴッド・ガン のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『カエアンの聖衣』が面白かったので、こっちの短編集も手を出して見たよ。

2.内容

 1962年~1996年にかけて発表された日本独自編集の短編集だそうです。2016年にハヤカワ文庫SFからリリースされた、比較的新しい書籍ですね。こういうの出してくれるとありがたいですね。あと表紙がカッコよくてイイですね。やはりSFの表紙はこういう、とりあえずウィトルウィウス的人体図が配されたワケの分からない絵であるべき。1作ずつの解説はしないけど、印象に残ったやつを3編。
 1つは『ロモ―博士の島』。H.G.ウェルズの作品い『モロー博士の島』ってのがあるらしいですね…それはイイとして、自身の性的志向を自由に変動させられる薬があったら…という話。かなり露骨な性描写と皮肉的なお話の転がし方が頭に残ってしまう。近年ジェンダー論はいろんな方向に話が行っているような気がするが、一つの世界として読んでみて欲しいと思える作品(怒る人がいそうな気がするが…)
 2つめは『ブレインレース』かな。大脳に足が取り付けられ、自身の肉体に追いつくために走るというなかなかトンデモない設定。ブラックでコミカル。
 3つ目は『空間の海に帆を掛ける船』かな。上位次元に存在する船が、まるで水上に浮かぶ3次元世界の船の沈んだ部分を水面下かから見ているような形で、下位次元である我々の宇宙空間から見えたら…と言った話。次元が違うので、端っこに手を突っ込んだところで、数十メートルは先にあるはずの向こう側から手が突き出てしまうという…頭に絵が浮かぶ佳作。  結構一発ネタで持っていく人なので、そのネタも妙味が合うか、楽しめるかどうかがカギになってきます。
 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ユーモアが利いた作品の方が好きな感じ。

4.どのような人に推奨するか

 藤子F短編集のような奇想SFが楽しめる作品。各テーマ(というかネタ)も分かりやすく提示されるし、翻訳も読みやすいと思います。高尚さや技術論よりもエンターテインメント性をSFに求める人に推奨いたします。

松本敏治 / 自閉症は津軽弁を話さない 自閉症スペクトラム症のことばの謎を読み解く

松本敏治 / 自閉症津軽弁を話さない 自閉症スペクトラム症のことばの謎を読み解くのレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が最近の話題書として本屋で買ったものを読ませてもらったものです。自分は知りませんでした。

2.内容

 なぜ自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)の子は津軽弁を…乃至放言を喋らないのか、ということに関する研究過程と説明。2017年に単行本として出ていたものが、2020年に角川ソフィア文庫から文庫リリースされた形。文庫化に伴う作者の後書きが付与されている。
 折り返しにある作者の経歴を見て思ったこと。教育支援や心理に関する専門領域で様々な機関で経験を積んでおられるが、著作としてはこれが初めてなのかしら、という感じ。研究過程だからと言えば仕方ないが、序盤は講演会でのアンケート記録などが多くてやや退屈した。
 エッセンスは後半13章~終わりまであたりにあると思う。言語習得の2つの手法。他者のやり取りの中で相手と意思のやり取りをしながら言葉や表現方法を学ぶやり方と、機械的・反復学習的に言葉を学んでいくやり方があるという。ASDの子は他者の意図を推し量ることが苦手であるために、後者による言語習得のケースが増えること。そして、方言はかなり社会的な関係性を求める前者の意図で使われることが多いために、ASDの子は方言を話さないのではないか、という示唆。後者の手法で方言を習得すれば(日常的にテレビ等で触れる言語や文章が方言のみであれば)、機械的学習の元に方言を話すこともあるだろう、ということ。ふむふむ。納得した。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 重要なことは重ねて説明してくれるし、平易な説明ではある。なんとなく読みづらかったけど。

4.どのような人に推奨するか

 内容は面白く納得。読物として見たら、まぁ部分部分をつまみ読みでもいいかな…とか思わなくもない。

三島由紀夫 / 英霊の聲 オリジナル版

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

三島由紀夫 / 英霊の聲 オリジナル版 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『憂国』を読んでいたく感動した私は、二二六事件三部作と呼ばれる作品があると知りました。三島由紀夫って新潮文庫からいっぱい出てるけど、これは河出文庫から出てるんだよね…しばらく見つからなかった。(最近、新潮文庫からも英霊の聲の文庫が出ましたがね)

2.内容

 『英霊の聲』『憂国』『十日の菊』に加え、当時単行本化にあたっての自著解説として『二二六事件と私』が収録されている。当初1966年に河出書房からこの二二六事件三部作という企画で単行本化されたものが、2005年に本文庫でリリースされた。いずれも1960年以降に書かれたわりかし後期の作品と言える。
 『英霊の聲』は二二六時に参加した青年将校らや太平洋戦争の神風特攻隊の青年兵の死後の世界の視点を、『憂国』は二二六事件に参加できなかった青年将校が自刃する際の死に向かう輝きを、『十日の菊』は生き延びた重臣側(将校連中が言うところの「君側の奸」側の人たち)の人生を、と、一つの事件を3つの異なる視点から書いている形。『十日の菊』は喜劇的な戯曲であり、自分に戯曲を読んだ経験が全然ないこともあり、文章で読むとちょっと分かりづらい気がした。『憂国』『英霊の聲』は力強く美しい文に圧倒されます。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 関連する短編を集めた、いい企画本だと思う。タイトルはなんで「英霊の聲」にしたんだろね。

4.どのような人に推奨するか

 新潮文庫の短編集『花盛りの森・憂国』で読むよりこっちのほうがおススメ。解説も含めて読んでほしい。

Leprous / Malina

Malina

Malina

  • アーティスト:Leprous
  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: CD

ノルウェープログレッシブメタル、Leprous / Malinaをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 2015年の『The Congregation』と2016年の『Live at Rockefeller Music Hall』までは持ってて、結構好きだった。最近のprog metal熱に乗じて本作を買ってみた。このバンドを知ったのは、多くの人がそうであるかもしれないがIhsahn人脈としてデス。 

2.内容

 2017年にInside Outからリリースされた5th。プログレメタル度…というかメタル度がさらに大きく下がりました。幽玄な雰囲気とメロディを湛えたEiner Solbergのハイトーンが際立つボーカルラインとコーラスを中心に、バックを固めるひねくれた譜割で引っ掛かりのあるリズム、それとシンクロするテクニカルなギターやシンセサイザー…といった音楽的要素を挙げていくと前作『The Congregation』全然作『Coal』と遠からずのLerous印が刻印された内容されたアイコニックなサウンドではある。
 異なるのは全体のバランスというか配分ですかね。 作品を重ねるごとに個性と魅力が強化されていく歌への偏重が見られる。また、メタリックなディストーションから離れたオルタナちっくなギターサウンドから繰り出されるフレーズは、低音弦の刻みがかなり姿を消し、チャカチャカしたカッティングが良く聞かれるようになった。エレクトロ・シンセサイザーの比率も上がっていて、この辺りが総じてメタル度が下がったと感じる理由です。
 しかし、それが音楽的な魅力の低下を招いているわけではない。もちろんヘヴィメタリックな感触自体に魅力を感じている人にはそこは減退していることになるし、一聴して派手なフレーズはないです。が、Baard Kolstadのドラムスによるリズムの入り組み具合とメロディの充実ぶりは過去イチと言ってもいいでしょう。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 ある意味ダウナーで地味であるが、静かに燃えるような情熱を感じます。好きです。

4.どのような人に推奨するか

 ひねくれたリズムとテクニカルな演奏、ハイトーンボーカルが好きで、典型的なメタルサウンドでなくても楽しめる方にはおススメ。Pain of Salvationの『Panther』は、似てはいないけれど近い感覚だなぁ。

Leprous / The Congregation

The Congregation

The Congregation

  • 発売日: 2015/06/05
  • メディア: MP3 ダウンロード

ノルウェープログレッシブメタル、Leprous / The Congregationをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 初めて買ったLeprousです。最初に知ったのはIhsahnあるいはEmperorのバックバンドとしての彼です。なんかIhsahnの義理の弟らしいね。 

2.内容

 2015年にInside Outからリリースされた4th。このバンドは首魁の2人であるEiner Solbergと、Tor Suhrke以外のメンバーは結構変わってるみたいなんだけど、彼らが音楽の核なのでそんなに気にならない。が、本作で加入したBaard Kolstaadくんは触れておく価値がある。ノルウェーブラックメタル人脈でも活躍するドラマーで、本作では繊細で複雑なフレーズを難なく叩き出すし、変則拍子によるリズムとギターのシンクロナイズに様々な彩りを加えている。Opethが如くリフの反復が多く、ある種の地味さがある音楽性だとは思うんだけど、そこに聞いているだけで楽しいドラムがいるってのは素晴らしいことだと思います。
 低音ギターやミュートギターによるギターリフとリズムのシンクロ、カウント不可能な拍子、ダウナーでモノクロームな雰囲気、Einerによって朗々とハイトーンで歌い上げられる雄大なメロディ。初期作はざらついたメタリックなギターリフやデスヴォイスもあったようなんだけど、本作ではそういった要素は全く姿を消していてる。やっぱEinerの歌がうまくなったからなんですかねぇ…。おかげで類型的なプログレメタルっぽさが薄れ、シンプルにLeprousっぽいなぁーとしか言えない音楽になった気がする。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 ここから入るもよし。バランスの取れた良作。

4.どのような人に推奨するか

 作品を重ねるごとにメタルファン向けではなくなっていく気がするこのバンドだが、ここまではまだ大丈夫。まだヘヴィです。個性の確立された作品という意味では前作『Coal』か本作をまず聞いていただき、ヘヴィメタルな方向性がお気に召した方は初期作に戻る、リズムとボーカルに魅力を感じた方は次作以降を聞く、というのが良いと思います。