めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

柳美里 / JR上野駅公園口

JR上野駅公園口 (河出文庫)

JR上野駅公園口 (河出文庫)

柳美里 / JR上野駅公園口 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 府中の書店でプッシュされていたのと、全米図書賞 翻訳文学部門を受賞したという帯タタキに魅かれて。ページ数が少なく、600円とお手頃価格だったのもある。話題書をたまには読もうと思うよね。柳美里さんの作品を読むのはこれが初めて。

2.内容

 2014年に河出書房から単行本リリースされたものが、2017年に河出文庫からリリースされたもの。なんで今話題沸騰なのかというと、やはり全米図書賞受賞という点で、後追いで日本で評価され始めたってこと?
 明仁天皇と同じ日に生まれた福島県出身の男の、人生の物語。徳仁天皇と同じ日に生まれた息子とその死。ホームレスになった自分と、同じ日に生まれた明仁天皇の対比。若くして死んでしまった息子と、首尾よく成長していく徳仁天皇の対比。上野恩賜公園を中心とするホームレスの描写などが中心です。
 柳美里の作品は初めて読んだけど、多分に詩的で修辞と擬音の多い文章が特徴的だと感じた。3点リーダも多いですね・・・。作品がかなり、主人公の男の「心」を追う内容なだけあって、この文体が合うか合わないかがまず一つの分水嶺ではないかと。

 ホームレスの生活や、地方における葬儀の慣習などをよく調べて書いたのだと思う。あと、上野恩賜公園周りの歴史だとか天皇の御幸だとかは史実に基づいているようで、そこは勉強になるなぁと思った。
 一方。主人公の男が置手紙を残して突然孫娘の前から去りホームレスになるのがよくわからないとか、妻や孫娘も突然に死んでいったりとか、最終盤における東日本大震災の描写(主人公の男が巻き込まれたのかと思って読んでたんだけど、全然違って、孫娘が津波に巻き込まれた)とか、「おや?」と思う点がいくつかありました。帯タタキにあるように「感動」する作品だったかというと、そうではないと思います。
 あと、作者本人の後書きはともかく、解説は読まなくてイイかなと思います。政治思想史のセンセイが「天皇制の呪縛」という点にのみフォーカスして作品を…というか天皇制について語っている内容です。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 詩的な文章を読むこと自体はまぁ嫌いではなかった。内容はそんなに。解説はマイナス。

4.どのような人に推奨するか

 詩的な文章・表現に溢れた小説ですので、そういうのがイケる方。ストーリー的には…誰におススメというのはないです。