めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

宮本昌幸 / 図解・鉄道の科学

図解・鉄道の科学―安全・快適・高速・省エネ運転のしくみ (ブルーバックス)

図解・鉄道の科学―安全・快適・高速・省エネ運転のしくみ (ブルーバックス)

宮本昌幸 / 図解・鉄道の科学 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 講談社ブルーバックスが好きなので、その中で興味を持ったこのタイトルをセレクト。

2.内容

 2006年作、講談社ブルーバックスより。電車・新幹線を構成する各要素が持つ課題とそれを解消するためのソリューションを、主として物理科学的な見地から解説する書籍となっている。「図解」とあり、確かに図は多く挿入されているのだが、物理の教科書にあるような力学的な構造を示す概念図やグラフが7割、残り3割が実際に各パーツの写真などが納められている。

 内容自体は興味深い!車輪とレールの仕組み。高速移動で発生する振動・騒音の問題や、車体の気圧・換気など、快適さに与する設計。架線とパンタグラフによる送電…ここが特に面白いのだが、安定して効率のよい送電を行うかの工夫のために、いくつもの設計要素がある。トロリー線(路線内に吊られている送電線のこと)の釣り方、パンタグラフによる押上げ(あるいは引っ掛け)方、電流の流し方(鉄道変電所から電車内に送られた電気はレールや吸い上げ機を通じて変電所に帰っていく!)。さらに、後の章になるがブレーキより生じるエネルギーを電気変換し他車両に送る(回生ブレーキという)仕組みなど、速度や安全性だけでなく、資源の再利用まで考えた省エネ設計がすさまじい。実際、N700系新幹線では、初代0系に比べて速度が50km/h上がっているのに、エネルギー消費は3割近く減じているということである。

 あとは安全への取り組みとブレーキの設計。電車は同一レール上を複数車両が高速に走っているが、自動車と違って自発的な障害物回避などはできない一方、エネルギー効率のよい車輪とその速度により制動距離(ブレーキ後機体が完全停止するまでに進んでしまう距離)は長いことから、車間距離の確保が非常に重要。しかし急ブレーキは乗客への危険性・乗り心地低下につながることから、一定区間で前車両との距離を測るための信号や自動原則装置などがあったりするという。

 とにかくこういった話題が満載である。度々登場する数式はあまり気にせず読めばいいと思う。電車専門用語が多く若干読みづらいが、そこも含めて知識として得ることで、電車・新幹線を見る視点が変わる良本。鉄道の科学といいつつ、かなり新幹線の話題は多いので、在来線ファンは気をつけよう。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ちょっと難しいなぁと流し読みしてしまった部分はあるが、おおむねよくわかって面白かった。

4.どのような人に推奨するか

 総じて、技術寄りの観点で書かれている。誰がどうした、ではなく、「Aという問題が発生し、Bが原因と考えられたため、その解法としてCという対応が取られた」といった内容。歴史観点から知りたい人には不向きだと思うが、技術面を知りたい人には良い内容になっていると思う。