めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Rush / A Farewell To Kings

Farewell to Kings

Farewell to Kings

  • アーティスト:Rush
  • 出版社/メーカー: Island / Mercury
  • 発売日: 1997/05/06
  • メディア: CD

カナダのロックバンド Rushの A Farewell To Kingsをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Rush全作シリーズ。メタラーにおそらく一番人気のプログレ期。

2.内容

 1977年リリースの5th。Mercuryからのデジタルリマスター盤。前作のヒットで延命に成功したRushが、前作の大作主義的ハードロックの方向性はそのままに、よりプログレッシブな方向に進んでいる。ここでいうプログレッシブな方向は、次の要素を指して言う。
 ・変拍子の多用
 ・アコースティックギターシンセサイザーによる曲風景の広がり(牧歌的な雰囲気というか)  ・長尺曲(といっても2曲だけだけど)  歌詞のテーマは歴史/ファンタジーの要素が強め。良質なメロディがふんだんに散りばめられ、ハードロック的なエキサイトメントやテクニックもあり、シンセサイザーの有効活用によるこれまで以上の情景描写が為されたこのアルバムは、全カタログの中でもトップレベルに素晴らしい。これも全曲解説コース。

1. A Farewell To King

 アコースティックギターのイントロに導かれる、メロディックなハードロック曲。イントロから変拍子が連続するが、ヴァース・コーラスはGeddyのハイトーンが活きる意外とストレートな展開。ベースとドラムが細かい譜割で絡む忙しい中間パートを経て、コーラスと雄大なアウトロに戻る。

2. Xanadu

 11分の長尺曲だが、イントロが5分ある。曲の構成自体はそんなに複雑ではないんだが、これをトリオでライブで再現しているという事実はバケモノすぎる。ライブではダブルネックギター、ダブルネックベース、キーボード、フットペダル、バーチャイム・カウベル・ドラ・ベルを詰め込んだ要塞ドラムセットの全てを駆使してプレイされる。
 イントロは煌びやかで幽玄な雰囲気で、タイトル通り桃源郷の趣。テンポを変えコーラスの効いたギターリフが7/8拍子で先導するパートを挟み、ゆったりしたヴァースへ…そして大好きなのがここから再度テンポを一転してプレイされるハイテンポでドライブ感のあるコーラス(と呼んでいいのかわからんけど)パート。『I've had the whispered tales of immortality, the deepest mystery. From Ancient book I took a clue...』の流れるようなメロディとスピード感は最高。ライブだとここのテンポはちょっと遅めなのが玉に瑕。その後のクリーントーン、シンセリードとユニゾンするシロフォン、鐘の音…。いやぁいいですね。この曲は「Close to the Edge」のYes感がちょっとあるというか、そんな感じ。

3. Closer to the Heart

 曲を決定づける印象的なギターアルペジオから始まる、明るく綺麗なメロディによる3分間のポップアンセム。ライブでもいい位置で良く演奏されている。この曲はギターソロもメロディアスで印象的。歌詞は詩人Duboisとの共作で、わかるようなわからないような感じ。"Closer to the Heart"は心のままに…といった感じで捉えればいいのか?

4. Cinderella Man

 作中では一番プログレッシブ度が低い比較的ストレートなロック曲。と言っても変則拍子は当然のように登場する。当然すぎて、自然すぎて逆になんとも思わないレベルである。歌メロの裏でも容赦なく続くテクニカルなユニゾンが満載のリズムは大変気持ちいい。ベースがメロディアス。

5. Madrigal

 クリーンギターと笛のようなシンセサイザーを中心とした小品。憂いのあるメロディと、胸に来るバラード的なコード進行だが、壮大な方向には行かずにあっさり終わらせるのがRush流。

6. Cygnus X-1

 これもXanaduよろしく、歌詞と演奏が見せる世界観・情景描写がものすごい曲。ただこの曲はシンセサイザーアコースティックギターは出てこず、ハードロック曲の中でそれをやっているという…。Cygnusは白鳥座、X-1は近辺の星域にあるブラックホールの名前らしい。宇宙船ロシナンテ号で宇宙旅行をする主人公がブラックホールに飲み込まれ... To Be Continuedという歌詞で、全3パートから成る組曲形式。
 Part 1はほぼインスト。激しいフィルインと複雑な変拍子(でも聞けばわかりやすい)のドラムとこれに絡むベース、不思議な響きのコード(Hemispheres Codeとか呼ばれているらしい、3~6弦がF#で残りが開放弦のコード)…。8/11+8/12拍子が交錯するのたりのたりとしたパートもなんだか宇宙的な響きがあってよい。
 そして、途中の短いながらポップで明るい、つかの間の楽しい宇宙遊泳が感じられるPart 2。『Sail across the Milkey Way』のとこスゲー好き。でもその後、ブラックホールにつかまってしまうんや…。ここからの楽曲の「落とし」と、これに連動する歌詞『X-ray is her siren song, My ships cannot resist her long...』もまた素晴らしい。
 2112のGrand Finaleにも似たハイスピードでグルグルと回るようなインストが展開されるPart3。ブラックホールに飲み込まれていくような雰囲気が演奏で感じられる。『Every nerve is torn apart...』で幕を閉じる歌詞は、絶対主人公死んだやろと思わせるものだが、ここでNeilさんは末尾をTo Be Continuedとしてしまう。おかげで続きを考えるのに大変苦労したらしいが、それは次作のお話。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 うーん、Rushの全アルバム並べたら、トップ3に入るかもしれないなぁ。

4.どのような人に推奨するか

 ここからがプログレ期Rushの幕開けと言われている。Dream Theater等の後世のプログレメタルから遡ってきた人は、プログレ期の中でも本作と次作がおススメ。同時代の所謂プログレバンドに比較すると、全くもってハードロックの範疇だと思う。