めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。

大森洋平 / 考証要集

大森洋平 / 考証要集 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が図書館で借りてきたやつシリーズ。他人のチョイスで読む本って面白いですよね。自分が選ぶ本の選択肢は、基本的に自分の領域にしかないから。

2.内容

 2013年に文藝春秋社からリリース。NHKで歴史ドラマの時代考証などを担当されている方が、自身が仕事する中でまとめ上げ、そしてNHK内で定期的に頒布していたメモ集を文庫化したもの。タイトルは平安ごろに成立した仏教書『往生要集』から採られているとか。まずその往生要集を知らんかったわ…

 辞典形式で、あらゆる事物の時代考証メモが載っている。その範囲は物事や言葉はもちろん食料・植生や仕草にまで及んでおり非常に膨大だが、これでも掲載されているのはほんの一部に過ぎないようだ。本来は1万ページ(枚だったかな?)ほどあるというものを300ページ足らずの文庫本にしたわけだから、それもむべなるかな。
 さて、時代考証といったときにあなたはどの時代を思い浮かべるだろうか。歴史ドラマなんて言うと、所謂NHK大河ドラマでよくある戦国時代あたりが浮かぶかと思う。もちろんこの時代を対象とした考証も多くあるし、遡って平安時代が対象のものもあるのだが、もっと近代…明治大正から昭和も考証の対象になっているのがポイント。昭和ももはや歴史の一部であり、ドラマの舞台・時代設定によく使われるだろうから(太平洋戦争とか東京オリンピックとか)、考証対象になるのはもはや当然と言える。当時の市井の人々がゼロ戦を「ゼロ戦」と呼んだか?なんてことを考え出すと、脚本や舞台の全てが考証対象になってしまう。これは大変だよね。

 何のためにこんな考証をするのかというと、リアリティを持たせるため、ということに尽きると思っている。「リアルであること」と「リアリティ」は全然別の概念だと思う。殊歴史ドラマという観点では、考証されるべきは後者であり、リアルな再現に努めた結果ドラマが面白くならないのは本末転倒。本作中でも、ドラマでは歴史と異なるとわかっていながらも、そうしたある種の「開き直り」の精神を持ってフィクションの描写をすることはある、と述べられている。全くその通りだと思う。
 あと、やっぱり歴史ドラマとかやっていると「史実と異なりますおじさん」の投書やクレームが多いようで…作者の苦労が偲ばれる。この点については、歴史ドラマではないが、銀魂作者である空知英秋氏の『その前に幕末に宇宙人はいません。もっと勉強したまえ。』というフレーズを思い出した。フィクションとして楽しんでいこう。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 戦国~江戸期に「室町時代」という言葉はない。足利将軍の世、というのだ!

4.どのような人に推奨するか

 歴史ドラマは全然みませんが、歴史好き・うんちく好きなら楽しく読める本だと思う。日本語のありがちな誤り(正:火ぶたを切る、誤:火ぶたを切って落とす)などの由来も知れてうれしい。辞典形式なのでライトに手に取れるというのもメリット。人気を博しpart 2がリリースされている(未読)ので、そっちから手に取ってもいいだろう。