めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

伊藤計劃 / 虐殺器官 [新版]

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃 / 虐殺器官 [新版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 全然知らなかったんだけど、クラシックではなくコンテンポラリーな日本のSFも読んでみたいと思っていたところに、こちらが陳列されておりました。冒頭数行読んで惹きつけられたので購入。

2.内容

 2007年の作者デビュー作。こちらは2014年にハヤカワ文庫(JA)から出版された新版(Amazonリンクは旧版ですね)。表紙がアニメ絵っぽくなっている。真っ黒で良かったんちゃうかな。9.11以降テロリズムが蔓延する中、世界は個人やモノへの管理を徹底的に管理するようになる。個人の買い物・食事・移動はおろか、モノの流通や履歴の全てに追跡性が付与された、究極にIoT化された世界。そんな中で描かれる軍事/謀略のサイバネテックな戦争サスペンス。冒頭から迫真的な死体の山が描写され、悲惨な紛争の予兆が示される。戦闘シーンは無慈悲にして凄惨であるのだが、どちらかと言えば情緒的で繊細な雰囲気が通底しているように思うのは、主人公が「母親を殺した」という思いにずっと囚われていることに起因するからか。脳科学が高度に発達したこの世界では、脳の機能は数百に細分化され「痛覚」と「実際の痛さ」を切り離して操作できたりする。そうなると、脳はどの機能が生きていれば人間として生きているといえるのか?そのような操作≒洗脳が常態化する中で、自分の意思とは何なのか?といった人間的なテーマがリアルに迫ってくる。タイトルの「器官」は後半説明される。動機はともかくその「器官」の使い方とエピローグは悲哀的で救いがないが、なぜかなんとなく明るい雰囲気すら漂っているような気がする。作者は「爽快感」を目指したというが…。
 作者は2009年に34歳で夭逝。若すぎ。メタルギアソリッドのノベライズなども担当されているとのこと。あー確かにMGS感はありますわ。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 衝撃的な面白さ。他の作品も是非読んでみたいと思います。残念ながら作者の作家人生が短く寡作なので、全作品読んでもそんなに時間はかかるまい。

4.どのような人に推奨するか

 メタルギアソリッドのテクノロジー・政治性・生死・隠密ミッションといった要素に、哲学的なテーマと絡み合った作品。MGSのストーリー面が好きな人はきっとハマると思います。