遠藤周作 / 海と毒薬
遠藤周作 / 海と毒薬 のレビューです。
1.作品を選んだ理由
作者の名前は知っていたが読んだことなかった。BOOKOFFで見かけ、手に取ってみた。
2.あらすじ(内容)
1957年の作品。太平洋戦争末期、九州のとある大学病院が医学部長の席を争う中で、成果を求めて患者や捕虜を実験台としていく。それに関わる人々の群像劇と言えるか。一つの出来事を中心としつつ、登場人物の主観が変わっていく。
導入部では、ある男が近くの医者にかかったところ、その医者が先述した事件の関係者であることを知る。続いて、時代がさかのぼり、当時医学生だった勝呂(すぐろ)はこの医局構想の中で事件に関係することとなり、これを止めることも避けることもできず事件に与する経緯が語られる。続いて、看護婦、同期の戸田の回想という形でその出来事と各人の捉え方を描いていく。
ちなみにこれは続編の構想があったらしいが、正統続編作品としては発表されなかった。ただし、「悲しみの歌」というのが実質的な続編になっているとか。
3.感想/評価
★★★★ー
テーマがテーマだけに、面白いというのは憚られる気もするが、ひたすらうらぶれて暗澹とした終末感のある描写は非常に惹きつけられる。作者がキリスト教者であるということ、これに起因する罪悪意識の感じ方の違いが、中盤登場するヒルダに表れている。テーマは「神なき日本人の罪意識」とのことだが、依拠する神があったとしても、こういった状況の中にあって正しくあろうとすることができるものなのだろうか。疑問。
4.どのような人に推奨するか
テーマも文章も非常に暗い。読んで爽快感があるものでもないし、(完結していないからかもしれないが)何らかの解決を見る作品でもない。ただ、人間の心について疑問を投げかける、考えさせる作品となっている。そういった作品が好める方に。