廣田尚久 / 和解という知恵
- 作者: 廣田尚久
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/04/18
- メディア: 新書
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廣田尚久 / 和解という知恵 のレビューです。
1.作品を選んだ理由
これも、一橋大学のKODAIRA祭にて書籍の無料配布で入手したものの一つ。
2.内容
2014年、講談社現代新書。弁護士、大学教授などを経て、2006年に「紛争解決センター」を設立した。訴訟による解決ではなく、調停・和解による紛争解決を独立した学問として研究し、広めている方であるそうだ。
内容は、和解と呼ばれるもののシステムと実現方法を解説したもの。訴訟を対立概念として説明する以下の表が分かりやすいので引用する。
訴訟 | 和解 |
---|---|
過去志向型 | 未来志向型 |
100:0の勝ち負け | 権利に相応する解決 |
要件事実主義 | 事情配慮主義 |
因果律に従う | 因果律にこだわらず共時性の原理も使う |
自由意志の上に成り立つ | 自由意志のみならず潜在的意識や無意識にも配慮する |
訴訟は過去の因果から勝ち負けを決めるが、和解は必ずしも勝ち負けでは定まらず、将来的にどうしたい・どうあるべきといったことも考慮した上での解決方法を探る。因果律に従う、というのは「AなのでB、BなのでC」などといった原因と結果を連ねて導かれることを指す。直接の因果関係がなくても、関連性のあり得るものとして取り扱うことができる、ということらしい。
第五章以降では筆者が具体的に実践したケースなどが数多く登場する。ここで解説されているシステムとメソッドは一般的な個人での、あるいは組織内での紛争にも応用できる部分があると思う。
個人的に試してみたいのは、終盤で紹介される付帯条件付き最終提案調停。AB双方が希望の提案を提出し、調停者が妥当な方を選択する。ただし、請求元Aの提案が請求先であるBの提案を下回る場合は、その中間値を採用する、というもの。妥当性のない提案では調停者に全く採用される見込みがなくなってしまうため、双方が落としどころを考え「自信を利し、且つ採用されうる案」を作らなければならないところがポイント。
例えば子供(A)が小遣いの賃上げを要求し、親(B)がこれに反対する場合。Aは「5000兆円欲しい」などど言っても受け入れられるわけがないので、現在の小遣いや利用方法からどの程度プラスしてほしいかを考える。一方Bは収入や世間一般の平均値などからこれに対抗する論を組み立てる。Aが600円UP、Bが200円UPを提案した場合、調停者が妥当と思うほうが採用される(中間値は取らない) 。逆にAが200円UP、Bが600円UPを提案した場合、中間値の400円が採用される。
これはゲームみたいで面白い!
3.感想/評価(★の5段階)
★★★★-
日常に即応用できるほど簡単なものではないと思うが、メソッドとして知っておくことはメリットがあると感じられた。
4.どのような人に推奨するか
誰にというのは難しい。紛争の当事者が読んで和解に踏み出せるものなのかどうかは、よくわからない。読み物としては、単に和解の事例を読むだけでも面白いし勉強になるので、そういった観点でおススメする。