めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Cultes Des Ghoules / Henbane

Henbane

Henbane

ポーランドのブラック/デスメタルバンド Cultes Des Ghoules / Henbaneをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 さっき1stを聞いたので、次いでに2ndも聞いている。ちな、現時点で持っているのはこの2ndまで。

2.内容

 2008年の1stから何枚かのスプリットとEPを挟んで、2011年にリリースされた2ndフルアルバム。これもHells Headbangers Recordsから出ている。今出てこないけど、多分手持ちはそれだと思う。  5年経ってますが、基本的な音楽性は1stから変わっていない。相変わらず毛羽立った歪みのギターがリフで先導する中で、高速/低速が入れ替わり立ち代わりの楽曲展開を見せる。1stと比較すると、リフのオカルト感が増したのと、ドラムの体感速度が速くなったなぁと思う。1つ1つのリフがより印象的になり(ただし決してメロディアスではない)、前作では見られなかった高速ブラストも聞かれ、ボーカルパフォーマンスもドスの利いた低音から演説風のスピーキング、シアトリカルな悲鳴、怪しい笑い声と様々。
 #1 "Idylls of the Chosen Damned"や#2 "The Passion of a Sorceress"はリフの魅力が詰め込まれた勢いに溢れた佳曲。#3 はスローでドゥーミーで、ディストーションギターの音も殆ど聞かれないスピーキングパートもあるタイトル通り"Vintage Black Magic"な黒魔術ソング。7:00過ぎあたりからの妖しさ満点のサウンドスケープはある意味スゴイ。前作よりプロダクションはいい意味で荒々しくなったと思うが、リフが何を弾いているかは十分に聞き取れるレベル。オカルティズムな雰囲気の向上と、静動のメリハリによる楽曲の印象付けという点で、全体的に質の向上が見られる快作だと思います。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 雰囲気あるなあ。怖いっす。

4.どのような人に推奨するか

 前作よりカルト度や呪い度が上がっているけど、バンドの個性というか神髄はこっちなんだろうなと思う。単純にプリミティブブラックとして聞くならば、もしかすると前作の方が好きな人もいるような気がするのだが、オカルトな雰囲気を存分に楽しみたい方や前作の「妖しさ」に魅かれた方には、本作はより訴求する作品になっていると思う。

Cultes Des Ghoules / Haxan

Haxan

Haxan

  • 発売日: 2011/05/24
  • メディア: MP3 ダウンロード

ポーランドのブラック/デスメタルバンド Cultes Des Ghoules / Haxanをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 特に理由なくブログ書きながら聞いてたのでついでにレビュー。汚らしいプリミティブ/ベスチャルスタイルのブラックメタルを買い求めたいた時期に買ったものです。普通にディスクユニオンで見かけて買った記憶があるぞ。

2.内容

 バンドのフルアルバムとしては第一作目。2008年にリリースされました。Hells Headbangers Recordsからもリイシューされているようなので、そこそこ流通しているんじゃないでしょうか?オリジナル盤も1000 Copiesってあるけど、1000枚限定程度だと普通に手に入ったりするからね、このジャンルは…。
 さて音楽性は、何に似ているといえばいいのかね。ささくれ立ったとげとげしいギターの歪みによるオカルティズム溢れた反復的なトレモロリフと、荒々しくプリミティブにドカドカと叩きならされる中速ブラストビートとスローテンポによるブレークダウンを行き来する展開、どことなくMayhemの『De Mysteriis Dom Sathanas』の時のAttila氏を思われる呪言めいたうめき声ボーカル、8分から~16分の長尺曲(あんまり展開は覚えてない)で構成されています。汚らしいけどしっかりと構成されたブラックメタルという印象です。なんだろう、ギターリフはメロディアスではないんだけど、口ずさめるようなキャッチーさもあり。#3 "Stegoica Dance"なんていいリフが詰まっている佳曲だと思います。同郷のBestial RaidsさんなんかがBeheritとかBlasphemy的な突撃ブラックやってるのに比べると、本作は大分音楽的に聞きやすいんじゃないでしょうか。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 まぁまぁ。

4.どのような人に推奨するか

 プリミティブブラックっぽさとドゥームデスっぽさを両方備えたハイクオリティなカルト音楽」って感じ。リフもしっかりしているし、聞きやすいと思います。

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版]

アントニイ・バージェス / 時計仕掛けのオレンジ [完全版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『ファイトクラブ』と同じような理由で、映画で作品は有名だけど読んだことねぇなと思ったのと。映画よりも激しくシャープ、との帯タタキにより購入。まぁ映画も見たことないんだけど。

2.内容

 原作は1962年で、1980年に早川書房から単行本化。本作はそれに当時未収録の最終章を付与した「完全版」として2008年にハヤカワepi文庫からリリースされたものです。
 何が完全版かを先に述べておきます。本作は3部×各7章の21章構成で書かれたものが故国英国ではオリジナルでリリースされていたのだが、初米国版のリリース時に第3部7章(最終章)が削られて発行されてしまったらしいのですね。で、これを底本とした当初の日本語翻訳版も米国版同様の構成になってしまったということのようですな。
 作品は3部構成で明確に分割されている。強盗暴行強姦なんでもアリ反省なしのトンデモないクズ野郎である主人公の少年アレックスの悪辣悪童ぶりが存分に描かれる第一部。殺人の罪でついに警察に逮捕されてからの獄中生活と、政治的なパフォーマンス目的を多分に含んだ人格矯正プログラムを受ける日々の第二部。矯正プログラムによって倫理的に正常な行動以外を選択できなくなったアレックスのその後が描かれる第三部。
 第二部第三部と悲惨な目にあうアレックスだが、第一部でやっていることが悪すぎて同情する気にはならない。また、第三部の最終盤で結局この矯正プログラムは解けてしまうんだよね…。でも、人格矯正されて自分の選択が行えない人間(=Clockwork Orange)であることから逃れるというエンディングはきっと必要だったんだろうとは思う。
 追加された最終章では、手下のようにこき使っていたかつての仲間がロシア語交じりのティーン用語も使わなくなり結婚して所帯を持っているのを目の当たりにしたアレックスが、「若さの終わり」と人生を前に進めるべき時であると自覚するようなエンディングになっている。解説でも触れられている通り、この最終章がないと「おれはしょうきにもどった!」だけで終わってしまって余韻がない感じがしてしまうので、あって良かったんじゃないかな。
 なお、本作は主人公アレックスの一人称視点で進み、先に触れたティーン語がとにかく頻出するので読みにくさを感じると思う。まさしく若者言葉を聞いているようで、ある意味リアルな読みづらさである。が、その言葉遣いそのものが重要なわけではないので、テキトーに飛ばし読みしてしまってそんなに差し支えはないです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 若さでは片づけられないクズっぷりだと思うんだけどなぁ…という。罪に対する罰が不十分に感じられてしまう。

4.どのような人に推奨するか

 裏の書籍紹介には「近未来の高度管理社会…」とあるけど、あんまり近未来感や管理社会的なディストピア感はないです。まぁ人格矯正プログラムやそれを実行する政府というのは、それに当たるとおもうんだけど、それ自体はあまり重要でないというか。人格矯正により人生の選択肢を持つことができない人間ってどうなるんだろう?っていう話です。あと非常に暴力的で犯罪的な描写が多いので、そういった毒の要素にドキドキすることができます。

バリントン・J・ベイリー / ゴッド・ガン

バリントン・J・ベイリー / ゴッド・ガン のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『カエアンの聖衣』が面白かったので、こっちの短編集も手を出して見たよ。

2.内容

 1962年~1996年にかけて発表された日本独自編集の短編集だそうです。2016年にハヤカワ文庫SFからリリースされた、比較的新しい書籍ですね。こういうの出してくれるとありがたいですね。あと表紙がカッコよくてイイですね。やはりSFの表紙はこういう、とりあえずウィトルウィウス的人体図が配されたワケの分からない絵であるべき。1作ずつの解説はしないけど、印象に残ったやつを3編。
 1つは『ロモ―博士の島』。H.G.ウェルズの作品い『モロー博士の島』ってのがあるらしいですね…それはイイとして、自身の性的志向を自由に変動させられる薬があったら…という話。かなり露骨な性描写と皮肉的なお話の転がし方が頭に残ってしまう。近年ジェンダー論はいろんな方向に話が行っているような気がするが、一つの世界として読んでみて欲しいと思える作品(怒る人がいそうな気がするが…)
 2つめは『ブレインレース』かな。大脳に足が取り付けられ、自身の肉体に追いつくために走るというなかなかトンデモない設定。ブラックでコミカル。
 3つ目は『空間の海に帆を掛ける船』かな。上位次元に存在する船が、まるで水上に浮かぶ3次元世界の船の沈んだ部分を水面下かから見ているような形で、下位次元である我々の宇宙空間から見えたら…と言った話。次元が違うので、端っこに手を突っ込んだところで、数十メートルは先にあるはずの向こう側から手が突き出てしまうという…頭に絵が浮かぶ佳作。  結構一発ネタで持っていく人なので、そのネタも妙味が合うか、楽しめるかどうかがカギになってきます。
 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ユーモアが利いた作品の方が好きな感じ。

4.どのような人に推奨するか

 藤子F短編集のような奇想SFが楽しめる作品。各テーマ(というかネタ)も分かりやすく提示されるし、翻訳も読みやすいと思います。高尚さや技術論よりもエンターテインメント性をSFに求める人に推奨いたします。

松本敏治 / 自閉症は津軽弁を話さない 自閉症スペクトラム症のことばの謎を読み解く

松本敏治 / 自閉症津軽弁を話さない 自閉症スペクトラム症のことばの謎を読み解くのレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が最近の話題書として本屋で買ったものを読ませてもらったものです。自分は知りませんでした。

2.内容

 なぜ自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)の子は津軽弁を…乃至放言を喋らないのか、ということに関する研究過程と説明。2017年に単行本として出ていたものが、2020年に角川ソフィア文庫から文庫リリースされた形。文庫化に伴う作者の後書きが付与されている。
 折り返しにある作者の経歴を見て思ったこと。教育支援や心理に関する専門領域で様々な機関で経験を積んでおられるが、著作としてはこれが初めてなのかしら、という感じ。研究過程だからと言えば仕方ないが、序盤は講演会でのアンケート記録などが多くてやや退屈した。
 エッセンスは後半13章~終わりまであたりにあると思う。言語習得の2つの手法。他者のやり取りの中で相手と意思のやり取りをしながら言葉や表現方法を学ぶやり方と、機械的・反復学習的に言葉を学んでいくやり方があるという。ASDの子は他者の意図を推し量ることが苦手であるために、後者による言語習得のケースが増えること。そして、方言はかなり社会的な関係性を求める前者の意図で使われることが多いために、ASDの子は方言を話さないのではないか、という示唆。後者の手法で方言を習得すれば(日常的にテレビ等で触れる言語や文章が方言のみであれば)、機械的学習の元に方言を話すこともあるだろう、ということ。ふむふむ。納得した。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 重要なことは重ねて説明してくれるし、平易な説明ではある。なんとなく読みづらかったけど。

4.どのような人に推奨するか

 内容は面白く納得。読物として見たら、まぁ部分部分をつまみ読みでもいいかな…とか思わなくもない。

三島由紀夫 / 英霊の聲 オリジナル版

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

三島由紀夫 / 英霊の聲 オリジナル版 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『憂国』を読んでいたく感動した私は、二二六事件三部作と呼ばれる作品があると知りました。三島由紀夫って新潮文庫からいっぱい出てるけど、これは河出文庫から出てるんだよね…しばらく見つからなかった。(最近、新潮文庫からも英霊の聲の文庫が出ましたがね)

2.内容

 『英霊の聲』『憂国』『十日の菊』に加え、当時単行本化にあたっての自著解説として『二二六事件と私』が収録されている。当初1966年に河出書房からこの二二六事件三部作という企画で単行本化されたものが、2005年に本文庫でリリースされた。いずれも1960年以降に書かれたわりかし後期の作品と言える。
 『英霊の聲』は二二六時に参加した青年将校らや太平洋戦争の神風特攻隊の青年兵の死後の世界の視点を、『憂国』は二二六事件に参加できなかった青年将校が自刃する際の死に向かう輝きを、『十日の菊』は生き延びた重臣側(将校連中が言うところの「君側の奸」側の人たち)の人生を、と、一つの事件を3つの異なる視点から書いている形。『十日の菊』は喜劇的な戯曲であり、自分に戯曲を読んだ経験が全然ないこともあり、文章で読むとちょっと分かりづらい気がした。『憂国』『英霊の聲』は力強く美しい文に圧倒されます。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 関連する短編を集めた、いい企画本だと思う。タイトルはなんで「英霊の聲」にしたんだろね。

4.どのような人に推奨するか

 新潮文庫の短編集『花盛りの森・憂国』で読むよりこっちのほうがおススメ。解説も含めて読んでほしい。

Leprous / Malina

Malina

Malina

  • アーティスト:Leprous
  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: CD

ノルウェープログレッシブメタル、Leprous / Malinaをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 2015年の『The Congregation』と2016年の『Live at Rockefeller Music Hall』までは持ってて、結構好きだった。最近のprog metal熱に乗じて本作を買ってみた。このバンドを知ったのは、多くの人がそうであるかもしれないがIhsahn人脈としてデス。 

2.内容

 2017年にInside Outからリリースされた5th。プログレメタル度…というかメタル度がさらに大きく下がりました。幽玄な雰囲気とメロディを湛えたEiner Solbergのハイトーンが際立つボーカルラインとコーラスを中心に、バックを固めるひねくれた譜割で引っ掛かりのあるリズム、それとシンクロするテクニカルなギターやシンセサイザー…といった音楽的要素を挙げていくと前作『The Congregation』全然作『Coal』と遠からずのLerous印が刻印された内容されたアイコニックなサウンドではある。
 異なるのは全体のバランスというか配分ですかね。 作品を重ねるごとに個性と魅力が強化されていく歌への偏重が見られる。また、メタリックなディストーションから離れたオルタナちっくなギターサウンドから繰り出されるフレーズは、低音弦の刻みがかなり姿を消し、チャカチャカしたカッティングが良く聞かれるようになった。エレクトロ・シンセサイザーの比率も上がっていて、この辺りが総じてメタル度が下がったと感じる理由です。
 しかし、それが音楽的な魅力の低下を招いているわけではない。もちろんヘヴィメタリックな感触自体に魅力を感じている人にはそこは減退していることになるし、一聴して派手なフレーズはないです。が、Baard Kolstadのドラムスによるリズムの入り組み具合とメロディの充実ぶりは過去イチと言ってもいいでしょう。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 ある意味ダウナーで地味であるが、静かに燃えるような情熱を感じます。好きです。

4.どのような人に推奨するか

 ひねくれたリズムとテクニカルな演奏、ハイトーンボーカルが好きで、典型的なメタルサウンドでなくても楽しめる方にはおススメ。Pain of Salvationの『Panther』は、似てはいないけれど近い感覚だなぁ。

Leprous / The Congregation

The Congregation

The Congregation

  • 発売日: 2015/06/05
  • メディア: MP3 ダウンロード

ノルウェープログレッシブメタル、Leprous / The Congregationをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 初めて買ったLeprousです。最初に知ったのはIhsahnあるいはEmperorのバックバンドとしての彼です。なんかIhsahnの義理の弟らしいね。 

2.内容

 2015年にInside Outからリリースされた4th。このバンドは首魁の2人であるEiner Solbergと、Tor Suhrke以外のメンバーは結構変わってるみたいなんだけど、彼らが音楽の核なのでそんなに気にならない。が、本作で加入したBaard Kolstaadくんは触れておく価値がある。ノルウェーブラックメタル人脈でも活躍するドラマーで、本作では繊細で複雑なフレーズを難なく叩き出すし、変則拍子によるリズムとギターのシンクロナイズに様々な彩りを加えている。Opethが如くリフの反復が多く、ある種の地味さがある音楽性だとは思うんだけど、そこに聞いているだけで楽しいドラムがいるってのは素晴らしいことだと思います。
 低音ギターやミュートギターによるギターリフとリズムのシンクロ、カウント不可能な拍子、ダウナーでモノクロームな雰囲気、Einerによって朗々とハイトーンで歌い上げられる雄大なメロディ。初期作はざらついたメタリックなギターリフやデスヴォイスもあったようなんだけど、本作ではそういった要素は全く姿を消していてる。やっぱEinerの歌がうまくなったからなんですかねぇ…。おかげで類型的なプログレメタルっぽさが薄れ、シンプルにLeprousっぽいなぁーとしか言えない音楽になった気がする。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 ここから入るもよし。バランスの取れた良作。

4.どのような人に推奨するか

 作品を重ねるごとにメタルファン向けではなくなっていく気がするこのバンドだが、ここまではまだ大丈夫。まだヘヴィです。個性の確立された作品という意味では前作『Coal』か本作をまず聞いていただき、ヘヴィメタルな方向性がお気に召した方は初期作に戻る、リズムとボーカルに魅力を感じた方は次作以降を聞く、というのが良いと思います。

アイザック・アシモフ / われはロボット [決定版]

アイザック・アシモフ / われはロボット [決定版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 アジモフ(ホントは「ジ」らしい)も読んだことなかったんだよね。本当は長編を読みたかったんだけど、好評な本作を最初に手に取ってみたのでした。 

2.内容

 1940~50年頃に書かれた連作的な短編小説を『I, Robot』としてまとめて1950年に発表された作品です。小尾芙佐さんの翻訳です。1983年にハヤカワ文庫からリリースされたものに手を加えて2004年に再版された決定版ということです。
 ロボット工学三原則の提示、それに反するロボットの行動とその謎を解き明かす、1編1編がちょっとしたミステリー的な要素を持つ短編集。そのロボット工学三原則がこれです。

  • ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  • ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第一条に反する場合はこの限りではない。
  • ロボットは前掲第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

-ロボット工学ハンドブック 第56版 西暦2056年。

…どうでしょう。というかそもそもの話として、この三原則ってアシモフがフィクションの世界で掲げたものだったんですね。てっきり現実的なロボット開発の話かと思ってた。それくらい納得感のある三原則であるし、実際のロボット開発でも須らく当てはまる内容なんだろーなーと本作を読むと思わされる。
 作中を通じてロボット開発はどんどん進化していき、「人間性」のようなものを獲得していくのだが、そこでもロボット工学三原則に絡んだ危険性が示唆される。というか危険性と呼ぶべきなのかどうかも分からないが…人前で食事や睡眠を取らない政治家がいたとして、それがロボットだと見分ける方法があるのだろうか。ロボットは第一条により人を傷つけることができないために、「私を殴れ」と命令されてもこれを遂行できない。しかし、人を殴れないことは、その者がロボットであることを証明しない。ロボット三原則は広く解釈すれば結局人間の倫理規範そのものであり、これを守ることが望ましくこそあれ、ロボットである(あるいは人間である)ことを規定するものではないのだ。
 …みたいな。いやーイイですね。思索が楽しい。
 一方で、 エンターテインメントとしてもしっかりと面白い。名作たる所以かと思います。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 分かりやすくも示唆に富み、知的好奇心を満たす。それでいて読んでいて面白いという名著。

4.どのような人に推奨するか

 ロボット工学三原則に興味を惹かれる人。あるいはゲーム等のSF世界におけるロボットの位置づけから本作に入るのもありですね。例えば『ロックマン』シリーズと照らし合わせて考えてみるのも面白いと思います。まあSF古典の本当に名作なので、皆読もう。

Caligula's Horse / Rise Radiant

Rise Radiant -Ltd/Digi-

Rise Radiant -Ltd/Digi-

オーストラリアのプログレッシブメタル、Caligura's Horse / Rise Radiantをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 ぜーんぜん知らなかったんだけど、Inside OutのYoutubeチャンネルで出てきたのを聞いたところ、これが刺さった。2020年現在の最新作である本作を買ってみたよ。

2.内容

 前作4thから3年空いて2020年にInside Outからリリースされた5thフル。本作で初めてWard Recordsから日本盤が出た。Avalonじゃないんですねー。8曲47分のアルバムに、2曲のカバー、1曲のライブトラックを追加した内容です。カバー2曲までは輸入盤でも入っているみたいなので、日本盤のメリットは解説・対訳・ライブトラック1曲ということになります。私はこのバンド初めてということもあり、またお布施の意味も込めて日本盤を買った。メンバーが途中入れ替わりがあったようだけど、中心人物と思われるJim GreyとSam Vallenは健在。  さてさて初めてこのバンドを聞くわけですが、これは大変素晴らしいですね。音楽的な類似性を求めるとやっぱりLeprousやHakenが一番に挙がるかな。それにちょっとのPain of SalvationOpeth味、あと雄大なメロディにBorknagarやWinterfyllethのようなネイチャーブラックメタル的な雰囲気も感じ取りました。先に挙げたバンドとの違いは、ジャケットからも感じられるようなポジティブで明るいムードが漂っていることかな。
 ひねくれた譜割りと拍子でドラム・ギター・ベースがシンクロする演奏に、瑞々しいキーボードやアコースティックギターが交わり、広大なサウンドスケープを演出します。ボーカルは裏声を多用しながら朗々と歌い上げるタイプでLeprousのEinar Solbergくんとの類似性を指摘したくなるが、こちらの方が柔らかくいい意味でポップな感じがします。雄大で美しく郷愁的なメロディーに溢れたこのバンドには、この歌い方のほうが合っているね。とにかくボーカルもギターも美しいメロディーを遠慮なく連発してきます。それでいてテクニック厨も満足する楽曲構成にプレイアビリティまで見せてくれるんだから、もう完璧ですね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは本当に良いね。感動した。ジャケットもいいよね。

4.どのような人に推奨するか

 いろんなバンドのイイトコ取りみたいなバンドです。美しく雄大なメロディと、複雑てテクニカルな演奏を含んだ抒情プログレメタル派に超おススメ。重要度は明らかにメロディ>テクニックなので、バカテク博覧会をお求めの方には非推奨。

アーサー・C・クラーク / 楽園の泉

楽園の泉

楽園の泉

アーサー・C・クラーク / 楽園の泉 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 先日『幼年期の終わり』を読了し、そのスケールの大きさとリアリスティックな描写に感心してしまったので、続いてこちらを手に取ってみた。次に手に取る作品に困ってたんだけど、小川一水セレクト「新時代に読むべきSF」とか帯タタキが言ってたので、これにしたよ。 

2.内容

 原作は1979年、翻訳は山高昭さん。翻訳が比較的新しめだからか、新版は出ていない模様です。元の文庫は1987年に出ており、こちらは装丁も新たに2006年に再発行されたものです。作者の作品の中では結構後期のラインナップにあたりますね。
 ストーリー自体は、一言でいえば軌道エレベーター…宇宙上の人工衛星から地球表面にケーブルを下ろして、直接アクセス可能なエレベーターを建造しようとする技術者の話です。序盤は現在と過去をいったりきたりする話に少々混乱した。軌道エレベーターの地表側の建設ポイントであるスリランカを訪れる主人公の話が現代、そのスリランカにかつて栄えた王朝と寺院の時代について書かれているのが過去です。
 中盤から具体的な建設方法や技術の話が出てくると、俄然ワクワク感が増す。素晴らしいのは、具体的な建設方法とその技術的な説明、費用の捻出、懸念点や他者や世論の反対、利害関係、イレギュラーな障害など、ものづくりに関する諸要素が物語にリアリティを与えている点。そういった説明のひとつひとつが非常に「もっともらしさ」を齎す。作中で指摘されているように、軌道エレベーターは地表から見ればまさしく天まで向かって伸びる塔である。それが倒れてくるかもしれない恐怖、高所への恐怖などの指摘は一般人の感覚からすると至極真っ当に思えた。あと、本作では他著や新聞・講演からの引用といった形式で表現される箇所が結構あるんだけど、これもまた虚実混ざっていて絶妙に騙される。薬剤投与で異教徒への改宗が出来るって、一瞬信じてしまったよ…
 作者後書きと、金子隆一さんの解説もとても良かったです。多分どの版でも付いてくるんだと思うけど、セットで読んだ方がイイ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』のようなクソデカスケールの話とはまた違った方向性ではあるが、良いよー。

4.どのような人に推奨するか

 何かしらものづくり経験のある人、宗教・哲学・科学技術に興味ある人におススメ。『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』でクラークに入った人が読んでも損はしないし、あるいは最初に読んでもいいかもしれない。

Andromeda / Manifest Tyranny

Manifest Tyranny

Manifest Tyranny

  • 発売日: 2019/02/04
  • メディア: MP3 ダウンロード

スウェーデンプログレッシブメタル、Andromeda / Manifest Tyrannyをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近プログレメタルのマイブーム中につき購入。中古を全く見かけないので、ちゃーんと新品で購入したぞ。

2.内容

 前作4thから3年で2011年にリリースされた5thフル。メンバーに変更はない模様。Inner Wound Recordingsってどこなんや…
 音楽性は2nd以降のリフとボーカル中心のヘヴィなプログレメタルで大勢に変化はない…ものの、なぜかこの作品はめっちゃ好印象なのです。ポイントは2点。1点はメロディーの強化で、重層的なコーラスワークを持った歌メロは前作までに比べて大幅に強化されている。また、ギターやシンセサイザーのリードフレーズが印象的なメロディーを持ちつつもテクニカル・メカニカルなAndromeda節が効いているように思う。もう1点は、エレクトロサウンドの導入によるサウンドトラックのような雰囲気の変化が味付けされている点。全体を通じて、音に広がりが出ています。
 ヘヴィでハイスピードな#1 "Preempive Strike"は序曲的な位置づけで、#2 "Lies 'r' Us"が実質の1曲目。基本的に前作まで譲りのミドルテンポでゆったりとした曲調なんだけど、歌メロとメリハリのある演奏を持つ地味な佳曲。#3 "Saty Unware"は短型波っぽいリードメロディとオルガンのリード、跳ねるようなリズムが印象的です。#4 "Survival of The Richest"は、歌い上げるボーカル中心の楽曲で、Davidくんの唄で感動したのは初めて。#5 "False Flag"もエレクトロというかファミコンチックな電子音から導かれて様々な展開と複雑な演奏を見せるthe プログレメタルな9分半の良曲。#7 "Asylum"、#9 "Go Back To Sleep"も似たような感触を持ちます。スローで雄大なパワーバラード風のサウンドに引っ掛かりのあるスリープビートやスピーチが被さる#6 "Chosen By God"、メリハリが効いていて、スピーディーで切れ味のあるメタリックなリフがカッコイイ#8 "Play Dead"ではブラストビートすら飛び出す。静謐なピアノパートとエキゾチックなフレーズが頭に残る#10 "Antidote"は、ラストの目の前が開けるようなソロの掛け合いとコーラスで幕を閉じる。  サウンドも適度なオーガニックさのあるクリアサウンドで、いいんじゃないでしょうか。ちょっと前作は安っぽかった気がするしね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 2nd以降の方向性ではトップクラスに出来がいい。素晴らしい。

4.どのような人に推奨するか

 2nd以降の方向性では、5th > 2nd > 3rd/4thといった所で、多分これまでで一番いい。初心者はまずはこれを買うといいよ。1stは別物カウントなので、1stとこの5thを買うとAndromedaというバンドは結構わかると言えるのではないかな。

Andromeda / The Immunity Zone

The Immunity Zone

The Immunity Zone

  • 発売日: 2008/09/18
  • メディア: MP3 ダウンロード

スウェーデンプログレッシブメタル、Andromeda / The Immunity Zoneをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近プログレメタルのマイブーム中につき購入。

2.内容

 前作3rd『Chimera』に続き、約2年のスパンで2008年にリリースされた4thフル。メンバーに変更はない模様。方向性は2nd~3rdの延長で、煌びやかなギターメロでよりもヘヴィなリフ中心の歌モノプログレメタル。なんかもっと地味になってないすか?1曲目から変拍子は盛りだくさんでひっくり返るようなリズムはいいんだけど、煮え切らない感がある。#4 "Censoring Truth"みたいなポヤポヤしたシンセサイザーをもっと聞きたいですね。#7 "Another Step"はハイテンションでメロディアスな佳曲だったりするし、本作のラストを飾る17分の大作 #9 "Veil of Illimination"は1stっぽいアグレッシブで複雑なAndromeda聞けたりして嬉しい。これが一番いいんじゃないすかね?なんというか、後半に結構良くできた楽曲が固まっているのに、前半の印象で損しているというか…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 どうかな、3rdと同じくらいの印象かな。

4.どのような人に推奨するか

 北欧的透明感のある歌モノプログレメタルが好きな方に。まぁ3rdの延長です。

Riverside / Wasteland

Wasteland

Wasteland

  • アーティスト:Riverside
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: CD

ポーランドプログレッシブメタル、Riverside / Wastelandをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Pain of Salvationの新作(Panther)を買ってから、ダウナーなプログレメタルブームが来てるんですよね。そこでこのバンドの目下最新作であるところの本作品を買ってみたよ。

2.内容

 2018年、この手の音楽がお得意のInside Out Recordsからリリース。デビュー時からずっと一緒にやってきた盟友Pitorが2016年に心不全で若くして亡くなってしまったとのことだが、残されたメンバーで制作した7枚目のフルアルバムがこちら。

 まずまともにこのバンドを聞くのは、1st『Out of Myself』2nd『Second Life Syndrome』以来の久しぶりということになるのだが、音楽的な特徴としては郷愁感ある幽玄なメロディとコーラス、変拍子を絡めたロックサウンドをベースにアコースティックギターの多用とピアノ・電子音を様々に組み合わせたアレンジ、まるでバイオリンかのような美しいトーンによる情感的なギターソロなどがあると思っていて、その点は変わりがありませんね。プログレ化した『Pale Communion』以降のOpethにかなり感触が近いのではないかと思います。リードボーカルの声質も似ているような。あんまりメタルって感じがしないところも一緒だね。  さて、Opethの方は生粋のプログレというか、結構ホラーだったりサイケデリックっぽい要素が出ていると思うのですが、こちらのRiversideはそういった要素は殆どなくて、あくまで美しいメロディラインが中心になっているというのがポイントではないかと思いますね。憂鬱でダウナーではあり、アップテンポな曲は全然ないのだけれど、優しく美しい楽曲が染み入ります。ギターリフもシンプルながら印象に残るものが多いです。そこがイイよね。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 途中の作品聞いてないからあれだけど、これ結構過去最高傑作なんじゃないの?とにかくメロディがいいよ。かなりリピートしてます。

4.どのような人に推奨するか

 憂鬱で美しいボーカルメロディ、変拍子とそこそこのヘヴィギター、情熱的なギターソロ…この辺の要素を完璧に備えた素晴らしい作品。メタルさやテクニカルさに期待するとちょっと違うが、そうでなければ激おススメ。Opethに加え、Porcupine TreeやPain of Salvation的な感触もあると思いますよ。

三島由紀夫 / 女神

女神 (新潮文庫)

女神 (新潮文庫)

三島由紀夫 / 女神 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の本棚から持ち出したシリーズです。

2.内容

 昭和53年だから…1976年か。1976年に新潮文庫から文庫リリースされた短編集。おおよそ著者の初期の活動に属する昭和20年代の作品が収録されている。三島由紀夫の年齢は基本的に昭和の年号と一致するからね。
 全体的に様々な形での愛が表現されている。本作のページ数の半分を占める中編『女神』は、美人の妻が火傷によってその美貌を失い、関心を失った夫は娘を代償品として美しく育てることに腐心し、その娘にふさわしき名家の男を引き合わせるも娘は奇矯な画家の男に魅かれ、一方で画家の男は妻と関係を持ち…。美と愛と、あと嫉妬を中心に広がっていく作品でございました。
 その他は数ページから数十ページの短編が10編。印象に残ったものとしては、夫を亡くした未亡人と青年の出会いを描く『侍童』は、この未亡人の奥さんがいい感じ。三島の書く美人はなんと影があっていいね、好きやね…。ちょっとホラー味のある『鴛鴦(エンオウ)』も印象的。仲良し夫婦の例えに用いられるオシドリのことです。そして1つだけ書かれた時代が異なりアラフィフの美しき情欲を描く『朝の純愛』は、円熟した生々しい人間表現に後期っぽさを感じる。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 基本的にはLoveの話だな。好きな話は好きだが。テーマ的にも『朝の純愛』が強烈で、後期の方が私は好きなのかもしれないなあ。

4.どのような人に推奨するか

 確かになんとなく、初期の作品集だなって感じがします。三島作品を読むとして、まぁ割と後回しでもいいような気がしました。