めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Pyrexia / Unholy Requiem

Unholy Requiem

Unholy Requiem

  • アーティスト:Pyrexia
  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: CD

アメリカのデスメタルバンド Pyrexia / Unholy Requiemをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 以前3rd"Unholy Requiem"を買って悪くなかったんで、新作を買ってみた。

2.内容

 2018年リリースの5thフルアルバムで、前作同様Unique Leader Recordsからリリース。バンドメンバーは…中心人物と思しきChris Basilleさんを除いて全員が入れ替わっているようだな。まぁ10年以上経過しているから仕方ないかな。
 音楽性自体はあまり変わっていないんじゃないかな。Slayer風のスラッシーなスピード感とある種の爽快感を齎す高速パートと、突進一辺倒ではないスローでノリの良いビートダウンパートが交錯するオールドスクール感の強いブルータルデスメタル。ギターソロはやっぱりSlayerっぽいわ。
 ボーカルは変わって、スタンダードなグロウルスタイル。音質はかなりカラッとしてクリアになった。本作と3rdを比較すると3rdの方は軽くて荒いプロダクションと言えるかもしれないが、その荒さも魅力ではあるので、デスメタルという音楽性を考えたときに一概にどっちがいいというのはないと思う。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 良い。

4.どのような人に推奨するか

 音楽性は一緒だと思うので、どっちから買ってもいいです。オールドスクール味のあるブルータルデスメタル好きに。

伊藤計劃 / 虐殺器官 [新版]

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃 / 虐殺器官 [新版] のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 全然知らなかったんだけど、クラシックではなくコンテンポラリーな日本のSFも読んでみたいと思っていたところに、こちらが陳列されておりました。冒頭数行読んで惹きつけられたので購入。

2.内容

 2007年の作者デビュー作。こちらは2014年にハヤカワ文庫(JA)から出版された新版(Amazonリンクは旧版ですね)。表紙がアニメ絵っぽくなっている。真っ黒で良かったんちゃうかな。9.11以降テロリズムが蔓延する中、世界は個人やモノへの管理を徹底的に管理するようになる。個人の買い物・食事・移動はおろか、モノの流通や履歴の全てに追跡性が付与された、究極にIoT化された世界。そんな中で描かれる軍事/謀略のサイバネテックな戦争サスペンス。冒頭から迫真的な死体の山が描写され、悲惨な紛争の予兆が示される。戦闘シーンは無慈悲にして凄惨であるのだが、どちらかと言えば情緒的で繊細な雰囲気が通底しているように思うのは、主人公が「母親を殺した」という思いにずっと囚われていることに起因するからか。脳科学が高度に発達したこの世界では、脳の機能は数百に細分化され「痛覚」と「実際の痛さ」を切り離して操作できたりする。そうなると、脳はどの機能が生きていれば人間として生きているといえるのか?そのような操作≒洗脳が常態化する中で、自分の意思とは何なのか?といった人間的なテーマがリアルに迫ってくる。タイトルの「器官」は後半説明される。動機はともかくその「器官」の使い方とエピローグは悲哀的で救いがないが、なぜかなんとなく明るい雰囲気すら漂っているような気がする。作者は「爽快感」を目指したというが…。
 作者は2009年に34歳で夭逝。若すぎ。メタルギアソリッドのノベライズなども担当されているとのこと。あー確かにMGS感はありますわ。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 衝撃的な面白さ。他の作品も是非読んでみたいと思います。残念ながら作者の作家人生が短く寡作なので、全作品読んでもそんなに時間はかかるまい。

4.どのような人に推奨するか

 メタルギアソリッドのテクノロジー・政治性・生死・隠密ミッションといった要素に、哲学的なテーマと絡み合った作品。MGSのストーリー面が好きな人はきっとハマると思います。

道尾秀介 / ソロモンの犬

ソロモンの犬 (文春文庫)

ソロモンの犬 (文春文庫)

道尾秀介 / ソロモンの犬 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 なんかのまとめスレでミステリーおススメ作家で見かけた。

2.内容

 2010年文春文庫から。飼い犬に引きずられて事故死する少年を巡るミステリ。冒頭カフェに4人の友人メンバが立ち寄るところから始まり、事件前後の出来事を回想していくスタイル。どうもお話とキャラクターに納得感がない。各キャラのアヤシイムーブ⇒実はこうだった、という伏線と種明かしも、あまり心躍らないというか。絵が浮かばない感じでした。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★----
 合わなかったなぁ。この作者の1冊目がこれなんだけど、他の作品はまた違ったりするのかしら?表紙の犬の絵はイイね。

4.どのような人に推奨するか

 うーん、特にないです。

岡嶋裕史 / ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ

岡嶋裕史 / ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 漠然と、勉強しなきゃなぁ~流行ってるしなぁと思って手に取った。賤しくもIT業界にいるので。

2.内容

 2019年に講談社ブルーバックスから刊行。著者は情報ネットワーク・セキュリティの専門家で、これに類される本をいくつか書いているようです。まず冒頭からこの本の目的と読了後の達成目標が明示されているのが非常に良い。そして読んだ結果、その目標は達成されていると感じられる良質な技術入門本であった。ハッシュ関数公開鍵暗号方式・デジタル署名という基本から入るが、これが非常にわかりやすい。特に公開鍵暗号とデジタル署名の違いがよーやくまともに理解できた気がするよ。そして、そのうえでブロックチェーンの基幹技術について説明。ポイントは頭からすべての取引データを共有すること、ブロック間の結合を前後のハッシュ関数で保証し改竄を防止すること(逆にいうと改ざん防止以外に効力は基本的にないこと)であり、信頼がおけないネットワークにおいて情報の完全性を保証するための技術であると理解した。なるほどこれはなかなか既存システムには適用しづらいデータ形式だな…。プログラム面の記載はないので、さらに勉強したい人は専門書を読んで欲しいが、本書の目標である「とりあえずブロックチェーンについて聞かれたときに回答できる」という知識は得られた。文章のセンスもシンプルながらややオタク気質(挿入されるギャグも含め)で読みやすい。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 読んでよかった。これは入門書の決定版と言って差し支えないわ。

4.どのような人に推奨するか

 「ブロックチェーンってなんだろう?」と漠然とした疑問を持っていて全然知らない人向け。ハッシュや暗号化についてもわかりやすい解説があるため、IT初学者が読んでも良いと思います。

矢部 嵩 / 少女庭国

〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA)

〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:矢部 嵩
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 文庫

矢部 嵩 / 少女庭国 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋で見かけた『ハヤカワ文庫の百合SFフェア』買い。作者も作品も知らんけど買ってみた。

2.内容

 2019年、ハヤカワ文庫JAから。卒業式会場に向かう卒業生の羊歯(シダ)子が壁に囲まれた小部屋で目を覚ます。小部屋には2つのドアがあり、「ドアの開けられた部屋の数 - 卒業生の数 = 1」となった時に卒業できると貼り紙によって知らされる。隣室に続くドアを開けると、全く同じつくりの部屋の中で別の卒業生が目を覚まし…という脱出モノのデスゲームを思わせる導入。実際のところ、本編はその調子で続いていくが、本当の本編は「補遺」の方と言ってもいい。本編と思っていたストーリーは1つのケースに過ぎず、無数に分岐するシナリオと、閉鎖空間で発達する文化の興亡が見られる。思考実験的な小説。面白いよ。殺人/食人に対する躊躇いが無さすぎる気がするが、卒業生が本来の在校生の数を超えて増殖し続ける世界なので、あるいは人間ではないのかもしれないが…。「庭国」にふさわしいある意味壮大な小説。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 途中ちょっとダレますが、大変面白かったです。百合かどうかは分からんが、作劇上、本当に女の子しか出てこない。

4.どのような人に推奨するか

 デスゲーム部分はイントロダクションに過ぎない。思考実験のような分岐を楽しめる方にお勧めします。

貴志祐介 / クリムゾンの迷宮

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

貴志祐介 / クリムゾンの迷宮 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ミステリ/ホラーの有名どころとして作者の名前は存じておりました。読むのはこれが1作目。

2.内容

 1999年作かな?角川ホラー文庫より発刊。冒頭から突如として異世界(実は現実世界のどっかの広大な自然公園)に放り込まれ、そこから始まるサバイバルデスゲームですね!まぁ読み味はスムーズですが、あまり楽しくはないです。背景にあるデスゲーム開催組織のよくわからなさ(結論は金持ちの趣味なんだと思うが)だったり、シナリオ通りに動くキャラクターだったり、いろいろあるんですが、一番は「読んでいて怖くない」という点に尽きる。実際にこんなことあったら怖いやろ!と言われればそうかもしれないんだけど、これは描写やリアリティの問題かもしれませんね。あとは2020年現在だとデスゲームモノのフィクションは雨後の筍状態で飽和しているという印象があるからかもね。この当時はそうでもなかったかもしれないけど。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 あんまし。

4.どのような人に推奨するか

 うーん、とくにないです。

島本理生 / ファーストラヴ

ファーストラヴ (文春文庫)

ファーストラヴ (文春文庫)

島本理生 / ファーストラヴ のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 映画化するということで大きめに宣伝されていたので。有名作ということで手に取ってみた。

2.内容

 2018年に第159回直樹三十五賞を受賞した作品。これ2020年初に文庫リリースされたばっかりだったんだね。父親の死、かみ合わない母親との会話、性的虐待の連鎖…そんな環境に取り巻かれた少女の心理を巡るストーリー。「愛されている」と感じることができない少女が愛情を求めて意識的あるいは無意識に相手の意に沿う(そして自分の意に反する)行動をとってしまう点。先日読んだ『ケーキの切れない非行少年たち』に通じるものを感じた。ミステリ調で淡々としつつも求心力がある文章で、一気読みできてしまう強さがあった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 最初タイトルで恋愛モノかと思ってたけど全然違った。いや、愛の物語ではあるか。

4.どのような人に推奨するか

 難しいな。エンターテインメント性は高いと思うんだけど、事件の解決も含め読んでいてスッキリ壮快な話ではない。心理面の描写が興味深い作品です。

筒井康隆 / 残像に口紅を

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

筒井康隆 / 残像に口紅を のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『幽遊白書』の海藤vs蔵馬だ!

2.内容

 1989年中央公論社から発刊、1995年に中公文庫にて文庫化。実は筒井康隆は初めて。
 実験的な小説。セクションごとに世界から文字が消えていき、その言葉を含むものはその世界から存在しなくなる。ただしそれは、主人公の主観に於いて。『幽遊白書』では単に文字はあいうえお順に消えていき、発することができないというだけだったが、この世界観では「い」が消えれば犬がいなくなり、「き」が消えれば娘の絹子は存在しなかったことになる。生物だけでなく、あらゆる事物に法則は当てはまるわけだが、小説では描写しなくても当たり前に存在しているものは書かれないので、そういったものは触れない限りにおいては存在し続けている。例えば「み」がなくても「道」を敢えて想起しない限りは目的地に向かって歩いたり走ったりはできるし、何なら移動描写を丸ごと省略することも可能…という点にメタ(高次元)的に触れていく。主人公自身も小説家であり、メタ&メタな構造になっている。
 第二部では既に50音の半分近く(濁音や半濁音は別カウントなので厳密には50より多い)を失った世界で長尺に繰り広げられる濡れ場。文字が失われたことを意識しないで読め、えちえちに出来ている。最後の第三部は残り少ない文字を使いつくし残される世界…。
 作者は本作を書くにあたって、自作品に使用される文字の出現率分布を調べたうえで、残されて都合のいい文字を残していったらしい。序盤である第一章の時点で母音の「あ」「え」が既に消えているというのに、良くこれだけ書けるもんだ。語彙力に驚嘆。一部失われたはずの文字が出てきてしまっているということが本編後の解説でわかるが、さすがに気付かなかったわ…  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 お話やキャラクターが面白いわけではないが、試みそのものが面白いという作品。

4.どのような人に推奨するか

 ロジカルで実験的な小説を読みたい人。『幽遊白書』のあのシーンの元ネタを読みたい人。

ロバート・K・レスラー、トム・シャットマン / FBI心理分析官

ロバート・K・レスラー、トム・シャットマン / FBI心理分析官 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ジュンク堂書店に行ったとき、ハヤカワ創刊50周年フェアでプッシュされていた本のうちの一つ。「異常殺人者に迫る手記」なんて言われたらそりゃ興味持つわね。

2.内容

 原作は1994年、2000年にハヤカワ文庫(NF)からのリリース。作者はFBI行動科学科の捜査官としてプロファイリング(=犯人像を絞り込むことでシリアルキラーの犯人捜査を行う)を駆使する作者が、殺人者たちを捜査・逮捕するまでの過程や、逮捕後の殺人者たちと面会してその心理に迫ったりする様子が克明に語られるノンフィクションエッセイ。傾向としてやっぱり生育環境による歪みってのは大きいんすねぇ。統計的に見ていくと凶悪犯罪者にはそういった背景がある傾向が多いというのを見ると、信じざるを得ない。そして大抵のシリアルキラーに共通しているのが擬態能力が高く頭がいい、ということだろうか。そうでなければできない仕事(仕事という表現は不適切だと思うが)なのかもしれん。ちなみに、一番リアルで怖かったのは2メートル超の巨漢シリアルキラーエドモンド・ケンパーと油断からか1対1で面会してしまい、退出しようにも看守が昼食かなにかで応答せず、閉じ込められた状態で脅迫(ケンパー曰く「冗談」)されるシーンです…。事件は1970~80年代のものが多く、そういった時代背景にあるという前提で読むこと。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 現在(2020年代)では操作方法も分析方法ももっと進化していると思うので、最先端の状況を調べてみたいと思った。

4.どのような人に推奨するか

 凄惨な事件描写が主眼ではないが、結果として書かれることもあるのでそういうのが苦手な人は注意(まぁそんな人はこの本を手に取らないと思うが)。

Katalepsy / Autopsy Chosis

Autopsychosis

Autopsychosis

  • アーティスト:Katalepsy
  • 発売日: 2013/01/08
  • メディア: CD

ロシアのデスメタルバンド Katalepsy / Autopsy Chosis をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 名前だけは聞いたことあったと思ってたんだけど、もしかしたらカナダのKataklysmと間違えてたかもしれない。いずれにしてもバンド名でレーベル買い。

2.内容

 2013年にUnique Leaderからリリースされた1stアルバム。ロシアのバンドって全然知らないけど、これはスゴイね。ごく初期は所謂スラミングブルータルデスだったらしく、本作にもややその雰囲気は残っていると思うが、楽曲展開やリフの雰囲気はオールドスクール/テクニカルデスメタル的なものを強く感じる。リズミックに刻むリフもあり、トレモロやスウィープによる怪しいメロディーもあり、キュルキュルとハーモニクスを用いたいかにもスラミングデス的な低音スローリフもありと、なかなかに多彩である。これに呼応するようにドラムスや曲展開もかなりの複雑さを見せている。テクデスっぽい要素を大幅に活用しつつも軸足はスラミングデスに置いている、といった感じ。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 多彩で聞き飽きない。おススメ。

4.どのような人に推奨するか

 多彩なリフ・展開とスローパートがあるデスメタルが好きな人へ。合間に差し込まれる高速パートも強力ではあるが割合は多くないので、「速ければいいんだよおじさん」には勧めない。

宮口幸治 / ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治 / ケーキの切れない非行少年たち のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 2020年新書大賞第2位とのことで本屋でもプッシュされていて、よく見かけた。たまにはこういう本も読んで見識を広げようと思って。新書と同サイズの真っ赤な帯はなかなか目を引くインパクトがある。

2.内容

 2019年に新潮新書からのリリース。作者は児童精神科医としての勤務経験から様々な支援活動をしており、本書の執筆もその1つ。なるほどと思った点。思考ができず「反省させようにも、何が反省することなのかわからない(理解させることができない)」というハードル。この状態は少年院での刑期や更生プログラムはただただ彼らを素通りするだけで何の効果もないので、まずはそこを「認知させる」ことが重要であると。なるほど。さてそうなる原因はというと、「認知機能」「感情統制」「融通」「自己評価」「対人スキル」に問題があることが多く、学校でいじめられていたような所謂「優しい子」が非行に走る傾向を指摘する。卵が先か鶏が先か…だが、学校等での集団生活でそういった機能に問題が生じる(いじめ等により生じさせられる)こともあると思うのだが、「いじめをやめさせること」が主題ではないので、そこへの追求は特にない。「うちの息子をいじめたのだから、その報復をされるのは当然だ」と主張する親御さんが悪い例のように紹介されているが、それはちょっとイヤだったかな。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 確かに面白い。本としては、結構同じようなことを手を変え品を変え書いている感じがする。

4.どのような人に推奨するか

 犯罪心理・少年犯罪等に問題意識を持っている方、あるいはそういった心療内科領域に興味がある人。

体験記:超写実絵画の襲来(Bunkamuraミュージアム)

Bunkamuraミュージアムの「超写実絵画の襲来」展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 緊急事態宣言が解除され、美術館も再開され始めたので、なんかしら行きたかったんだよね。そんな時に探していて目についたのがこの写実絵画でした。会期も6月末までだし、せっかくだし行っておこうと。

2.内容

 先に美術館に入るまでを述べておくと、ビル側・美術館側の感染防止に余念がなかった。フェイスガード+マスクをした受付員がソーシャルディスタンスを守った行列案内をし、各人の体温を測り、住所・連絡先を書かせる。面倒だけど仕方ないね。土曜朝イチだったのでそこまで混んでなかったけど、それでも開館前にそこそこ並ぶ程度には人がいたので。
 基本的には千葉県にある写実絵画専門美術館「ホキ美術館」の所蔵作品からの展示。ホキ美術館ってどこの国にあるんだ?と思ってたけど、保木さんの美術館ということなのね…。写実的で美しい絵画がたくさん並ぶ。一口に写実と言っても、よく見れば絵だなというものから、どこまで細部を見ていっても全然絵に見えない恐ろしい精密さのものまであるが、観察力・集中力・色彩感覚の鋭敏さはどの作品からもつよく感じられる。「よく見れば絵」「全く絵に見えない」はどっちがイイとかワルイとかはない。結局自分の目をフィルタして出力しているわけだし、その構図を切りとるのは自分なわけだから、作者の個性はどうしたって出ていると思う。「よく見れば絵」のパターンはwebや画集で見ていては分からないであろう細部の塗りや描き方が、ある程度の距離から集合的に鑑賞した時にものすごく写実的に見えるという、目の錯覚のような感覚を味わえた。
 1点残念なのは、仕方ないとは言えその製作技法。やっぱり写真を撮ってそれを参考にしながら書いたりするんですよ。でも写真は撮った時点で自分の目ではなくカメラの目を通した絵になってしまうはずだし、色も焦点もカメラに依存したものになってしまうのではないかと。まぁあくまで自分の目で見たものを表現することが大前提になっていると思うし、制作に年単位でかかると聞いたからそれも止む無しとも思ったけど、それでもやはりモヤっとしますわね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これまでで一番絵の細部を近くで覗き込んだかもしれない。結界が弱めだったのもあり、見やすかった。

4.どのような人に推奨するか

 「写真じゃん」と思っている人ほど行った方がいいかもしれないです。やはり「絵」なんだな。

Ex.ギャラリー

入ってすぐのとこ

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唯一の撮影可能作品

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レイ・ブラッドベリ / 華氏451度 [新訳版]

華氏451度〔新訳版〕

華氏451度〔新訳版〕

レイ・ブラッドベリ / 華氏451度 [新訳版] のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 タイトルがと表紙がカッコイイからです。SFはこれよ。

2.内容

 2014年にハヤカワ文庫(SF)から出版された新訳版。旧訳に比べて新訳では分量が3/4程度にスリム化されているらしい。300ページ足らずのサイズ感で、文庫本を手に取った時も他SFに比較して薄めの感触。華氏451度は本が燃える温度≒摂氏233度くらい。原作は1953年。本の所持が禁じられ焚書が根付いたディストピア世界でファイアマン=昇火士としてごく当たり前に働いていた主人公が、少しずつ目が開かれ少しずつ世界に反抗していく。その中で自分の家も焼かれることになってしまうわけだが…むしろそこからの展開と反抗勢力との合流・知識への希望が本作の最もスペクタクルなパートである。序盤の思わせぶりな美少女は後半で重要な活躍をする…かと思いきや特に出番がない。なんだったんや…。テクノロジー的な面はあまり強調されないが、焚書世界で生きる人たちの考え方がよく描写されている。一言でいえば「何も考えない」人間になっている。政治的・教育的なテーマだなぁ。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 良かった。

4.どのような人に推奨するか

 焚書という要素がSFでありつつも現実的で政治的な作品にしている。短めなので、SF初心者にも。

今村晶弘 / 屍人荘の殺人

今村晶弘 / 屍人荘の殺人 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ジャンプ+でコミック版が連載中でぼんやり読んでいたのだが、先が気になるので原作を読んでしまうことにした。

2.内容

 2017年に第27回鮎川哲也賞を受賞したミステリー小説での作者デビュー作。先に漫画を見ていたことに加え、キャラクターの命名規則が分かりやすい(説明もある)、館自体もシンプル(綾辻氏の館シリーズのようなトンデモ館ではない)とあって、掴みは分かりやすい。タイトルで大体バレているような気もするが一応答えは書かないことにするが、そのフィクション設定はフィクションなりに一定のルールが提示されており、舞台装置として十分な整合性を持って機能している。リアルであることとリアリティは異なる概念なわけだが、この作品は、事件の範囲内においては後者のリアリティに説得力を持たせるようにちゃんと書いていると思う(ここで自分が言っている説得力というのは、るろうに剣心の「二重の極み」のように「それっぽい理屈があってそれがその作品のルールである」というようなものですが)。探偵役・助手役も先人のミステリ作品群を踏まえたメタ的な要素を持ち合わせつつ、よいキャラクターとして描けていると思う。文章力もあって可読性に優れていると感じた。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは面白い。2作目読みたいンゴね。

4.どのような人に推奨するか

 ミステリー好きは是非読むといいよ。現実に即した設定でないとダメな人(そんな人いるのか?)には推奨しない、くらい。あと、漫画版とは描写が違う(というか流石に情報量が違いすぎる)ので、漫画の方が好きなら原作読んで損はしない。

ドストエフスキー / 賭博者

賭博者 (新潮文庫)

賭博者 (新潮文庫)

ドストエフスキー / 賭博者 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ドストエフスキーは面白いという点と、こち亀両さんの愛読書だからです(両さんが読書にハマる話)。

2.内容

 原作は1866年ですか…。新潮文庫で、原卓也さんの翻訳です。ほぼドストエフスキーの実体験に基づいているというのがとんでもない話だが、賭博に取り憑かれていく過程とその描写が読んでてゾクゾクする。主人公アレクセイはドストエフスキーっぽい皮肉っぽくて斜に構えたよくわからないやつという印象だが、それ以上に中盤で存在感を放つのがお金持ちのおばあちゃん。最初は観光程度の気分だったのだと思うが、最初に「ゼロ」一点張りで賭け続けて大勝したのがまずかった。全持ち金叩いて郷里に帰ろうと準備した矢先、やっぱり負け分を取り返そう思いなおし、やめときゃいいのに賭場に向かってしまうおばあちゃんはまたもぼろ負け(しかもギャラリーのポーランド人に好き放題されている)。ただ、おばあちゃんは資産家で家に帰ればまだお金があるようだし、おそらく郷里に帰ればもう賭けなんかしない気がするんだが、主人公は違う。各地を転々としながら延々と賭けの求め続けていくんだろう。最初はただ女の子の頼みでお金をちょっと増やそうとしてルーレットに手を出しただけのはずだったんだが。 『祖国や友人たちから遠く離れたよその国で…最後の一グルデンを、それこそ本当に最後の一グルデンを賭ける、その感覚には何か一種特別のものがある!』。これを見て「あぁこいつはあかんやつや…」と思ったね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 人間関係(恋愛)パートがちょっと冗長に思ったが、賭博の心情と描写は素晴らしい。

4.どのような人に推奨するか

 ロシア文学っぽい。賭けが好き、もっというと「賭けで身を亡ぼす話が好き」ならおススメ。カイジかな?