めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

ケン・リュウ / 紙の動物園

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

ケン・リュウ / 紙の動物園 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 年始に妻の実家に行ったら、この本が置いてあった。「おもしろいよね」と家族内で話題になっていたので、読んでみた。

2.内容

 2017年、早川書房からの文庫リリース。ケン・リュウは中国出身の作家で、2011年に本作収録の短編『紙の動物園』でヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞に選ばれたという。いずれもSFやファンタジーを扱うタイトルですな。
 基本的には現実社会に基づく世界の中であり、作品世界は現代史がベースとなっている。基本的には1点のSF要素(現実とのズレ)が本作収録の話をSFたらしめていると思うのだが、その設定・世界観と描写が実に見事で、「本当にありえたかもしれない世界」であるように思えてくる。
 『紙の動物園』は、母親が折り紙で折った動物たちが動きだす。『太平洋横断海底トンネル小史』は日本が日中戦争もWW2も回避して、日中台共同で極東からアメリカまでの超長距離海底トンネルを掘った世界。『心智五行』では人間が体内の細菌類を制圧し全く「クリーンな人間」が標準的になっている。それぞれ数十ページの短編に過ぎないのに、よくよくドラマを表現している。
 読後感が暗い話も結構多いので、その描写力も相まってエンディングにどんよりする話も…(『結縄』『文字占い師』あたり)。あとは、普段SF読まないので比較対象は挙げられないが、藤子・F・不二夫の短編集のような雰囲気もあると思った。こちらはかなり湿っぽい人間ドラマという感じがするが。どの作品も彼の経歴(中国生まれ、プログラマ経験あり、弁護士も兼業…多彩な人だ)が色濃く反映されているのだろうなと思った。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 確かにこれは心に来ます。感動とか泣けるとか、そういう単一の表現はできないのだが…。

4.どのような人に推奨するか

 歴史IF・SF・短編が好きな人、考えさせられるようなお話が好きな人に。おススメです。