めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版]

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『ファイトクラブ』と同じような理由で、映画で作品は有名だけど読んだことねぇなと思ったのと。映画よりも激しくシャープ、との帯タタキにより購入。まぁ映画も見たことないんだけど。

2.内容

 原作は1962年で、1980年に早川書房から単行本化。本作はそれに当時未収録の最終章を付与した「完全版」として2008年にハヤカワepi文庫からリリースされたものです。
 何が完全版かを先に述べておきます。本作は3部×各7章の21章構成で書かれたものが故国英国ではオリジナルでリリースされていたのだが、初米国版のリリース時に第3部7章(最終章)が削られて発行されてしまったらしいのですね。で、これを底本とした当初の日本語翻訳版も米国版同様の構成になってしまったということのようですな。
 作品は3部構成で明確に分割されている。強盗暴行強姦なんでもアリ反省なしのトンデモないクズ野郎である主人公の少年アレックスの悪辣悪童ぶりが存分に描かれる第一部。殺人の罪でついに警察に逮捕されてからの獄中生活と、政治的なパフォーマンス目的を多分に含んだ人格矯正プログラムを受ける日々の第二部。矯正プログラムによって倫理的に正常な行動以外を選択できなくなったアレックスのその後が描かれる第三部。
 第二部第三部と悲惨な目にあうアレックスだが、第一部でやっていることが悪すぎて同情する気にはならない。また、第三部の最終盤で結局この矯正プログラムは解けてしまうんだよね…。でも、人格矯正されて自分の選択が行えない人間(=Clockwork Orange)であることから逃れるというエンディングはきっと必要だったんだろうとは思う。
 追加された最終章では、手下のようにこき使っていたかつての仲間がロシア語交じりのティーン用語も使わなくなり結婚して所帯を持っているのを目の当たりにしたアレックスが、「若さの終わり」と人生を前に進めるべき時であると自覚するようなエンディングになっている。解説でも触れられている通り、この最終章がないと「おれはしょうきにもどった!」だけで終わってしまって余韻がない感じがしてしまうので、あって良かったんじゃないかな。
 なお、本作は主人公アレックスの一人称視点で進み、先に触れたティーン語がとにかく頻出するので読みにくさを感じると思う。まさしく若者言葉を聞いているようで、ある意味リアルな読みづらさである。が、その言葉遣いそのものが重要なわけではないので、テキトーに飛ばし読みしてしまってそんなに差し支えはないです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 若さでは片づけられないクズっぷりだと思うんだけどなぁ…という。罪に対する罰が不十分に感じられてしまう。

4.どのような人に推奨するか

 裏の書籍紹介には「近未来の高度管理社会…」とあるけど、あんまり近未来感や管理社会的なディストピア感はないです。まぁ人格矯正プログラムやそれを実行する政府というのは、それに当たるとおもうんだけど、それ自体はあまり重要でないというか。人格矯正により人生の選択肢を持つことができない人間ってどうなるんだろう?っていう話です。あと非常に暴力的で犯罪的な描写が多いので、そういった毒の要素にドキドキすることができます。