めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則週1更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Knoll / Metempiric

アメリカのデスグラインドバンド Knoll / Metempiric をレビュー。

  • アーティスト: Knoll
  • 発売日: 2022/06/24
  • レーベル: Self-Released(自主制作)
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

前にデビュー作Intersticeをレビューしたとき、「将来性も含めてかなり期待できる」と書いた。その勢いのまま2ndのMetempiricまで一気に聴いてしまったので、カタログ順にちゃんとレビューを追いかけておこうと思って今回選んだ。1年半足らずでの2作目というハイペースぶりにも興味があった。

デビュー作の時点で完成度の高さに驚いたバンドが、次でどう転ぶか。素直に伸びるのか、変な方向にこじれるのか。そういう「次作を確かめたい」欲が今回の一番の動機。

2. 内容

2022年6月24日、レーベルを介さず自主制作でリリースされた2ndフルレングス。録音はIntersticeに続いてAndy NelsonがBricktop Recordingで手がけ、ミックスは今回もKurt Ballou(GodCity Studios)、マスタリングはBrad Boatright(Audiosiege)という布陣は前作から据え置き。この座組の安定感がそのまま音の説得力に直結している。

全13曲、尺は33分ほどとIntersticeよりやや長尺化。バンド編成はヴォーカル/ノイズのJames Eubanksを中心に、ギターがEvan Kubick・Drew Miller・Ryan Cookの3枚看板、ベースLukas Quartermaine、ドラムはこの作品が初スタジオ参加となるJack Anderson。ギターが3人という厚みが、Intersticeよりさらに重心の太いギターの壁を作っている。

音楽性としては前作の路線、デスメタルとグラインドの暴力性に不協和音・ノイズを練り込む方向をそのまま継承しつつ、輪をかけて曲展開が有機的になった印象。リード曲"Felled Plume"のように、非対称拍子のリフから急にドスンと重いブレイクダウンへ落ち、そこからまたグラインドの疾走へ戻るという「唐突なのに繋がって聴こえる」構成の巧さがKnollの武器だと改めて思った。ギタリストのRyan Cookがトランペットも兼任していて、インスト曲"Dislimned"や"Throe of Upheaval"の導入部でノイズに混じって鳴る場面があるのだが、これがまた不穏さに拍車をかけていて面白い。前作でもサックスらしきノイズが差し込まれる場面があったが、今回はより明確に「楽器としての管楽器」が効いてくる。

短尺で振り切れた"Marred Alb"の2分弱の狂騒、逆に8分近い尺でノイズと静寂を漂う締めの"Tome"まで、緩急の付け方がIntersticeよりこなれてきている。前作は「勢いで押し切る」瞬間もあったが、今作はカオスの中にもちゃんと「ここで一呼吸置く」設計意図が見えて、聴き手を置き去りにしない工夫を感じた。

3. 推し曲:Felled Plume

アルバム前半を引っ張るリード曲。まず出だしのリフからして、弦がふにゃっとよじれるような不協和なフレーズで始まって、そこに変拍子が絡んでくるので最初の数十秒だけで「あ、これは一筋縄じゃいかんやつだ」と身構えさせられる。

面白いのはそこからの展開で、蛇のようにうねるディソナントなリフが非対称の拍子の中を這い回ったかと思うと、いきなり単純で分厚いストンプ調のブレイクダウンに落ちて、さらにそこから王道のグラインドコアのグルーヴへと戻っていく。このジャンルを跨いだ横滑りが、まったく唐突に感じられないまま繋がっていくのが凄い。

ドラムのJack Andersonは初参加とは思えない安定感で、ブラストの速度域でも非対称なアクセントを崩さずに叩き切る。Eubanksのボーカルは絶叫と胃の中身を吐き出すようなガテラルを行き来していて、曲の温度をさらに上げてくる。ほかだと、多重ギターのタッピングが挟まる"Gild of Blotted Lucre"や、ベースのLukas Quartermaineがソロっぽいラインを聴かせる"Of Troth to Atom"あたりも印象に残った。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★- Intersticeの完成度をさらに一段引き締めてきた印象で、2作目にしてバンドの個性がはっきり像を結んだと思う。混沌の中にちゃんと構築美があるのは前作からの美点そのままに、曲間の呼吸の付け方が明らかに上手くなっている。減点分は、トランペット/ノイズ要素がやや「実験のための実験」に寄る瞬間があって、そこだけ本編のグルーヴから浮いて聴こえること。とはいえこの路線を突き詰めていったらどこまで行くのか、次作も追いたくなる一枚。

5. どのような人に推奨するか

Full of Hell、Gorguts、Ulcerateのような不協和音・ディソナンス寄りの極端音楽が好きな人には引き続きドンピシャ。Intersticeが気に入った人なら間違いなく満足できるし、むしろ完成度は今作の方が高いとすら思う。カオティックな中に構築意図を感じたいタイプのリスナーにおすすめ。

逆に、ストレートに刻んで気持ちよくなりたいタイプのグラインド/デスメタルリスナーには、展開が忙しなすぎて疲れるかもしれない。トランペットやノイズパートを「面白い実験」と受け止められるか「余計な寄り道」と感じるかで評価が分かれそうなバンドでもある。不協和音への耐性がある前提で、ぜひIntersticeとセットで聴いてほしい一枚。

小川哲 / 君が手にするはずだった黄金について

小川哲 / 君が手にするはずだった黄金について のレビューです。

  • 作者: 小川哲
  • 発売日: 2023/10/18
  • 出版社: 新潮社
  • メディア: 単行本

1. 作品を選んだ理由

例によって小川哲を追いかけているシリーズの一環。『ユートロニカのこちら側』『ゲームの王国』でやられて、このブログでも『君のクイズ』『嘘と正典』のレビューを書いてきた。で、棚に残っていたのが本作。気にはなっていたんだけど、なんとなく後回しにしていた一冊だ。

後回しにしていた理由ははっきりしていて、これが「小説家・小川哲」を主人公にした私小説風の連作短編集だと聞いていたからだ。SFの大伽藍を建てる人、緻密な歴史改変をやる人、という今までのイメージと毛色が違いすぎて、正直ちょっと身構えていた。ただ最近、新潮文庫版が出て本屋大賞にもノミネートされた、という話を見かけて、これは観念して読むしかないなと手に取った次第。

2. 内容

2023年に新潮社から刊行された連作短編集。「プロローグ」「三月十日」「小説家の鏡」「君が手にするはずだった黄金について」「偽物」「受賞エッセイ」という構成で、主人公はなんと〈小川哲〉という小説家。作者本人と同姓同名で、経歴もかなり重なる。だから読んでいる間ずっと「これ、どこまでが本当の話なんだ?」という座りの悪さがつきまとう。そしてその座りの悪さこそが、この本の仕掛けの中心だと思う。

通底しているテーマは、版元の言葉を借りるなら「承認欲求のなれの果て」。青山のオーラ占い師、80億円を運用していると嘯く自称凄腕トレーダー、偽ロレックスを巻いた漫画家——〈小川〉が遭遇するのは、揃いも揃って胡散臭い、何者かになりたがっている人間たちだ。彼らの嘘や誇張や見栄を眺めながら、語り手である小説家自身が「小説を書くというのも、結局は偽物の黄金をこしらえる仕事ではないか」と自分の足元を掘り返していく。他人の承認欲求を笑っているうちに、刃がじわじわ自分に向いてくる感じがうまい。

個人的に効いたのは「三月十日」。東日本大震災の“前日”、つまり何でもなかったはずの一日の記憶をめぐる短編だ。3月11日について書く小説は山ほどあるけれど、その前日を、なんでもない日として書く。この着眼点だけでぐっとくる。表題作「君が手にするはずだった黄金について」は、高校の同級生だった金融トレーダーとの腐れ縁を軸に、“才能”と“黄金”を重ねていく一篇で、これも読後にずっしり残る。どこまでが事実でどこからが創作なのか、作者自身が意図的にぼかしているので、その線引きはここでは触れないでおく。

長編の小川哲を期待して開くと拍子抜けするかもしれないが、これはこれで、ロジックで世界を組む人が「自分」という一番ややこしい素材を組み上げにかかった本だと思う。

3. 感想/評価(★の5段階)

★★★★-

おもしろかった。私小説のフリをした連作、という枠組みが最後まで効いていて、「作者を信用していいのか?」という宙吊りの緊張がページをめくらせる。承認欲求というありふれた題材を、自虐とも自慢ともつかない絶妙な距離感で転がしてみせる手つきが達者だ。満点に一歩届かないのは、仕掛けの性質上どうしても各篇の温度差があって、刺さる話とそうでもない話がはっきり分かれたから。とはいえ「三月十日」と表題作の二本だけでも読む価値は十分にある。長編ほどの没入はないが、後からじわじわ効いてくるタイプの一冊。

4. どのような人に推奨するか

「これって本当の話?」というメタなくすぐったさを楽しめる人には強くおすすめできる。私小説とフィクションの境目で遊ぶ作品が好きな人、SNS時代の承認欲求とか「何者かになりたい」みたいな話題にピンとくる人は、まず刺さると思う。小川哲は気になるけど『地図と拳』みたいな分厚いやつはしんどい、という人の入口としても、薄くて読みやすいのでちょうどいい。

逆に、設定がガッチリ組まれたSFや歴史改変の小川哲を求めている人は、方向性が違うので肩透かしを食らうかもしれない。あと、わかりやすい起伏やスカッとする結末を期待すると、各篇とも余韻で終わるタイプなので物足りなく感じる可能性がある。読後にしばらく「あれは結局どこまで本当だったんだ」と考え込みたい人向きの本だ。

Knoll / Interstice

アメリカのデスグラインドバンド Knoll / Interstice をレビュー。

  • アーティスト: Knoll
  • 発売日: 2021/02/26
  • レーベル: Sludgelord Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

最近、テネシー州メンフィス発のKnollという若いバンドの名前を方々で見かけるようになって、「不協和音まみれのカオティックなデスグラインドらしい」という前評判だけで気になっていた。カタログを頭から順に追いたいタチなので、まずはこのデビュー作Intersticeから入ることにした。

正直、ジャケットの抽象的なアートワークと「Kurt Ballouがミックス」という情報だけで半分くらい買っていたところはある。GodCity印のサウンドにハズレは少ないという信頼があるので、未知のバンドでも一作目から飛び込んでみる気になった、というのが今回の動機。

2. 内容

2021年2月26日、Sludgelord Recordsからリリースされたデビューフルレングス。録音はシカゴのBricktop Recordingでアンディ・ネルソンが手がけ、ミックスがSalemのGodCity StudiosでKurt Ballou、マスタリングがBrad Boatright(Audiosiege)という、この界隈の名前がずらりと並ぶ布陣。音の良さは折り紙付きで、混沌としたバンドにありがちな「何やってるか分からない」泥沼にはなっていない。

やっているのはデスメタルとグラインドコアの混血なのだが、そこにDeathspell OmegaやUlcerateを思わせる不協和音・ディソナンスの感覚が乗っかってくるのがKnollの個性だと思う。全12曲入りで尺は25分ほど。"Callus of the Maw"から不穏なノイズで幕を開けて、ブラストビートと不協和リフがぶつかり合う混沌へなだれ込んでいく。ただ速いだけのグラインドではなく、不気味なアンビエント・パートやフィードバックの間(ま)を挟んで、不安感をじわじわ煽ってくる構成になっている。

ボーカルはガテラルとシュリーク(高音絶叫)を行き来して、これがまた病んだ説得力がある。サックスらしき不協和なノイズが差し込まれる場面もあって、単純なデスグラインドの枠から半歩はみ出した「アート寄り」の野心がそこかしこに見える。整然としているわけではないのに、ちゃんと意図を持って混沌を設計している感じがあって、初めて聴いたときは「むーん、これは一筋縄じゃいかんぞ」と唸った。

短い曲が畳み掛ける構造はグラインドの作法どおりだが、Knollの場合は一曲ごとの展開が忙しなく入れ替わるので、油断していると今どこを聴いているのか分からなくなる。最初は取っ付きにくいが、何周かすると不協和の渦の中にちゃんと「フック」が仕込まれているのが見えてきて、そこからが面白い。デビュー作にしては相当に作り込まれた一枚だと思う。

3. 推し曲:Gracian Axiom

アルバム序盤の流れを決定づける一曲。冒頭のリフからして不穏に捻じれていて、いわゆる「気持ちよく刻む」タイプのリフではないのだが、その違和感がクセになる。ブラストで突っ込んでいったかと思えば、急に重心を落として不協和音のコードを鳴らし続けるパートに沈み込み、緊張と弛緩のギアチェンジが目まぐるしい。

ドラムが手数で押し切るだけでなく、変則的なアクセントでリズムをわざとズラしてくるのがこの曲の肝で、聴いていて足元がぐらつくような不安定さがある。そこにシュリークとガテラルが交互に被さってきて、混沌に拍車をかける。それでいて全体が崩壊しないのは、土台のリズム隊がしっかり制御しているからだろう。

短い尺の中に「不協和デスグラインド」のエッセンスがギュッと詰まっていて、Knollを一曲で掴むならまずこれ、と言える代表曲だと思う。ほかだと"Impetus in Mire"のカオティックな疾走や、ラスト"Fjord Peaks"が不気味なアンビエントで締める流れもよくて、このへんがアルバムの抑揚を作っている。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★
デビュー作とは思えない完成度と野心。不協和音とグラインドの暴力性をうまく両立させていて、GodCity印のサウンドプロダクションもバッチリ。25分があっという間に過ぎる。減点があるとすれば、混沌を志向するぶん「ここぞ」のキメ・フックがやや埋もれがちで、一聴して記憶に残る瞬間が少ないこと。とはいえ周回するほど旨味が出てくるタイプの一枚で、将来性も含めてかなり期待できる。

5. どのような人に推奨するか

Full of Hell、Gorguts、Ulcerate、Deathspell Omegaあたりの「不協和音・ディソナント」な極端音楽が好きな人にはドンピシャだと思う。ただ速いだけのグラインドでは物足りない、混沌の中に構築美を求めるタイプのリスナーには特におすすめできる。Kurt Ballou仕事のザラついた音圧が好きな人もまず外さない。

逆に、メロディアスなデスメタルや、スカッと気持ちよく刻むグルーヴを求めている人には向かない。不協和音と絶え間ない展開で「掴みどころのなさ」が前面に出るので、聴き手にある程度の集中力を要求してくる。とっつきにくさは正直あるが、その壁を越えたところに面白さがあるバンドなので、ディソナント系に耐性がある人はぜひ。

小川哲 / 嘘と正典

小川哲 / 嘘と正典 のレビューです。

嘘と正典

嘘と正典

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  • 作者: 小川哲
  • 発売日: 2019/09/19
  • 出版社: 早川書房
  • メディア: 単行本

1. 作品を選んだ理由

小川哲を追いかけているシリーズの一環。『ユートロニカのこちら側』で「この人は信頼してよかろう」となり、『ゲームの王国』の上下巻でガッツリやられ、最近は『君のクイズ』のレビューもこのブログで書いた。長編のイメージが強い作家だが、そういえばまとまった短編集をちゃんと読んでいなかったな、と思って手に取ったのが本作。

しかも本作は第162回直木賞の候補にもなっている一冊で、SFの賞だけでなくそっち方面でも評価された作品ということになる。長編であれだけ世界をガッチリ作り込む人が、短編というフォーマットで何をやるのか。そこが純粋に気になった。

2. 内容

2019年に早川書房から刊行された、小川哲としては初の短編集。全6篇を収録していて、「魔術師」「ひとすじの光」「時の扉」「ムジカ・ムンダーナ」「最後の不良」、そして書き下ろしの表題作「嘘と正典」が並ぶ。雑誌掲載作と書き下ろしの寄せ集めなのに、読み終えると不思議と一冊として芯が通っている感じがする。

通底しているテーマはざっくり言うと「時間」と「歴史」、そして「嘘」だと思う。マジックの仕掛けを扱う「魔術師」、競馬に人生を賭けた男を描く「ひとすじの光」、音楽の根源に迫る「ムジカ・ムンダーナ」、流行や文化の終わりを描く「最後の不良」と、題材はてんでバラバラなのに、どれも「人間が何かを信じる/騙される」という一点で繋がっている気がする。題材の引き出しの多さと、それを律儀にロジックで組み上げていく手つきは、長編で感じたあの感触そのままだ。

中でも「時の扉」は、ある特別な力を持った人物の人生が淡々と語られていく構成で、終盤で「あぁそういうことか」と仕掛けが見えてくる瞬間が気持ちいい。具体的には書かないでおくが、SFの設定とミステリ的な驚きがきれいに噛み合っていて、短編の名手感がある。

表題作「嘘と正典」は、「マルクスとエンゲルスが出会わなければ共産主義は生まれなかったのではないか」という仮説を起点に、CIAの工作員が共産主義そのものを消し去ろうと過去に干渉する、という歴史改変SF。設定だけ聞くとぶっ飛んでいるのに、語り口はあくまで理詰めで重厚。書き下ろしをラストに据えただけのことはある、読み応えのある一篇だった。

3. 感想/評価(★の5段階)

★★★★☆ short storyとして粒が揃っていて満足度が高い。長編の大伽藍とはまた違う、アイデアを切れ味よく着地させる小川哲が見られる。「時の扉」と表題作の二本が個人的にはハイライト。短編集ゆえに当たり外れの感じ方は人それぞれだろうけど、平均点がとにかく高いと思う。

4. どのような人に推奨するか

歴史改変もの・時間SFが好きな人にはかなり刺さるはず。「もしあの出来事がなかったら」系のifを理屈っぽく転がすのが好きな人は間違いなく楽しめる。長編を読む体力はないけど小川哲を試してみたい、という人の入門としても短編集はちょうどいい。

逆に、わかりやすいカタルシスやスカッとする結末を求める人にはやや淡白に映るかもしれない。各篇とも余韻を残して終わるタイプなので、読後にしばらく考え込みたい人向き。SFというラベルに身構えてしまう人も、本作はガジェットより人間の営みに比重があるので、思ったより普通に読めると

Caustic Wound / Death Posture

アメリカのデスグラインドバンド Caustic Wound / Death Posture をレビュー。

Death Posture

Death Posture

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  • アーティスト: Caustic Wound
  • 発売日: 2020/04/10
  • レーベル: Profound Lore Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

先に2作目のGrinding Mechanism of Tormentをレビューしたとき、「2020年のデビュー作Death Postureがアンダーグラウンドで評判だったらしいけど自分は通っておらず、あえて後回しにして本作から入った」と書いた。その後回しにしていたデビュー作をようやく聴いた、というのが今回。

順番が逆になったぶん、「2作目で整理されたと言われるサウンドの、整理される前の姿」みたいな聴き方になって、これはこれで面白かった。新作から遡るときの「あ、ここが原型か」という答え合わせの楽しさがあるので、結果的にこの順番でよかった気がする。

2. 内容

2020年4月10日、Profound Lore RecordsからリリースされたCaustic Woundのデビューフルレングス。録音は2019年8月、シアトルで行われている。MortiferumやCerebral Rot、Fetid、Magrudergrindといったバンドの面子が集まったプロジェクトで、デスメタルとグラインドコアの混血――いわゆる「デスグラインド」をやっている。

14曲入りで全体の尺は20分ちょっと。"Death Posture"から"Cataclysmic Gigaton Pacific"まで、ほとんどの曲が1〜2分台で、ブラストビートとガテラルボイスで畳み掛けてくる。2作目を先に聴いていた身からすると、こっちのほうがプロダクションがよりこもっていて泥臭く、80年代末〜90年代初頭のデスメタルをそのまま現代に持ってきたような、暗くて湿ったザラつきがある。聴きやすさという意味では2作目に分があるが、この一枚の「土の匂い」みたいな生々しさは捨てがたい。

音の出自としては初期Napalm DeathやTerrorizerのグラインド、そこにAutopsyやドゥーム/スラッジ由来のズブズブした重さが乗っかってくる。ひたすら速いだけでなく、ところどころでテンポをガクッと落として地を這うようなグルーヴに沈み込む瞬間があり、そこがこのバンドらしさだと思う。"Black Bag Asphyxiation"や"Guillotine"あたりは、疾走とスローのギアチェンジが分かりやすく出ていて気持ちいい。

曲名を見れば分かる通り、テーマは処刑・拷問・兵器・核といった物騒なものばかりで、サウンドの殺伐とした手触りとよく合っている。リフの手数が多くて1分台でも展開がコロコロ変わるのは2作目と同じだが、デビュー作のほうがより無造作で、勢い任せに突っ込んでくる荒っぽさがある。整いすぎていない分、グラインドコアとしての衝動がむき出しで、個人的にはこの粗さがかなり好みだった。

3. 推し曲:Terror Bomber

タイトルからして直球の一曲。イントロからブラストビートで突っ込んでいって、刻みのリフが目まぐるしく入れ替わる典型的なグラインドナンバーなのだが、中盤でテンポを落としてくるパートのリフの重さがやたらカッコいい。速い→重い→また速い、の落差がこの短い尺の中にギュッと詰まっていて、デスグラインドの旨味が一曲で味わえる。

ドラムが手数で押し切るだけじゃなく、スローパートでのタメの作り方がうまくて、ただ速いだけの曲にしていないのがいい。ガテラルボイスも喉から血が出そうな低さで全編を塗りつぶしてくるが、リズムに対する乗せ方に妙なグルーヴ感があって、ボーカルもちゃんと「楽器」として機能している感じがする。

短い曲が並ぶアルバムなので一曲一曲が記憶に残りにくい構造ではあるのだが、その中でも"Terror Bomber"はリフのフックが立っていて、聴き終わったあとに頭に残った数曲のうちの一つだった。ほかだと"Cemetery Planet"や"Acid Attack"のスローダウンも気持ちよくて、このへんの「重く沈む瞬間」がアルバムの抑揚を作っている。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★☆
デビュー作らしい勢いと粗さがあって、20分があっという間に過ぎる。デスグラインドの基礎体力がしっかりある一枚。ただ短尺曲がひたすら続く構成は、2作目のラスト大曲のような「締め」がないぶん、聴後感がやや一本調子になりがち。完成度としては2作目に一歩譲る、というのが正直なところ。とはいえこの泥臭さは2作目には無い魅力で、聴く価値は十分ある。

5. どのような人に推奨するか

初期Napalm Death、Terrorizer、Autopsyあたりの古いデスメタル/グラインドの暗くて湿った質感が好きな人には刺さるはず。整理された録音より、こもって泥臭いプロダクションのほうにグッとくるタイプの人には特におすすめできる。デスグラインド/ゴアグラインド好きならまず外さない。

逆に、メロディアスなデスメタルやテクニカル系を求めている人には向かない。ブラストとガテラルの圧が20分続くので、グラインドコアに耐性がない人にはきついと思う。Caustic Woundを初めて聴くなら、聴きやすさで2作目Grinding Mechanism of Tormentから入って、気に入ったらこのデビュー作で原型を確かめにくる、という順番もアリだと思う。

小川哲 / 君のクイズ

小川哲 / 君のクイズ のレビューです。

  • 作者: 小川哲
  • 発売日: 2022/10/20
  • 出版社: 朝日新聞出版
  • メディア: 単行本

1. 作品を選んだ理由

そもそもの話、QuizKnockをきっかけに「競技クイズ」というジャンルの存在を知って、早押しクイズってこんなに奥が深いのかと興味を持っていた。そこへ、信頼している小川哲がクイズを題材にしたミステリを書いたと知って、これはもう読むしかないとなった次第。小川哲は『ユートロニカのこちら側』『ゲームの王国』を読んで「この人なら信頼してよかろう」となった作家で、過去にもこのブログで取り上げている。SF作家という印象が強かったので、クイズ×ミステリという振り幅にも「お、来たな」と思って手に取った。好きな作家なので単行本が出た瞬間に買ったクチなのだが、今やもう文庫が出ている。文庫化早くない? それだけ売れたってことなんだろうな。

2. 内容

2022年に朝日新聞出版から刊行された長編。競技クイズを題材にしている。物語の発端は、テレビのクイズ王決定戦の決勝で、対戦相手が「問題文が1文字も読まれていない状態」でボタンを押して正解してしまう、という場面。主人公でありもう一人のファイナリストでもある三島玲央が、その不可解な正答はどうやって成立したのかを、自分の記憶と知識を頼りに検証していく――という構成だ。

派手な事件が起きるわけではなく、ほぼ一人の男が「あの一問は何だったのか」をひたすら考え続ける話なのだが、これが滅法おもしろい。競技クイズという世界の「早押しはなぜあのタイミングで押せるのか」「知識とは何か」といった部分が丁寧に解きほぐされていって、読んでいるこっちもクイズプレイヤーの思考をトレースさせられる。うんちく的なおもしろさと、ミステリとしての「なぜ?」の引っ張り方が噛み合っていて、ページが進む。

小川哲のSF作品にあった「世界の仕組みをロジックで腑分けしていく」感覚が、今回は現実の競技クイズに向けられている感じ。題材はまったく違うのに、根っこの知的な手つきは同じだなと思った。

3. 感想/評価(★の5段階)

★★★★☆ おもしろかった。SFの大作群とはまた違う、コンパクトで切れ味のある一冊。ラストの着地は好みが分かれるかもしれないが、最後まで「で、どうなるの」で引っ張られた。

4. どのような人に推奨するか

クイズ番組の早押しを見て「なんで押せるの!?」と思ったことがある人にはドンピシャ。ミステリといっても血なまぐさい事件モノではなく、知的な謎解きと人間ドラマが読みたい人向け。小川哲のSFが好きな人はもちろん、逆に「SFはちょっと…」という人の小川哲入門としてもいいと思う。

Caustic Wound / Grinding Mechanism of Torment

アメリカのデスグラインドバンド Caustic Wound / Grinding Mechanism of Torment をレビュー。

Grinding Mechanism Of Torment

Grinding Mechanism Of Torment

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  • アーティスト: Caustic Wound
  • 発売日: 2025/04/25
  • レーベル: Profound Lore Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

執筆リストの「優先で消化するもの」枠に入っていたバンドで、GadgetとMeth Leppardを聴き終えたので次はCaustic Woundに手を伸ばした。MortiferumやMagrudergrindのメンバーがやっているバンドというのは知っていて、デスドゥームとグラインドコアの混血みたいな立ち位置らしいというのも事前情報としてあった。

2020年のデビュー作Death Postureがアンダーグラウンドで評判だったらしいのだが、自分は通っておらず、いきなり2作目から聴く形になった。前情報なしでぶつかってみたかったので、あえてデビュー作を後回しにして本作から入っている。

2. 内容

2025年4月25日、Profound Lore RecordsからリリースされたCaustic Woundの2作目。シアトル出身のバンドで、ギターのChase SlakerとMax Bowman(Mortiferum)、ベースのTony Wolfe、ドラムのCasey Moore、ボーカルのClyde Lindstrom(Corpus Offal、Fetid)という編成。デビュー作Death Posture(2020年)から5年ぶりの新作になる。

サウンドは基本がグラインドコアで、そこに死/ドゥーム/スラッジの粘り気が乗っかってくるタイプの「デスグラインド」。16曲入りで尺はトータル30分弱、グラインドコアらしくほとんどの曲が1〜2分台で畳み掛けてくる。ブラストビートと喉から血が出そうなガテラルボイスが全編を支配しているが、ところどころでテンポを落としてズブズブのグルーヴに沈み込む瞬間があり、そこがこのバンドの個性になっている。

ExhumedやImpaledのようなゴアグラインド的な疾走感に、Napalm DeathやTerrorizer初期の血統、そしてLeng Tch'eっぽいグルーヴ重視のブレイクが混ざっている感じ。前作よりプロダクションが整理されて聴きやすくなったらしいが、それでも荒々しさと泥臭さはちゃんと残っている。"Drone Terror"のスラッジ的な重さと"Blood Battery"のフックの強いリフは、このアルバムのグルーヴ面の魅力を一番わかりやすく伝えてくる曲だと思う。

リフの数がとにかく多くて、1分台の曲でも展開がコロコロ変わる。聴き疲れしそうなものだが、ギターの2人(Slaker、Bowman)の手数とソロの差し込み方がうまく、ダレる前に次のフレーズに移っていく構成力がある。古典的なデスメタル+グラインドコアの作法をきっちり踏まえつつ、リフの強度だけでちゃんと現代的に聴かせてくる1枚だと思う。

3. 推し曲:...Into Cold Deaf Universe

ラストを飾るこの曲だけ他の15曲と毛色がまるで違う。他の曲が1〜2分でブチかましてくるのに対して、これは7分近くある長尺曲で、サンプリング音声を挟みながらスラッジ的にじわじわ立ち上がっていく。アルバムの最後にこれを置く構成のセンスがいいと思う。

序盤は本当にスローで、グラインドコアのアルバムを聴いていたはずなのにいつのまにかドゥームメタルのコーナーに連れて行かれる感覚がある。そこからじわじわテンポが上がって、最終的にはブラストビートを伴うデスグラインドの嵐に変貌していく。この「沈み込んでから一気に解放する」構成が、短尺曲を畳み掛けてきた前半15曲とのコントラストになっていて、アルバム全体の聴後感をグッと締めてくれる。

短い曲が並ぶ中で、この曲があることで「あ、このバンドはただ早いだけじゃないんだな」と思わされる。グラインドコアの瞬発力とドゥームの持久力、両方をやれるバンドだということをラスト1曲で証明してきた感じがして、地味にこの曲の存在がアルバムの評価を上げている気がする。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★
リフの量と質がとにかく豪華で、30分弱があっという間に終わる。ラストの大曲が効いていて飽きさせない構成も良い。ただ1〜2分の曲がひたすら続くので、グラインドコアに慣れていないと曲の区別がつかないまま終わってしまうかもしれない、というのは正直なところ。

5. どのような人に推奨するか

デスグラインド・ゴアグラインドが好きな人にはド真ん中で刺さるはず。Exhumed、Impaled、Terrorizer、初期Napalm Deathあたりが好きな人は迷わず聴いてほしい。ドゥーム/スラッジのグルーヴが好きな人にも"Drone Terror"や"Into Cold Deaf Universe"あたりの瞬間は刺さると思う。

逆に、メロディアスなデスメタルやテクニカル系を求めている人にはあまり向かない。ブラストビートとガテラルボイスの圧に耐性があれば一聴を。

Meth Leppard / Woke

オーストラリアのグラインドコアバンド Meth Leppard / Woke をレビュー。

Woke

Woke

  • Wise Grinds Records, Psychocontrol Records
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  • アーティスト: Meth Leppard
  • 発売日: 2020/03/08
  • レーベル: Wise Grinds Records / Bloody Scythe Records
  • メディア: LP(CDリリースあり:Grindfather Productions / No Bread!、2020年6月)

1. 作品を選んだ理由

Gatekeepers(2025年)を先に聴いてしまっていたのだが、そのレビューを書きながら「前作 Woke は各所でベストグラインド扱いされていた」と書いた手前、順番としてこちらもちゃんと向き合わないといかんな、という気持ちになった。あとGadgetからの流れで「オーストラリア産のごつい奴」に口が合ってきているのも大きい。

Meth Leppardは2015年結成のアデレード出身2人組。Woke は2020年リリースの1stフルレングスで、発表直後からグラインドコアシーンで話題になった作品だ。

2. 内容

2020年、Wise Grinds Records / Bloody Scythe Recordsからレコードで、同年6月にGrindfather ProductionsからCDでリリースされた1stフルレングス。メンバーはCheese(Ryan Cheesman、ボーカル・ギター)とKieran Murray(ドラム)の2人組。

17曲、トータルで17分弱。グラインドコアとしては標準的な尺で、1曲平均1分前後という構成だ。ただ、後に出る Gatekeepers と比べると若干ルーズな印象があって、それがこのアルバムの「荒っぽい初期衝動」みたいなものを逆に出している気がする。リフの密度はちゃんと高いし、ブラストとミドルテンポの切り替えも機能しているのだが、もう少し「爆発させたまま行け」という雰囲気が強い。

歌詞のタイトルからしてぶっ飛んでいて、"Dead Kardashians"、"Boomer"、"Hype Bands"、"Thrash Sucks"、"Kangaroo Court"と並んでいる。サウンドは真剣だがタイトルはシニカルなユーモア全開、という路線はこの1stで確立していたわけだ。"Elitism"あたりはグラインドシーン内部への自己言及的なネタにも見えて、どこかメタな視点がある。

音的には Gatekeepers と基本路線は同じで、Terrorizer・Repulsion・Nasumあたりからの影響が感じられるオールドスクールなグラインドコア。ただエッジの立て方がより荒く、プロダクションも若干ラフだ。その荒さが初期衝動のエネルギーとして機能していて、これはこれでアリだと思う。

3. 推し曲:Honey Bucket

このアルバムのラスト前に置かれたMelvinsのカバー。原曲は1993年の Houdini 収録で、オルタナ・スラッジの文脈の曲をグラインドコアでカバーするという、ある種の暴挙だ。

でも、これが面白い。原曲のどっしりとしたグルーヴはそのままに、Meth Leppardなりのガチャガチャした乱暴さが乗っかっている。バンドが元々「ミドルテンポのグルーヴを入れること」を得意にしているので、スラッジ色のある曲とは相性がいいのかもしれない。1:55というアルバム内最長クラスの尺で、他の1分切り曲が続いた後に来るのでスケール感がある。このカバー選択がバンドの音楽的ルーツをさりげなく示している気がして好きだ。

タイトル曲の"Woke"も悪くない。コンパクトにまとまっていてグラインドとしての爆発力がある。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★

後から出た Gatekeepers のほうが洗練されていると思うが、このラフさ・荒っぽさは1stにしか出せないもので、それ自体が価値だと思う。17分弱で終わるので何も考えずに繰り返しかけていられるのも良い。Melvinsカバーの選択センスだけで1点加算したい気持ちがある。

5. どのような人に推奨するか

Nasum、Terrorizer、Repulsionあたりが好きな人には間違いなく刺さる。グラインドコアとしてのフックとリフをちゃんと重視しているバンドなので、「ただ速くてうるさいだけ」ではなく「曲として成立しているグラインド」を求めている人に向いている。

Gatekeepers(2025年)と比べると荒削りなぶん、初期衝動のエネルギーが強い。どちらから入ってもいいが、個人的には WokeGatekeepers の順に聴くとバンドの成長が見えて面白い。逆に「プロダクションがラフな作品が苦手」という人には Gatekeepers のほうが入りやすいかもしれない。

Bandcampで全曲試聴できるので、雰囲気だけ確かめてから買うのが無難。17分しかないので試聴コストは低い。

Meth Leppard / Gatekeepers

オーストラリアのグラインドコアバンド Meth Leppard / Gatekeepers をレビュー。

Gatekeepers

Gatekeepers

  • Psychocontrol Records, Here & Now Records
Amazon

  • アーティスト: Meth Leppard
  • 発売日: 2025/07/01
  • レーベル: Here And Now Records / Psychocontrol Records
  • メディア: LP(CDリリースなし、デジタル配信あり)

1. 作品を選んだ理由

GadgetとNasumをひととおり消化して、「同系統でもっと直球なやつを」と漁っていたときにたどり着いたのがMeth Leppardだった。オーストラリア・アデレード出身の2人組グラインドコアバンドで、2015年結成。スプリットを中心に活動してきて、初フルレングスの Woke(2020年)は各所で「その年のベストグラインド」扱いされていた。

Gatekeepers は2025年リリースのセカンドフルレングス。Decibel誌の「2025年グラインドコア/パワーバイオレンスベスト10」で6位に入っていたのを見て、これは聴かなきゃとなった。Gadget消化シリーズの勢いで引っ張ってきた流れもある。

2. 内容

2025年、Here And Now Records、Psychocontrol Recordsほか複数レーベルからリリースされたバンドの2ndフルレングス。メンバーはCheese(Ryan Cheesman、ボーカル・ギター)とKieren Murray(ドラム)の2人組。もともとPowerxchuckやSeminal Embalmmentのメンバーでもあるらしい。Terrorizer、Repulsion、Looking For An Answerあたりが影響源として挙げられている。

10曲、トータル約14分。これがまたキッチリ14分で終わる。1曲平均1分20秒前後の、いかにもグラインドな曲尺だ。ただ、曲が短いことと情報量が少ないことはイコールじゃない。各曲にちゃんとリフがあって、フックがある。ブラストビート一辺倒にならず、ミドルテンポのグルーヴをところどころ差し込んでくるのがこのバンドの持ち味で、Gatekeepers でもそれは健在だ。

歌詞のタイトルが「Algorithm & Blues」「Oligarchy Bukkake」「HPV Lovecraft」「Idiocracy」など、わりとふざけたセンスで統一されている。社会批判的なテーマをメタルらしい大仰さではなくシニカルなユーモアで包んでいる感じで、これはこれで一つのスタンスだと思う。サウンドは至って本気なのにタイトルがおかしいという落差が逆にクセになる。

3. 推し曲:Oligarchy Bukkake

タイトルだけ見ると「は?」となるが、曲自体は非常に真っ当にカッコいい。グルーヴィでスラッシーなリフが前に出てきて、バンドが得意とするミドルテンポのパートが存分に活きている。ブラストからミドルへの切り替えが鮮やかで、たった1分14秒の中にモッシュパートが完結している。グラインドコアの短尺の中でこれだけ「動かせる」構成を作れるのは純粋にうまいと思う。

他だと "Algorithm & Blues" も面白い。タイトル通りというかブルージーなわけではないが、若干スローに引っ張るパートがあって、それが疾走部分との対比でよく効いている。"Idiocracy" はラスト曲で本作最長の2分5秒。アルバムの締めとしてちゃんとスケールアップしていて、14分の旅の着地点として機能している。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★

14分で終わるのに「もう終わり?」とならずに「もう一周しよう」という気にさせてくれる。グラインドコアに疾走感とリフのフックを両立させて、かつユーモアもあって——やることをちゃんとやっている作品だと思う。前作 Woke と甲乙つけがたいが、2枚目として確実に地力がついている印象。あと14分なのでコスパ(?)は最高。

5. どのような人に推奨するか

グラインドコアを普段から聴いている人には文句なく推奨できる。Nasum、Terrorizer、Repulsion、Wormrotあたりが好きな人なら間違いなく刺さる。「リフのあるグラインド」が好みの人にも合っている。

逆に、「グラインドコアを初めて聴く」人への入門盤としてはちょっと推しにくい。14分という短さに「え、これだけ?」と感じる人もいると思うし、1曲1分強の曲が並んでも何が何だかわからないまま終わる可能性がある。まずNasumの Inhale/Exhale あたりで耳を慣らしてから来ると受け取りやすいかもしれない。

デジタル配信(Bandcamp)で全曲試聴できるので、まず雰囲気だけ確かめてからLPを買うというルートが一番無駄がないと思う。

Gadget / Remote

スウェーデンのグラインドコアバンド Gadget / Remote をレビュー。

Remote

Remote

  • アーティスト:Gadget
  • Relapse
Amazon

  • アーティスト: Gadget
  • 発売日: 2004/02/03
  • レーベル: Relapse Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

The Great Destroyer(2016年)、The Funeral March(2006年)と後ろから遡ってきたので、いよいよデビューアルバムであるこれを聴く番になった。The Funeral Marchのレビューで「Mieszko Talarczyk(Nasum)がこのアルバムをプロデュースした」と書いたのだが、その本作を聴かずにいるのも変な話なので引っ張り出した。

それと、後の2作を聴いた上でデビュー作に戻ると、「最初からどのくらいできていたか」という文脈で聴けるのが面白い。The Great Destroyerがデスメタル寄りで削ぎ落とされた音、The Funeral Marchがポスト・ハードコア的なメロディを持つ音、では原点はどこなのか、というやつ。

2. 内容

2004年2月、Relapse Recordsからリリースされたバンドのデビューフルレングス。スウェーデン、イェーヴレ(Gävle)出身。メンバーはWilliam Blackmon(Dr)、Emil Englund(Vo)、Rikard Olsson(Gt)、Fredrik Nygren(Ba)。レコーディングはスウェーデンのPhlat Planet Studiosで、エンジニアはFredrik Reinedahl(Burst、Dimension Zero、In Flames等で知られる)。そしてNasumのMieszko Talarczyk(R.I.P.)がプロデュースを担当している。

収録曲は21曲:"Still" / "For What Cause?" / "Crestfallen" / "Death and Destruction" / "Unreachable" / "The Sentinel" / "Wake Up the Dead" / "Fuel" / "Rid the Darkness" / "Failure" / "Connected" / "Inget Val" / "Incomplete" / "Empty Souls" / "Anew" / "Tear You Apart" / "Dethrone" / "Forbrukad" / "Remote" / "Enigmatic" / "Tema: Skit"。21曲でも全体は30分前後に収まる。一曲一曲が短い。そういうやつ。

サウンドはNasum直系のスウェーデン産グラインドコアで、ブラストビートとダウンチューニングされたギターが当たり前のように押し寄せてくる。Mieszkoのプロデュースだけあって、Nasumとの音の近さは本作がいちばん強いと思う。ただ後の2作と比べると、このアルバムはメロディとダイナミクスを大事にする「スウェーデングラインド的センス」がよく出ていて、ただ暴れるだけじゃない聴かせる部分がある。デビュー作にしてGadgetのスタイルがかなり確立されていた印象。

"Inget Val"、"Forbrukad"といったスウェーデン語タイトルの曲が混じっていて、これは後作The Funeral Marchでも同じ傾向がある。Gadgetの「スウェーデンのバンドである」という自意識が出ているのかもしれないし、単純にその方がカッコよかったのかもしれない。どちらにせよ異質な空気が出て悪くない。

3. 推し曲:特になし

The Great DestroyerもThe Funeral Marchも「特になし」にしたが、このアルバムも同じ結論になった。21曲をまとめて一つの体験として飲み込むタイプの作品だと思う。「この一曲だけでも聴いてほしい」という切り出し方が似合わない。

強いてどこかを挙げるなら、アルバム中盤の "Empty Souls" あたりはグルーヴが少し落ち着いて聴きやすい入口になっている気がする。あとラストの "Tema: Skit" は本編の疾走から外れたアウトロ的な短い曲で、ここで一息つく感じが悪くない。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★
デビュー作としての荒削りさと、Mieszkoのプロデュースによる「スウェーデン産グラインドの正統」としての品質が同居している。後の2作と比べて特別良いとは言いきれないが、Gadgetというバンドの軸がここに全部ある。Mieszkoが関わったという一事だけでも聴く価値がある。

5. どのような人に推奨するか

Nasumを好きで、なおかつNasum以外のスウェーデン産グラインドも掘りたい人には真っ先にすすめる。Mieszkoとのつながりという文脈でも聴く意義がある作品だと思う。

Gadgetを聴くなら本作→The Funeral March→The Great Destroyerの順でも逆順でも大差ないが、デビュー作から入るのが筋ではある。「Nasumっぽいグラインドコアのデビュー盤」として気軽に聴いてみてほしい。グラインドコア自体が初めての人にはあまりすすめない——まず短い曲が連射されて何が何だかわからないまま終わるので、ジャンルへの慣れが必要。

Gadget / The Funeral March

スウェーデンのグラインドコアバンド Gadget / The Funeral March をレビュー。

Funeral March

Funeral March

  • アーティスト:Gadget
  • The Orchard
Amazon

  • アーティスト: Gadget
  • 発売日: 2006/05/02
  • レーベル: Relapse Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

The Great Destroyerを聴いて気に入ったので、そのまま遡って前作を聴いた。The Great Destroyerのレビューで「前2作はPig Destroyerに近いポスト・ハードコア的なメロディセンスがあった」と書いたのだが、じゃあそれは実際どういうものか確かめたくなって。聴き比べる目的で手を伸ばした感じ。

2. 内容

2006年5月、Relapse Recordsからリリースされたバンドの2作目のフルレングス(カタログ番号:RR 6687-2)。スウェーデン、イェーヴレ(Gävle)出身。メンバーはWilliam Blackmon(Dr)、Emil Englund(Vo)、Rikard Olsson(Gt)、Fredrik Nygren(Ba)。2005〜2006年初頭にGävle内のスタジオ「The Overlook」でレコーディングされた。

収録曲は17曲:Choked / Feed On Lies / Requiem / I Am / Tristessens Fort / H5N1 / Everyday Ritual / Day of the Vulture / God of Led / Vagen Till Graven / Illusions of Peace / Black Light / Out of Pace / Let the Mayhem Begin / Bedragen / The Anchor / Tingens Förbannelse。曲名にスウェーデン語が混じっているのが面白い(VägenはSwedish for "The Road"、Tingens Förbannelse は"The Curse of Things"あたりの意味だろうか)。

サウンドはThe Great Destroyerよりもメロディとダイナミクスを意識した作りで、ポスト・ハードコア的な「うねり」がある。同郷のNasumに連なるスウェーデン産グラインドの血統ではあるが、ただ速いだけでなく、フックのあるリフと緩急を活かした構成が特徴。Mieszkoを失ったことでNasumというバンドが事実上終わったあと、「スウェーデン産グラインドの後継」として名前が挙げられるのも頷ける。

3. 推し曲:特になし

The Great Destroyerのときと同じく、この手のアルバムは「どれか一曲」を選ぶより全部通して聴くのが正解だと思う。17曲を20分ちょっとで叩きつけてくる体験として成立している。

強いて言えば "Tristessens Fort" "Vagen Till Graven" といったスウェーデン語タイトルの曲は、言葉のせいか少し異質な空気があって引っかかる。でも別にどの曲でも同じくらいいい。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★
勢いがあって黒い。The Great Destroyerよりメロディとダイナミクスがある分、「グラインドコアをちゃんと聴かせる気がある」感じがして、個人的にはこっちも好きだ。後期のデスメタル寄りの音と比べてどちらがいいかは気分次第だと思うが、このアルバムのほうが荒削りで泥臭くて、それが正直に出ている。

5. どのような人に推奨するか

The Great Destroyerが気に入ってGadgetをもっと掘りたいという人には当然すすめる。こちらのほうがメロディとダイナミクスを大事にしているとされているので、The Great Destroyerが「デスメタル寄りで硬すぎた」と感じた人には合うかもしれない。Nasum、Pig Destroyer好きにはどちらも向いているはず。

Gadget / The Great Destroyer

スウェーデンのグラインドコアバンド Gadget / The Great Destroyer をレビュー。

Great Destroyer

Great Destroyer

  • アーティスト:Gadget
  • Relapse
Amazon

  • アーティスト: Gadget
  • 発売日: 2016/03/11
  • レーベル: Relapse Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

GrindcoreとPowerviolenceをまとめて掘り返している時期があって、その流れでNasumを経由してGadgetにたどり着いた。スウェーデン産グラインドといえばNasumが筆頭に来るわけだが、同じ文脈で名前が挙がるGadgetはなぜか後回しにしていた。「いつか聴こう」と思いながら積んでいたやつをようやく引っ張り出した感じ。

本作は前作The Funeral March(2006年)から10年ぶりのフルレングスということで、「10年ぶりに復帰したグラインドコアの老兵は何を持ってきたのか」という興味もあった。10年というブランクはグラインドコアにとってどのくらいの意味を持つのか、という点でも聴いてみたかった。

2. 内容

2016年、Relapse Recordsからリリースされたバンドの3作目のフルレングス。スウェーデン、イェーヴレ(Gävle)出身のバンドで、ドラマーWilliam Blackmonが1997年頃から関わり続けてきたプロジェクトが形になったもの。ボーカルのEmil Englundは2001年頃から参加している古参メンバーで、ギタリストのRikard Olsson、ベーシストのFredrik Nygren(2003年加入)が脇を固める。

サウンドはガッツリ正統派グラインドコアで、ブラストビートとダウンチューニングされたギターが全編にわたって畳み掛けてくる。17曲収録で総時間は27分ほど。1分前後の曲がずらりと並ぶいかにもグラインドなアルバム構成だ。前2作はPig Destroyerに近いポスト・ハードコア的なメロディセンスがあったらしいが、本作はより直線的でデスメタル寄りのノコギリ刃ギタートーンを採用しており、キャリアの中では少しロウで獰猛な方向に振れた印象を受ける。

Nasum直系と言い切っていいサウンドで、スウェーデン産グラインドの血統をそのまま引き継いでいる。ノコギリ刃ギタートーン、問答無用のブラストビート、短く刈り上げた曲尺、社会批判的な歌詞——どこを切ってもグラインドコアの教科書みたいな作品だと思う。黒くてストレートで、余計なものが一切ない。元気でさいこう、という感じ。

Barney(Napalm Death)が1曲客演しているのだが、「あ、そうなんだ」くらいの感じでスルーしても全然いい。曲として特別扱いされるわけでもなく、アルバムの流れの中に普通に溶け込んでいる。それはそれでカッコいい。

3. 推し曲:特になし

これはどの曲を推し曲にするか決めかねる類のアルバムだと思う。17曲が一塊の体験として流れていくので、「この曲!」と切り出すよりアルバム全体で聴くのが正解な気がする。強いて言えばラストの「I Don't Need You / Dead And Gone」だけ5分半あって毛色が違うので目立つが、それも「この曲だけでも聴いてほしい」という感じではなく、27分間走り切った後の着地として機能しているから良い、という話だと思う。

全部で27分なので、「推し曲」を探すより通しで聴いてしまえばいい。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★
黒くてストレートで元気。グラインドコアに求めるものがそこにあれば文句なし。Nasum直系のスウェーデン産グラインドが10年ぶりに帰ってきてこの完成度、それだけで十分じゃないかと思う。

5. どのような人に推奨するか

グラインドコアを普段から聴いている人には間違いなく推奨できる。NasumやTerrorizer、Napalm Death(初期)あたりが好きな人は入りやすいはず。「10年ぶりの新作が出た老兵グラインドバンド」という文脈を知ってから聴くと感慨深さが増すと思う。

逆に、グラインドコアを初めて聴く人の入門盤としてはあまりすすめない。このジャンルに慣れていないと17曲があっという間に終わってしまって何が何だかわからないまま終わる可能性が高い。プログレッシブなデスメタルやメロデスが好きな人にもあまり刺さらないと思う。

GadgetをまずはRemote(2004)かThe Funeral March(2006)から聴いて、バンドの「メロディを大事にするグラインドコア」という側面に慣れてから本作に来ると、前2作との比較も含めてより楽しめるはず。

Obituary / Slowly We Rot

Obituary / Slowly We Rot

アメリカのデスメタルバンド Obituary / Slowly We Rot をレビュー。

  • アーティスト: Obituary
  • 発売日: 1989/06/01
  • レーベル: Roadracer Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

DeathのカタログをScream Bloody Goreから通しで聴いたあとは、同じフロリダ・タンパ発のデスメタルをもう少し掘ってみたくなった。Obituaryはずっと気になっていたバンドで、名前だけ知っている状態が長く続いていた。デスメタルを聴き始めたばかりのころに「タンパサウンド」という言葉を目にするたびに出てくるバンド名なのに、ちゃんと聴いたことがなかったのが正直なところだ。

それならばデビュー作から順番に聴いていこうということで、まずは1989年の本作から。

2. 内容

1989年、Roadracer Records(のちにRoadrunner Recordsに改名)からリリースされたバンドの1作目。メンバーはJohn Tardy(Vo)、Allen West(Gt)、Trevor Peres(Gt)、Daniel Tucker(Ba)、Donald Tardy(Dr)。兄弟バンドというか、John TardyとDonald Tardyが兄弟でバンドを組んでいるという出自からしてただ者ではない雰囲気がある。プロデュースはScott Burns、録音はMorrisound Recording。この時点でもう「タンパの音」の出どころは一緒だ。

内容は一言でいうと「重い、遅い、不快(褒め言葉)」に尽きる。同時期のフロリダデスメタルの中でも、Deathやっぱりとか、Morbid Angelといった連中が技術的な方向に目を向けているのに対して、Obituaryはとにかく重さと暗さで押してくる。スラッジとまでは言わないが、ドゥームの引力を強く感じさせるテンポ感が随所にある。速い曲もあるにはあるのだが、「ここぞ」というときに急にシフトダウンしてドン底まで引きずり込んでくる感覚がたまらない。

John Tardyのボーカルはとにかく独特で、何を言っているか全く聞き取れない。同じグロウルでもDeathのChuck SchuldinerはまだLeprosyあたりから徐々に言葉が聴こえてくる方向に進化していったが、Tardyはそういったことにはおそらくさほど興味がなく、声そのものを楽器として使っている。ガリガリというか、鋸で引っかいたような独特のテクスチャがあって、デスメタルのボーカルとしてこれ以上ないくらいに「機能」している。

ギターはWestとPeresの2本体制。リフは決して技巧的ではないが、このどっしりした重さはリフの構造から来ている気がする。Scott Burnsのプロダクションは各楽器がちゃんと分離して聴こえる一方で、全体的にズブズブとした泥のような質感があって、これがObituaryの音楽性にピッタリ合っている。

3. 推し曲:Slowly We Rot

タイトル曲にして本作最大の聴きどころ。アルバムの4曲目に収録されているが、ここに来るまでの流れも含めて「デスメタルのアルバムを聴くとはこういうことだ」という説得力がある。

曲としては中盤にスローダウンするパートがあって、そこからの引きずるような重さが最高にいい。ドゥームに迷い込んだかのようなペースで進むリフの上に、John Tardyがのたうち回るように吠えてくる。これ、聴いているとなんか本当に「腐敗していく」感じがするのだが、それはタイトルの刷り込みのせいだろうか。でも音と言葉(というか音)が一致しているという意味では完璧な曲だと思う。

"Internal Bleeding"(1曲目)もド頭からエンジン全開でアルバムへの導入として機能していて好きだ。"Immortal Visions"はテンポの緩急がうまくて、中盤の疾走からスローへの転換が気持ちいい。でも推し曲を一つと言われたら"Slowly We Rot"で迷いはない。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★☆
テクニカルさはゼロだが、それがいい。デスメタルに「知性」や「技巧」を求めていないときに聴くと最高に刺さる1枚。ただ初めて聴いたときはちょっとのっぺりした印象があって、聴き返すほどに「あ、これはこういう音楽だ」とわかってくる類いのアルバムかもしれない。

5. どのような人に推奨するか

「デスメタルをとにかく重くて暗い方向で聴きたい」という人にはド直球でおすすめ。特にドゥームやスラッジ側から来た人は入りやすいと思う。逆に、テクニカルなリフやプログレッシブな展開を求める人には肩透かしを食らう可能性が高い。DeathのHumanやIndividual Thought Patternsが好きな人がいきなりこれを聴くと「なんか別物だな」となるかもしれないが、それはそれで面白い対比だと思う。フロリダデスメタルの「もう一つの顔」として、Deathと並べて聴いてみると面白い。

Death / Human

アメリカのデスメタルバンド Death / Human をレビュー。

Human -Deluxe-

Human -Deluxe-

  • アーティスト:Death
  • Relapse
Amazon

  • アーティスト: Death
  • 発売日: 1991/10/22
  • レーベル: Relativity Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

DeathのカタログをScream Bloody Goreから順番に聴いていくシリーズ、今回は1991年リリースの4作目。Scream Bloody Gore、Leprosy、Spiritual Healingと聴いてきて、ここからいよいよ「後期Death」のテクニカル路線に突入する。Individual Thought Patternsのレビューですでにチラッと触れたが、あちらはあくまで「5作目から振り返った話」だった。Human自体をちゃんと正面から語っていなかったので、今回あらためて腰を据えて向き合う。

前作Spiritual HealingからHumanへの変化は、Leprosyから先にすでに起きていたサウンドの進化の中でも一番大きいと思う。単純に「テクニカルになった」という話ではなく、バンドそのものが別の生き物になったような印象がある。

2. 内容

1991年、Relativity Recordsからリリースされたバンドの4作目。メンバーはChuck Schuldiner(Gt/Vo)、Paul Masvidal(Gt)、Steve DiGiorgio(Ba)、Sean Reinert(Dr)。ChuckはこのアルバムのためにL.A.のミュージシャンを起用しており、MasvidalとReinertはCynic(当時まだ駆け出し)の中核メンバーだ。この人選からして、Chuckが意図的に次のレベルを目指していたのは明らかだと思う。

サウンドは前作Spiritual Healingから劇的に変わっている。Spiritual Healingもそれなりにメロディがあってキャッチーな側面があったのだが、Humanはもっと知的・構築的で、ブルータルな暴力性よりも「緻密さ」と「テクニック」を全面に押し出してきた。ただしテクニカルといっても曲が複雑怪奇で取っつきにくいわけではなく、リフはちゃんと「リフ」として機能していて耳に引っかかる。Scott BurnsによるMorrisound Recordingでの録音で、プロダクションもクリアで各楽器がよく聞こえる。

Sean Reinertのドラムはこのアルバム最大の驚きのひとつだと思う。正確無比で多彩で、ブラストで押し切るのではなく曲の随所に細かいアクセントを入れてくるタイプのドラミング。のちにIndividual Thought PatternsでGene Hoglanがさらにその路線を進化させるのだが、その原型がすでにここにある。Reinertのプレイはとにかく「聴かせる」ドラムで、ドラムだけを追いかけて聴いても十分楽しい。

DiGiorgioのフレットレスベースも健在で、特に"Cosmic Sea"(インストゥルメンタル)でその独特のウネウネした音がよく堪能できる。全体的に各パートが主役になる瞬間があって、バンドというよりは「凄腕プレイヤーの集合体」としての強みが出ている。

"Flattening of Emotions"、"Suicide Machine"、"Lack of Comprehension"あたりはリフがとにかくカッコよく、引き込まれる力が強い。全8曲どれも外れがなく、アルバムとして非常に密度が高い。

3. 推し曲:Suicide Machine

正直このアルバムで一番好きな曲を1つ選ぶのはかなり悩む。だが毎回引っかかってしまうのがこの曲だ。

イントロから鋭いリフがズバッと入ってきて、すぐにReinertのドラムが加わる。このリフのキレが尋常ではなく、デスメタルとしての荒々しさと、テクニカルな精度が同居している。Chuckのボーカルもこのアルバムではえぐ味が増していて、前作よりも声のダイナミクスを使い分けているように聞こえる。

中盤にテンポが変わってリフが組み変わる場面があるのだが、ここでReinertがさりげなく手数を増やしてきて、聴くたびに「うまいな」と思う。派手に叩き倒すのではなく、あくまで曲を支えながらアクセントを入れてくる感じ。デスメタルのドラムとしてはかなり知的な部類だと思う。

他に触れたいのは"Cosmic Sea"。全編インストゥルメンタルで、DiGiorgioのフレットレスベースとChuckのギターが絡み合うアルバムの「間」として機能している。ここだけ急にプログレっぽい空気になるのだが、それがまた本作の多面性を際立たせていて面白い。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★★
「テクニカルデスメタル」という言葉がここから始まったといっても過言ではない1枚。Chuckのビジョンの明確さと、それを実現した超一流メンバーの演奏がきっちりかみ合っている。Deathの全カタログの中でも頂点に近い作品だと思う。Individual Thought Patternsと並んで、後期Deathの代名詞。

5. どのような人に推奨するか

テクニカルデスメタルやプログレッシブデスメタルが好きな人は絶対に聴いてほしい。Cynicが好きな人にもおすすめで、MasvidalとReinertのプレイをデスメタルの文脈で聴ける貴重な作品でもある。

逆に、初期DeathのScream Bloody GoreやLeprosy路線のどろっとした原始的なデスメタルを求めている人にはかなり毛色が違うので注意が必要かもしれない。ただ「ちゃんと上手い人たちがやるデスメタルを聴いてみたい」という人への入口としては相当優秀な1枚で、デスメタル入門としても勧めやすい。

Death / Spiritual Healing

アメリカのデスメタルバンド Death / Spiritual Healing をレビュー。

Spiritual Healing-Deluxe-

Spiritual Healing-Deluxe-

  • アーティスト:Death
  • Relapse
Amazon

  • アーティスト: Death
  • 発売日: 1990/02/16
  • レーベル: Combat Records
  • メディア: CD

1. 作品を選んだ理由

DeathのカタログをScream Bloody Goreから順番に聴いていくシリーズ、今回は1990年リリースの3作目。Scream Bloody GoreとLeproyのレビューはすでに書いたので、その続きということになる。

このアルバムはずっと「Lepropyより完成度が上がって、Humanの手前にある作品」という認識でいたのだが、そのわりにあまりちゃんと向き合ってこなかった気がする。初期の野蛮さと後期の知性の間に挟まれた過渡期作品という印象が強くて、つい両端の作品ばかりに手が伸びてしまっていた。今回は改めてこれ単体で聴き込んでみようと思って。

2. 内容

1990年、Combat Recordsからリリースされたバンドの3作目。メンバーはChuck Schuldiner(Gt/Vo)、James Murphy(Gt)、Terry Butler(Ba)、Bill Andrews(Dr)という布陣。Lepropyからの続投はTerryとBillの二人で、ギタリストがRick RozzからJames Murphyに交代している。このMurphyの加入が、サウンドの変化にかなり影響している。

プロダクションはScott BurnsがMorrisoundで手がけており、この時期の南フロリダ産デスメタルとしては標準的な仕上がり。Lepropyと比べると全体的に音がクリアになっていて、特にギターのトーンが整理されている。ドラムの音は当時のScott Burns節そのままという感じで、バシッバシッとした硬質なスネアが今聴くとある種の時代感を醸し出す。

音楽性は「Lepropyの延長線上にあるが、より構成を意識した作風」という感じ。ただ疾走して暴れるだけでなく、ミドルテンポのパートを効果的に挟みながら展開する曲が多い。特にJames Murphyのリードギターがここで大きな役割を果たしていて、Leprosy期にはなかったメロディアスで流麗なソロが随所に顔を出す。デスメタルの文脈でここまでギターソロが歌ってくるのか、という驚きがある。

テーマ面では、タイトル通り信仰療法(faith healing)やテレビ伝道師、社会的詐欺に対する批判が歌詞の中心にある。Chuckの関心が純粋な暴虐から社会批評に向かい始めているのがわかって、Human以降の「思索するChuck」への橋渡しがここで始まっている。ただ正直、歌詞をきちんと追わないとこの方向転換には気づきにくいかもしれない。サウンド面では別にそんなに「知的」な感じはしないので。

曲のばらつきはある。"Living Monstrosity"や"Spiritual Healing"(タイトル曲)は引っかかりがあって記憶に残るが、後半はやや淡々と進む印象もある。Human以降と比べると複雑さや技術的なエグみはまだ控えめで、そこを期待して聴くと少し物足りないかもしれない。

3. 推し曲:Spiritual Healing

タイトル曲を選ぶのは安直な気もするが、これ以外に選ぶ気になれなかった。

イントロから独特のリフが始まって、ミドルテンポで重々しく展開していく。この曲が一番このアルバムの「らしさ」を体現していると思う。特にJames Murphyのギターソロが素晴らしくて、流麗なフレーズがデスメタルの文脈の中できちんと機能している。「メロディアスだけど暴力性を失っていない」という絶妙なバランスで、Chuckがどういう方向に行きたかったのかがよく見える。

歌詞の内容も面白くて、信仰療法師にすがって命を落とす人間の悲劇を描いている。「病気なのに医療を拒否して神に治してもらおうとする」という話で、宗教的欺瞞に対するかなり直接的な批判だ。このテーマとどっしりした重さのリフが合わさって、単純な暴力性とは違う迫力がある。

"Living Monstrosity"もオープニングとして良くて、アルバムへの入口としての機能を十分に果たしている。あのイントロリフは一度聴いたら覚えてしまう引力がある。

4. 感想/評価(★の5段階)

★★★★☆
過渡期の作品として見るとすごく面白いのだが、単体での完成度ではHumanやSymbolicには一歩及ばない気がする。ただJames Murphyのギターワークは本当に良くて、このラインナップが続いていたらどうなっていたんだろうという気にさせる。「Deathの歴史」として聴く分には絶対に外せない1枚。

5. どのような人に推奨するか

Scream Bloody GoreとLepropyを聴いて「もう少しメロディと構成力が欲しい」と感じた人には、この流れで聴く意味が十分にある。Lepropyから本作、そしてHumanへの変化の過程を追うと、Chuckがいかに急速に進化していったかがよくわかる。

逆に、Human以降のテクニカル路線から逆行して聴いている人には、少しプリミティブに感じるかもしれない。そこは割り切って「歴史的文脈で楽しむ」という姿勢で向き合うといい。James Murphyのギタープレイが好きな人——Obituary、Cancerあたりで彼の仕事を知っている人——には特に聴いてほしい。デスメタルのギタリストとしてのMurphyのキャリアの中でも本作は重要な1枚だと思う。