めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ドナルドキーン / 思い出の作家たち

ドナルドキーン / 思い出の作家たち のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 タイトル買いというかコンセプト買い。谷崎・川端・三島・安部・司馬の5人をキーン先生が語るというのだから…。

2.内容

 作品自体は2006年頃に発行された新潮文庫だが、これまでに雑誌などに寄稿されたいくつかの紹介文などを統合した決定稿ということならしい。ドナルドキーン先生が自身と谷崎・川端・三島・安部・司馬の5人との出会いや関わり、作品への思い入れを語るというエッセイ集。谷崎・川端は年齢差の関係もあろうか、やや距離を置いた作品評に近い書き方なのに対して、残り3人はより近い距離感での関係性も語られる。各作品は結構しっかり解説してくれるので、未読の作品を手に取ってみたくなる。ジープの揺れる後部座席で『細雪』をむさぼり読んで感動するところが好きだ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 作者の人となりや作品への思いなどが見えてくるのが良い。記録的な意味合いでも価値あるエッセイだと思います。

4.どのような人に推奨するか

 日本文学/文学評論好き向けかな。表題の5作家に興味がある方なら読んでみてもいいのではないかしら。

プーシキン / スペードのクイーン・ベールキン物語

プーシキン / スペードのクイーン・ベールキン物語 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の本棚から。最近買ってたやつ。直接のきっかけはQuizKnockで『スペードのクイーン』が出てきたからかな?

2.内容

 18世紀ロシアの文学者、プーシキンによる短編集。2015年光文社古典新訳文庫から、望月哲夫さん訳で発刊された。作者本人も相当な賭博キチだったこと、『寝取られ騎士』の汚名を返上すべく血統を挑むが敗れて37歳で亡くなったことなどを加味して読むとより面白い。やや幻想/ファンタジーを含んだ寓話的な小品散文小説集。『スペードのクイーン』で必ず賭けに勝つ魔法のカードをおばあちゃんがヴィジェ=ルブランに書いてもらった絵を持ってたりして、あぁ同時代人かぁと別の角度で感心したりした。皮肉的でアンハッピーなストーリーがいい感じ。『ベールキン物語』はなぜベールキン氏という架空の人物に語らせたのか不思議だが、中身は一つ一つが訓話めいていて、それでいてやや喜劇的だったり悲劇的だったりの方向付けが為されている。『百姓貴族』なんてわかりやすく喜劇的だね。光文社古典新訳によくある豊富な解説(60ページほどある)は作品背景を知るうえで有用だが、「スペードのクイーンで勝ち札がなぜ3-7-Aなのか」だったりの下りに結構な分量が割かれている。そんなに考察しがいがあるんかこれは…

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 まぁまぁ。

4.どのような人に推奨するか

 ロシア文学好きというか、ドストエフスキーが読める人なら。あれよりもっとカジュアルでポップだと思うが、やっぱり皮肉的な雰囲気はあるよな。

朝井リョウ / 何者

何者(新潮文庫)

何者(新潮文庫)

朝井リョウ / 何者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋でエッセイを立ち読みして、面白い文を書く人だと思った。そのエッセイを買わずに、こちらを買ってみた。

2.内容

 2013年に直木賞を受賞した作品の新潮文庫版。執筆当時23歳くらいじゃない?うーん若い。そんな年代らしくテーマは就職活動とSNSの表裏/虚実(どー見てもTwitter)。作中の登場人物の一人は就職活動でOB訪問を繰り返しまくったり、名刺(大学生なのに…)を作ったりで自分を飾り、それでいて自分語りに過ぎる性格でグループワークや面接に受からず空回り。あなた(読者)はそんな子のことを冷笑するだろうか?主人公は冷笑する。基本的に主人公の一人称で書かれていることもあり、その点で主人公と読者はシンクロする部分があると思うが、その姿勢は物語後半で確実に刺されることになる。そこが本編の最高潮だと思った。自分はTwitterで裏垢を作ろうとは全然思わんし、自分自身で語れることしか発信しないつもりであるので、その点は共感しないがね。2013年ではあるけど、あぁこれがコンテンポラリーな小説なんだなぁと思った。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 スピード感のある文章と、後半で心を抉る描写を評価。

4.どのような人に推奨するか

 SNS時代を生きる学生向け。リクナビマイナビに侵された退屈な就活経験者には特にくるものがあるのでは。

ロバート・A・ハインライン / 月は無慈悲な夜の女王

ロバート・A・ハインライン / 月は無慈悲な夜の女王 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 『夏への扉』に続く2作目、アメリカ3大SF作家へのチャレンジ。

2.内容

 まぁとりあえずタイトルがクソカッコいいよな。現代は『The Moon is a Harsh Mistress』で割と直訳なわけだが、語呂が良すぎる。原作は1966年で、1976年にハヤカワ文庫より発売されたらしい(この版自体は2010年)。こちらは月が植民地と言うか、どうも流刑地のような扱いで、数少ない(と言っても300万人いる)月世界人たちが地球人の管理化で暮らしている。そんな中で、技師のマニーと自律するスーパーコンピューターのマイクくんが地球世界に反旗を翻す。このマイク君がユーモラスでありながらも、特に情報戦において通信/情報の改ざんはお手の物と、めちゃくちゃに強い。一方でコミュニケートが電話機ベースだったり入出力が紙ベースだったりするところが現代からすると不思議だが、SF作家は特にこの点を進化するものとは考えなかったようである。月の独立記念日アメリカ独立(1776.7.4)の300年後だったりするのもアメリカンな感じがする。700弱のページ数には圧倒されるが、登場人物は多くないし、話の筋も難しいことはないので、まぁのったり読むといいね。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 『夏への扉』は結構ラブロマンスな側面があったんだけど、こちらは基本的に恋愛要素のないハードボイルドな世界観で、それがいい。コンピュータ マイク君とのとの友情もいい感じ。

4.どのような人に推奨するか

 コンピュータサイエンス、月の独立戦争と言ったキーワードで面白そうと思う方。かなりの長編なので、もう少し短い作品でSFを読みなれてからの方がいいのかもしれない。

Bloodred Hourglass / Heal

フィンランドメロディックデスメタルバンドBloodred Hourglass / Heal をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 久しぶりにディスクユニオンに行ったらなんか欲しくて。名前聞いたことあり且つやや興味のあったこのバンドを買ってみた。

2.内容

 2017年、手持ちは日本盤でward recordsからのリリース。2曲のボーナストラックと対訳解説付き日本盤で1,800円は安いよねぇ。Wardさんエライ。久しくメロディックデスは買っていないが、フィンランドのメロディックデスと言えばChildren of BodomやKalmahなんかが思い浮かぶわけだが、クラシカルな旋律が舞い踊るハイテンションなメロデスではなく異なり、かなりリフオリエンテッドな楽曲づくり。メロディは比較的ゆったりと流れ、リフ及び曲の構成要素の1つに収まっているといったところ。帯には「疾走するドラムにスラッシーなギターリフ」とあるが、ミドルテンポでどっしりと構えたリズムの曲が結構ありますので、想定したメロデスものとはちょっと違った。悪く言えば地味。どちらかと言えば、Borknagarとかのエピックなメタルがややノリが良くなった、くらいの感触で聞くといいかもしれませんな。クサメロ派には物足りないかもしれないが、そんな中#7 Times We Hadは疾走&トレモロリフの前のめりなメロディックデスをやっていて、なかなか良い。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 地味かもだけど、結構好き。これくらいのメロディ感がイイのかもしれん。

4.どのような人に推奨するか

 Children of BodomDark Tranquillityでいえば初期ではなく後期作品に近い、リフ中心+ミドル主体のメロディックデスです。好きな方に。

三浦しをん / 舟を編む

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

三浦しをん / 舟を編む のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 巷で評価されている本を読んでみようの巻。デビュー作の『格闘するものに○』は読んだ。

2.内容

 女性誌(Classy)に連載されていたものが単行本となり、2012年の本屋大賞を受賞した。本作は光文社文庫からの文庫リリース。「辞書を編纂する物語」というテーマに魅かれた部分は大きい。辞書作りパートや言葉の定義を説明するパート、教授から出てきた西行の説明を直しちゃうパートなんかはとても良かった。尖った才能を持つ変人でありながら、それを仕事で認められ、偶然をきっかけにして美人の妻まで得てしまう主人公のマジメくんは正直鼻もちならん。この恋愛パートの甘ったるさよ…。仕事面では、本気になれないことに悩む西岡や、他部署からの異動でスキルとやる気のギャップを感じる岸辺の方がよほど共感できる。各章で視点が入れ替わり、そういう子たちをちゃんと書いてくれるのは好印象だし、みんな報われる瞬間が合って良かったねと思う。みんなマジメくんに感化されて幸せENDみたいなのはどうかなーとも思うが、まぁそういう幸せなお話でもいいんじゃないでしょうか。キャラが立ったメンバーによる、緩めの山あり谷あり奮闘記。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 辞書作りパートは面白いし、文章表現も良い。後はキャラクターが合うか次第かな。自分はサブキャラが好き。

4.どのような人に推奨するか

 言葉・日本語が好きな人全般、仕事・恋愛テーマの作品でもOKな人。

津村記久子 / ポトスライムの船

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

津村記久子 / ポトスライムの船 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 芥川賞ということで名前は存じておった。偶々本屋で目に入ったので、読んでみたよ。本ブログのタイトル元ネタだよ。

2.内容

 2009年の芥川賞受賞作。本書は『ポトスライムの船』『十二月の窓辺』の2中編を含む講談社文庫版。400円って安。『ポトスライムの船』って、ポトス/ライムだったんやな…ポト/スライムだと思ってたよ(あほ)。時間を切り売りして特に目的もなく働く主人公が世界一周旅行=年収を貯めてやろうと思うところから始まる話。なんというか、お金を貯める日々で特筆すべきことが発生しない。いや、本人が倒れたりする事件はあるんだけど、それすら淡々と描かれる感じ。『十二月の窓辺』は作者の実体験が入ってるのか、職場でお局に罵倒される主人公が不憫でツラい…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 うーん、あんまり良さが分からず。解説では文学的な技巧の高さが際立っているとのことだが、素人には何とも。

4.どのような人に推奨するか

 作者は会社勤めをしながら書いていたこともあり、2作とも会社が舞台。どちらかと言えば、会社勤めで働く人にフィットするのではないかな。

吉本ばなな / キッチン

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

吉本ばなな / キッチン のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦によるPart2。『TSUGUMI』の後にこっちを読んでいる。

2.内容

 原作は1987年…生まれた頃だなぁ。めちゃくちゃ売れたらしいですね。手持ちは新潮文庫。本作はキッチン・キッチン2の2編と別短編Moonlight Shadowから成っている。
 『TSUGUMI』同様にテーマには死の影がある。こちらはより直接的に死者が主人公たちの人生を変えてしまうわけだが…。祖母を亡くし天涯孤独となった主人公みかげが、なんやかんやあって同大学に通う雄一と同居する(もともとお母さんとの二人暮らしなので、三人暮らしになる)という展開。キッチン2ではそのお母さんも亡くなってしまい、いよいよ失意の深まる2人はそれでも恋仲というわけでもなく、一方で周りから見れば恋仲でもないのに同居しているという点を奇異の目で見られることになる。雄一を好きな後輩がみかげに突撃するあたりの修羅場感はなかなか。表現力が良かった。あと、おいしいカツ丼を食べたくなる効果がありますね。Moonlight..の方はあんまり印象がない。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 これもなかなか。

4.どのような人に推奨するか

 描写は昭和だけどオールタイムで読める小説ではないだろうか。どうだろうか?やはり死がテーマにあるのがポイント。

吉本ばなな / TSUGUMI

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

吉本ばなな / TSUGUMI のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦による。

2.内容

 原作は1989年…平成元年ですね。中公文庫でのリリース。当時の山本周五郎賞を受賞している。青春小説と言っていいのだろうが、「郷愁」と「死」が大きなテーマとして存在しているように感じた。タイトルにもなっているツグミは「歯に衣着せぬ乱暴な物言いをするいたずら好きで病弱な美少女」といった描写で、なんともモリモリな設定であるが、このツグミのキャラクターがカワイイ!と言うのが最初の感想。一方でその病弱さからどこか自分の生をあきらめているような節がある。自分は比較的健康体で生きてきた人間なのだが、特に幼少期病弱だった妻にはわかり味があるようである。都会に出て暮らしながらもかつて住んでいた田舎町への憧憬が常にある私(まりあ)と、一方でその病弱さゆえに島から出たこともないつぐみの対比。キャラクターのよさと軽やかな筆致、そして所謂青春小説とはやや異なるほの暗い雰囲気がとても良かった。漫画だけど『こどものおもちゃ』の小花美穂さんのダークな側面をほうふつとさせるというか…。作者はカポーティが好きで、自身の作品のテーマには常に「死」がある、というようなことを解説で読んで、得心した。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これはよかった。ちゃんと記憶に残る読書だった。

4.どのような人に推奨するか

 ばなな氏と言えば『キッチン』が有名だが、こっちのが好きかな。少女漫画的にライトにも読めます。

池井戸潤 / 民王

民王 (文春文庫)

民王 (文春文庫)

池井戸潤 / 民王 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 池井戸潤は面白い。息詰まる長編もいいが、ちょっとライトなものを読みたくてこれをチョイス。

2.内容

 原作は2010年発表で、手持ちの文春文庫は2013年刊行。総理大臣とその息子が「俺たち…入れ替わってるーっ!?」ってなる政治エンターテインメント。ほんとにそれだけ。その入れ替わり方は完全にSF的だが、それ以外の描写やキャラクターの心情は真に迫るリアリティがあって大変良い。いや政治家になったことはないのだけれど。総理大臣in息子が国会の場で誰もが思うような正論をぶちまけ、一方では息子in総理大臣は就職活動の面接で居丈高な面接官にこれまた強気な大言壮語を吐き、入れ替わっているにも関わらず相手をやりこめる様は大変に痛快。理想のない現実論はつまらない思考停止。もっと理想論を追求した方がイイよね。テーマは政治だけど、政権批判や政治風刺の色は強くない。むしろこれを読んで反省すべきは一市民側である参政者やマスコミだと思える。そこがイイ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは面白いですよ。

4.どのような人に推奨するか

 先述の通り政権批判や政治風刺は少ないので、楽しく読める、しかし心に残る政治エンターテインメントになっていると思います。

フィリップ・K・ディック / アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

フィリップ・K・ディック / アンドロイドは電気羊の夢を見るか? のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 その特徴的なタイトルはかねがね聞いていたが、読んだことが無かった。本屋で見かけてこの際読んでみようと。映画『ブレードランナー』の原作だが、かなり話の内容は異なっているらしい。

2.内容

 ハヤカワ文庫SFからのリリース。浅倉久志訳。原作は1968年。最終戦争により徹底的に核汚染されほとんどの生物が死に絶えた地球、その中で生き残る人類(生殖が許されたレギュラーと、人非人扱いのスペシャル)、絶滅危惧の生きた動物と、それを模したペットとしての模造動物、そして模造人間とも言える記憶も感情も持ち合わせたアンドロイド。なんというか、「人々はその世界が当たり前のように生活している」感がイイよね。
 話の筋そのものは警察官で賞金稼ぎのリック(人間)がお尋ね者のアンドロイドを追跡・殺害する話なのだが、高度にSF化されたこの世界において正直だれが人間で誰がアンドロイドなのか分からなくなってくる。と言うかどちらも人間でありアンドロイドであり、差なんてないんじゃないのと思ってしまう。「感情移入できないヤツ=アンドロイド」という判別方法があり、確かに無感情に蜘蛛の足を引きちぎるシーンでは違和感を覚えるが、一方で共感ボックスで感情をコントロールしている人間側も「感情」という点では信頼がおけない状態が常態化しているように思うのだが…。あと、度々出てくる電気動物はかわいいね。オチはそれでいいのか?っていうくらいあっさり終わる。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 読みながら、あるいは読んだ後の「人間とは何か」な思考も楽しい一冊。

4.どのような人に推奨するか

 純粋にSFでありつつ、人間への問いかけもある一冊なので、そういった思索が好きな人に勧める。

トニー・ペロテット / 古代オリンピック 全裸の祭典

トニー・ペロテット / 古代オリンピック 全裸の祭典 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋でタイトル買い。まぁ東京オリンピックイヤーだから…という理由が大半だな(この本を買った後にオリンピックが延期になったわけだが)。

2.内容

 2004年作『驚異の古代オリンピック』を2020年に河出文庫から文庫化したもの。訳者は矢羽野薫さん。2004年はアテネオリンピックの年、古代オリンピックと言えばギリシアアテネなので、やっぱりオリンピック需要で書かれた本なんだろうか。
 作者は研究者ではなくジャーナリスト。この本の性格はそれを反映したものになっていて、もちろん古代オリンピックとは何かとか、成り立ちとかの基本は抑えつつも、イマジナリーな紀行文(言い方を変えればやや妄想)として書かれているパートが非常に多い。そこは好みが分かれるところかもしれないかな。「まるで見てきたように書いてるなぁ」と思ってしまった部分もある。ただ、これはそういうスタイルの本というだけで、当時のオリンピックを紙面上に再現して身近に感じさせるという意味では別に間違った姿勢でもないだろう。神話との関連性や近代オリンピックとの関連性なども語られ、なかなか勉強になる。当たり前だけど「近代五種」って、「古代五種」になぞらえたものだったんだね…何が近代なんだろうとか思ってたわ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 と言うように、なかなか勉強になる。よかった。

4.どのような人に推奨するか

 古代ギリシアの神話・歴史好き向けです。

三島由紀夫 / 夏子の冒険

夏子の冒険 (角川文庫)

夏子の冒険 (角川文庫)

三島由紀夫 / 夏子の冒険 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の本棚シリーズ。

2.内容

 原作は1951年で、手持ちは角川文庫からのもの。三島にしては…という言い方が正しいのかわからんが、北海道の熊退治をめぐる冒険譚、その熊退治を志す井田青年と気位の高いイイトコのお嬢さん夏子の恋模様が中心で、表現も文体も極めて読みやすい部類に入る。数ページ単位で全30章に分割されているのも、なんだか連続テレビ小説ドラマみたいな感じ。当時の発表形体知らないんだけど、連載モノっぽいですよね。女性誌に載ってそう(偏見)。夏子を心配する家族たちの奔走はコメディタッチで描かれており、全体的にはかなりライトな雰囲気。一方で人間の肉体表現がどうにも艶めかしかったり、迫りくる熊の恐怖が克明な描写だったりに、あぁやはり史の作品だなとも思う。オチも良い。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 まぁまぁ。漫画みたい。

4.どのような人に推奨するか

 三島由紀夫の1作目には勧めないが、氏のライトな作品を読んでみたい人に。

小松左京 / 復活の日

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)

小松左京 / 復活の日 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ここ最近のコロナ騒ぎで話題図書になってたので買ってみた。

2.内容

 1964年作で、本書は2018年に角川文庫から文庫化。内容はポストアポカリプスモノというか…人類滅亡及び人類滅亡後の世界が舞台。致死率が極めて高く感染力も異常に強いウイルスが蔓延し人類を絶滅させる…ウイルスが唯一到達しなかった南極を除いて。
 前半はやや冗長に感じるところもあった(科学的なパートはやや飛ばし読み)が、徐々に日常がウイルスに浸食されつつも誰もそれと気づかない、そして気づいたときにはどうしようもないところまで来ているという、作中中盤5月~6月の描写あたりから一気にのめりこんでいった。そして南極に残された全人類1万人による生存戦略と、前史(人類滅亡以前)の置き土産である核システムをめぐる対応、そしてタイトルにある「復活の日」まではあっという間。
 これが1964年!?書いたときの年齢も30代前半だろうに、この知識量と筆致はスゴイ。いや、科学的に正しいかは検証してないから知らないんだけど、リアリティと説得力を感じさせるだけの描写が為されている。そして、ここに描写されている人間の姿は、現代のコロナ騒ぎとも確実にリンクできるものと思う。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 うーんこれはスゴイ。

4.どのような人に推奨するか

 このご時世ですので、万人が読んでどうぞ。

岡嶋裕史 / アップル、グーグル、マイクロソフト

岡嶋裕史 / アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争の行方 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ちょっと前に読んだ同作者のブロックチェーン入門本が大変わかりやすかったので、作者を信用した。テーマ的にも面白そうだったし。

2.内容

 2010年に光文社新書から刊行。iPadAndroid OSがぼちぼち出始めた頃の本であるという背景は、2020年の今に読む上で抑えておく必要がありますね。表題の各社が展開するクラウドサービスとクラウドに対するスタンス・戦略と未来予想をしています。マイクロソフトは元来オンプレミスの覇者であり、その延長としてのクラウドサービス。グーグルは根本的に「すべての情報を整理する」という方針があって、これを実現するための手段としてのクラウド。アップルは元来この領域に居場所はなかったものの、iPodiTunesに始まるアカウントとサブスクリプションの管理からiPhone/iPadといったデバイスの拡大させ、クラウドクラウドと意識させないままサービスとして利用させるクラウド。なるほど三社三様という気がしてくる。2020年の今でもこの感覚は間違ってないんじゃないかな。ちなみに、AWSはここではサーバサービスっぽい感じなので除かれています。Kindleとかはあるけどね。
 一番面白かったのは、Googleのデータセンターは雨ざらしのコンテナというところ。物量と分散配置で冗長性を担保し、ハードウェアそのものは重用しないという考え方。Googleさんの規模だからできるという話でもあるが、なるほどなと思った。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 面白い。2010年の本なのでというエクスキューズは必要。2020年版を読んでみたいです。

4.どのような人に推奨するか

 情報システムに携わっている人や、クラウドサービスに興味がある普通の人。(10年前の本だし、ガチ勢は読まなくていいでしょう)