めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ピーター・ワッツ / 6600万年の革命

ピーター・ワッツ / 6600万年の革命 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 立川ジュンク堂書店の新刊コーナーでハヤカワとか創元のところを見てところ、表紙とタイトルが目を引いた。作者や作品のことは何も知らなかったが、ストレートな宇宙SFが読めそうな予感を感じた。あと、デカい数字を出されるとスケールが大きく感じるという単純な人間なのです、私は。

2.内容

 原著は2018年に発表された中長編"The freeze-frame Revolution"と、そのスピンオフである短編"The Hitchhiker"で、2021年に創元SF文庫からリリースされた。本編は200ページ強、スピンオフは数十ページといったボリューム感。
 だが、私のような初心者に取っては内容はハードなものであった。本作はなんかバカでかいAI宇宙船が拡張的にワームホールを作り続けていく中で、必要な時にだけ肉体と頭脳を持った人間がコールドスリープから任意に覚醒させられて仕事をしている。その解凍周期や必要性も全てAI宇宙船が判断し、場合によっては数十年~数百年と平然と世紀を飛び越える。宇宙船には3万弱の人間が同乗してはいるものの、次に一緒に解凍されることがあるかどうかも分からない。そうやって引き伸ばされた人生を送る搭乗者達の旅は6000万年にも及ぶわけだが、もちろん本人の時間ではたいした時間は経過していないし、宇宙船に中に「囚われた」という感覚もあって、数字的なスケールの大きさとは裏腹に、非常にクローズドサークルな舞台に感じられる。宇宙船の外の出来事は基本的に本編と関係してこないしね。
 本作はその世界観が主人公サンデイの一人称視点で語られるもんだから、とにかく序盤は何が起きているのか何をやっているのか分かりにくくて仕方なかった。なぜなら当のサンデイも冬眠中の出来事は知りえないし、次に目覚める時には相当の時間が立っているため。一人称視点であることで、この辺の不可解な感覚を読者が作中人物と共有できている、ともいえる。読んでる途中はかなりの頻度で「は?どうなってるんや?」と前のページに戻ったりしてた。これは作者の文章の書き方というか、理系チックな単語と多くの修辞に溢れた文章表現と、アメリカンで小粋な会話文(作者はカナダ人だけど)に要因があると思うんだが…本編と解説を読み終えて、ようやく前段落のような筋が理解出来てきた。でも、ワームホールを構築し続ける意味や目的は今も分からないままである。     

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 本作は"Sunflower Cycle"というシリーズもののうちの1作にあたり、日本では『巨星』としてリリースされているらしい。どうかなー、そっちも読むかどうかは迷っているところ。

4.どのような人に推奨するか

 最強のハード宇宙SFとの帯タタキだが、基本的に宇宙船の中にしかいないから、壮大さや宇宙感はあんまり感じないんですよ。コールドスリープに囚われ管理される人間と、管理者であるAIとの戦いというストーリーなので、サスペンス的な読み味を求めている人に向いているのではないかと思いました。