めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

イスマイル・カダレ / 夢宮殿

 

夢宮殿 (創元ライブラリ)

夢宮殿 (創元ライブラリ)

 

イスマイル・カダレ / 夢宮殿 のレビューです。タイトルがいいよね。

 

1.作品を選んだ理由

 ↓過去記事のこれで興味を持った作品の一つ。エルサレム賞ブッカー賞の受賞履歴を持つアルバニア出身の作家による作品。

metal-metal-slime.hatenablog.jp

 

2.あらすじ(内容)

 原著は1990年にアルバニア語で書かれた。これはフランス語から和訳した二重翻訳の作品ということの模様。

 幻想小説というべきか、ディストピア小説というべきか。19世紀のオスマン帝国、国民が見る夢を国家が収集・査閲する機関が存在していた。これらの夢は役所(これが夢宮殿)の官吏によって選別され、解釈され、皇帝のもとに送られる。叛意を示すような夢と判断されれば、その夢をもとに夢を見た者、あるいは夢に関連する者は捕縛・収監されたりする。帝国にとっての治安維持部門の1つである。

 このような一種の監視社会の中で、抑圧された悲惨な民衆が書かれるのかと思いきや、話は主人公マルク=アレムがこの役所に就職するところから始まる。ストーリーの大半はマルクが苦労しながら不可思議な夢宮殿に馴染んだり仕事を覚えたりする様や、職歴を重ねて出世をしていく様が描かれている。だだっ広くどの部屋も同じような見た目の官舎でマルクは毎回のように道に迷っており、隣席の同僚の名前も顔もわからない状態で続けられる夢宮殿の仕事風景は、無味乾燥で灰色な印象が強い(7割くらいまでは普通に仕事してます)。公務に従事する個人の描き方としてはとてもリアルである一方、役所や役所に勤める人間(同僚・上司)は不透明であり主人公と読者の不安を煽る。終盤ではマルクの家系と仕事で取り扱った夢にまつわる事件が起き、これを通じて機関の目的や活動が見えてくる。

 

3.感想/評価

 ★★★★ー

 不思議な読み味です。テーマは明らかに管理社会だと思うんだけど、職務描写の印象が強い。英訳タイトルはThe Official of The Dreams Palaceとのことで、「夢宮殿の職員」である。なるほどこちらの方がイメージに近い。

  

4.どのような人に推奨するか

 なんともジャンルが説明しづらく、地味でおススメしづらいのだが…。SFあるいはミステリー的にも読めるし、オーウェルの「1984」的管理社会を描いた小説でもあるので、そういった作品に共鳴する向きに。この作品がアルバニアという国やオスマントルコについて理解を深めるきっかけになっているという点も良かったと思っているので、そういう観点で読んでみるのも一つ。