めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ガブリエル・ガルシア・マルケス / 族長の秋

ガブリエル・ガルシア・マルケス / 族長の秋 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 南米文学って読んだことないなーって。ボルヘスはチラ見したことあるけど。あと、独裁を敷く大統領というテーマ、表紙の牛にも惹かれましたね。どうでもいいけど、マルケスなのかガルケスなのか毎回一瞬迷うんだよね。ミドルネームがガルシア…なのでラストネームはマルケス、って思いだしている。

2.内容

 原作は1975年。本書は2011年に集英社文庫から文庫発刊されたものですが、1994年刊行物のリイシューということです。「ラテンアメリカの文学」シリーズでいろいろ出してくれているのかな?嬉しいね。
 しかし、コロンビアですか…1810年にスペインから独立して以後はコロンビアとしての国体を保っているということですが、どうにも政情不安定なイメージのある国ですね…。

 まずこの特殊な文体に触れないわけにはいかない。1章丸ごと改行が一度もなく、且つ、地の文のみで埋め尽くされています。会話文は使われているんだけど、鍵カッコもないです。谷崎潤一郎の『春琴抄』の書かれ方を想起しました。
 そのうえ、語り手がはっきりせず、且ついつの間にか変わっていたりする。それが我々(誰?)だったり、大統領だったり、作者視点?だったりするので、まぁ非常に読みにくいという。特異ですな。幻惑的な印象です。

 ストーリーの中心となるのは独裁政権を敷くある大統領の一生。あらゆる特権な振る舞いが誰にも咎められないし、まぁ結構な悪行も作中でやらかしているわけだが、それよりも印象に残るのは腐敗した社会と死の雰囲気。大統領府内に平然とウシが出入りしているっていう、その絵面のイメージ。奇病で死に至る大統領の母親や、その他作中で生まれる死体の山のイメージ。そんな中、死に瀕した母親を気遣ったり、ある美人に惚れて追いかけてみたりする大統領の姿や、独裁者である自分が全てを支配しているようで自分と向き合ってくれる人はだれもいない、ゲームさえ八百長で勝たされてしまい他者と満足に遊ぶこともできないことに孤独と虚しさを覚える様が描写され、どうにも哀しみ(悲しみよりは哀しみの字のイメージ…なんとなく)に満ちている作品だなぁと感じました。

 実際、読者も読んでいてこの大統領のことをどうにも理解できないのですよ。名前も分からないし、何年生きているのか在位しているのかもよくわからないし、そもそも暦も大統領令で変えちゃったから計算上とんでもない年齢になってしまっているんじゃないか?とか思った。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 独特な文体もあって読むのはしんどかった。350ページほどの作品なんだけど、500ページ超の小説を読んだようなエネルギーを使った。しかし、鮮烈なイメージを持ったスゴイ作品であった。

4.どのような人に推奨するか

 文章がイメージを喚起する力が凄くあると思います。とにかくとっかかりにくい文体ではありますので、それを含みで挑戦してみてほしい。解説では、この文体にはあまり拘泥せずに読んでみよう、とまで書いてあるしね。