めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

清水潔 / 殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件

清水潔 / 殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ブックオフをウロウロしていた時に特価コーナーで見かけて、タイトルとノンフィクションものということで魅かれました。作者やこの本のことは知らなかったです。

2.内容

 2014年、新潮文庫からの作品です。2016年頃にどこだかの書店が作者名もタイトルも隠して『文庫X』として売り出した書籍。あれが本作だったということは、読み終わった後に知りました。

 確かにこれは凄く心に残る本だった。メディアや報道・警察・裁判所・弁護士・検事の役割や職業倫理というものを考えさせられます。誤りを認めることができない巨大組織の問題というのもなんとなく分かる気がします。DNA型調査の信頼性にケチが付いた場合、これを根拠に行われた調査の信頼性が損なわれる。それだけなら再検査でも再調査でもすればよくて、費用面はあるにせよ組織にとってはまぁどうにかなる話で。それよりも 、DNA型導入を決めた上役の責任問題になるとか、これを守るための嘘や隠蔽が追求されるとか、そっちの方がイヤだったりするんじゃないですかね。すべての官公庁で一事が万事こんな問題を抱えてるまでは考えないが、大小はあれど類似した話は「巨大組織の問題」としてどこにでもありそうだな。
 警察発表や政府発表を一次ソースとしてそのまま報道するのも、低リスクで楽だし、(公式発表通りという意味では)間違いがないからなんだろうな、と思いました。自分が新聞社にいて、そういう仕事の仕方をしない自信はない。

 などなど。あとは、単純にこの清水さんという人の信念と行動力が凄いなぁと。文章にも「その思い」が詰まっていて、ぐいぐいと引っ張られる。劇的なノンフィクションである。この人は週刊誌報道やテレビ報道畑の人ということであり、ちょっとメディアの見方が変わりますね。単純と言われそうだけど。

 後書きにあった調査報道のカテゴリ分類。放っておいてもいずれ明らかになる「エゴスクープ」は、報道側は第一報を競って争うが、いずれ分かる視聴者にとってはなんら価値のない競争であり価値のない報道だという。確かにそんなニュース速報が多い気がしてきたよ…。もっと本書のような発掘型・思考型のスクープが増えるといいですね。最近は大手新聞社やテレビは全然で、文春あたりが独自ネタをつかんでいるイメージがあるわ。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 『文庫X』での推され方も頷ける素晴らしい本でした。

4.どのような人に推奨するか

 上記に挙げたような報道・警察・裁判所・弁護士・検事の問題などに興味がある人。例えば自殺者や天災の被害者に群がるマスコミに嫌悪を感じたことがあるとか、裁判所のクソ判決に納得できなかったり、警察の不祥事に怒りを感じたりとか、そういったレベルのことです。そういった思いを少しでも持ったことがある人は、この本を間違いなく興味深く読めると思います。

折原一 / 耳すます部屋

耳すます部屋

耳すます部屋

折原一 / 耳すます部屋 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 なんかミステリを読みたくて、そういえば以前と『倒錯のロンド』って読んだけどどうだったかなぁと記憶もあいまいなままブックオフで購入。

2.内容

 原作は2000年の単行本で、講談社文庫から2003年に文庫発売された短編集です。書かれた年代は90年代ということになりますかね。登場人物の描写は確かに90年代臭い。
 舞台は現代でありとても日常的な風景。コンテンポラリーなホラー要素のあるミステリです。1つ1つの短編に仕掛けがあるということは分かる。例えば本書1作目だったら、主人公(お母さん)が娘の友人を刺殺したと思わせる描写をしておいて実は…というオチが待つ。しかし、まぁなんというか悪くいうとそれだけ。淡々とした文章なのは好き好きだからいいとして、登場人物がその舞台を説明するための装置という感じで生きている感じがしない。「ここがオチですよ!」とアピールする傍点もうっとおしく感じる。
 文章自体は平易で読みやすく10編読み通しましたが、読んでて楽しくはなかったです。読後の感想も他に特にないです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 うーんこの作者とは合わない気がしてきた。

4.どのような人に推奨するか

 特にないかな。

Time Requiem / The Inner Circle of Reality

The Inner Circle of Reality

The Inner Circle of Reality

  • 発売日: 2003/05/14
  • メディア: MP3 ダウンロード

スウェーデンのシンフォニックメタル、Time Requiem / The Inner Circle of Realityをレビュー。正式には、Richard Andersson'sが付くんだろうか??それはSpace Odysseyの方だっけ。Burrn誌とかで見たことある気がするよ。

1.作品を選んだ理由

 ネオクラシカルなバンドを探していて。そういやこの人の名前とTime Requiemってバンド名は聞いたことあるが、曲は知らんなあと思い。

2.内容

 2004年にRegaion RecordsからリリースされたRichard Andersson率いるスウェーデンネオクラシカルパワーメタルバンドの2作目。Richard以外のメンバーは全く知らない…
 なんというか、いかにもクラシカルだったり中近東風だったりの「それっぽい」フレーズと展開が派手に連発されるので、好きな人にはハマるのかもしれないが… 曲とボーカルがあまりよくない気がする…。疾走する#1 "Reflections"や初期Dream Theaterっぽいすねぇ~と思う#7 "Hidden Memories"などでフレーズフレーズで耳を引くものがないわけではないんだけど、楽曲が印象に残らないです。…あ、今#7 "Hidden Memories"の最初のメロ聞いてたけど、Sonata Arcticaの"My Land"みたいだなって思った(Sonataの方が先)。
 分かる人には『様式美』の一言で通じるのかもしれないが、言葉(ジャンル名)として好きじゃないので使いません。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 むーん。面白くない。

4.どのような人に推奨するか

 派手でクラシックっぽく、若干プログレメタル風なパワーメタルが聞きたい人におススメ。ボーカルが弱くてもキーボードが乱舞してればOKな方に。
 自分はSymphony Xの類似バンド探してこのバンドを聞くにいたったが「あぁ、Symphony Xって曲いいんだな!」ということを図らずも再認識する結果になりました。

谷崎潤一郎 / 陰翳礼讃

陰翳礼讃

陰翳礼讃

谷崎潤一郎 / 陰翳礼讃 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 谷崎である点と、タイトルで気になっていた。だって陰翳だぜ。暗そうでよいなと思ったのです。

2.内容

 小説だと思ってた!これはエッセイ集ですね。昭和5年~23年の間に文藝春秋婦人公論中央公論などの雑誌にて発表されたエッセイ7編をまとめたものです。文庫の初版は1975年。中公以外でも文庫が出ているようだが。
 表題の『陰翳礼讃』は一言でいうと食事・建築・文学等の様々な観点から東洋(日本)と西洋の美的感覚や趣向の際について述べたものです。 その他、懶惰(なまけ)、客嫌い、旅、厠(トイレ)など、テーマ別の論考が続いています。  谷崎のエッセイは初めて読んだけど、構成がわかりやすくて文章も面白い、それでいて谷崎の鋭い意見が入っている。というか、この捻くれた感じがとても良い。
 観光地として荒らされた宿や食事に旅情がないのでマイナーな隠れ宿を探したい、他の人に広まってほしくない(宿の経営的には広がったほうがいいに決まってるけど)、電車でのんびり揺られている移動そのものが気持ちいいぞ、といった旅に関するいろいろ。
 『客嫌い』では、昔は喋るのが得意だったはずだが会話嫌いを貫きとおして年を取った結果気づいたら全然喋れなくなってたとか、自分から会いたい時に会う友人以外の自分が望まない来客は全部お断りだし会話したくない、という客嫌いぶりは正直共感する。自分もわりとそんな感じだし…

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 エッセイのテーマ自体も卑近で面白いんだけど、やはり文章力・描写力があるなぁ。

4.どのような人に推奨するか

 芸術・恋愛・旅・交友・怠け・トイレと、テーマそのものは現代でも十分通用する、頷ける内容です。身近なテーマで気楽に読めます。暗いとか怖いとかもないので、気楽にフムフムと谷崎の考えを読みたい方におススメ。

Derdian / New Era Part1

New Era, Pt. 1 [Explicit]

New Era, Pt. 1 [Explicit]

  • 発売日: 2005/02/01
  • メディア: MP3 ダウンロード

イタリアのパワーメタル、Derdian / New Era Part1をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 シンフォニックパワーメタルでいいのないかなぁと思い、Vision Divineの直近のヴォーカルさんであるIvan Gianinniさんが籍を置くこのDerdianにたどり着いたわけです。名前は前から知ってたけどね。来日もしたことあるよね。

2.内容

 2005年にSteelheart Recordsからリリースされたイタリアのシンフォニックキラキラクサメロパワーメタルの1stアルバム。この手のバンドは日本で人気があるからなのか、Soundhollicから日本盤が出ている。

 しかし。これは確かにスゴイ。ここまでのブッちぎったクサメロをよく臆面もなく連発できるな、と思わざるを得ない。シンフォ/ネオクラ系によくある半音階を効果的に使ったマイナー調泣きメロディ、あるいはRhapsodyもかくやと言うようなヒロイックで勇壮なメロをとにかく詰め込んだ、ポジティブさとスピード感に溢れたメロディックメタル。シンセサイザーもかなり聴いていて大仰さを助長している。
 このバンドの凄いところは、ボーカルだけとかコーラスだけクサメロというわけではなく、イントロ、バッキングや合いの手的なオブリガード、ギターソロ等、とにかく全編全楽器に渡ってそのようなクサメロが盛り込まれているという点であるな。初期Children of Bodomの"Hatebreeder"あたりはクラシカルでキラキラな間奏が結構あったと思うんだけど…あれを1曲丸ごとでやっているような感じで、ちょっと聞き疲れするレベルでメロディック。演奏やアレンジにそんなに複雑な部分はなく、あくまでも感触はストレートなパワーメタルです。

 ボーカルが細いとか音質があんまりよくないというレビューも見かけた。確かにそう思わなくもないが、別に気になるほどではない。まぁメロパワだしこれくらいが聞きやすいんじゃないの?という気もする。あまりにヘヴィ・ファットなサウンドだとしんどかったかもね。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 

4.どのような人に推奨するか

 Rhapsodyのキラキラなメロディとアレンジはそのままに、シアトリカルさを減退させて、パワーメタル方面に全力で舵を切ったような音楽性です。クサメロ愛好家には大変おススメできる一品だと思います。

東野圭吾 / 仮面山荘殺人事件

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

東野圭吾 / 仮面山荘殺人事件 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 近所の書店でポップアップされていたため。東野圭吾3冊目というのと、いかにも王道なクローズドサークル的な殺人事件ミステリを読みてぇな、と思った。

2.内容

 ポップされていた割に1995年と割と昔の作品であった。友人知人が集まったとある山荘で休日を過ごしていると、そこになぜか銀行強盗を済ませたばかりの逃亡犯が逃亡中の隠れ家としてこの山荘に乗りこんできて、全員が人質に取られる。そんな異常事態の中、ある故人の死亡理由に関する疑念が登場人物の間で膨らんでいき…という、なんというか山荘に集まっただけでも何かしら事件が起こりそうなところに、強盗まで来てしまうというわちゃわちゃした内容です。強盗との生活に慣れるうちに登場人物の緊張感も薄れてきて、監禁状態であるにも関わらずどんどん個人の死に関する内容にフォーカスされていく不思議。
 犯人はだれなのかいろいろ想像巡らせながら読んではいたものの…このオチは想像できんかった。犯人がどうとかではなく、もっと別のところでトンデモナイ結末が待っています。ちょっと型破り的ではあるんだけど。まぁ仕掛けがわかったあとだと、作品名や各章タイトルが伏線と言える気がする。
 巻末の折原一さんの解説が「私も同じトリック考えてたのに先にハ票されたので嫌いw」な内容でちょっと面白かった。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 事件の起因となった出来事自体は悲しい内容ではあるものに、全体的に作者の他作品より情動的な部分が薄めなような気がします。喜劇的でもあります。

4.どのような人に推奨するか

 まぁ所謂どんでん返しであることは間違いない。事件内容はさておき、オチに騙されたい人どうぞ。

Adagio / Life

ライフ

ライフ

フランスのプログレッシブメタル、Adagio / Lifeをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近プログレメタラーなので、いろいろそれっぽいものに手を出しています。古き良きテクニカル・メロディアスを求めて、そういや昔Adagioの1st買ったけどあんまり聞いてはいなかったなぁというところが再聴のきっかけ。

2.内容

 2017年にZeta Nemesis RecordsからリリースされたStephan Forte率いるフランスのバンドの第5作目。Zeta Nemesis Recordsってどこ?Metallum見ると本作とStephanのソロアルバムっぽいものしかないから、自身のレーベルなのかな。2021年現在バンドはON-HOLD…活動休止中とのことで、現時点の最終作です。

 むかーし聞いた1st "Sanctus Ignis"の記憶は、こねくり回したアレンジとメロディを持ったネオクラシカルでシンフォニックなパワーメタルという感じです。今聞きなおしてもあんまりその印象は変わらず。
 一方の本作。とにかくその1stとは全く別物と言えるサウンドになっております。シンフォニック・クラシカル・パワーメタルな要素に魅力を感じていた人からすると全然刺さらない内容かもしれません。
 Djentっぽく変則的に刻むマシーナリーなリフからクリーンなアルペジオにメロディックなソロプレイやエキゾチックなフレーズと幅広いギターワークを中心に、抑制されたダークな雰囲気・歌メロと、様々に展開するリズムと変則拍子を持った、やや長尺でミドルテンポの楽曲が並びます。オールドスクールなメタルっぽさはかなり薄まっていて、モダンな雰囲気です。#3 "Subrahmanya"のイントロやコーラスのリフなんかは分かりやすくDjentリフだけど、暗く静謐なパートや、部分的に1stを思わせるイイ感じの歌メロ、ギターメロディの織り交ぜ方がこのバンドならではという感じがします。#9 "Torn"あたりは。強力なボーカルメロディにピアノとストリングスが絡む比較的わかりやすい楽曲と言えるかもしれない。

 全体的に派手さはなく、寧ろ地味とも言える作風で、パワーメタル的な即効性は全然ないです。なんだけど、これがプログレメタル耳にはとても心地よい。怪しくも印象的なメロディが多く、1つ1つのフレーズが良く練られていると感じます。なんか繊細というか痛切というか、Fragile(壊れそう)な雰囲気と緊張感があって、それがとても気持ちいい。また、本作から加入のKelly Sundown Carpenterさんの太くよく伸びるヴォーカルワークが非常に素晴らしいというのも大きなセールスポイント。ヴォーカルが強力ってのはやはりいいことだ。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 期待していたものと全然違うけど、それはそれとしてめちゃくちゃクオリティ高くて面白い内容なのでビビりました。凄いね。

4.どのような人に推奨するか

 1stのシンフォニック・クラシカル・パワーメタルな要素に魅力を感じていた人には推奨しません。テクニカルというわけでもないです。しかしながら、暗く美しさメロディと構築力の高いヨーロピアンなプログレメタルな楽曲は非常に魅力的。Paradise Lost以降のSymphony Xをもっと繊細にした感じなので、そういうのが好きな人にはおススメできます。

ガブリエル・ガルシア・マルケス / 族長の秋

ガブリエル・ガルシア・マルケス / 族長の秋 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 南米文学って読んだことないなーって。ボルヘスはチラ見したことあるけど。あと、独裁を敷く大統領というテーマ、表紙の牛にも惹かれましたね。どうでもいいけど、マルケスなのかガルケスなのか毎回一瞬迷うんだよね。ミドルネームがガルシア…なのでラストネームはマルケス、って思いだしている。

2.内容

 原作は1975年。本書は2011年に集英社文庫から文庫発刊されたものですが、1994年刊行物のリイシューということです。「ラテンアメリカの文学」シリーズでいろいろ出してくれているのかな?嬉しいね。
 しかし、コロンビアですか…1810年にスペインから独立して以後はコロンビアとしての国体を保っているということですが、どうにも政情不安定なイメージのある国ですね…。

 まずこの特殊な文体に触れないわけにはいかない。1章丸ごと改行が一度もなく、且つ、地の文のみで埋め尽くされています。会話文は使われているんだけど、鍵カッコもないです。谷崎潤一郎の『春琴抄』の書かれ方を想起しました。
 そのうえ、語り手がはっきりせず、且ついつの間にか変わっていたりする。それが我々(誰?)だったり、大統領だったり、作者視点?だったりするので、まぁ非常に読みにくいという。特異ですな。幻惑的な印象です。

 ストーリーの中心となるのは独裁政権を敷くある大統領の一生。あらゆる特権な振る舞いが誰にも咎められないし、まぁ結構な悪行も作中でやらかしているわけだが、それよりも印象に残るのは腐敗した社会と死の雰囲気。大統領府内に平然とウシが出入りしているっていう、その絵面のイメージ。奇病で死に至る大統領の母親や、その他作中で生まれる死体の山のイメージ。そんな中、死に瀕した母親を気遣ったり、ある美人に惚れて追いかけてみたりする大統領の姿や、独裁者である自分が全てを支配しているようで自分と向き合ってくれる人はだれもいない、ゲームさえ八百長で勝たされてしまい他者と満足に遊ぶこともできないことに孤独と虚しさを覚える様が描写され、どうにも哀しみ(悲しみよりは哀しみの字のイメージ…なんとなく)に満ちている作品だなぁと感じました。

 実際、読者も読んでいてこの大統領のことをどうにも理解できないのですよ。名前も分からないし、何年生きているのか在位しているのかもよくわからないし、そもそも暦も大統領令で変えちゃったから計算上とんでもない年齢になってしまっているんじゃないか?とか思った。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 独特な文体もあって読むのはしんどかった。350ページほどの作品なんだけど、500ページ超の小説を読んだようなエネルギーを使った。しかし、鮮烈なイメージを持ったスゴイ作品であった。

4.どのような人に推奨するか

 文章がイメージを喚起する力が凄くあると思います。とにかくとっかかりにくい文体ではありますので、それを含みで挑戦してみてほしい。解説では、この文体にはあまり拘泥せずに読んでみよう、とまで書いてあるしね。

Symphony X / Damnation Game

The Damnation Game

The Damnation Game

  • アーティスト:Symphony X
  • 発売日: 2010/05/25
  • メディア: CD

アメリカのプログレッシブパワーメタル、Symphony X / Damnation Gameをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近Symphony Xばかり聞いていますシリーズです。

2.内容

 1995年にInside Out Recordからリリースされたらしいバンドの第2作。日本ではやっぱりZero Corporationからリリース。ボーカルにラッセル・アレンが加入し、今に連なるバンド体制がここで基本的に整ったことになります(後でベースが変わるけど、基本的にはメンバーチェンジは少ないバンドのようだね)。前作に比べて音質も大分向上したと思います。

 楽曲はコンパクトに、焦点が絞られた形に進化した。#3を除けば4~5分の曲でまとまっているという点もあるが、別に1stもそんなに長い楽曲が多かったわけではない(7分と12分があるけど)ので、楽曲構成がわかりやすくなったということなのかもしれないね。ボーカル・ギター・キーボードを中心とした素晴らしいメロディに彩られた楽曲の数々。
 ソロプレイに限らず、リズム的に変則的な拍子が頻出するのもプログレメタラーには大変嬉しく、技巧的な面でも満足。RushとかDream Theaterに慣れている耳にはどうしてもドラムスが地味で平坦に聞こえるのが少し物足りない、楽曲自体がいいのでそのうち気にならなくなった。
 やはり、冒頭2曲が好きだなぁ。#1 "Damnation Game"の速弾きギターメロディとチェンバロのコンビネーションによるクラシカルで疾走感のあるイントロでいきなりテンションMAXである。その後はスタンダードな疾走メタルで、所謂サビも若干地味なので、イントロが最高潮という説まである。と言いつつ、ブリッジでテンポチェンジしたりシアトリカルなコーラスが入ったりと、魅力的なフレーズが満載である。うーん素晴らしい。続く#2 "Dressed To Kill"は3拍子のヘヴィリフを織り交ぜたミドルテンポの楽曲だが、サビメロがキャッチーで印象的。Could you feel sympathy or pain?のとこね。
 コロコロと複雑に展開する#3 "The Edge Of Forever"、タイトル通りの怪しげなメロディとムードが魅力の#6 "The Haunting"あたりもいいです。ギター中心の楽曲が多いんだけど、キーボードのピアノサウンドが曲に彩りを加えていて、かなりの重要度を占めておりますね。

 しかし。こうやってちゃんと聞くといい曲いっぱいあるのに、どうも一聴した印象は地味というか平坦に聞こえてしまうのはなぜなんだろう…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 サイコー。3rdの方が好きだけど、かなり充実している。10曲47分というコンパクトさも良い。

4.どのような人に推奨するか

 前作同様、クラシカルなメロディと複雑な曲展開やフレーズが好きな人におススメ。初期Symphony Xの代表作の一つだと思う。このバンド聞いたことない人は、この作品か次の作品(3rd)から入るのが良いです。

芥川龍之介 / 侏儒の言葉・西方の人

侏儒の言葉・西方の人 (新潮文庫)

侏儒の言葉・西方の人 (新潮文庫)

芥川龍之介 / 侏儒の言葉西方の人 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『侏儒の言葉』が芥川版「悪魔の辞典」と聞いて。これを読みたかったのである。

2.内容

 1968年かな?新潮文庫からリリース。 何度か改版されているのかな、手持ちには平成5年(1994年)に書かれた解説が巻末にあります。
 『侏儒の言葉』は芥川版「悪魔の辞典」と書きましたが、様々な事柄に対する芥川くんのひねくれた厭世的一言コメント集みたいなものです。時期的に晩年(1927年自殺に対して、1925~1927年頃の作品)であり体調が悪かったという点は、本編の内容と無関係ではないだろうなぁと思わせる。本編冒頭で『必ずしも私の思想を伝えるものではない』と言ってはいるものの、やはり思想的な書だと感じますな。
 「理性の私に教えてるものは、畢竟理性の無力さであった」
 「眠りは死よりも愉快である。少なくとも容易には違いあるまい」
 なお、侏儒というのは「見識のない人をあざけっていうこと」らしいですよ。自嘲的・自虐的なタイトルです。

 『西方の人』は、芥川流のイエスキリスト論であるという。すいませんよくわかりませんでした。聖書を履修したのち、もう一度読んでみようと思います。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 すごい面白い!という類の本ではない。

4.どのような人に推奨するか

 物語ではないです。芥川のモノの捉え方や語る言葉の妙味を味わう本です。芥川の思想的な部分に興味がある人に推奨します。興味がない人、キリスト教知らない人あたりは…全然面白くないのかもしれない。

Symphony X / [self-titled]

Symphony X (Spec) (Dig)

Symphony X (Spec) (Dig)

  • アーティスト:Symphony X
  • 発売日: 2004/01/13
  • メディア: CD

アメリカのプログレッシブパワーメタル、Symphony Xのセルフタイトルデビューアルバムをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近プログレメタル熱が高じている関係で、Symphony Xを聞き始めて…気にいってしまいずっと聞いているので、感想を書いていくぞ。

2.内容

 1994年に自主製作でリリースされたバンドのデビュー作。日本でのみZero Corporationからリリースされていたらしい。なんか、Fair Wariningメロディックハードロック系を出してたとこだよね。
 複雑なコード進行とリズムで構成されたギター中心のヘヴィメタル。メロディアスでクラシカルなパッセージ、歌い上げる熱いヴォーカル、ドラマティックなコーラス、といった彼らの重要な要素はこの時点でほぼ完成していますね。半音階の進行というか、キュンとくるような昂揚するような、そんなメロディが多いです。AmのキーでEメジャー(G#の音)を入れるようなアレです。

 このバンドを語るときにはよくDream Theaterが引き合いに出されるようで、それは仕方ないと思うけど、全然似ているとは思わない。長尺曲や技術的に複雑なことをやってはいても、こちらはあくまで歌とメロディが主体のヘヴィメタルあるいはパワーメタルが基盤だと思います。

 この1stのみボーカルが2nd以降と違って、ロッド・テイラー君という人です。2nd以降現在までボーカルを務めるラッセル・アレンより比較的ストレートな歌い方かなぁとは思うが、線が細いという感じでもなくSymphony Xとして違和感なく聞けます。
 自主製作ということで、サウンドはやや厚みに欠けておりしょぼい。特にドラムのサウンドがポコポコしている。録音に関するネガティブな意見も見かけるが、それでも録音は綺麗だし音のバランスは良好。演奏は既にめちゃくちゃ上手いし、これ単品で聞く分には全然違和感ないです。南米産ブラックメタルとかに慣れているとこれが音質悪いとは全く思わないんだけど、こういう音楽性はサウンドのクオリティが求められるから、仕方ないね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 いいメロディいっぱいありますよ。

4.どのような人に推奨するか

 クラシカルなメロディと複雑な曲展開やフレーズが好きな人におススメ。だけど、2nd/3rdが気に入ったらこの1stも聞くくらいの優先度でいいと思いますよ。

三田一郎 / 科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで

三田一郎 / 科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 国立の書店で、ブルーバックス売り上げトップテンみたいなディスプレイがあったんすよ。その1位がこれだった。タイトルも興味を引いたので購入。

2.内容

 2018年、講談社ブルーバックスからの刊行です。著者は素粒子物理学が専門であり、且つカトリックの聖職者(助祭…司祭の次くらいの職位だそうだ)を務めておられる。ご自身の2つの強みを存分に活かして書かれた、著者だからこそ書ける本なのではなかろうか。

 内容は主に宇宙に関する物理学の発見・発展の歴史と、発見者たる学者たちの神への信仰の在り方についてです。どれだけこの世界の仕組みを解き明かしていったとしても、学者たちが神の存在そのものを疑わないのは「その根源的な要因、あるいは法則をデザインしたもの」がいるという発想に基づいているようなのですね。偶像的だったり、教義を垂れたりするような存在ではなく、そのような根源的存在を認めているということです。
 本書のもう一つの視点として、キリスト教がどのようにこれらの物理学上の発見を受け止めたか、というのがあります。ガリレオガリレイに対する異端裁判などが有名ですが、キリスト教が天動説を支持する立場は「聖書の記載にあるかどうか(記載と矛盾しないかどうか)」という点にあったんんですね。逆に矛盾しない内容であれば科学的な発見とは仲良く共存できるようで、宇宙の始まりを示すビッグバン理論については、「ビッグバンが神の御業であり、神が宇宙が作ったと言えるからOKです」ということになるらしい。そして宇宙が始まるビッグバン以前の出来事については研究してはいけない(認められない)ということらしいです。
 そんな感じ。難しい数式は出てこず極めて読みやすいと思います。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 面白い。単純に物理学の概略的な歴史の勉強にもなります。

4.どのような人に推奨するか

 タイトルそのまんまなので、物理学・キリスト教・宗教と科学と相克などのキーワードに心魅かれる人は是非読んでよろしいかと思います。

小川一水 / ツインスターサイクロンランナウェイ

小川一水 / ツインスターサイクロンランナウェイ のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 端的に言って表紙買い。望月けいさんの繊細な筆致と抑制された暗めで淡い色使いの美少女絵に魅かれました。目についた理由は「百合SFフェア」という帯が目を引いたからですがね。本作の前に同フェアで『少女庭国』を買ったりしました。こういうフェアでこうやって買う人間もいるんだから、出版各社は是非こいった宣伝を打ってほしいものです。きっかけになります。

2.内容

 元となる話は『アステリズムに花束を』というハヤカワ文庫JAのオムニバス作品集に短編として収録されているらしいですね。それが人気だったので、長編として再構成&文庫書き下ろししてハヤカワ文庫JAから2020年にリリースされたものが本作であるようです。なるほど。
 世界観とお仕事がまずステキである。人類の生息域が宇宙に十分広がった世界で、ガス惑星の大気を泳ぐおさかなを捕まえる漁師たちが暮らしている。漁師は夫婦の男女ペアでやるのが当たり前(それ以外は規則的にも社会通念的にも認められてない)という中で、主人公のテラちゃん(大きい子)とダイオードちゃん(ちっちゃい子)が女の子二人ペアで漁に挑んでいきます。  冒頭の伝説(昔話)、テラちゃんの日常、ダイオードちゃんとの出会い、漁の成功/失敗、ダイオードちゃんの家族、危機にスペクタクル、伝説との邂逅とお手本のようにわかりやすいストーリー展開。たくさんの造語を交えつつ世界観を丁寧に描写しつつ、あくまで主人公の2人にフォーカスされていてすごく読みやすかったです。
 自分はそんなに気にならなかったけど、はわわ少女と強気ロリのキャラ造型とセリフ回しはややテンプレ的な嫌いもあるかな?妻は「男が書く女子感が強い」と言ってました。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 順当にエンターテインメントで面白かったです。

4.どのような人に推奨するか

 キャラも世界観もストーリーもちゃんと描写されていて、そのままアニメになりそうな作りこみだなぁと思いました。少女二人がキャッキャウフフしているので、百合SFと言えば百合SFかもね。なんか続編を執筆中という話を見かけた(2021/2現在)ので、続編出るなら読みたいかな。

半藤一利 / 世界史のなかの昭和史

半藤一利 / 世界史のなかの昭和史 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『昭和史』を読んだ後に、本作の存在を知った(妻が買ってきた)ので読了。半藤一利さんが近々で逝去されたこともきっかけではあったかな。

2.内容

 ベストセラー『昭和史』は2009年の本だっけ?こちらは『昭和史』を受けて世界史に目を向けた書籍となっています。平凡社ライブラリーより2020年に発刊されました。元は2016年の雑誌連載だったようです。
 世界(=外国)が日本をどのようにとらえていたか、またあるいは当時の日本(主に軍部)が外国をどのように認識して政策・戦争を推進したか。いや、全然外国の動きを認識できていなかったのではないか、軍部は世界のことをまるで分かっていなかったのではない。とまぁ、そんな論調の本です。
 結局は日本の昭和史がテーマであるため、自然と内容は『昭和史』と重複する部分も出てくるのだが、それはまぁ良いかと。ただ、本作に関してはそれ以外も問題点の方が目についていささか読み進めるのが億劫だった。以下列挙。

  • 本書冒頭付近の『ヒトラーは信仰など全くまったくもたず、道義や義理人情にも関心がない。~人をおしのけて権力を獲得する、そのことに生きがいを見出している人物である。』との記載。思い切ったこと書くなこの人と思うと同時に、そういう観点で書かれた本であるという意識が本書を読んでいる間ずっとチラついた。悪い意味で印象に残った。
  • 本書で言及されるのは9割がナチスドイツ(ヒトラー)と共産党ソビエトスターリン)。それ以外の国に対する描写は少ない。
  • 巻末の対談含め、当時の出来事を教訓とした現代への警鐘(というか政治批判)が良く出てくる。歴史から学ばなければいけないという主張は理解するが、『昭和史』よりも批判要素が目について仕方なかった。

 まとめると、ちょっと残念な読後感でしたな。『昭和史』は作者が当時を体験しているため、本人の感想も含めて史料的な価値も感じることができたけれど、世界史に関してはそれはないしね。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 『昭和史』はよかったんだけどこちらはイマイチ。歴史読み物・知識として面白い部分もあるんだけれどね。

4.どのような人に推奨するか

 『昭和史』『B面昭和史』が凄く面白かったという人は読んでもいいかもしれません。Amazon レビュー見ると、巻末対談や現代への政治批判部分を評価している方もいらっしゃるようなので、そういう点を長所と感じられる人にも。歴史書として読みたい人にはおススメしません。

菊池寛 / マスク スペイン風邪をめぐる小説集

菊池寛 / マスク スペイン風邪をめぐる小説集 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が買ってきたシリーズ。菊池寛って、文芸春秋立ち上げおじさんで名誉ある賞作ったおじさんなのは知ってるけど、作品は読んだことなかったな、そういえば。

2.内容

 コロナ禍における便乗企画といいますか。売り物としてのコンセプトは非常に分かりやすい2020年に文春文庫から発刊された、短編8編を含む短編集。
 言うほど全編がマスクでもスペイン風邪がテーマでもないです。まぁ短編集にはよくあることか。ただ、後ろ暗くて人間の俗悪な部分を描いた小説群でありながらエンターテインメント性に富んでいて、読んでいて楽しかった。身投げ自殺の救助に定評ある婆さんがいつのまにか救助が目的になってしまい身投げを待ち望むようになる『身投げ救助業』とかめちゃおもしろ。助けられた人間はもっとワシに感謝すべきなどと思いあがっておいて、いざ自分が(不慮の事故で)身投げから救助されると救助者の自信満々ぶりが気に食わないという。あぁ人間って感じ。同僚が感冒で死んだものの誰もが悲しむどころかむしろ悪口で死者を貶め、誰も通夜にすら参加したがらず言い訳を付けては逃げ最終的にはくじ引きで参加者を決めるという『簡単な死去』も醜くて素晴らしい。
 しかしながら描写があっさりしているからなのか、読後感は悪くない。エンターテインメント性のある現実的な物語群として楽しめました。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 内容は文句なく面白い。菊池寛って面白いんやな。コロナ釣りのタイトルは表題に嘘はないがどうかなぁという感じ。

4.どのような人に推奨するか

 マスク・スペイン風邪ネタは置いといて、単純に人間関係や心の機微を捉えた話作りが楽しめて良いと思います。内容が不道徳なのが特にGood。自分は道徳的な話や恋愛物語は全然読みたくないので…そういう意味ではどれも良かった。