めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

菊池寛 / マスク スペイン風邪をめぐる小説集

菊池寛 / マスク スペイン風邪をめぐる小説集 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が買ってきたシリーズ。菊池寛って、文芸春秋立ち上げおじさんで名誉ある賞作ったおじさんなのは知ってるけど、作品は読んだことなかったな、そういえば。

2.内容

 コロナ禍における便乗企画といいますか。売り物としてのコンセプトは非常に分かりやすい2020年に文春文庫から発刊された、短編8編を含む短編集。
 言うほど全編がマスクでもスペイン風邪がテーマでもないです。まぁ短編集にはよくあることか。ただ、後ろ暗くて人間の俗悪な部分を描いた小説群でありながらエンターテインメント性に富んでいて、読んでいて楽しかった。身投げ自殺の救助に定評ある婆さんがいつのまにか救助が目的になってしまい身投げを待ち望むようになる『身投げ救助業』とかめちゃおもしろ。助けられた人間はもっとワシに感謝すべきなどと思いあがっておいて、いざ自分が(不慮の事故で)身投げから救助されると救助者の自信満々ぶりが気に食わないという。あぁ人間って感じ。同僚が感冒で死んだものの誰もが悲しむどころかむしろ悪口で死者を貶め、誰も通夜にすら参加したがらず言い訳を付けては逃げ最終的にはくじ引きで参加者を決めるという『簡単な死去』も醜くて素晴らしい。
 しかしながら描写があっさりしているからなのか、読後感は悪くない。エンターテインメント性のある現実的な物語群として楽しめました。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 内容は文句なく面白い。菊池寛って面白いんやな。コロナ釣りのタイトルは表題に嘘はないがどうかなぁという感じ。

4.どのような人に推奨するか

 マスク・スペイン風邪ネタは置いといて、単純に人間関係や心の機微を捉えた話作りが楽しめて良いと思います。内容が不道徳なのが特にGood。自分は道徳的な話や恋愛物語は全然読みたくないので…そういう意味ではどれも良かった。