めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

中島敦 / 山月記・李陵

中島敦 / 山月記・李陵 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦と、『山月記』は教科書で読んだことあったからね。

2.内容

 33歳で亡くなった中島敦の短編小説集。新潮文庫から発刊されていて、『山月記』『名人伝』『弟子』『李陵』の4編を含む。いずれも昔の中国(春秋戦国~唐くらい)に取材した短中編。氏は漢学の家系だったらしいね。
 少年漫画みたいな弓巧者の描写(お互いが弓を引き矢を放つと、先端同士がぶつかって矢が落ちただの…)、弓を持たない弓名人への弟子入り、「不射の射」の極意を会得した紀昌のオチと、多分に寓話的な『名人伝』が面白い。
 同じ匈奴にとらわれた身でありながら、国を裏切った(と思われた)廉で一族郎党が故国に殺されて故国への忠義を失った李陵と、何年とらわれていようとも変わらない蘇武の対比と、李陵の心の葛藤がお見事な『李陵』。元の漢書史記には絶対こんなこと載ってないだろうに、事実あったことのように淡々と描かれているという凄さ。同時代の人たちと比べると、題材の関係もあって国/人物名がまず難しく、単語選びも漢文風で難解に思える。よく昔こんなの読んだな…。時代背景や倫理観は異なれど、語られている葛藤・怒り・悲しみは現代の人間でも共感を呼ぶものだと思う。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 良かった。

4.どのような人に推奨するか

 思想、中国の歴史/史書が好きな人かしら?たまにTwitterとかで山月記は好まれているのを見かけますね。