めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

小川哲 / ゲームの王国(上・下)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

小川哲 / ゲームの王国 のレビューです。文庫で上下巻ですが、まとめて扱います。

1.作品を選んだ理由

 最初に興味を持ったのは書店の陳列で、1作目『ユートロニカのこちら側』を読んでこの作者なら信頼してよかろうと上下巻を一気に購入。

2.内容

 2017年に早川書房より刊行され、2019年にハヤカワ文庫JAから文庫化。帯によると、第38回日本SF大賞受賞、第31回山本周五郎賞受賞と、名誉ある賞に名を連ねている。実際読んでみて、それだけの価値のある大作/傑作と感じました。
 時代はクメールルージュ政権下のカンボジア。知らなくても描写されるからわかるけど、前提としてポルポトが目指そうとした極端な原始共産主義とその政策を知っておいた方が楽しめるかも。そんなカンボジアに生まれ育った2人の天才、少年ムイタックと少女ソリヤ。この二人の能力と天才性が上巻のSF性を担っていると言える(あと、輪ゴムで人の死を占う少年とか…)が、それ以外は徹底的に凄絶なカンボジアの光景が描かれる。上巻のラストの興奮と緊張感、下巻への期待感は凄かった。
 …からの下巻。裏表紙に書いてあるからネタバレにはならんやろと思いつつ、あまり詳しくは書きたくない。が、とにかく上下巻に分けた意味は、明確に感じられる構成である。上巻を下敷きによりSF的に発展した世界が描かれる。ここで一つの中心になるのは、思考・脳波を入力装置として利用されるアクションゲーム。このゲームをクリアするためには、そのクリア条件を満たす動作をゲーム内でさせる=ある特定の思考をしなくてはならない。そんなゲームの目的と、これがもたらす結果とは。
 前作『ユートロニカのこちら側』で不足していたキャラの魅力が完全に補われている。情緒的で感興をそそるが、それでいて現実の歴史を踏まえた世界観とその描写も大変強固で、本当にあったお話に思えるリアリティがある。凄い作品ですわ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これすごい好きです。

4.どのような人に推奨するか

 歴史上の悪政、それによる極限状態と人間の死、2人の天才の邂逅、人間の思考とコントロール。そんな感じのキーワードが浮かびます。The SFな宇宙感とかテクノロジーは出てこないので、SFかどうか云々は置いといてエンターテインメント小説として非常に面白い。歴史好きにもおススメ。「読んだらなんかお利口になった気がする感」はめっちゃあります(←勘違いだとしても)。