めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。

鳥飼玖美子 / 歴史を変えた誤訳

鳥飼玖美子 / 歴史を変えた誤訳 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 ブックオフで偶然見かけたものをタイトル買い。

2.内容

 1998年に『言葉が招く国際摩擦』というタイトルでジャパンタイムズから発刊されたものを、新潮OH!文庫が2001年に文庫化したもの。教養・雑学に特化したレーベルのようだ。作者の鳥飼さんは執筆時点で20年以上の通訳歴を持つ玄人というころで、信頼できるかなとも思った。
 インパクトの観点から文庫題が採用されたのだろうが、件名は旧題の方が的を射ていて、基本的には政治経済の世界における誤訳が事例として載っている。国家間でのコミュニケーション失敗、訳語の選択による誤解という「ことば」の話のみならず、訳語はあるが言葉が意味する内容のズレに起因する問題やそもそも訳語がない言葉など「文化」の話も語られる。というか「言葉」と「文化」は不可分であり文化的背景を理解したうえでの通訳が通訳者に求められるという話。
 一方で、(自己中心的な正義や責任回避による意図的な語訳は論外としても)、通訳者は主体である話者の代理人であり、言葉と文化を伝えるがための意訳はどこまで許されるのか、というジレンマもある。例えば「白足袋」という言葉を「white socks」にしてもその古めかしさや装いの雰囲気が全く伝わらないので、英訳時に「white gloves」としたものがある。なるほど、作者の意図した(その服装をさせた)雰囲気は英語文化圏の読者に伝わったかもしれないが、一方で「白足袋」という表現・文化は完全にオミットされているためこれを認識する機会もなくなっている、と。いっそのこと「Jikatabi」などとした方がよほど伝わるのではないか、といったような話が、松尾芭蕉の俳句『古池や…』の「蛙(kawazu)=Frog」についても言われていて、そうした通訳の「べき論」も非常に興味深かった。
  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 総じて面白かった。著者の経験上80年~90年代の政治テーマが多いです。

4.どのような人に推奨するか

 英語/語学好きは間違いなく楽しめると思います。歴史・現代史好きにも。