めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

アガサ・クリスティ / ベツレヘムの星

アガサ・クリスティ / ベツレヘムの星 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻からのおすすめ本。妻は結構気に入っている模様。

2.内容

 原著は1965年?1890年生まれ結構晩年の作品だね。ハヤカワ文庫(クリスティの赤背表紙)から。タイトルはクリスマスツリーの頭についてるあれで、キリストの誕生を知らせる星です。聖書のストーリーを下敷きにしたクリスマスとキリストがテーマの児童文学的な読み味の逸話集。児童文学的といいつつ、お話はやや分かりにくい部分もあるし大人向けで、聖書のベース知識がないとなんだか分からんと思う。新約聖書をかじっておくとよい。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 元ネタがわかる部分があって嬉しいです。

4.どのような人に推奨するか

 聖書題材の物語が読める人!

筒井康隆 / ロートレック荘事件

ロートレック荘事件(新潮文庫)

ロートレック荘事件(新潮文庫)

筒井康隆 / ロートレック荘事件 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 帯に釣られました。「未読のあなたは幸せだ。ネタバレ厳禁!驚愕のトリック」

2.内容

 原著は平成2年だから1990年かな。新潮文庫からは1995年に出た模様。プロローグと本編(2章以降)で視点が異なるが、原則は一人称視点で進むミステリ小説。トリックの作りこみはスゴイが、裏表紙の通りメタ的(高次元)なトリックで、犯人がではなく、作者ががんばった類のもの。解決編の説明や動機はやや期待外れか。種明かしが詳細に過ぎるというか、「このページのこの会話の意味はこういうことだったんだよ」と延々説明されるので、そこがしんどいというか、カタルシスがなかったです。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 うーん。骨子は分かったが、それが面白かったかと言うと。

4.どのような人に推奨するか

 「驚愕のトリック」で密室トリック等を期待するとちょっと違うかなと思うので。「メタミステリ」でいるという点に留意してお手に取ってください。

小川哲 / ゲームの王国(上・下)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

小川哲 / ゲームの王国 のレビューです。文庫で上下巻ですが、まとめて扱います。

1.作品を選んだ理由

 最初に興味を持ったのは書店の陳列で、1作目『ユートロニカのこちら側』を読んでこの作者なら信頼してよかろうと上下巻を一気に購入。

2.内容

 2017年に早川書房より刊行され、2019年にハヤカワ文庫JAから文庫化。帯によると、第38回日本SF大賞受賞、第31回山本周五郎賞受賞と、名誉ある賞に名を連ねている。実際読んでみて、それだけの価値のある大作/傑作と感じました。
 時代はクメールルージュ政権下のカンボジア。知らなくても描写されるからわかるけど、前提としてポルポトが目指そうとした極端な原始共産主義とその政策を知っておいた方が楽しめるかも。そんなカンボジアに生まれ育った2人の天才、少年ムイタックと少女ソリヤ。この二人の能力と天才性が上巻のSF性を担っていると言える(あと、輪ゴムで人の死を占う少年とか…)が、それ以外は徹底的に凄絶なカンボジアの光景が描かれる。上巻のラストの興奮と緊張感、下巻への期待感は凄かった。
 …からの下巻。裏表紙に書いてあるからネタバレにはならんやろと思いつつ、あまり詳しくは書きたくない。が、とにかく上下巻に分けた意味は、明確に感じられる構成である。上巻を下敷きによりSF的に発展した世界が描かれる。ここで一つの中心になるのは、思考・脳波を入力装置として利用されるアクションゲーム。このゲームをクリアするためには、そのクリア条件を満たす動作をゲーム内でさせる=ある特定の思考をしなくてはならない。そんなゲームの目的と、これがもたらす結果とは。
 前作『ユートロニカのこちら側』で不足していたキャラの魅力が完全に補われている。情緒的で感興をそそるが、それでいて現実の歴史を踏まえた世界観とその描写も大変強固で、本当にあったお話に思えるリアリティがある。凄い作品ですわ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これすごい好きです。

4.どのような人に推奨するか

 歴史上の悪政、それによる極限状態と人間の死、2人の天才の邂逅、人間の思考とコントロール。そんな感じのキーワードが浮かびます。The SFな宇宙感とかテクノロジーは出てこないので、SFかどうか云々は置いといてエンターテインメント小説として非常に面白い。歴史好きにもおススメ。「読んだらなんかお利口になった気がする感」はめっちゃあります(←勘違いだとしても)。

小川哲 / ユートロニカのこちら側

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:小川 哲
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫

小川哲 / ユートロニカのこちら側 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋で『ゲームの王国』がプッシュされているのを見かけた。上下巻に怯んだのと、面陳列のせいで表紙が曲がってたのがイヤで、こちらを購入。

2.内容

 2015年に早川書房より刊行され、2017年にハヤカワ文庫JAから発刊。作者の小川哲さんは1986年生まれ…ワイと同い年じゃないか。はーすご。
 連作小説というかオムニバスと言うか。五感を含む人間のあらゆる個人情報を提供する代わりに、豊かな生活が保障される未来都市アガスティアリゾート。この都市を巡る6つのストーリーが展開される。こう書くと所謂「ディストピアモノ」という印象を受けるが、あんまりそういう読み味はしない。こういった都市があるとしたら、こんなことがある(あった)だろうと言ったストーリーが淡々と語られる。設定の作りこみはよく出来ている(←偉そう)が、巻末解説にもある通りキャラクターの描写が弱く感情移入はしづらいかな?という感じ。なお次作『ゲームの王国』ではこのキャラクター描写が大幅に改善されていて、あちらは一大傑作になっていました。文章自体は小難しいことを分かりやすく描いてくれており素人にも優しい。  『2010年代SF傑作選2』(ハヤカワ文庫JA)に、本作の第2章 バック・イン・ザ・デイズがそのまま収録されており、内容は同じなので同作を買う方はご認識ください。逆に言えば、1作だけ取り出しても読めるようになっているということです。でも、連作を連作として順番に読むのと、1作だけ取り出して読むのは、また違った感じですね。適当な順番で再読しようかね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 なかなか。あ、表紙の真っ白さと非人間的な感じも好きです。カッコイイ表紙はそれだけで価値がありますね。

4.どのような人に推奨するか

 キャラ重視の人には非推奨だが、作りこまれた近未来都市設定とそこでの生活描写そのものに面白みを感じる人に推奨。

有栖川有栖 / マジックミラー [新装版]

新装版 マジックミラー (講談社文庫)

新装版 マジックミラー (講談社文庫)

有栖川有栖 / マジックミラー [新装版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 先に『46番目の密室』を読んで、別のも読んでみようという試み。

2.内容

 原著は1990年発表で、こちらは2008年に新装版としてリリースされた講談社文庫バージョン。これも初期の作品でしたね。
 冒頭から双子モノであることを全く隠さないし、中盤では入り組んだ時刻表トリックみたいな話が始まるしで、これホントに面白くなるのか?と思ってた。終盤のアリバイ講義のおもしろさと、解決編のドラマティックさは良かったね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 こっちのが好きかな!

4.どのような人に推奨するか

 双子の存在はある意味前フリに過ぎないので、存分に疑って読んでください。

有栖川有栖 / 46番目の密室 [新装版]

有栖川有栖 / 46番目の密室 [新装版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 所謂本格ミステリ、というか新本格でよく名前が挙がるが読んだことなかったので。これが1作目。

2.内容

 原著は1992年発表で、こちらは2009年に新装版としてリリースされた講談社文庫バージョン。新版が出ている場合は新版が欲しくなりますね。著作の中ではかなり初期の作品群に位置する。
 たくさんの密室トリックを発表してきた推理小説家が別荘で殺される。孤島モノ・館モノではなく、建物そのものはフツーの建物で、刑事さんも出てくるオープンなミステリ。ひたすら主人公の日村と有栖川(作者と同名の登場人物…が出てくるんですね)が手がかりの収集と推論を重ねていく、論理的なミステリです。読みやすい平易な文体で、ベローチェで3時間くらいで読了したんだけど、すごく印象に残ったわけではないかなぁ。派手さや情緒に欠ける一方で、現実的な内容です。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 ミステリ小説は論理的に解明されて欲しいが、フィクションならではの大仰さも欲しいなぁというのが自分の趣味。

4.どのような人に推奨するか

 論理的で本格的なミステリを読みたい方。

池上英洋・荒井咲紀 / 美少女美術史 人々を狂わせる究極の美

池上英洋・荒井咲紀 / 美少女美術史 人々を狂わせる究極の美 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 確か美術館で『子供の絵』展かなんかを見に行ったときに、帰りに買ったんですよね。美少女の絵を見たかったというのがほんとに購入理由です。

2.内容

 2017年にちくま文庫から出版された。類似シリーズに、官能・残酷・美少年の美術史があります。美術史という観点から見たとき、「子供」が題材になったのはかなり現代になってからだという。18世紀位までの子供は「大人の縮小版あるいは未熟版」であり、労働力として期待されることはあれど、それ以上の個を認められていなかったということらしい。それが産業革命による工業化の中で余暇や財を持つようになった市民が、子供に目を向けかわいがるという概念が醸成されていったとか。冒頭ではそんな19世紀頃の絵が数多く紹介されるわけだが、この絵がとにかくカワイイ女子がいっぱいで凄いのである。ブグローすげぇ。ミレイの『お説教』連作もカワイイ。お説教聞いてて寝ちゃうシーンを切り取るというのがいい。本書では神話時代から始まり、宗教画や英雄等に表れる美少女の絵画を経て、上記の「ふつうのこども」が描かれるようになる19世紀頃までの美術史を「題材=美少女」に焦点を当てて紹介している。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 絵がカラーでいっぱい載っていて、絵だけ見てても楽しい。解説もよい。

4.どのような人に推奨するか

 所謂西洋画での「美少女」の絵を見たい人(直球)。また、この観点からの美術史に興味がある人。

Pain of Salvation / Panther

Panther

Panther

スウェーデンプログレッシブメタルPain of Salvation / Pantherをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 私はこのバンドがトップクラスに好きだし天才だと思ってます。そんなバンドの新作が出るというのだから、買う以外の選択肢はございませんね。発売日に即買いました。まぁ、店頭に入荷するとも日本盤が出るとも思えなかったから、Amazonで買ったんだけど。

2.内容

 2020年8月、いつものInside Out Recordsからリリース。ボーナスCD付きの2枚組輸入盤で購入しました。
 正直最初にブックレットを見たときは、 一抹の不安があった。Johan Hallgrenが戻ってきたはいいものの、クレジットを見ると一部の演奏を除き、全ての作詞作曲ミックスプロデュース演奏を中心人物であるDaniel Gildenrowが一人でやっていたのだから。バンドとして作ってないのかな?と邪推が働いてしまうのも止む無しと言ったところ。しかし実際の音楽を聴いたらそれはどうでもよくなった。内容がめっちゃいいので。
 全体的にはRoad Salt以降の集大成といった所だろうか。感覚的には、Be:Road Salt:In the Passing Light of Day=2:3:5くらいのかな。全体的にはエレクトロで冷ややかな印象が支配的でありながら、ノスタルジックな旋律にも富んだメロディアスな作品。ギターはリズムパートの一部を構成するにとどまっていてソロも殆どない。しかしだからと言ってヘヴィに感じないというわけではない。冒頭の#1 "Accelerator"から、理解できないDjent的な拍子と刻み、緊張感に満ちた演奏と、前作以上にメロウで情熱的なボーカルワークと、「あーこれはPoSですわ」と題納得。もちろん『the Perfect Element』『Remedy Lane』の頃のような悲哀に満ちたメロディーの洪水とは全然違う方向性ではあるんだけど、リズミックでメロディアスと言うしかない。説明しがたい感覚。このエレクトロ感が妙にいい雰囲気というか、サウンドが凄くよい。特にドラム…。#3 "Restless Boy"も大好き。ヘヴィ要素が削られた完全にエレクトロニカみたいな演奏に淡いコーラスで地味な楽曲なんだが、5連譜と7連譜が入り乱れる暴虐的なヘヴィパートは"I can see that you try to understand"の歌詞と共に非常に頭に残る。次の#4 "Wait"は個人的ハイライト。美しいピアノとスチールギターの分散和音をメインに構成されたメロウな1曲。これもボーカルワークが素晴らしいというのと、引っ掛かりのあるリズム(13/16拍子+11/16拍子?)がクセになる素晴らしい曲。ラストの#9 "Icon"は前作ラストを飾る"In the Passing Light of Day"的な静かで歌メインのノスタルジックな楽曲でこれも白眉。
 歌詞も、Scarsickの時のようなラップ的詰めこみがなく、メロディーに合わせた無理のない言葉選びになっていて、嬉しい。おそらくこれまでのコンセプト作との繋がりはない独立した歌詞世界。ブックレットの冒頭”Normality has no cure(普遍性は何の癒しにもならない)と、#7”Panther"に象徴されるとおり、世界や他者とMisfitsな「私」がテーマなのかな?ちゃんと読めば理解できそうな気がするが、そこはお得意の「To Be Continued...」ですよ。ほんとに続編出るのか?
 アルバム全体で54分と言うコンパクトさも好印象。冗長な部分がなく、気づけば後半…気づけば作品が終わっている。で、もう一周聞こうってなる。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 最高やろ…。

4.どのような人に推奨するか

 『the Perfect Element』『Remedy Lane』の再現を待ち望む人や、プログレメタル的派手なギターテクニックを味わいたい人には全く向かないです。しかし、内省的で実験的でそれでも素晴らしいメロディーと起伏に富んだ楽曲は完全にPain of Salvationのそれです。自分もPoSの作品は初期作を聞くことが多いですが、それでもこのアルバムは超おススメできます。

リチャード・ブレストン / ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々

リチャード・ブレストン / ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 コロナ騒ぎで読む1冊。殺傷力は全然違うが…

2.内容

 原著は1994年発表で、こちらは高見浩さん訳による訳で2020年にハヤカワNF文庫から発刊された。刊行時期より扱っている事件は1980年代後半から1993年頃までのもの。直近では2014年頃に西アフリカでエボラ熱の再流行(アウトブレーク)があったというが、それに寄せた作者本人の追記と、岩田健太郎さんの解説付き。
 全4章からなるが、特に1章がウイルスの恐ろしさを雄弁に語る。正体も分からない中、衛生観念の低いエリアで広がる強烈な伝染病。ノンフィクションではあるものの、綿密な取材に基づくというその描写は非常に細部にわたっており小説的で恐怖を煽る。まぁ実際この病気は死にますからね…得体のしれない病魔に蝕まれていく様子が一番怖いのはこの章。2~3章は高セキュリティな検疫所で発生した輸入サル群での集団感染とその駆除を巡る物語。こちらはエボラウイルスのことがある程度分かってきている中で、細心の注意を払いながらウイルスと相対している様子がわかる。三重の防護服(手袋)が割けてしまい、あわやサルの血液を浴びたかと手袋を剥がしながら確認していくシーンの緊張感などはなかなか。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 語り口が小説なので読みやすく、且つ勉強になる。読み物として見た場合、第一章の勢いが後半までは続かない感じではあるが。

4.どのような人に推奨するか

 未知のウイルス、感染リスクとの闘いに興味がある人は読んで見るといいよ。医療は大変だ。

トルストイ / クロイツェル・ソナタ/悪魔

クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)

クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)

トルストイ / クロイツェル・ソナタ/悪魔 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 トルストイはまだ読んだことなかったのと、作品が短かったから(重要)。

2.内容

 原作は1890年前後ですか…。新潮文庫で、原卓也さんの翻訳です。お、ドストエフスキーの『賭博者』と同じ訳者ですね。
 性的欲望が人間を堕落させるというストイックな主義が色濃く出ている中編です。『クロイツェル・ソナタ』は、妻と間男(と言っていいのか…音楽友だち)の関係性を許せなくなったある男が妻を殺してしまった過去を語る話。ストーリーだけ書くとどうしようもない感じがするが、メインはこの男の語る心情や心の動きであって、その描写や感情がとにかく人間的で自分にも思い当たるようなところがあって、圧倒されるのですよ。現代日本且つ非キリスト教者の価値観ではうなずけない部分ももちろん多いが、その感情の機微は今の人間にも通じると思う。『悪魔』もまぁ広義に浮気とその葛藤に関する内容。最後に男は自殺してしまうわけだが、やはりその感情描写と葛藤が印象的。
 なお、クロイツェル・ソナタとはベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番の俗称らしい。これがものすごくカッコイイ曲で作品とも合っているので、是非BGMに流しながら読んでみて欲しい。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 トルストイさんすげぇ、、、ってなります。

4.どのような人に推奨するか

 嫉妬と色欲をテーマとして人間というものを緻密に描いた作品。感情のリアリスティックさを読んでいただきたい。中編なのでまぁ読みやすいはず。

ウィリアム・ゴールディング / 蠅の王 [新訳版]

ウィリアム・ゴールディング / 蠅の王 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 作品の名前だけは聞いたことあったので、世界の名作を読んでみようという試みです。

2.内容

 2017年、ハヤカワepi文庫からの新訳版。訳者は黒原敏行さん。原作は1954年で、作者は1983年にノーベル文学賞を受賞…と。なるほど。
 舞台説明が一切なくイキナリ無人島から始まる(後書きによると意図的に削られたらしいが、飛行機事故によるもの)、少年たちによるサバイバル生活。最初の頃は仲良く楽しく…でもないが…な生活が続くが、あくまで帰還を目的としてとにかく火(=狼煙)を絶やしたくないラルフと、無人島生活の質向上のため狩りと食事(+ラルフへの反発心)に熱を上げるジャックの対立が深まっていき、やがて決定的な決裂が生まれる。そして、異常な集団心理の中で発生する暴力と殺人。物語が後半に進むにしたがって、どんどん描写も黒く苛烈なものになっていく。前半の和やかで太陽燦燦な雰囲気はどこへやら。そこから唐突に、夢から覚めるかのような虚しい終劇。このエンディングがいいと思いますね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは名作。

4.どのような人に推奨するか

 究極状態に置かれたときに人間の思考と相互不信。そこから解放されて振り返った時の空虚さと後悔。そんな気持ちを体感できる作品。そんな感じのものを読んでみたければお勧めします。

Skeletal Remains / The Entombment of Chaos

アメリカのデスメタルバンドSkeletal Remains / The Entombment of Chaosをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 2016年の浅草デスフェストでもらったコンピCDに入ってた縁。新宿ディスクユニオンデスメタルコーナーで推されてたので購入しました(11.6)。

2.内容

 2020年リリースの4thフルアルバムで、Century Mediaからのリリース。手持ちの日本盤はDaymare Recordingsというところが出しているのかしら?日本盤なので2,500円+税です。多分輸入盤はもっと安いんだろうけど、急いでいたので輸入盤を探す気にはならんかった。まぁお布施ということでいいでしょう。ていうかCentury Mediaって大手さんだよね。そんなところからこんなゴリゴリのオールドスクールデスメタルでリリースできるってスゴイじゃんね。バンドは2011年結成と、まだまだお若い子たちです。
 音楽性は至極真っ当でキャッチー&ハイクオリティなオールドスクールデスメタルサウンドです。ブルータルに寄りすぎることもなく、リフと曲を大事にしている感じが伝わってくる。ObituaryとかIncantationとかMorbid Angelとかの「美味しい」部分を抽出して煮詰めたような荒々しく重厚な刻みリフ、基本的には疾走感のあるドラムが絡んでいく楽曲は、勢いがあってとても聞きやすい。プロダクションも非常に良好で、聞きやすくも黒く分厚い音作りはまさにデスメタル。名手Dan Swonoによるミックス・マスタリングというので納得。まさにあの音だすね。ボーカルワークもディープなグロウルで迫力十分。もちろんメロディックなギターソロも完備。ブックレットにはご丁寧に、ギターソロ担当者まで記載されているぞ!決して所謂メロディックデスではなくて、ほんとにストレートにデスメタルというしかない音を出しているんだが、耳を引くリフやソロが多く全体的な印象としてはメロディックな気さえするから不思議だね。
 メインはインスト含む10曲で、(イントロ1+曲4)*2で構成されたレコードのA面B面みたいなつくり。ボーナストラックはカバー1曲と本作楽曲のデモ2曲。カバー元を知らんので、違和感なく聞けてしまいますね…。デモはあってもなくてもいい感じだが、最近のバンドはもはやデモの時点で結構音質いいよなと思った。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 良い!

4.どのような人に推奨するか

 ドストレートでオールドスクールデスメタルを聞きたければこれじゃよ。かなり良いよ。

伊藤計劃 / ハーモニー [新版]

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃 / ハーモニー [新版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 1作目の『虐殺器官』が大変に面白く、これは2作目も読むしかないと思った。

2.内容

 2010年の2作目で、2014年にハヤカワ文庫(JA)から出版された新版。作者は2009年に亡くなっているので、没後に発刊されて殊になるね。表紙は赤いロングヘアの女の子。これがトァンちゃんだろうか。
 福祉/医療が高度に発達した近未来。あらゆる人間がWatchMeにより健康状態(というか恒常性と言うべきか)を監視され、平均的で健康的な・模範的で倫理的な大人になっている。画一化された世界。一方、恒常性が当てはまらない成長期の子供たちは、そんな社会に疎ましく思い、不健全さを目指し餓死を試みるわけだが…。
 まぁあらすじはいいんだ。とにかくこの作品はめちゃくちゃに面白かった。特徴の一つは全編にetml(Emotion in Text Markup Languageというマークアップ言語が使用されていること。タグで感情付けされた文章。 もちろんこの表現そのものには意味があって、その理由は最後まで読めば…このストーリーの語り部が誰で、読み手が誰なのかが分かれば…わかる。
 『虐殺器官』にも通じるある種の荒廃した世界観。実際に作中の時間軸は、『虐殺器官』と地続きになっているようである(前作を読んでいなくても問題にならない程度の繋がりなので、こっちから読んでも全然OK)。
 『虐殺器官』よりもキャラクターが明確で、よりエモーショナルである。作者インタビューによれば、とにかく綿密な世界観ありきでキャラ(人間)や感情はその後…とのことだが、全然そうは思えない。世界観がしっかりしているからこそ、そこに生きる人間にリアリティを持たせられているのではないだろうか。あと、中心となる3名(トァンちゃん・ミァハ ちゃん・キアンちゃん)名前が特徴的でカワイいので、単純に覚えやすく親しみやすい。  物語の終局まで読んで、改めてタイトルを見直す。。スラッシュが付いているってことは、閉じる方のタグ…。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 今まで読んだSFの中でも最上位レベルで面白かったです。

4.どのような人に推奨するか

 前作同様、テクノロジー・政治性・生死と意識といった要素が哲学的なテーマと絡み合ったエンターテインメント性の高い作品。ハヤカワの「百合SFフェア」にラインナップされるくらいには女の子が主役を張っているので、女の子が主人公の作品がいいなぁという人にも推奨。

Continuum / Designed Obsolescence

Designed Obsolescence

Designed Obsolescence

  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: MP3 ダウンロード

アメリカのデスメタルバンドContinuum / Designed Obsolescence のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 Deeds of Flesh人脈のバンドだと書いてあったので!あとレーベルもUnique leaderだったので。それだけ。

2.内容

 2019年にUnique Leaderからリリースされたセカンドアルバムであるらしい。Deeds of Flesh, Decrepit Birth, Brain Drill, Pathologyといったデスメタル界の猛者バンドを渡り歩いていた者たちが名を連ねている。さてその音楽性は非常に想定通りのテクニカルデスメタルである。ベースはDeeds of Fleshかなという感じで無機質無慈悲な刻みリフが複合拍子で展開されていくが、リフやその合間にメロディアスなギターフレーズやちょっとおどろおどろしい感じのハーモニーでオールドスクール味を出したり、ピロピロした高速リックやストップ&ゴーでテクニカルデスメタル的なアクセントをつけていくのがポイント。#4の表題曲なんかはメロディックブラックメタルみたいだ。総じて疾走パートは多いしブラストビートも多用するが、実際の疾走感はそこまで高くないかな。サウンドは極めて硬質クリアで非常に聞きやすいが、悪く言えば機械的で攻撃性が削がれているようにも思える。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 「地味だけどいい」ではなく、「いいけど地味」というニュアンスの感想になってしまいますね。。

4.どのような人に推奨するか

 先に挙げたようなデスメタルバンドやサウンドが好きな方かな。購入優先度はやや低いと思う(1stを見かけたら買うか迷うなぁ)。

遠田潤子 / 冬雷

冬雷 (創元推理文庫)

冬雷 (創元推理文庫)

遠田潤子 / 冬雷 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 お義父さんが今年読んだ本の中で大層面白かったとのことで、借りてきたんだよ。

2.内容

 2017年作、2020年4月に創元推理文庫より発刊されました。最近の作品やな!この作者の作品はこれが読むの初めてです。作品名は『冬雷(とうらい)』でいいのかな。
 確かに面白い。舞台は昔ながらの因襲に囚われた閉鎖的なムラ社会です。外部からの介入を拒否するこの村はある意味で町そのものが孤島・密室の類だと言っていいでしょう。『ひぐらしのなく頃に』の雛見沢です。あれですわ。神社・鷹匠などの一部のお家が大きな力を持っているという点も一緒ですね。とっても昭和感があります。外様である主人公(前原圭一くん的な)はそのムラ社会に巻き込まれ追い出されの犠牲者とも言えるわけですが、その彼こそが事件発生の原因でもあり、解決者でもあるわけですね。まぁ実際的な解決はそれを力技で成し遂げた龍くんだったりするんですが…。
 情緒的で感情表現に優れ、謎を提示しつつ興味を持続させるような話の組み立て方となっており、読ませる力は非常に強い。上記の背景もあって、かなりドロドロした近親者での人間関係が見られる。一方、ミステリー部分は論理的で鮮やかなトリックなどは特に出てこないし、それは主眼になっていない。とはいえ、それにしてもムラ社会特有の秘密主義が働きすぎなんだよなぁとは思った。サスペンス7割くらいだな。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 おもしろいですよ。なんか月曜夜11時とかのテレビドラマでやってそう。

4.どのような人に推奨するか

 本格ミステリーや推理好きよりは、人間ドラマやサスペンスが好きな人にお勧めします。