めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Rush / Hemispheres

Hemispheres -Annivers-

Hemispheres -Annivers-

  • アーティスト:Rush
  • 出版社/メーカー: Mercury
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: CD

カナダのロックバンド Rushの Hemispheresをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Rush全作シリーズだよ。

2.内容

 1978年リリースの6th。手持ちはMercuryからのデジタルリマスター盤。Anniversary盤はこれに限らないけど持っていない…。
 前作のプログレッシブな方向性がさらに複雑な方向に押し進められた、テクニック面ではカタログの中でも随一の作品。変則拍子の嵐である。ドラムは普通のエイトビートを叩いてはいけない病にかかっている。それでもキャッチーなハードロックとして聞けるのは、それらは構成要素の一つにすぎず、核となる部分にはメロディやキャッチーなリフがいっぱいあるからなんですよ。あと、構成や曲展開そのものはシンプルだったりするのもポイント。
 なんとアルバムには4曲しか入っていませんが、いずれも強力。

1. Cygnus X-1 Book 2:Hemispheres

 『2112』同様に、レコードでいうA面をまるごと使った18分の長尺組曲。邦題は、『神々の戦い』だったかしら?前作の『Cygnus X-1』は宇宙旅行をテーマとしたSF的な作品だったが、今作はその続編として神々(ディオニュソスアポロン)の戦いを描写する。前作でブラックホールに入った先がこんなだったんか??前作でTo Be Continuedとしてしまったばかりに、続編の本作を考えるのに相当苦労したらしい。そのせいなのか、本作で極まった大作主義の方向性は次作より鳴りを潜めていくわけだが。
 楽曲だけ見れば、メジャー感のポップなハードロックソング(ただし変則拍子だらけ)の集合体であり、シグニチャーとなるリフ・メロディが繰り返し登場するので結構わかりやすい。前作『Cygnus X-1』を思わせるリズム・リフや、そのまんまなフレーズも登場する(12分頃)ことで、楽曲面でも前作との繋がりを感じさせる。『2112』ではドラマティック・ヒロイックな要素が大きく感じられたが、本作ではどちらかというと壮大さ・幽玄さ・妖しさ・浮遊感と言ったイメージが当てはまるような仕上がり。

2. Circumstances

 ここからレコードのB面。4分弱のランニングタイムのハードロックソングで、ヴァース⇒ブリッジ⇒コーラスとスタンダードな構成を持ちながらも、メインリフとコーラスの複雑な拍子(フレーズで覚えているので何拍子かわからん)、ギターアルペジオシンセサイザー・グロッケンが5/8+7/8+12/8で交錯する中間パートと、変則拍子が目立つ楽曲。フレーズそのものもさることながら、ドラムフレーズの多彩さやアクセントのつけ方が非常に楽曲に彩りを与えている。複雑だけど覚えやすくキャッチーな不思議な曲。とても好き。

3. The Trees

 この曲もよく歌詞が話題になる。楓(カエデ、Maple)と楢(ナラ、Oak)が森林で日照権を争う戦いを繰り広げ、最終的には斧で伐採され平等めでたしめでたし…という寓話的な内容。なのだが、このカエデがRushの出身国であるカナダの国の木であり、ナラが独立前のカナダの統治していたイギリスの国の木であるというところから、海外では複数の意味を持たせた深い歌詞として考察が為されているらしい。
 穏やかなアコースティックギターとボーカルに導かれるイントロや、中間部のアルペジオシンセサイザー音はなんとなく森っぽさを感じる…。これもポップなメロディを持ったハードロックソングなのだが、4/4のヴァースから流れるようにコーラスのリズムに6/8に変えたり(めっちゃDream Theaterが真似しそうな感じ)、中間部のインストは当然の如く5/4拍子だったりと、演奏的にはやりたい放題でこれも名曲。

4. La Villa Strangiato

 似非スペイン語で『奇妙な家』という意味を持つ、10分のテクニカルなインスト曲。ハイスピードなパッセージ、ドラマティックなギターソロ、バシバシと入るキメ、ベース・ドラムのソロ(フィルイン)と、とにかく要素が詰め込まれている。Rushの特徴の一つにAlexによるブルーズ味を感じさせないエキゾチック・オリエンタルなギターフレーズがあると思うんだが、この曲はテーマメロディーもギターソロも特にその点がピカピカに光っていて、ボーカルがない分ギターの主張が非常に強くて嬉しい。ギターもベースもドラムも全てのフレーズが印象的でカッコいい。
 しかし、これ何度も取り直したライブテイクってマジですか?事実だとしたら異次元すぎる出来。しかし、確かにライブ感というか、ダイナミックな疾走感に溢れている名演だ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 A面組曲は『2112』のが好きだが、B面曲はこっちが圧勝。全曲ハイライト。

4.どのような人に推奨するか

 変則拍子・ハードロックが好きな人にはこれが一番刺さる可能性があります。Dream Theater等の後年のプログレメタル好きはこれ聞きましょう。彼らも絶対コピーしまくったはず。