ドストエフスキー / 地下室の手記
- 作者:ドストエフスキー
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1970/01/01
- メディア: 文庫
1.作品を選んだ理由
図書館の返却本コーナーで偶々見かけて手に取った。長編のイメージだったけど、これは中編で読みやすそうと思ったこと。あとは最初の一文に魅かれたので読んでみた。
2.内容
1970年新潮文庫からリリースで、訳者は江川卓さん(元プロ野球選手の人とは違うよ)。新潮文庫はデフォでスピンが付いてくるのはいいなぁ。原作は原作は1864年、農奴解放令が出された後くらいの帝政ロシアだね。
『僕は病んだ人間だ。僕は意地悪な人間だ…』この書き出しだけで自分の中の陰キャセンサーが反応したので読みたくなった。自分を知識階級だと信じ、周りが馬鹿に見えてしかたない。且つて公務員として働きながらその態度を隠すことも出来ず誰とも距離を置き、まとまったお金が入ったことで仕事もやめ一人部屋に閉じこもり孤独を感じている。人間的に内に閉じこもってしまった男の「手記」という形をとっている本作は、前半は彼の観念をひたすら諸君(読者)に語り掛ける。後半では過去に遡ぼり他者の交友が描かれるが、その屈折した人間性が行動にも表れていていて、しかし共感を呼ぶリアリティがある(これは自分が嫌な奴だからかもしれないけど)。嫌いな官吏にすれ違い様肩をぶつけてやろうと画策し、何度も直前で日和って自分から避けて(道を譲って)しまい落ち込む男、幾度かのリトライを経てついに肩をぶつけることに成功するが官吏には気づかれもしない様子が滑稽でもあり面白い。知人との食事会では、周囲との関係にバツの悪さを覚え数ページに渡って「諸君」らに自分の正当性を主張して食事会から立ち去るぞ!と意気込んでからの『もちろん僕は立ち去ったりはしなかった』が最高。でもわかる。娼館に行くシーンでは、事後に字詰め8ページほどの説教を嬢にやらかす男。ドラえもんの名作『くろうみそ』の『いいや、2ページほどやる!』を思い出した。8ページも説教すんなよ…
理想的な社会を目指す価値観とは全く相いれない「苦痛は快楽」との哲学と人間観。この本が語るテーマは現代でも通じる普遍的なものであり、だからこんなに面白いのかも。
3.感想/評価(★の5段階)
★★★★★
ドストエフスキーさんを読みたい。
4.どのような人に推奨するか
コミカルな描写もありつつ、非常に内省的で思索に富んだ「嫌な奴」の本。そういう毒に魅かれる人は是非読んでみて下さい。