めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Rush / 2112

2112

2112

カナダのロックバンド Rushの2112をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Rush全作シリーズ。表題曲はかなり聴いた。

2.内容

 1976年リリースの4th。Mercuryからのデジタルリマスター盤。「もっと売れる曲を書けや。売れなかったらこれで終わりやぞ。」と脅されたRushが、なぜか大作主義をさらに推し進めた結果出来てしまった20分の表題曲を含む彼らの出世作

 #1 "2112" は素晴らしい出来でめっちゃ聞いた。舞台は人類が宇宙で暮らすようになって久しい西暦2112年、主人公はRed Star Federationという連合国家の一惑星(多分これが地球)に住んでいて、そこでは「寺院」が絶対的な権力を持って領民を統治している。主人公たちは管理された社会に何も疑問を抱かず、ある意味平和に暮らしているのだが…というところから始まる7Partから成る組曲。うーん、これは全部解説してしまおう。

 Part1 "Overture"はインスト。ここから続くPart7までの組曲の各パートを構成するモチーフやリフを詰め込んだ、まさしく序曲の役割を果たす曲。ドライブ感のあるギターと、多くのキメで非常に盛り上がる。曲終盤の不思議なギターメロディはチャイコフスキーの"序曲1812年"から採られているらしい。インストと言ったが、ラストを飾る一説"and the Meek shall inherit the Earth(そして敬虔なものたちが地球を継承するだろう)"はPart1に含まれる。
 Part2 "Temples of Syrinx"は、寺院視点の曲で彼らによる「素晴らしく平等な」管理社会が語られる、ハイトーンシャウトとヘヴィなリフで構成されたハードロック曲。先にいっておくと、基本的に刺々しいハイトーンで歌うパートは寺院視点で、そうでない柔和なトーンのパートの場合は主人公視点である。
 Part3 "Discovery"はタイトルの通り、主人公が洞窟で「触れると音を出す不思議な未知の道具」を発見し、この道具が奏でる音色に魅了された主人公がみんなに自慢しよう!と思いいたるまでの話。まあ、この道具というのはギターです。ギターをチューニングし、弾き始め、弾き語りをするといったところを表現したアコースティックな楽曲。主人公ギター覚えるの早くない???ギターの音を初めて聞く主人公が語る音の表現が美しくてすごく好き。”notes that fall gently like rain..."。
 Part4 "Presentation"。続いて、主人公は寺院にてこのギターのすばらしさを力説するも、しかし神父たちはにべもなくこれを否定し「こんな余計なおもちゃのせいで昔の人類は滅んだ。馬鹿な考えは捨てろ。」と一蹴される。ここでは主人公視点と寺院視点が交互に登場し、その歌い分けは実に見事。2回目のコーラスが終わった後に、急なテンポチェンジにOvertureのリフと性急なギターソロと焦燥感を煽るパートが登場するのだが、寺院が「この痴れ者を追い出せ!」と兵士をけしかけ、主人公が抵抗するような雰囲気が感じられる。
 Part5 "The Oracle:Dream"。神託ですね。失意のうちに自宅に帰った主人公は、その夜夢を見る。ずっと以前に滅んだという昔の人類は、まだどこかで生きていて、地球を取り戻そうとしている。シンバルのチョークとキメ全開のリズミック且つメロディックなこのパート、私は大好きなんだが、なぜかライブ盤ではこのパートが飛ばされる…。"I stand a top of spiral stair, the oracle confronts me there"のところ、神託的な厳かさと前向きな希望と力強さが同居していてとても良い。
 Part6 "Soliloquy"ではちょっと時間が飛んだのか、おそらく反乱に失敗したと思われる主人公が、気づいてしまった管理社会の歪みを打ち倒せないまま、ベッドで静かに息を引き取ると思しき場面が描かれる。マイナーで悲しいメロディーを歌い上げるパート。自分としては主人公はここで死亡したと思っているのだが、どうなんでしょうか。"My life blood spills over..."だもの。
 そしてPart7 "Grand Finale"、これもインスト。Overtureにはなかったスピード感のあるリフとドラムフィルの嵐で大盛り上がりの中、楽曲はエンディングを迎える。最後の警告…"Attention All Planets of Solar Federation..We have assumed control"というのは、地球及び太陽系を取り返した旧人類のメッセ―ジなのだろうか。旧人類が連合国家支配下に置いたという警告であり、つまり、主人公の夢は果たされたということなのだろうか?

 …などとそこそこ語れるくらいには好きである。それぞれに繋がりが明確にありつつも、個々のリフやメロディは単体で見ても優れており非常にキャッチーさがある。素晴らしい完成度だと思うんだよなぁ。
 一方のB面は小粒な佳曲が揃っているが、特に”A Passage to bangkok"が好き。コロンビア・ジャマイカ・モロッコアフガニスタンカトマンズと様々な地名が出てくる歌詞と、怪しいオリエンタルなリフ・メロディーが特徴的。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 正直B面曲にはそんなに思い入れないんだけど、A面の2112だけでこの価値がある。

4.どのような人に推奨するか

 Rushを聞くなら、これは鉄板だし間違いない。1枚目に買ってもいいでしょう。歌詞も併せて楽しんでほしい。ドラマチック・プログレッシブなハードロック好きへ(ただし、複雑な展開や変拍子が多いわけではない。そういうのは次回作から)。