めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

アーサー・C・クラーク / 楽園の泉

楽園の泉

楽園の泉

アーサー・C・クラーク / 楽園の泉 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 先日『幼年期の終わり』を読了し、そのスケールの大きさとリアリスティックな描写に感心してしまったので、続いてこちらを手に取ってみた。次に手に取る作品に困ってたんだけど、小川一水セレクト「新時代に読むべきSF」とか帯タタキが言ってたので、これにしたよ。 

2.内容

 原作は1979年、翻訳は山高昭さん。翻訳が比較的新しめだからか、新版は出ていない模様です。元の文庫は1987年に出ており、こちらは装丁も新たに2006年に再発行されたものです。作者の作品の中では結構後期のラインナップにあたりますね。
 ストーリー自体は、一言でいえば軌道エレベーター…宇宙上の人工衛星から地球表面にケーブルを下ろして、直接アクセス可能なエレベーターを建造しようとする技術者の話です。序盤は現在と過去をいったりきたりする話に少々混乱した。軌道エレベーターの地表側の建設ポイントであるスリランカを訪れる主人公の話が現代、そのスリランカにかつて栄えた王朝と寺院の時代について書かれているのが過去です。
 中盤から具体的な建設方法や技術の話が出てくると、俄然ワクワク感が増す。素晴らしいのは、具体的な建設方法とその技術的な説明、費用の捻出、懸念点や他者や世論の反対、利害関係、イレギュラーな障害など、ものづくりに関する諸要素が物語にリアリティを与えている点。そういった説明のひとつひとつが非常に「もっともらしさ」を齎す。作中で指摘されているように、軌道エレベーターは地表から見ればまさしく天まで向かって伸びる塔である。それが倒れてくるかもしれない恐怖、高所への恐怖などの指摘は一般人の感覚からすると至極真っ当に思えた。あと、本作では他著や新聞・講演からの引用といった形式で表現される箇所が結構あるんだけど、これもまた虚実混ざっていて絶妙に騙される。薬剤投与で異教徒への改宗が出来るって、一瞬信じてしまったよ…
 作者後書きと、金子隆一さんの解説もとても良かったです。多分どの版でも付いてくるんだと思うけど、セットで読んだ方がイイ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』のようなクソデカスケールの話とはまた違った方向性ではあるが、良いよー。

4.どのような人に推奨するか

 何かしらものづくり経験のある人、宗教・哲学・科学技術に興味ある人におススメ。『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』でクラークに入った人が読んでも損はしないし、あるいは最初に読んでもいいかもしれない。