めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

宮口幸治 / ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治 / ケーキの切れない非行少年たち のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 2020年新書大賞第2位とのことで本屋でもプッシュされていて、よく見かけた。たまにはこういう本も読んで見識を広げようと思って。新書と同サイズの真っ赤な帯はなかなか目を引くインパクトがある。

2.内容

 2019年に新潮新書からのリリース。作者は児童精神科医としての勤務経験から様々な支援活動をしており、本書の執筆もその1つ。なるほどと思った点。思考ができず「反省させようにも、何が反省することなのかわからない(理解させることができない)」というハードル。この状態は少年院での刑期や更生プログラムはただただ彼らを素通りするだけで何の効果もないので、まずはそこを「認知させる」ことが重要であると。なるほど。さてそうなる原因はというと、「認知機能」「感情統制」「融通」「自己評価」「対人スキル」に問題があることが多く、学校でいじめられていたような所謂「優しい子」が非行に走る傾向を指摘する。卵が先か鶏が先か…だが、学校等での集団生活でそういった機能に問題が生じる(いじめ等により生じさせられる)こともあると思うのだが、「いじめをやめさせること」が主題ではないので、そこへの追求は特にない。「うちの息子をいじめたのだから、その報復をされるのは当然だ」と主張する親御さんが悪い例のように紹介されているが、それはちょっとイヤだったかな。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 確かに面白い。本としては、結構同じようなことを手を変え品を変え書いている感じがする。

4.どのような人に推奨するか

 犯罪心理・少年犯罪等に問題意識を持っている方、あるいはそういった心療内科領域に興味がある人。

体験記:超写実絵画の襲来(Bunkamuraミュージアム)

Bunkamuraミュージアムの「超写実絵画の襲来」展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 緊急事態宣言が解除され、美術館も再開され始めたので、なんかしら行きたかったんだよね。そんな時に探していて目についたのがこの写実絵画でした。会期も6月末までだし、せっかくだし行っておこうと。

2.内容

 先に美術館に入るまでを述べておくと、ビル側・美術館側の感染防止に余念がなかった。フェイスガード+マスクをした受付員がソーシャルディスタンスを守った行列案内をし、各人の体温を測り、住所・連絡先を書かせる。面倒だけど仕方ないね。土曜朝イチだったのでそこまで混んでなかったけど、それでも開館前にそこそこ並ぶ程度には人がいたので。
 基本的には千葉県にある写実絵画専門美術館「ホキ美術館」の所蔵作品からの展示。ホキ美術館ってどこの国にあるんだ?と思ってたけど、保木さんの美術館ということなのね…。写実的で美しい絵画がたくさん並ぶ。一口に写実と言っても、よく見れば絵だなというものから、どこまで細部を見ていっても全然絵に見えない恐ろしい精密さのものまであるが、観察力・集中力・色彩感覚の鋭敏さはどの作品からもつよく感じられる。「よく見れば絵」「全く絵に見えない」はどっちがイイとかワルイとかはない。結局自分の目をフィルタして出力しているわけだし、その構図を切りとるのは自分なわけだから、作者の個性はどうしたって出ていると思う。「よく見れば絵」のパターンはwebや画集で見ていては分からないであろう細部の塗りや描き方が、ある程度の距離から集合的に鑑賞した時にものすごく写実的に見えるという、目の錯覚のような感覚を味わえた。
 1点残念なのは、仕方ないとは言えその製作技法。やっぱり写真を撮ってそれを参考にしながら書いたりするんですよ。でも写真は撮った時点で自分の目ではなくカメラの目を通した絵になってしまうはずだし、色も焦点もカメラに依存したものになってしまうのではないかと。まぁあくまで自分の目で見たものを表現することが大前提になっていると思うし、制作に年単位でかかると聞いたからそれも止む無しとも思ったけど、それでもやはりモヤっとしますわね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これまでで一番絵の細部を近くで覗き込んだかもしれない。結界が弱めだったのもあり、見やすかった。

4.どのような人に推奨するか

 「写真じゃん」と思っている人ほど行った方がいいかもしれないです。やはり「絵」なんだな。

Ex.ギャラリー

入ってすぐのとこ

f:id:metal-metal-slime:20200622112437j:plain

唯一の撮影可能作品

f:id:metal-metal-slime:20200622112442j:plain

レイ・ブラッドベリ / 華氏451度 [新訳版]

華氏451度〔新訳版〕

華氏451度〔新訳版〕

レイ・ブラッドベリ / 華氏451度 [新訳版] のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 タイトルがと表紙がカッコイイからです。SFはこれよ。

2.内容

 2014年にハヤカワ文庫(SF)から出版された新訳版。旧訳に比べて新訳では分量が3/4程度にスリム化されているらしい。300ページ足らずのサイズ感で、文庫本を手に取った時も他SFに比較して薄めの感触。華氏451度は本が燃える温度≒摂氏233度くらい。原作は1953年。本の所持が禁じられ焚書が根付いたディストピア世界でファイアマン=昇火士としてごく当たり前に働いていた主人公が、少しずつ目が開かれ少しずつ世界に反抗していく。その中で自分の家も焼かれることになってしまうわけだが…むしろそこからの展開と反抗勢力との合流・知識への希望が本作の最もスペクタクルなパートである。序盤の思わせぶりな美少女は後半で重要な活躍をする…かと思いきや特に出番がない。なんだったんや…。テクノロジー的な面はあまり強調されないが、焚書世界で生きる人たちの考え方がよく描写されている。一言でいえば「何も考えない」人間になっている。政治的・教育的なテーマだなぁ。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 良かった。

4.どのような人に推奨するか

 焚書という要素がSFでありつつも現実的で政治的な作品にしている。短めなので、SF初心者にも。

今村晶弘 / 屍人荘の殺人

今村晶弘 / 屍人荘の殺人 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ジャンプ+でコミック版が連載中でぼんやり読んでいたのだが、先が気になるので原作を読んでしまうことにした。

2.内容

 2017年に第27回鮎川哲也賞を受賞したミステリー小説での作者デビュー作。先に漫画を見ていたことに加え、キャラクターの命名規則が分かりやすい(説明もある)、館自体もシンプル(綾辻氏の館シリーズのようなトンデモ館ではない)とあって、掴みは分かりやすい。タイトルで大体バレているような気もするが一応答えは書かないことにするが、そのフィクション設定はフィクションなりに一定のルールが提示されており、舞台装置として十分な整合性を持って機能している。リアルであることとリアリティは異なる概念なわけだが、この作品は、事件の範囲内においては後者のリアリティに説得力を持たせるようにちゃんと書いていると思う(ここで自分が言っている説得力というのは、るろうに剣心の「二重の極み」のように「それっぽい理屈があってそれがその作品のルールである」というようなものですが)。探偵役・助手役も先人のミステリ作品群を踏まえたメタ的な要素を持ち合わせつつ、よいキャラクターとして描けていると思う。文章力もあって可読性に優れていると感じた。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは面白い。2作目読みたいンゴね。

4.どのような人に推奨するか

 ミステリー好きは是非読むといいよ。現実に即した設定でないとダメな人(そんな人いるのか?)には推奨しない、くらい。あと、漫画版とは描写が違う(というか流石に情報量が違いすぎる)ので、漫画の方が好きなら原作読んで損はしない。

ドストエフスキー / 賭博者

賭博者 (新潮文庫)

賭博者 (新潮文庫)

ドストエフスキー / 賭博者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ドストエフスキーは面白いという点と、こち亀両さんの愛読書だからです(両さんが読書にハマる話)。

2.内容

 原作は1866年ですか…。新潮文庫で、原卓也さんの翻訳です。ほぼドストエフスキーの実体験に基づいているというのがとんでもない話だが、賭博に取り憑かれていく過程とその描写が読んでてゾクゾクする。主人公アレクセイはドストエフスキーっぽい皮肉っぽくて斜に構えたよくわからないやつという印象だが、それ以上に中盤で存在感を放つのがお金持ちのおばあちゃん。最初は観光程度の気分だったのだと思うが、最初に「ゼロ」一点張りで賭け続けて大勝したのがまずかった。全持ち金叩いて郷里に帰ろうと準備した矢先、やっぱり負け分を取り返そう思いなおし、やめときゃいいのに賭場に向かってしまうおばあちゃんはまたもぼろ負け(しかもギャラリーのポーランド人に好き放題されている)。ただ、おばあちゃんは資産家で家に帰ればまだお金があるようだし、おそらく郷里に帰ればもう賭けなんかしない気がするんだが、主人公は違う。各地を転々としながら延々と賭けの求め続けていくんだろう。最初はただ女の子の頼みでお金をちょっと増やそうとしてルーレットに手を出しただけのはずだったんだが。 『祖国や友人たちから遠く離れたよその国で…最後の一グルデンを、それこそ本当に最後の一グルデンを賭ける、その感覚には何か一種特別のものがある!』。これを見て「あぁこいつはあかんやつや…」と思ったね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 人間関係(恋愛)パートがちょっと冗長に思ったが、賭博の心情と描写は素晴らしい。

4.どのような人に推奨するか

 ロシア文学っぽい。賭けが好き、もっというと「賭けで身を亡ぼす話が好き」ならおススメ。カイジかな?

ドナルドキーン / 思い出の作家たち

ドナルドキーン / 思い出の作家たち のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 タイトル買いというかコンセプト買い。谷崎・川端・三島・安部・司馬の5人をキーン先生が語るというのだから…。

2.内容

 作品自体は2006年頃に発行された新潮文庫だが、これまでに雑誌などに寄稿されたいくつかの紹介文などを統合した決定稿ということならしい。ドナルドキーン先生が自身と谷崎・川端・三島・安部・司馬の5人との出会いや関わり、作品への思い入れを語るというエッセイ集。谷崎・川端は年齢差の関係もあろうか、やや距離を置いた作品評に近い書き方なのに対して、残り3人はより近い距離感での関係性も語られる。各作品は結構しっかり解説してくれるので、未読の作品を手に取ってみたくなる。ジープの揺れる後部座席で『細雪』をむさぼり読んで感動するところが好きだ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 作者の人となりや作品への思いなどが見えてくるのが良い。記録的な意味合いでも価値あるエッセイだと思います。

4.どのような人に推奨するか

 日本文学/文学評論好き向けかな。表題の5作家に興味がある方なら読んでみてもいいのではないかしら。

プーシキン / スペードのクイーン・ベールキン物語

プーシキン / スペードのクイーン・ベールキン物語 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の本棚から。最近買ってたやつ。直接のきっかけはQuizKnockで『スペードのクイーン』が出てきたからかな?

2.内容

 18世紀ロシアの文学者、プーシキンによる短編集。2015年光文社古典新訳文庫から、望月哲夫さん訳で発刊された。作者本人も相当な賭博キチだったこと、『寝取られ騎士』の汚名を返上すべく血統を挑むが敗れて37歳で亡くなったことなどを加味して読むとより面白い。やや幻想/ファンタジーを含んだ寓話的な小品散文小説集。『スペードのクイーン』で必ず賭けに勝つ魔法のカードをおばあちゃんがヴィジェ=ルブランに書いてもらった絵を持ってたりして、あぁ同時代人かぁと別の角度で感心したりした。皮肉的でアンハッピーなストーリーがいい感じ。『ベールキン物語』はなぜベールキン氏という架空の人物に語らせたのか不思議だが、中身は一つ一つが訓話めいていて、それでいてやや喜劇的だったり悲劇的だったりの方向付けが為されている。『百姓貴族』なんてわかりやすく喜劇的だね。光文社古典新訳によくある豊富な解説(60ページほどある)は作品背景を知るうえで有用だが、「スペードのクイーンで勝ち札がなぜ3-7-Aなのか」だったりの下りに結構な分量が割かれている。そんなに考察しがいがあるんかこれは…

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 まぁまぁ。

4.どのような人に推奨するか

 ロシア文学好きというか、ドストエフスキーが読める人なら。あれよりもっとカジュアルでポップだと思うが、やっぱり皮肉的な雰囲気はあるよな。

朝井リョウ / 何者

何者(新潮文庫)

何者(新潮文庫)

朝井リョウ / 何者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋でエッセイを立ち読みして、面白い文を書く人だと思った。そのエッセイを買わずに、こちらを買ってみた。

2.内容

 2013年に直木賞を受賞した作品の新潮文庫版。執筆当時23歳くらいじゃない?うーん若い。そんな年代らしくテーマは就職活動とSNSの表裏/虚実(どー見てもTwitter)。作中の登場人物の一人は就職活動でOB訪問を繰り返しまくったり、名刺(大学生なのに…)を作ったりで自分を飾り、それでいて自分語りに過ぎる性格でグループワークや面接に受からず空回り。あなた(読者)はそんな子のことを冷笑するだろうか?主人公は冷笑する。基本的に主人公の一人称で書かれていることもあり、その点で主人公と読者はシンクロする部分があると思うが、その姿勢は物語後半で確実に刺されることになる。そこが本編の最高潮だと思った。自分はTwitterで裏垢を作ろうとは全然思わんし、自分自身で語れることしか発信しないつもりであるので、その点は共感しないがね。2013年ではあるけど、あぁこれがコンテンポラリーな小説なんだなぁと思った。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 スピード感のある文章と、後半で心を抉る描写を評価。

4.どのような人に推奨するか

 SNS時代を生きる学生向け。リクナビマイナビに侵された退屈な就活経験者には特にくるものがあるのでは。

ロバート・A・ハインライン / 月は無慈悲な夜の女王

ロバート・A・ハインライン / 月は無慈悲な夜の女王 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 『夏への扉』に続く2作目、アメリカ3大SF作家へのチャレンジ。

2.内容

 まぁとりあえずタイトルがクソカッコいいよな。現代は『The Moon is a Harsh Mistress』で割と直訳なわけだが、語呂が良すぎる。原作は1966年で、1976年にハヤカワ文庫より発売されたらしい(この版自体は2010年)。こちらは月が植民地と言うか、どうも流刑地のような扱いで、数少ない(と言っても300万人いる)月世界人たちが地球人の管理化で暮らしている。そんな中で、技師のマニーと自律するスーパーコンピューターのマイクくんが地球世界に反旗を翻す。このマイク君がユーモラスでありながらも、特に情報戦において通信/情報の改ざんはお手の物と、めちゃくちゃに強い。一方でコミュニケートが電話機ベースだったり入出力が紙ベースだったりするところが現代からすると不思議だが、SF作家は特にこの点を進化するものとは考えなかったようである。月の独立記念日アメリカ独立(1776.7.4)の300年後だったりするのもアメリカンな感じがする。700弱のページ数には圧倒されるが、登場人物は多くないし、話の筋も難しいことはないので、まぁのったり読むといいね。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 『夏への扉』は結構ラブロマンスな側面があったんだけど、こちらは基本的に恋愛要素のないハードボイルドな世界観で、それがいい。コンピュータ マイク君とのとの友情もいい感じ。

4.どのような人に推奨するか

 コンピュータサイエンス、月の独立戦争と言ったキーワードで面白そうと思う方。かなりの長編なので、もう少し短い作品でSFを読みなれてからの方がいいのかもしれない。

Bloodred Hourglass / Heal

フィンランドメロディックデスメタルバンドBloodred Hourglass / Heal をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 久しぶりにディスクユニオンに行ったらなんか欲しくて。名前聞いたことあり且つやや興味のあったこのバンドを買ってみた。

2.内容

 2017年、手持ちは日本盤でward recordsからのリリース。2曲のボーナストラックと対訳解説付き日本盤で1,800円は安いよねぇ。Wardさんエライ。久しくメロディックデスは買っていないが、フィンランドのメロディックデスと言えばChildren of BodomやKalmahなんかが思い浮かぶわけだが、クラシカルな旋律が舞い踊るハイテンションなメロデスではなく異なり、かなりリフオリエンテッドな楽曲づくり。メロディは比較的ゆったりと流れ、リフ及び曲の構成要素の1つに収まっているといったところ。帯には「疾走するドラムにスラッシーなギターリフ」とあるが、ミドルテンポでどっしりと構えたリズムの曲が結構ありますので、想定したメロデスものとはちょっと違った。悪く言えば地味。どちらかと言えば、Borknagarとかのエピックなメタルがややノリが良くなった、くらいの感触で聞くといいかもしれませんな。クサメロ派には物足りないかもしれないが、そんな中#7 Times We Hadは疾走&トレモロリフの前のめりなメロディックデスをやっていて、なかなか良い。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 地味かもだけど、結構好き。これくらいのメロディ感がイイのかもしれん。

4.どのような人に推奨するか

 Children of BodomDark Tranquillityでいえば初期ではなく後期作品に近い、リフ中心+ミドル主体のメロディックデスです。好きな方に。

三浦しをん / 舟を編む

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

三浦しをん / 舟を編む のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 巷で評価されている本を読んでみようの巻。デビュー作の『格闘するものに○』は読んだ。

2.内容

 女性誌(Classy)に連載されていたものが単行本となり、2012年の本屋大賞を受賞した。本作は光文社文庫からの文庫リリース。「辞書を編纂する物語」というテーマに魅かれた部分は大きい。辞書作りパートや言葉の定義を説明するパート、教授から出てきた西行の説明を直しちゃうパートなんかはとても良かった。尖った才能を持つ変人でありながら、それを仕事で認められ、偶然をきっかけにして美人の妻まで得てしまう主人公のマジメくんは正直鼻もちならん。この恋愛パートの甘ったるさよ…。仕事面では、本気になれないことに悩む西岡や、他部署からの異動でスキルとやる気のギャップを感じる岸辺の方がよほど共感できる。各章で視点が入れ替わり、そういう子たちをちゃんと書いてくれるのは好印象だし、みんな報われる瞬間が合って良かったねと思う。みんなマジメくんに感化されて幸せENDみたいなのはどうかなーとも思うが、まぁそういう幸せなお話でもいいんじゃないでしょうか。キャラが立ったメンバーによる、緩めの山あり谷あり奮闘記。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 辞書作りパートは面白いし、文章表現も良い。後はキャラクターが合うか次第かな。自分はサブキャラが好き。

4.どのような人に推奨するか

 言葉・日本語が好きな人全般、仕事・恋愛テーマの作品でもOKな人。

津村記久子 / ポトスライムの船

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

津村記久子 / ポトスライムの船 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 芥川賞ということで名前は存じておった。偶々本屋で目に入ったので、読んでみたよ。本ブログのタイトル元ネタだよ。

2.内容

 2009年の芥川賞受賞作。本書は『ポトスライムの船』『十二月の窓辺』の2中編を含む講談社文庫版。400円って安。『ポトスライムの船』って、ポトス/ライムだったんやな…ポト/スライムだと思ってたよ(あほ)。時間を切り売りして特に目的もなく働く主人公が世界一周旅行=年収を貯めてやろうと思うところから始まる話。なんというか、お金を貯める日々で特筆すべきことが発生しない。いや、本人が倒れたりする事件はあるんだけど、それすら淡々と描かれる感じ。『十二月の窓辺』は作者の実体験が入ってるのか、職場でお局に罵倒される主人公が不憫でツラい…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 うーん、あんまり良さが分からず。解説では文学的な技巧の高さが際立っているとのことだが、素人には何とも。

4.どのような人に推奨するか

 作者は会社勤めをしながら書いていたこともあり、2作とも会社が舞台。どちらかと言えば、会社勤めで働く人にフィットするのではないかな。

吉本ばなな / キッチン

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

吉本ばなな / キッチン のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦によるPart2。『TSUGUMI』の後にこっちを読んでいる。

2.内容

 原作は1987年…生まれた頃だなぁ。めちゃくちゃ売れたらしいですね。手持ちは新潮文庫。本作はキッチン・キッチン2の2編と別短編Moonlight Shadowから成っている。
 『TSUGUMI』同様にテーマには死の影がある。こちらはより直接的に死者が主人公たちの人生を変えてしまうわけだが…。祖母を亡くし天涯孤独となった主人公みかげが、なんやかんやあって同大学に通う雄一と同居する(もともとお母さんとの二人暮らしなので、三人暮らしになる)という展開。キッチン2ではそのお母さんも亡くなってしまい、いよいよ失意の深まる2人はそれでも恋仲というわけでもなく、一方で周りから見れば恋仲でもないのに同居しているという点を奇異の目で見られることになる。雄一を好きな後輩がみかげに突撃するあたりの修羅場感はなかなか。表現力が良かった。あと、おいしいカツ丼を食べたくなる効果がありますね。Moonlight..の方はあんまり印象がない。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 これもなかなか。

4.どのような人に推奨するか

 描写は昭和だけどオールタイムで読める小説ではないだろうか。どうだろうか?やはり死がテーマにあるのがポイント。

吉本ばなな / TSUGUMI

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

吉本ばなな / TSUGUMI のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦による。

2.内容

 原作は1989年…平成元年ですね。中公文庫でのリリース。当時の山本周五郎賞を受賞している。青春小説と言っていいのだろうが、「郷愁」と「死」が大きなテーマとして存在しているように感じた。タイトルにもなっているツグミは「歯に衣着せぬ乱暴な物言いをするいたずら好きで病弱な美少女」といった描写で、なんともモリモリな設定であるが、このツグミのキャラクターがカワイイ!と言うのが最初の感想。一方でその病弱さからどこか自分の生をあきらめているような節がある。自分は比較的健康体で生きてきた人間なのだが、特に幼少期病弱だった妻にはわかり味があるようである。都会に出て暮らしながらもかつて住んでいた田舎町への憧憬が常にある私(まりあ)と、一方でその病弱さゆえに島から出たこともないつぐみの対比。キャラクターのよさと軽やかな筆致、そして所謂青春小説とはやや異なるほの暗い雰囲気がとても良かった。漫画だけど『こどものおもちゃ』の小花美穂さんのダークな側面をほうふつとさせるというか…。作者はカポーティが好きで、自身の作品のテーマには常に「死」がある、というようなことを解説で読んで、得心した。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これはよかった。ちゃんと記憶に残る読書だった。

4.どのような人に推奨するか

 ばなな氏と言えば『キッチン』が有名だが、こっちのが好きかな。少女漫画的にライトにも読めます。

池井戸潤 / 民王

民王 (文春文庫)

民王 (文春文庫)

池井戸潤 / 民王 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 池井戸潤は面白い。息詰まる長編もいいが、ちょっとライトなものを読みたくてこれをチョイス。

2.内容

 原作は2010年発表で、手持ちの文春文庫は2013年刊行。総理大臣とその息子が「俺たち…入れ替わってるーっ!?」ってなる政治エンターテインメント。ほんとにそれだけ。その入れ替わり方は完全にSF的だが、それ以外の描写やキャラクターの心情は真に迫るリアリティがあって大変良い。いや政治家になったことはないのだけれど。総理大臣in息子が国会の場で誰もが思うような正論をぶちまけ、一方では息子in総理大臣は就職活動の面接で居丈高な面接官にこれまた強気な大言壮語を吐き、入れ替わっているにも関わらず相手をやりこめる様は大変に痛快。理想のない現実論はつまらない思考停止。もっと理想論を追求した方がイイよね。テーマは政治だけど、政権批判や政治風刺の色は強くない。むしろこれを読んで反省すべきは一市民側である参政者やマスコミだと思える。そこがイイ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは面白いですよ。

4.どのような人に推奨するか

 先述の通り政権批判や政治風刺は少ないので、楽しく読める、しかし心に残る政治エンターテインメントになっていると思います。