めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

体験記:information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美(サントリー美術館)

体験記シリーズ。「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 同日に行ったウィーンモダン展とのハシゴありきで、徒歩で行ける近さだったので行ってみたよ。一般的でないタイトルと謎めいたコンセプトに魅かれたこともきっかけの一つ。

2.内容

 国立新美術館から10分も歩けば到着するサントリー美術館東京ミッドタウン内の施設であり、広さはさほどでもない。この企画展では、ある展示品を「inspiration(黒)」ルートと「information(白)」ルートから体験・鑑賞するという実験的な試みに挑戦している。展示品そのものは主として近代(江戸時代)の日本美術品であり、作品数だけで言えば20点強と少なめなのだが、その展示方法がとにかく独特であり、これを楽しむ展示。

 どちらのルートを進むは最初に選択可能。周回前提なのでどちらから入ってもいいのだが、自分は黒⇒白⇒黒の順番で3周した。結果的にはこれが良かったと思う。所要時間は周回込みで1時間程度。
 1周目黒ルートでは、提示される情報が非常に限定的で、時には展示品そのものですらない。キャプションは一切なし。限定された視界から見える作品の一部分であったり、作品の文様を模した全然別の物体であったり、作品の形だけを模したプラ製品だったり、作品を要素に分解して見せていたり、と様々な切り取り方で展示してある。…と書いたが、こう書けるのは2周目を回ったからであり、1周目では「それがなんであるか」の想像すらつかないものが大半。いや、出品リストがあるから正確には作品番号で洞察はできるのだが、それでも名前と展示が一致しない。疑問を抱えたまま1周目を終える。
 2周目の白ルートは、作品を生のままで見ることができ、黒ルートを補うかのような過剰とも言える大量のキャプションが設けられている。1作品あたりの説明文がものすごく多くて、読むのが大変だった。ここでようやく、黒ルートで見た作品が何であったのかが理解出来てくる。
 そして3周目、再度の黒ルート。再度黒ルートの視点で展示を見たときに、なぜ黒ルートでこのような展示方法を採ったのかがアハ体験のように見えてくる。#2『朱漆塗瓶子』は黒ルートで赤いフィルムを貼られて色が判らないが、それは作品そのものの朱に重ねていたということ。#15『菊蒔絵煙草盆』で煙草とライターが並べて配置されていた(これも美術品の一部なのかと思った)が、煙草盆であるが故の配置であること。#17『蓮下絵百人一首和歌管断簡』では帯状に壁に貼られた和紙の間から作品を覗く仕組みだったが、これはこの作品が複数枚から成る作品の一部を切り取ったものだから。この3周目で、頭の中で展示が完成したように思えた。
 

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★ー
 とにかくコンセプトありきの企画展だと思う。作品そのものにはあまり集中できなかったし作者や作品名もあまり印象に残っているわけではないのだが、そのコンセプトの面白みが評価できる。写真撮影も原則すべて自由なので、撮った写真との比較でも理解を促進できるんだけど、敢えて周回した方が楽しいと思う。

4.どのような人に推奨するか

 「美術品の展示」ではなく、「デザインやトリックアートの世界」だと思って鑑賞するのがよい。そう思える人にはきっと楽しめる企画展。

Ex.ギャラリー

2つのルート

黒ルートでは不明なものが

白ルートで理解できる