めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

大江健三郎 / 新しい文学のために

新しい文学のために (岩波新書)

新しい文学のために (岩波新書)

大江健三郎 / 新しい文学のために のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 一橋大学のKODAIRA祭で、書籍の無料配布をしているサークルがあったので、もらってきた!

2.内容

 1988年、岩波新書。ギリギリ昭和でまだ冷戦下、氏がノーベル文学賞を受賞する前の作品。「これから積極的に小説や詩を読み、あるいは書こうとする若い人のための文学入門」であるとされている。

 内容は、難しいです。文学を読み・解釈し・受け止める、あるいは書き・表現し・伝えることに関する方法論・概念論を全16節に渡って語る内容となっていて、所謂「文学理論」。受験期の論説文読解を思い出すなぁ。自分は"書き手"ではないので、読み手としてなるほどと思った箇所のみ紹介してみたいと思う。

工夫の目的は、ありふれた日常的な言葉の、汚れ・倉びれをいかに洗い流し、仕立て直して、その言葉を、人間が今発見したばかりででもあるかのように新しくすること。いかに見慣れない、不思議なものとするか、ということだ。すなわちそれが、言葉を「異化」することである。

 ここでは俵万智の『サラダ記念日』を例に挙げていたが、現代では文学に限らずこういった言葉の再構築ってある気がする。語感だけを目的として全然違う意味でつかわれるケースが多いかもしれないけど。マジ卍的な。 

新しく読む本について、誰もが「期待の地平」を抱き、読みながら、ほとんど自然派生的に、批評の言葉を湧き起らせる。その批評の成立には、眼の前の本との比較の対象があるはずで、それを読む中心軸をなすモデル、とみなすのである。~しかもそのモデルは、次々に読む新しい本から受けとめるものを重ね塗りして、複雑化され、多層的になってゆく。

 これは、読み手としての自分に今まさに発生しかけていることだなぁ。

 と、ほんの一部だが、こんな感じの内容。論展開において様々な作品に言及されるが、その中でもディケンズドストエフスキーは読んでみたくなったな。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 本そのものではなく、自身の理解力によるものだと考えているが、この手の文学論の書籍を読むのは初めてで、なかなか通読が大変な本だった。あと、読点やダッシュ「―」が頻出するのでちょっと読みづらかったという話もある。

4.どのような人に推奨するか

 読書をする人ならだれでも読んでみてよいと思える本。ただ、書く上での方法論も多いので、物書きの人により推奨、かな。

栗山恭直,東京エレクトロン / 世界でいちばん素敵な元素の教室

世界でいちばん素敵な教室シリーズより、『世界でいちばん素敵な元素の教室』のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 最初に本屋で見たのがこの『元素』だったのだが、ようやく買ったぞ。

2.内容

 2017年、三才ブックスの世界でいちばん素敵な教室シリーズ。今回は元素ということで、全118元素を美麗な写真やカワイイイラストで紹介してくれている。

 元素番号順の紹介となっており、発見年・原子量・融沸点・密度等のパラメータに加え、名前の由来や発見時のエピソード、素朴な疑問への回答などの付加情報、そして綺麗な写真をつけてお届けしている。常温で固体のもの(鉱物・金属類)は単体で写真に収められているケースが多いが、そうでないものは、元素を含む化合物や、元素が含まれる一般的な物体(バナジウム⇒ベニテングダケにあるらしい)などの写真があったりする。

 個人的には名前の由来が凄く楽しい。どれも名付けに捻りや発見までの紆余曲折が見えておもしろいのだが、一番オシャレなのは、16族原子番号34番「セレン」の由来。元素周期表で同じ16族に属する、原子番号52番のテルル(ラテン語で「地球」)の上にあるから、月の女神であるセレンの名を冠するという異常なオサレぶり。こういうエピソードめっちゃ好き。

 内容的には原子番号30番くらいまでで本の半分くらいを占める。後半100番台くらいからは人工元素が多くて、あまり日常でのエピソードがないからか、1ページに3~4元素がまとめて紹介されている。逆に若い番号の元素は写真の扱いも大きい。毎ページ元素周期表が載っていて、「この元素は周期表のココ」が判るのは地味に嬉しい構成。周期表ってよくできてるなー。

 学問として学ぶことに特化した本ではない。化学式や専門用語は出てこないし、特段情報量が多いというわけではない。ただし、ページ間に挿入された情報(元素とは何か、陽子・中性子・電子、元素周期表、貴ガス、アルカリ金属などの説明)で基本的なところは抑えているし、「まったく知らない方でも大丈夫」のコンセプトなのでバッチリOK。とはいえ、本書に書いてあること全部覚えてたら、その人は結構スゴイと思うけど…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 良本。もう一段踏み込んだ元素の本も読みたくなってくるね。

4.どのような人に推奨するか

 元素に入門したい人(っているのか?)。文章量も少なめで、綺麗な写真と併せて気軽に読めるので、理科嫌いの人にも楽しめると思うがいかがかな。

Aborted / Goremageddon:The Saw and The Carnage Done

Goremageddon: the Saw and the Carnage Done/Special Edition

Goremageddon: the Saw and the Carnage Done/Special Edition

ベルギーのデスメタルバンド Aborted / Goremageddon:The Saw and The Carnage Doneをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 何度か見たことあったけど、ゴア系だと思って嫌いなので避けていた。今回チャレンジ。ジャケもそんなに怖くないし。

2.内容

 2003年リリースの2ndフル。これはEP "The Haematobic"の2曲とCarcassのカバー1曲を含めて2009年にListenable Recordsから再発されたやつ。クレジットに録音時のラインナップとリリース時のラインナップが載っているが、1人を除いて全員メンバー変わっているのか…

 Gore-mageddonという造語タイトルが最高にアホっぽいものの、やっている内容は意外にも極めて高品質でオーセンティックなデスメタル。非常にクリアでデスラッシュ的な切れ味を持つギターは、デスメタル且つスラッシュメタル的な雰囲気が強い。ゴア感は少ない。ドラムは、SoilworkMegadethへの参加で知られるDirk Verbeurenなのだね。高速ブラストをかましつつも極めてタイトで、シンバルを駆使してフレーズを特徴づけるのが上手い。ボーカルは低音でのガテラルヴォイスから咆哮気味のシャウトボイスを使い分けているが、サウンド的には少し埋もれ気味かも。EP2曲の方がドスが効いていて、ブルデス的にはこっちの方がいい感じ。

 やっていることは結構オールドスクールで、緩急のついたリズムとザクザクとしたリフを中心に構成されたストレートなデスメタル作品。メロディ感のあるギターフレーズもそこそこに登場し、音質も相まって非常に聞きやすい。近い作品は、カバーもしているCarcassの復活作"Surgical Steel"かな(Carcassの方が後だけど)。本作収録の"Carnal Forge"もかなりハマっていて好感度の高いCarcassカバー。ただ、ギターソロの色気は全然本家には及ばないが…マイケル・アモットってすごいんだなぁとか思ってしまった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 聞きやすい!

4.どのような人に推奨するか

 非常に聞きやすいデスメタルなので、初心者にもおススメ。怖いSEとかもないよ。

体験記:ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代(国立西洋美術館)

体験記シリーズ。国立西洋美術館の「ル・コルビュジエ展」に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 GW10連休の美術館目標の1つ。建築家には明るくないが、著名且つ国立西洋美術館の設計者であることは知っていたので、見に行ってみた。

2.内容

 コルビュジエは20世紀前半に活躍したフランスの建築家で、世界三大建築家と呼ばれる1人。その彼が"Purism"(順隋主義)という活動に傾倒した時期の作品を中心とした展示。

 普段の国立西洋美術館における企画展との一番大きな違いは、地下の企画展エリアではなく2Fの常設展エリアを使っていること。地下にいるよりも、彼が提唱した「近代建築の五原則」の要素(特に、自由な平面と連続的な窓)や、螺旋形に成長できる国立西洋美術館の設計コンセプトを強く感じることができるので、この趣向は正解。

 ピュリズム時期(ピカソ等に代表されるキュビスムに似ている気がするが、こちらは静物・工業品などの構造物の美しさにフォーカスしているようだ)の絵画作品は多数展示されていた。同志であったアメデ・オザンファンやその他にもジョルジュ・ブラック等の作品があった。画家デザインだけでなく、絵も描く人だったんだね。仕事としてではないにしろ、晩年までずっと絵は描き続けていたらしい。

 とはいえ、やはり心惹かれるのは建築。世界文化遺産となっているサヴォワヴァイセンホフ・ジードルングの住宅の模型では五原則を端的・忠実に表現した建築物の姿を見ることができる。工業的・無機質・直線的なデザインがなんとも美しい。物凄い意匠を凝らした絢爛豪華な建築物より、私はこっちの方が好きだな。
 他にも、コルビュジエデザインの椅子なんかも展示されていて、これも非常に現代的にスタイリッシュな椅子となっていて、感動した。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 国立西洋美術館そのものとのコンビネーションが素晴らしい展示だった。気に入ったのでお土産にトートバッグも買ったよ。

4.どのような人に推奨するか

 国立西洋美術館が好きな人は、ル・コルビュジエのことも知るともっと楽しくなると思うよ。私はもっとコルビュジエについて詳しく知りたくなったので、本を買おうと思う。

Ex.ギャラリー

入口すぐのところは撮影OK。採光が綺麗。

宮本昌幸 / 図解・鉄道の科学

図解・鉄道の科学―安全・快適・高速・省エネ運転のしくみ (ブルーバックス)

図解・鉄道の科学―安全・快適・高速・省エネ運転のしくみ (ブルーバックス)

宮本昌幸 / 図解・鉄道の科学 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 講談社ブルーバックスが好きなので、その中で興味を持ったこのタイトルをセレクト。

2.内容

 2006年作、講談社ブルーバックスより。電車・新幹線を構成する各要素が持つ課題とそれを解消するためのソリューションを、主として物理科学的な見地から解説する書籍となっている。「図解」とあり、確かに図は多く挿入されているのだが、物理の教科書にあるような力学的な構造を示す概念図やグラフが7割、残り3割が実際に各パーツの写真などが納められている。

 内容自体は興味深い!車輪とレールの仕組み。高速移動で発生する振動・騒音の問題や、車体の気圧・換気など、快適さに与する設計。架線とパンタグラフによる送電…ここが特に面白いのだが、安定して効率のよい送電を行うかの工夫のために、いくつもの設計要素がある。トロリー線(路線内に吊られている送電線のこと)の釣り方、パンタグラフによる押上げ(あるいは引っ掛け)方、電流の流し方(鉄道変電所から電車内に送られた電気はレールや吸い上げ機を通じて変電所に帰っていく!)。さらに、後の章になるがブレーキより生じるエネルギーを電気変換し他車両に送る(回生ブレーキという)仕組みなど、速度や安全性だけでなく、資源の再利用まで考えた省エネ設計がすさまじい。実際、N700系新幹線では、初代0系に比べて速度が50km/h上がっているのに、エネルギー消費は3割近く減じているということである。

 あとは安全への取り組みとブレーキの設計。電車は同一レール上を複数車両が高速に走っているが、自動車と違って自発的な障害物回避などはできない一方、エネルギー効率のよい車輪とその速度により制動距離(ブレーキ後機体が完全停止するまでに進んでしまう距離)は長いことから、車間距離の確保が非常に重要。しかし急ブレーキは乗客への危険性・乗り心地低下につながることから、一定区間で前車両との距離を測るための信号や自動原則装置などがあったりするという。

 とにかくこういった話題が満載である。度々登場する数式はあまり気にせず読めばいいと思う。電車専門用語が多く若干読みづらいが、そこも含めて知識として得ることで、電車・新幹線を見る視点が変わる良本。鉄道の科学といいつつ、かなり新幹線の話題は多いので、在来線ファンは気をつけよう。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ちょっと難しいなぁと流し読みしてしまった部分はあるが、おおむねよくわかって面白かった。

4.どのような人に推奨するか

 総じて、技術寄りの観点で書かれている。誰がどうした、ではなく、「Aという問題が発生し、Bが原因と考えられたため、その解法としてCという対応が取られた」といった内容。歴史観点から知りたい人には不向きだと思うが、技術面を知りたい人には良い内容になっていると思う。

Brodequin / Methods of Execution

Methods of Execution

Methods of Execution

アメリカのブルータルデスメタルバンド BrodequinよりMethods of Executionをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 1st "Instrulments of Torture"を取り上げたので、こっちも。2nd "Festival of Death"持ってないんだよなぁ。

2.内容

 2004年リリースの3rdフルで、Unmatched Brutality Recordsから。相変わらずの拷問厨で、アルバムタイトルは「処刑の方法」。メンバーは中心となるBailey兄弟はそのままに、ドラムが界隈では名高いJohn Engmanに変わっている。
 基本的な音楽性は当然の如く不変であり、割れ歪んだギターによるズリズリと切り刻むようなチェーンソーリフに超低音ガテラルヴォイスが絡む無慈悲なブルータルデスメタル
 ドラムのメンバーチェンジの影響かわからないが、タイトさとスピードが増しているとおもう。あとは、曲作りはストレートというか、高速パートにかなり偏重している印象。1stはなんだかんだ言って2分少々の曲の中で半分くらいテンポを落としたパートがあったりしたものだが、今回は基本的に爆走しっぱなし。手数多くツーバスも踏み鳴らしまくるマシンガンドラムが、ひたすら継続される拷問のように鳴り響いております。
 音質も、やや硬質になったかな。しかしながら小綺麗さは全くなく、相変わらず聞いていて気分が悪くなりそうな低音圧力。まさにブルータルデスメタルを体現しているサウンド

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 しんどさを覚える強力なブルデス。よく言えば攻撃的だが、悪く言えば単調。

4.どのような人に推奨するか

 1stと比較するとよりファストな方向性。ブラスト派は1stより買い。逆にビートダウンが好きな人にはやや非推奨となる。

Brodequin / Instruments of Torture

Instruments of Torture

Instruments of Torture

アメリカのブルータルデスメタルバンド BrodequinよりInstruments of Tortureをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近自分の中でデスメタルブームなので。これは相当昔にAmazonで買った。調べたら2006年に買ってた。

2.内容

 2000年リリースの1stフルで、手持ちはUnmatched Brutality Recordsからボーナス2曲を付加して2003年に再発されたもの。バンド名のBrodequinはフランス語で中世に存在した拷問手法が由来らしい。英語版Wikiしかないので、ざっくり和訳してみる。

Brodequinは中世に使われた拷問手法の1つ。被刑者はベンチに座らされ、固く細い木板で両足の内側と外側を挟まれ、これをロープで強烈に締め付けることでサンドイッチにする。さらにその足と板の隙間に木の楔を叩きつける。被刑者の骨が破裂したり骨髄が漏れ出すような影響を引き起こす。

 怖すぎませんかね…。ジャケットも拷問そのものだし、アルバム名も「拷問器具」である。どんだけ拷問好きやねん。
 サウンドの説明。低音高音が強調されヘヴィ且つささくれだった生っぽいギターは、調性の薄いチェーンソーリフとリズミックな超低音の刻みリフを繰り出す。ドラムはややスコスコしたサウンドで、主としてファストなブラストビートで構成されるリズムで曲を推進する。相当な速さ。ボーカルは歌詞を聞き取ろうとも思えない超低音のガテラルボイスで、ヴィーヴィー言ってます。
 曲は2~3分で短くまとまっているが、その中でもファスト一辺倒とはなっておらず、要所要所でキメやテンポチェンジ・ミドルパートを織り交ぜてくるので、作曲的には結構工夫しているような印象。所謂ギターソロは存在しないです。リフだらけ。
 総じての感想は、とっても病的で暴虐的で無慈悲なブルータルデスメタル。ポップな要素ゼロ。 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 …なのだが、それがいい!ボーカルギタードラムのすべてが低音にフォーカスしまくったサウンドは、長々聞いているとなんだか気分が悪くなってくる(褒め言葉)。

4.どのような人に推奨するか

 ファストなブルータルデスメタル好きはいっときましょう。

Abysmal Dawn / Programmed To Consume

Programmed to Consume

Programmed to Consume

アメリカのデスメタルバンド Abysmal DawnのProgrammed To Consumeをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 前から名前は知っていた。新宿ディスクユニオンで見かけ、このバンド初購入。バンド名は「最低な夜明け」とでもいったところか。日本盤の帯、アビスマル・ダウン はやめようよ…。

2.内容

 2008年リリースの2ndフルで、Relapse Recordsから。大手!ブルータルすぎない、オールドスクールで雰囲気あるタイプのデスメタルをやっている。

 ボーカルは高音から低音までレンジのあるデスヴォイス。Morbid Angel的な禍々しさ/荘厳さを備えた低音で蠢く、あるいは刻むタイプのフレーズが多く、偶にフラッシーなギターソロが切り込んでくるのもそれっぽい。どことなくフレーズにエスニックというか中近東の香りもあります。ドラムは速すぎないブラストビートを程よく織り交ぜつつ、手数多めでスロー~ファストまで様々なリズムをたたき出すが、ここもMorbid Angelっぽい。
 では、いつのMorbid Angelですかと言われると、"Gateways to Annihilation"くらいかなという気がするが、あのアルバムほどの邪気と圧力はない。ノリの良さ・わかりやすさがやや高く、「速くないHate Eternal」といった感じもあるか?(あんまり褒めてないけど)。

 ちなみに、音質は非常によい。単純にヘヴィメタルサウンドとしてみたときに、各楽器が分離されバランスよく綺麗に聞こえている点が素晴らしい。特にドラムは細かいフレーズまで良く聞こえる。逆に言えば小綺麗でデスメタルに必要な「圧」は控えめに聞こえるので、音楽性との一致を考えると一長一短かも。テクデス系なら確かに綺麗めでマシーナリーな音質はよくあるけど、このバンドはあまりそういう感じではないから。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 総じて地味というかフツーに聞こえてしまうんだなー。でもそれがいいところなのかもしれない。

4.どのような人に推奨するか

 ストレートな「The デスメタル」であり、音質もいいので、デスメタル入門編としていいかも。

体験記:ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち(パナソニック汐留美術館)

体験記シリーズ。パナソニック留美術館の「ギュスターヴ・モロー展」に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 GW10連休の美術館目標の1つ。Cryptopsy "None So Vile"のジャケからオスカー・ワイルドサロメを読み、折よく開催中だったこの展覧会に行こうと思ったわけです。

2.内容

 ギュスターヴ・モローは19世紀後半に活躍したフランスの画家。象徴主義の代表格として言及される。象徴主義って何?という気がするが、以下のようなものであるらしい。

  • 19世紀後半、"印象派"の興隆とともに広まった芸術運動の一つ。
  • 産業革命の時代にあり、世の中が急速に変わりゆく世の中で、未来を不安視する人々がこれに反発し始める。
  • 人の生死や感情など、目に見えないものを表現する絵画が広まった。題材として文学や神話を借りて表現したため、"象徴派(主義)”と呼ばれる。

 へー。…さて、展覧会は本当にモロー尽くし。メインコンテンツはやはりサロメなのだが、同題材の絵画が複数あり、サロメテーマだけで数十枚の作品があった(習作含む)。

 サロメは聖書に登場する美しく若い王女で、「かわいいサロメちゃん、踊ってくれたらなんでもいうことを聞いてあげようね^^」というヘロデ王に対し、舞いの対価として国内に捕らえられた洗礼者ヨハネ(戯曲ではヨカナーンということになっている)の斬首を所望する。民衆の反対を恐れて洗礼者ヨハネを殺したくなかったヘロデ王だが、約束した手前、仕方なしに洗礼者ヨハネの斬首を命じる…ということで、サロメテーマの絵には妖艶な若い女性と斬首がセットで登場しがち。
 今回見ることができた『出現』では、サロメが指さす先に洗礼者ヨハネの切り落とされた首が浮いているという、なんとも不思議で非現実的な構図。絵を見て初めて知ったが、柱などの下書きが残った、いわば書きかけの作品だったのだね。

 他にも主に神話や聖書に登場する女性をテーマにした数多くの絵画があった。繊細な色使いだねえ。展覧会の一角には、モローの弟子(というか、モローが美術学校の先生だったらしい)となるジョルジュ・ルオーの特設会場もあった。ルオーは本館の所蔵品らしいので、ちょうどテーマに合致する展示だったというわけだ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 期待の通りであった。暗くて幻想的な絵が多い。

4.どのような人に推奨するか

 完全に作家個人に焦点を当てた企画展なので、モローファン・モローのことを知りたい人向けといってよかろう。

Ex.ギャラリー

ポスター。

唯一撮影可能だったところ。椅子に座っての撮影もしてみた。

ドナルドキーン / 碧い眼の太郎冠者

ドナルドキーン / 碧い眼の太郎冠者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 一橋大学のKODAIRA祭2019にて、書籍の無料配布をやっている企画があった。そこで出会った本。

2.内容

 1955年の作品で、当時著者が雑誌:婦人公論中央公論に発表していた随筆をまとめて単行本化したもの。ドナルド・キーン氏…日本文学研究の第一人者で、2019年初頭に惜しまれつつも亡くなっている(と言っても96歳と長生きされている)。1922年生まれの氏であるから、この著作は33歳の時。まずアメリカンが母語でない日本語を用いて違和感なくエッセイを書き上げているのがとんでもない。
 キーン自身がどうあっても「外人」と見られ実際には青目でもないのに青目と呼ばれることへの皮肉を込めた「碧い眼」に、狂言の役柄から転じて「面白く・間抜けなもの」を指すという「太郎冠者」…国語の教科書に載っている狂言「附子」を思い出す人もいると思う…を繋げたものが本書のタイトル。

 さて、内容は冒頭、谷崎潤一郎の序文が極めてわかりやすいので、ここに引用する。

私たちが君に期待し、君を有難く思うのは、君が欧米の思想文学に造詣を積んでいる上に、われわれの国のそれらについて並々ならぬ研鑽を遂げ、われわれの国が持っているものを欧米側に紹介してくれる一面、われわれが自身に、却って自分ではわからない自分の姿を示してくれる点にある。

 松尾芭蕉奥の細道の道筋を辿ってみたり、四国を回ってみたり、トルコ~ギリシャを旅してみたりといった旅行記や、ニューヨークの社交界紹介などがあるのだが、特に最初の2編「外人への先入観に抗議する」「日本文化の理解を妨げるもの」については、異文化交流をする人がきっと読むべき内容だと思う。異文化交流といっても、グローバル化が進み異文化がそこら中にある現状にあっては、むしろ全日本人が読んでもいいと思える。
 この本は1955年に書かれたものだが、外国人の扱いだとか接し方の根本というのは現代でもあまり変わっておらず、今に通ずる内容である。新渡戸稲造の「武士道」を読んだ時も感じたが、様々な対比と深い知見があって初めて日本人の日本人たる特徴というのは語れるものなのだなぁ。
 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 キーン先生すげぇと思った。他の著作も読んでみたい。

4.どのような人に推奨するか

 前項で触れた通り、特に冒頭2編はすべての日本人に読んでみてほしい内容である。日本人と外国人という構図のみならず、様々な人間関係に置き換えてみても何かしら当てはまることが見つかる「人との接し方」に関する内容が含まれている。

Beast In Black / Berserker

BERSERKER [CD]

BERSERKER [CD]

フィンランドのパワーメタルバンドBeast In Black / Berserkerをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 YoutubeのNuclear Blastチャンネルで流れてきて感動して購入。久しぶりに新譜を買った。

2.内容

 2017年リリースの1stフルで、Nuclear Blastからのリリース。同じくフィンランドのBattle Beastを解雇同然の扱いで離れたAnton Kabanen[Gt/Vo]が、2015年に自身の立ち上げたバンドであり、そのコンセプトは日本の漫画「ベルセルク」に強いインスピレーションを受けているという。タイトルそのまんまだしね。

 さてこのアルバムでは、とにかくメロディの質が高くポップ、且つ漢(オトコ)臭く超熱いパワーメタルをやっている。メロスピ系の線の細い感じは一切なく、分厚いギターサウンドにザクザクと刻まれるビッグなリフ、ポップさ助長するシンセサイザーサウンド、やや濁声がかった強力なミドル~劈くようなハイトーンシャウトを自在に使いこなすYannis Papadopoulos[Vo]のヴォーカル、手数多めでツーバス踏み鳴らしつつ土台をさせるリズム隊と、本当に「パワー」なメタル。

  #1 "Berserker"でハイスピードな3連系のノリでいきなりテンション高くハイトーンシャウトもぶちかましており、メロディックなハモリギターソロも含めて掴みは最高。シンセサイザーを用いてポップ度がひと際高いリードトラックの#2 "Blind and Frozen"、ダンスミュージック的要素を前面に押し出した#6 "Crazy, Mad, Insane"、 どう聞いてもEuropeのFinal Countdownである#9 "Eternal Fire"などのポップ曲(クサメロというかダサメロであるが、それがイイ)が挟まれつつ、ガッツリとしたパワフルな曲が並ぶ。どの曲でも全体的にシンセサイザーの役割は非常に大きく、曲を印象付けている。
 これはすごいぞー。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 文句なし。2019年の2ndまだ買ってないんだよなぁ。

4.どのような人に推奨するか

 個人的には、スウェーデンのDreamEvil(Fredrik Nordstromがやってたアレ)的なキャッチー度の高いストレートなヘヴィメタルに、Sabatonのシンセサイザーや仰々しい要素を混ぜたようなイメージでおりまする。クサメロ好き、パワーメタル好きには確実にヒットすると思うので、是非どうぞ。

Sarinvomit / Baphopanzers of the Demoniacal Brigade

https://www.metal-archives.com/images/4/8/8/5/488568.jpg Baphopanzers of the Demoniacal Brigade | Sarinvomit

トルコのブラック/スラッシュメタルバンドSarinvomitのBaphopanzers of the Demoniacal Brigadeをレビュー。タイトルなげー。Amazonには取り扱いがないようなので、BANDCAMPとジャケ写を貼る。

1.作品を選んだ理由

 完全にジャケ買い。アートワークにChris Moyenぽさを感じたので、野蛮なブラックメタルやってるんだろうと。バンド名もサリンをvomit(嘔吐)してて、アホっぽいと思ったので。

2.内容

 2015年リリースの1st EPで、Seven Gates of Hellというところから500枚限定でリリースされているらしい。バンドメンバーのステージネームはこの手のやつによくあるサイコウにカッコイイ名前付けです。Godslayerさん的な...
 音楽性は、初期Sodomの延長戦上にある単音トレモロリフや雑なパワーコードリフに、ノリのよいスラッシュビートや低速ブラストビートが絡み、元気のよい咆哮デスヴォーカルが叫び倒す。Blackenedなスラッシュメタルという意味ではチリのPerversorとかSlaughtbbathあたりが思い浮かぶわけだが(同じ"S"で始まるバンドなので)、こっちの方がブラストも早すぎずいい意味でスピードが抑えめなので、スラッシュ的なノリの良さがあるというか、聞きやすい感じがいたしますぞ。ざらついたギターサウンドにベロンベロンとよく聞こえるベース、生っぽく勢いあるドラムと、音質・演奏ともに衝動性があって結構。EPとは6曲27分と、いっぱしのボリューム感があるので満足感はあるし、つい周回しがち。
 トルコはイスラム教圏である。彼らの反抗心の矛先は、やはりキリストではなくアッラーに向かうのであろうか。#4 "Spreading VX Gas over Kaaba"って、カアバ神殿に毒ガス撒いとるやん。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 お気に入り。2018年に1stフルが出ているらしいので、欲しいね。

4.どのような人に推奨するか

 ノリのよいブラックスラッシュ、というキーワードでピンとくる人向け。内容はいいので、おススメします。

草野真一 / メールはなぜ届くのか

メールはなぜ届くのか (ブルーバックス)

メールはなぜ届くのか (ブルーバックス)

草野真一/ メールはなぜ届くのか のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 最近講談社ブルーバックスがお気に入りなのだが、自分が仕事でやっていることを新書で読んでみようという試み。内容が2014年と新しいのも良かった。

2.内容

 というころで、2014年作。メールの仕組みというタイトルだが、つまりは通信と規約(プロトコル)に関する内容であり、OSI参照モデルでいうところのネットワーク層トランスポート層をベースとした「データはどうやってコンピュータからコンピュータまで届くのか」に関する説明が結構多い。メールの技術そのものはレガシーであり、数ある通信の中でSMTPと規定されているものを使っているということなので、そういった視点での説明は正しい、というか多分そういう説明にならざるを得ない。
 Webメールの発達がメールの利用を広げたというくだりの説明は、自身でも非常に実感を持って感じられた。メーラーは設定値としてSMTPアドレス・POPアドレス・ポート・ID・パスワードなどを一通り入手しなければ使えなかったものだが、もはやhttp(s)で完結してしまうのだから大分お手軽になっている。自分も以前はOutlook Expressだのをガンバッテ設定していたが、今ではメーラーなど導入しなくなって久しい。
 筆者自身も書いているようにメールそのものは枯れた技術であり、コミュニケーションの手段としては別のものに置き換わりつつある(私も会社内ではメールを使うが、プライベートのコミュニケーションは原則LINEしか使ってない)。そんな中敢えてメールをテーマに本を書く意味とは?と考えたようなのだが、『メールがなぜ届くのか』というテーマは通りが良いこと・メールについて触れることはネットワークそのものについて触れることになることなどから、この本を書くに至ったという。
 自身は技術面の話は大体知っていたので、技術の成り立ちや補足的なトリビアを楽しんでいたことになる。世界初のハイパーテキストによるWebサイトが欧州原子核研究機構CERNによって作られたものだとか、インターネット誕生の歴史とか、そういった部分が面白かった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 挿絵も多く平易に書かれたわかりやすい本だと思う。もちろん「ある程度知識を持っている人間が読んだ」という前提での感想なので、あまり知らない人が読んでも同じ評価になるかどうかは疑問だけど、 まあ自分の評価なのでそういうのはいいか。

4.どのような人に推奨するか

 テーマがテーマなので、メールの仕組みに興味がある人。個人的には、自分のチームに新入社員とかが入ってきたら、読んでみてほしいなぁという本。マジで推奨してみようかな。

Abort Mastication / Orgs

日本のデスメタルバンドAbort MasticationよりOrgsをレビュー。
Amazonにないので、はるまげ堂さんのリンクを貼ってみる。

1.作品を選んだ理由

 先日紹介のButcher ABCのメンバーが絡んでいるという。また、中心メンバーであるドラムの方は、有名な日本のデスメタルバンド Defiledに在籍していたこともあるということで、聞いてみた。はるまげ堂の福袋でもらったような記憶が…。

2.内容

 2008年、Bloodbath Recordsというところからリリースされた1stフル。カンカンと抜けるスネアが印象的な手数多めの高速ブラストを中心としたドラムと、ドライに歪んだギター音による色のない低音不協和音リフによる前のめりな勢いが強いデス・グラインドコアサウンド。全体的に「乾いた」感じの雰囲気と、短く駆け抜ける曲群(13曲22分)がグラインドコア感を高めている。基本高速ビートだが、急なテンポチェンジでスローパートがあったりと、短い中でも突っ走るだけでない展開を見せる。

 演奏はタイトで勢いがあって文句なし。特にドラムは良いね。ボーカルは、2人で担当なのかしら?高音のピッグスクィールと低音ガテラルが入り乱れてスキルフルとは思うんだが、好みに当てはまる声音ではないんだなぁ。ツボを外れる。あと、ちょくちょく挿入される1分強のSE(語り等)も、ちょっと勢いを削ぐ感じがする。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 あんまり合わなかった。

4.どのような人に推奨するか

 デスメタル好きよりは、高速・複雑なグラインドコア好きに推奨される音。

体験記:シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋(損保ジャパン日本興亜美術館)

体験記シリーズ。損保ジャパン日本興亜美術館の「ドービニー展」に行きました。
2019年春の企画展です。

1.鑑賞のきっかけ

 GW10連休は5つは美術館を回ろうという目標を立てており、その2つ目。まあ印象派ならなんとなくわかるだろうと。

2.内容

 シャルル=フランソワ・ドービニーは1817年生まれのフランスの画家。国内での本格的な展覧会は今回が初らしい。ドービニーは時期的には印象派の初期に属するらしい。印象派が深まってくると、よりイメージ重視で表現としては輪郭がぼやけた見た目の絵画が増える気がするが、ドービニーは風景を写実的にとらえつつ水や木々を美しく描写していて、単純に「綺麗だなー」と思いたくなる風景画が多い。
 バルビゾン派とは、フランス中部のバルビゾン村というところに住み着いて風光明媚な景色を描いた画家の一派を指すようである。ドービニーはアトリエを持つ船「ボタン号」を購入し、その船で川下りをしながら絵をかいていたといい、その時期と思われる作品は沢山あった。また、息子さんのカールも絵描きをやっていた、なんてところから、何となく裕福な生まれでお金にはそんなに苦労しなかったのだろうか…という印象を持つ。違ったらごめんなさい。1857年にフランスの最高勲章レジオンドヌールを授与されている。
 個人的には、1960年頃の作品がタッチが緻密で水の表現も美しくて好き。

 美術館常設のアイテムとして、ゴッホの「ひまわり」、セザンヌの「リンゴとナプキン(静物)」、ゴーギャンの「並木道、アルル」、東郷青児の諸作品があった。美術館はビルの高層階にあり、広くはない。新宿駅から雨に濡れず地下通路のみで到着できるアクセスの良さ魅力的。2020年に向け増築改修中。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 小さくて狭いところだけど、アクセスと人の少なさで高評価。次の企画展があったら行こうと思うし、改築後も興味あります。

4.どのような人に推奨するか

 印象派好きな人かなー。綺麗な風景画が好きな人にはハマる画家だと思います。

Ex.ギャラリー

ポスター。美術館内で唯一撮影可能。

こんな感じの高層階