めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ジョージ・オーウェル / 動物農場

ジョージ・オーウェル / 動物農場のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 10年以上前に読んだことがある。その際は多分、開高健版で読んだ。本屋でこの「新訳版」を見かけたので買ってみた。

2.内容

 2016年、早川書房からの新訳版。オーウェルによる作品が書かれたのは1943年だが、内容がまんまソ連の体制批判だったこと・出版側がビビッてどこも発行したがらなかったことなどから、実際の発行は遅れたらしい。解説にも書かれている通り、登場人物は全て動物であり寓話的に描かれているものの、ロシア革命からスターリン体制をそのまま描いたような内容になっている。
 指導者側であるブタたちの恐怖政治以上に、自分たちが苦しい状況にある中でその指導者たちに対して何も言えない市民たちに身をつまされる。この「何も言えない」にはいろいろあるんですよ。凶暴なイヌが暴力装置として存在するから言えない、スクィーラーの喧伝する内容が正しい(誤っていると反証するすべがない)から言えない、指導者が正しいと信じ何も考えないから言わない(働きづめのロバ、シュプレヒコールのみを繰り返す羊さんたち)、言ってもどうしようもないとあきらめているから言えない、何より「何かおかしい」と違和感は覚えているけどそれを語る言葉や知識を持たないから言えない…。哀れな被害者として描かれているわけではない。被支配層に甘んじた動物たちの無力さにも警鐘を鳴らされているように思える。
 寓話的に描かれているが、現代の人間社会に所属しているものなら、必ず何かしら感じるものがあるのではなかろうか。別に自分の住んでいる国が社会主義体制でないにしても、例えば会社や学校のような組織の中においても当てはまる部分があると思うのだ。我々も動物農場の一員なのだ(自分はどの動物の位置づけかな?とか考えてみるといい)。

 確か開高健版にはなかったような気がするが…本書では序文が2編付いている(通常の序文と、ウクライナ語版の序文)。オーウェルの略歴、本作を書くにあたっての動機・着想の源、当時の時代背景が本人の言葉でよく理解できるので合わせて読むことを大変おススメする。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 ストーリー自体は短いしテンポもよいが、内容は深く考えさせられる。作者自身の序文も含め、とても価値ある作品。

4.どのような人に推奨するか

 先に書いた通り、人間社会に所属する者なら誰にでも。まあ敢えて言えば、冒頭挙げたようなロシアの歴史もセットで学ぶことに前向きになれる人におススメかしら。