アーシュラ・K・ル・グィン / 闇の左手
- 作者:アーシュラ・K・ル・グィン
- 発売日: 1978/09/01
- メディア: 文庫
アーシュラ・K・ル・グィン / 闇の左手 のレビューです。
1.作品を選んだ理由
SFマガジン ハヤカワ文庫50周年記念号における、訳者本人(小尾芙佐さん)の思い出の作品としての紹介が切っ掛け。なお、ゲド戦記は原作も映画も未体験だ。
2.内容
原作は1969年で、本書は1977年にハヤカワ文庫入りしたもの。冒頭の通り、小尾芙佐さんの翻訳。橇を引く2人が氷の大地を歩き続ける表紙。読み終わった後に見ると、これいいなぁ。
ジョジョ7部でジャイロとジョニーがひたすら旅をしているシーン(ドロドロのコーヒーを飲んでたりするあたりね)が脳裏に浮かんだ。13章における収容所への収監に始まる2人の逃避行のシーンね。作者はこのシーンが最初に頭に浮かんだという。舞台となる惑星はそもそも寒く(地球基準でだが)、雪が吹き荒れている。特に冬の脱走者は看守がいなくとも自然が殺すのでOKとまでされている。そんな厳寒の世界で、ひとっこひとりいない氷河を最小の装備で渡っていく旅の描写と、その中で生まれる異星人間での友情というか愛情というか相互理解…というのがいいですね。
それがただのファンタジーだったらあまり面白くなかったかもしれない。本作は2名の主人公(アイとエストラーベン)の主観視点で主に進行されるが、いくつかの章では全く異なる民話や調査資料から世界観が語られる。序盤から作中内専門用語の連発でさっぱり単語の意味がわからないが、物語の進行といくつかの挿話を経て「発情期にのみ性別の発生と性的行為が行われる両性具有の人々が暮らす世界」の世界観が少しずつ分かってくる。舞台中では異星人という位置づけである地球人のアイがこの世界を理解していくように。この両性具有人と地球人(単性人)の差異と交流というテーマだけでも十分に語りがいの思考実験になっていると思う。面白いです。
ちなみに16章(エストラーベンの日記)内の太字タイトルはこの星における暦(月日)を表しています。最初人名かなにかかと思って意味が分からなかった。というかエストラーベンの日記であることすら分からんかったぜ…。2周目読んだらこの辺の単語の意味が分かったうえで読めるから、また違った感覚で読めそう。
3.感想/評価(★の5段階)
★★★★★
これは確かに名作かも。
4.どのような人に推奨するか
世界観と単語を理解するまでは読みづらいと思うが、登場人物は少なくストーリーは分かりやすい。ハードウェア的なテクノロジーに突っ込んだ作品ではなく、哲学的な思索の方にポイントがあると思いますので、そういう作品が好きな方に推奨します。