めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ドナルドキーン / 碧い眼の太郎冠者

ドナルドキーン / 碧い眼の太郎冠者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 一橋大学のKODAIRA祭2019にて、書籍の無料配布をやっている企画があった。そこで出会った本。

2.内容

 1955年の作品で、当時著者が雑誌:婦人公論中央公論に発表していた随筆をまとめて単行本化したもの。ドナルド・キーン氏…日本文学研究の第一人者で、2019年初頭に惜しまれつつも亡くなっている(と言っても96歳と長生きされている)。1922年生まれの氏であるから、この著作は33歳の時。まずアメリカンが母語でない日本語を用いて違和感なくエッセイを書き上げているのがとんでもない。
 キーン自身がどうあっても「外人」と見られ実際には青目でもないのに青目と呼ばれることへの皮肉を込めた「碧い眼」に、狂言の役柄から転じて「面白く・間抜けなもの」を指すという「太郎冠者」…国語の教科書に載っている狂言「附子」を思い出す人もいると思う…を繋げたものが本書のタイトル。

 さて、内容は冒頭、谷崎潤一郎の序文が極めてわかりやすいので、ここに引用する。

私たちが君に期待し、君を有難く思うのは、君が欧米の思想文学に造詣を積んでいる上に、われわれの国のそれらについて並々ならぬ研鑽を遂げ、われわれの国が持っているものを欧米側に紹介してくれる一面、われわれが自身に、却って自分ではわからない自分の姿を示してくれる点にある。

 松尾芭蕉奥の細道の道筋を辿ってみたり、四国を回ってみたり、トルコ~ギリシャを旅してみたりといった旅行記や、ニューヨークの社交界紹介などがあるのだが、特に最初の2編「外人への先入観に抗議する」「日本文化の理解を妨げるもの」については、異文化交流をする人がきっと読むべき内容だと思う。異文化交流といっても、グローバル化が進み異文化がそこら中にある現状にあっては、むしろ全日本人が読んでもいいと思える。
 この本は1955年に書かれたものだが、外国人の扱いだとか接し方の根本というのは現代でもあまり変わっておらず、今に通ずる内容である。新渡戸稲造の「武士道」を読んだ時も感じたが、様々な対比と深い知見があって初めて日本人の日本人たる特徴というのは語れるものなのだなぁ。
 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 キーン先生すげぇと思った。他の著作も読んでみたい。

4.どのような人に推奨するか

 前項で触れた通り、特に冒頭2編はすべての日本人に読んでみてほしい内容である。日本人と外国人という構図のみならず、様々な人間関係に置き換えてみても何かしら当てはまることが見つかる「人との接し方」に関する内容が含まれている。