めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

柞刈湯葉 / 未来職安

未来職安 (双葉文庫)

未来職安 (双葉文庫)

柞刈湯葉 / 未来職安 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 昨年『人間たちの話』を読みまして、面白かったのですよ。Twitterもフォローしている湯葉先生の文庫作品が出たということで、さっそく購入しました。

2.内容

 原作は2018年に双葉社から単行本リリースされたもので、本書は2021年に文庫化したものです。双葉文庫からのリリースです。とりあえず、「柞」が変換できなくて困った。サクと読みそうな雰囲気は感じだが、サクっていっぱいあるし…ハハソとも読むらしいんだけど、変換されないし。イスって読まないみたいだし。最終的に手書き変換しましたた。

 作品の内容。ベーシックインカムが十分に行き渡り、輸送・食事・防犯等を含むあらゆる日常がオートメイトされた近未来の日本では、99%の国民が働かずに生きていける。そんな中でも働こうとする1%の人たちのお話。
 職安に務める主人公は、前職(県庁)を引責辞職している。自動車は本当の意味で自動化されていてめったに事故など起きないし、事故の責任そのものはもはや人間にはない…そんな中で、「責任をとったっぽく見える」ためだけに役職が存在し、事故が起これば担当者である主人公はその役職を辞し、被害者はそれで満足する。そんなエピソードが描かれるんだが、そんな意味のない辞職に満足して引き下がる被害者(の父親)がどーにも非人間的に思えて仕方なかった。
 ある部分は非常に機械化・最適化されてて、しかしある部分は不合理なままで(先述の交通事故担当や、特に理由もなく通う学校など)、という歪さに気味悪さを覚える。一方で、「人間社会というのはこういうものなのかもしれぬ」という上位存在的な感想を抱いたりもする。
 しかしどうにも、この社会に生きる職安メンバー以外の人間の姿があまり想像できないというか。ツッコミどころというか、世界観の疑問に対する回答はそこそこ作中で示されるんだけど、それでも99%の人間はほんとに何をして何を考えて生きているんだろう、と不安に思ってしまう。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 交通事故の被害者のお父さんで違和感を覚え、その違和感を抱えたまま読んでしまった感じ。

4.どのような人に推奨するか

 「みんな働かなくてもいい世界になったらどうなるかな」という思いつきを突き詰めたライトで読みやすい作品です。近未来とかサイエンスのディテールではなく、結局その世界にいる人間がどのように考えどのように生きるか、を描いていると思いますので、そういった人間ドラマとして読まれるのが良いのではないかと。