めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

マーガレット・アトウッド / 侍女の物語

侍女の物語

侍女の物語

マーガレット・アトウッド / 侍女の物語 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 最近、続編新作である『誓願』が出たって話題だねぇ。その話題書の1作目として、こちらを買ってみた。この作者を買うのは初めて。

2.内容

 原作は1985年かな?
 主人公の完全なる一人称視点で語られ、時系列は飛ぶし、意図的に「起きなかったこと」も書かれるし、他者の意図はわからないし、とにかく混乱しながら読み進めていくことになる。ディストピア小説というものの、ただ読んでいる限りにおいては、そこまでのディストピア感は感じられない。もちろん、政治体制がクーデターで崩壊したとか、侍女は子供を産むための道具扱いであるとか、反体制派は「救済の儀」でつるし首が当たり前だったりとか、ディストピア的な様子が読み取れはするんだけれど、主人公は基本的に侍女であってその世界から出られないし、政治体制や政策のことを詳しく知っている立場でもないし、ある程度の年月を経てある種その世界に慣れてしまった視点で語られるので、読んでいて「これってそんなにディストピアだっけ?」と思う。主人公自身も過去の過程や恋愛のことは覚えていても、過去の世界がどのようであったかはおぼろげになりつつある状態になっている。  まぁとにかく、そうした世界観の描かれ方をする。本編だけ読むと、あまりにもとりとめがなくて何が何だか分からない可能性がある。実際読んでてそう感じた。しかしこの物語の真価は、「侍女の物語の歴史的背景に対する注釈」と題された最終盤パートにある。このパートで物語の振り返りと世界観がある程度クリア(後年の研究者の発表と言う形で表現される。その内容の信頼性はさておき…)に説明されるとともに、やはりひとことでディストピアとも言い難いなという感想を抱き、一人称の語り手の信頼性について考えさせられることになった。オーウェルの『1984』との姉妹本だとか言われているらしいが、このパートを読んでそれは納得。ある意味、本編(侍女自身の物語)だけでは全然面白くないといってもいい。ここまでちゃんと読んで完結する作品ですよこれは。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 侍女の語りそのものは冗長で退屈なパートが多かったが、ラストで物語の見え方捉え方が変わったので。

4.どのような人に推奨するか

 『1984』の姉妹本と言われるのはよくわかる。大きく異なるのは世界観がとにかく見えづらいこと。『1984』は作品構成としてストーリーそのものに起伏やドラマがあったが、こちらはマジで起伏がなくてツラい。ディストピア的な要素にあまり期待せず、そこを織り込み済みで読んだ方がイイ。最終パートまで読んだ後は、「あぁ、確かに1984だな」と、同じような高評価を与えたくなったよ。