めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

体験記:顔真卿 王羲之を超えた名筆(東京国立博物館)

体験記シリーズ。東京国立博物館顔真卿展に行きました。
2019年1月からの特別展です。

1.鑑賞のきっかけ

 大きく3点。1つめは奇跡的な面白さのこの動画。


【珍プレー】「トリオ神経衰弱」が難しすぎて東大生でも歯が立たなかった回【弱すぎ】
 2つめは、音声ガイドが関俊彦さん。
 3つめは、漫画『とめはねっ』で。

2.内容

 展示そのものは晋から唐(3~9世紀)が中心で、顔真卿はその一部。殷周や明清の作品もあったし、唐時代でも顔真卿以外の書家が多数紹介されている。章立ては以下だが、ハイライトであり個人的も時間をかけて回ったのは第1~第3章まで。

第1章 書体の変遷
第2章 唐時代の書 安史の乱まで
第3章 唐時代の書 顔真卿の活躍
第4章 日本における唐時代の書の受容
第5章 宋時代における顔真卿の評価
第6章 後世への影響

 表現の幅が広がっていく様と、媒体に適した文字が生まれていく様子は、特に漢~唐あたりの時代ならではと思える。紙という媒体そのものは蔡倫によって1世紀あたりに発明されていたが、書というのは紙に書かれるばかりではなく、木簡・竹簡に書かれたり、石に碑文として篆刻されたりしていたのだ。書簡はともかく、碑文は彫師の技術も重要だったのではないだろうか。葛飾北斎展で富嶽三十六景の『神奈川沖浪裏』を見たときにも、絵そのものに加え版画師の技術によって成り立っている部分は大きいと感じたものである。

 王義之に始まり、初唐の三大書家、虞世南・褚遂良・欧陽詢の書家たちはやはり大きくクローズアップされていた。私は褚遂良の『雁塔聖教序』が美しくて好き。後は『牛蕨像造記』などに見られるぶっとい線で力強く書かれる北魏楷書がお気に入り。
 そして、ハイライトである顔真卿『祭姪文稿』安史の乱で親戚の顔季明が命を落としたことを受け供養として書いた下書き文(稿は下書きの意)…では、平日昼間であるにも関わらず10分以上の行列が出来ていた。関俊彦さんの迫真の翻訳を聞きながら、鑑賞しておった。悲しみの極みである…。
 かなりのボリュームと情報量のある展示で、正直第3章まででかなりエネルギーを使っていたので、4章以降はやや流して鑑賞してしまった。懐素さんの酔っ払ってのたのたした文字表現などを楽しんだ。全作品を真剣に全部鑑賞すると、多分丸一日かかっても見切れないかもしれないレベル。お疲れ様でした。

 この『祭姪文稿』、中国国内ですら見れない代物らしく、日本公開されることで中国側では結構な話題になったとか。実際、大陸から見に来ていると思しき方が多かった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 すごいボリュームで全量ちゃんとは見切れなかったけど、良かった。この展示に限らないけど、音声ガイドはつけて正解。当時の天皇陛下(今の上皇陛下)も鑑賞されたらしい!
 両陛下が「顔真卿展」を鑑賞 | 毎日新聞

4.どのような人に推奨するか

 顔真卿もそうだけど、この時代の書は政治や宗教と密接にかかわっていて、単なるアートではない。碑文の類は大抵何かしらの業績か人を称えるものだったり、政治的な記録の意味合いで作成されたりしている。書は知識人の一教養でもあり、書家たちもただの書家というわけではなく政治家としての側面を持つ(実際、顔真卿安史の乱に関わったりしているわけで)。そういうわけで、中国史に興味があるものなら、書の歴史はきっと楽しめるものだと思う。

Ex.ギャラリー

ポスター

唯一撮影可能だった作品