めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

大野裕之 / 京都のおねだん

大野裕之 / 京都のおねだん のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が図書館から借りてきたシリーズ。こういう妙な本をどこで見つけてくるんだろう。

2.内容

 2017年作の講談社現代新書。古都・京都の様々なものの値段をテーマに、京都人が何にお金を出すのか、ひいては何に重きを置くのかといった価値観に迫る随筆集。作者は出身は洛外だが、京都大学への進学以降ずっと京都住まいであることから、「外から見た京都」というコンセプトであるらしい。
 もちろん、ただ「これこれはいくらです」で終わる本ではない。『初めての抹茶パフェ』では京都で開発された経緯などが判るのだが、例えば『貸出地蔵』『仕出し』といった概念をそもそも知りもしなかった。貸出地蔵は、新興のマンションなどで祭をやるときに地蔵がないのでご近所から借り出すという仕組み。仕出しについては京都あまり関係ないような気もするが、端的には映画の端役もちゃんとした俳優さんを使うほうが素人使うより撮影時間も品質も良いですよ、というようなこと。『仕出し』とはそういった名もなき役を演じる俳優のことを指すらしい。
 京都はは老舗の歴史が深い。14代も続くお店が平気であったりする。そういった老舗のイメージは『伝統』『古めかしい』イメージがあったりするかもしれないが、結局その時代時代を生き抜いていかなければならない一自営業人なのであり、むしろ代々の店主はみんなベンチャー企業家のようなものであるとの言葉が印象深かった。

 著者の文章表現がなかなかに面白い。『日本人を語るときにサムライスピリットとは言われるが、クゲスピリット(公家ね)とは絶対に言われない』ってどんな発想やねんと思ったけど、確かに取り沙汰されるのは武士であることが多いですね。まあ世襲や血筋による(イメージ)ものよりは、自身の力に寄り成り上がる武士の方が多数を占める中流下流階級の共感を呼ぶということなのではないだろうか。騎士道精神という言葉もあるし。
 著者は大学を機に「上洛」したとのこと。正しく上洛なのだが、現代語でそのままの意味で使っているケースは初めて見たかも。これもちょっと笑った。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 私は大阪に住んでいたことがあったので、その点でも楽しめました。このへんの界隈の話かぁーみたいな。地図を見ながら読むと楽しいかも。

4.どのような人に推奨するか

 京都の文化を少し知ることができるお気軽な本として、生粋の京都人でない方におススメしましょう。