めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

フィリップ・K・ディック / アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

フィリップ・K・ディック / アンドロイドは電気羊の夢を見るか? のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 その特徴的なタイトルはかねがね聞いていたが、読んだことが無かった。本屋で見かけてこの際読んでみようと。映画『ブレードランナー』の原作だが、かなり話の内容は異なっているらしい。

2.内容

 ハヤカワ文庫SFからのリリース。浅倉久志訳。原作は1968年。最終戦争により徹底的に核汚染されほとんどの生物が死に絶えた地球、その中で生き残る人類(生殖が許されたレギュラーと、人非人扱いのスペシャル)、絶滅危惧の生きた動物と、それを模したペットとしての模造動物、そして模造人間とも言える記憶も感情も持ち合わせたアンドロイド。なんというか、「人々はその世界が当たり前のように生活している」感がイイよね。
 話の筋そのものは警察官で賞金稼ぎのリック(人間)がお尋ね者のアンドロイドを追跡・殺害する話なのだが、高度にSF化されたこの世界において正直だれが人間で誰がアンドロイドなのか分からなくなってくる。と言うかどちらも人間でありアンドロイドであり、差なんてないんじゃないのと思ってしまう。「感情移入できないヤツ=アンドロイド」という判別方法があり、確かに無感情に蜘蛛の足を引きちぎるシーンでは違和感を覚えるが、一方で共感ボックスで感情をコントロールしている人間側も「感情」という点では信頼がおけない状態が常態化しているように思うのだが…。あと、度々出てくる電気動物はかわいいね。オチはそれでいいのか?っていうくらいあっさり終わる。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 読みながら、あるいは読んだ後の「人間とは何か」な思考も楽しい一冊。

4.どのような人に推奨するか

 純粋にSFでありつつ、人間への問いかけもある一冊なので、そういった思索が好きな人に勧める。

トニー・ペロテット / 古代オリンピック 全裸の祭典

トニー・ペロテット / 古代オリンピック 全裸の祭典 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 本屋でタイトル買い。まぁ東京オリンピックイヤーだから…という理由が大半だな(この本を買った後にオリンピックが延期になったわけだが)。

2.内容

 2004年作『驚異の古代オリンピック』を2020年に河出文庫から文庫化したもの。訳者は矢羽野薫さん。2004年はアテネオリンピックの年、古代オリンピックと言えばギリシアアテネなので、やっぱりオリンピック需要で書かれた本なんだろうか。
 作者は研究者ではなくジャーナリスト。この本の性格はそれを反映したものになっていて、もちろん古代オリンピックとは何かとか、成り立ちとかの基本は抑えつつも、イマジナリーな紀行文(言い方を変えればやや妄想)として書かれているパートが非常に多い。そこは好みが分かれるところかもしれないかな。「まるで見てきたように書いてるなぁ」と思ってしまった部分もある。ただ、これはそういうスタイルの本というだけで、当時のオリンピックを紙面上に再現して身近に感じさせるという意味では別に間違った姿勢でもないだろう。神話との関連性や近代オリンピックとの関連性なども語られ、なかなか勉強になる。当たり前だけど「近代五種」って、「古代五種」になぞらえたものだったんだね…何が近代なんだろうとか思ってたわ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 と言うように、なかなか勉強になる。よかった。

4.どのような人に推奨するか

 古代ギリシアの神話・歴史好き向けです。

三島由紀夫 / 夏子の冒険

夏子の冒険 (角川文庫)

夏子の冒険 (角川文庫)

三島由紀夫 / 夏子の冒険 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻の本棚シリーズ。

2.内容

 原作は1951年で、手持ちは角川文庫からのもの。三島にしては…という言い方が正しいのかわからんが、北海道の熊退治をめぐる冒険譚、その熊退治を志す井田青年と気位の高いイイトコのお嬢さん夏子の恋模様が中心で、表現も文体も極めて読みやすい部類に入る。数ページ単位で全30章に分割されているのも、なんだか連続テレビ小説ドラマみたいな感じ。当時の発表形体知らないんだけど、連載モノっぽいですよね。女性誌に載ってそう(偏見)。夏子を心配する家族たちの奔走はコメディタッチで描かれており、全体的にはかなりライトな雰囲気。一方で人間の肉体表現がどうにも艶めかしかったり、迫りくる熊の恐怖が克明な描写だったりに、あぁやはり史の作品だなとも思う。オチも良い。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 まぁまぁ。漫画みたい。

4.どのような人に推奨するか

 三島由紀夫の1作目には勧めないが、氏のライトな作品を読んでみたい人に。

小松左京 / 復活の日

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)

小松左京 / 復活の日 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ここ最近のコロナ騒ぎで話題図書になってたので買ってみた。

2.内容

 1964年作で、本書は2018年に角川文庫から文庫化。内容はポストアポカリプスモノというか…人類滅亡及び人類滅亡後の世界が舞台。致死率が極めて高く感染力も異常に強いウイルスが蔓延し人類を絶滅させる…ウイルスが唯一到達しなかった南極を除いて。
 前半はやや冗長に感じるところもあった(科学的なパートはやや飛ばし読み)が、徐々に日常がウイルスに浸食されつつも誰もそれと気づかない、そして気づいたときにはどうしようもないところまで来ているという、作中中盤5月~6月の描写あたりから一気にのめりこんでいった。そして南極に残された全人類1万人による生存戦略と、前史(人類滅亡以前)の置き土産である核システムをめぐる対応、そしてタイトルにある「復活の日」まではあっという間。
 これが1964年!?書いたときの年齢も30代前半だろうに、この知識量と筆致はスゴイ。いや、科学的に正しいかは検証してないから知らないんだけど、リアリティと説得力を感じさせるだけの描写が為されている。そして、ここに描写されている人間の姿は、現代のコロナ騒ぎとも確実にリンクできるものと思う。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 うーんこれはスゴイ。

4.どのような人に推奨するか

 このご時世ですので、万人が読んでどうぞ。

岡嶋裕史 / アップル、グーグル、マイクロソフト

岡嶋裕史 / アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争の行方 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ちょっと前に読んだ同作者のブロックチェーン入門本が大変わかりやすかったので、作者を信用した。テーマ的にも面白そうだったし。

2.内容

 2010年に光文社新書から刊行。iPadAndroid OSがぼちぼち出始めた頃の本であるという背景は、2020年の今に読む上で抑えておく必要がありますね。表題の各社が展開するクラウドサービスとクラウドに対するスタンス・戦略と未来予想をしています。マイクロソフトは元来オンプレミスの覇者であり、その延長としてのクラウドサービス。グーグルは根本的に「すべての情報を整理する」という方針があって、これを実現するための手段としてのクラウド。アップルは元来この領域に居場所はなかったものの、iPodiTunesに始まるアカウントとサブスクリプションの管理からiPhone/iPadといったデバイスの拡大させ、クラウドクラウドと意識させないままサービスとして利用させるクラウド。なるほど三社三様という気がしてくる。2020年の今でもこの感覚は間違ってないんじゃないかな。ちなみに、AWSはここではサーバサービスっぽい感じなので除かれています。Kindleとかはあるけどね。
 一番面白かったのは、Googleのデータセンターは雨ざらしのコンテナというところ。物量と分散配置で冗長性を担保し、ハードウェアそのものは重用しないという考え方。Googleさんの規模だからできるという話でもあるが、なるほどなと思った。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 面白い。2010年の本なのでというエクスキューズは必要。2020年版を読んでみたいです。

4.どのような人に推奨するか

 情報システムに携わっている人や、クラウドサービスに興味がある普通の人。(10年前の本だし、ガチ勢は読まなくていいでしょう)

池井戸潤 / 下町ロケット

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)

池井戸潤 / 下町ロケット のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 半沢直樹シリーズをはじめとする作品をいくつか読んで面白かった。今回は銀行が主役ではないが、どうなのだろうか。

2.内容

 2010年作、2013年に小学館文庫より発刊。2011年に第145回直木三十五賞 を受賞。
町工場で地道ながら精度の高いものづくりを続ける佃製作所と、国産ロケットを開発する大企業・帝国重工との技術対決が大筋。読んでいると仕事をしたくなってくるというか、仕事に魂を込めたくなるような感じがする。佃製作所側も当然一枚岩ではなく、大企業との対決にあたって社長(主人公)と社員たちの軋轢が当然ある。一方の帝国重工側も社の方針を重んじるもの・佃製作所の品質に感銘を受け一緒に仕事をしたいと思うもの・保身に走るものと様々…。その交錯する人間模様と立場の入れ替わり、リアリティのある細かい描写が大変面白い。キャラクターのやりとりも目に浮かぶようで、あぁこれはドラマ化したらウケるなと思ったし、賞を取るだけの作品であるなと。半沢直樹シリーズが「銀行モノ」とするなら、こちらは「エンジニアもの」だね。敢えていうと、社長単体で見れば研究職への道もあるほどの技術力をもし一国一城の主として会社経営と夢の追求をしているスーパーハイスペックおじさんじゃねぇか、という妬みはなくもないかなw。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 銀行モノよりエンジニアものの方が自分にはあってるな。すごく面白かった。

4.どのような人に推奨するか

 全ての会社人が読んで楽しめる内容だと思います。

米澤穂信 / 儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

米澤穂信 / 儚い羊たちの祝宴 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 この作品ではないんだけど、「おススメのミステリー特集」みたいなWebページでこの作者を見かけたことがあったので。

2.内容

 2008年作、新潮文庫より発刊。知らんかったけど、『氷菓』の人なんですか?えるたそ~ですか?
 本作は5つの短編からなるダークな連作ミステリー。各話は独立して発生する事件であるが、微妙に読書サークル「バベルの会」で繋がっている。大体が一人称視点で進むのだが、結構淡々と描かれていて、ホラーさやドラマチックさは薄め。各話での犯人と犯行に至る動機は読んでいるうちに結構分かってしまう(別に悪いことではない)が、いずれもサイコパス味があるのがポイント。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 ふつう。長編はどんな感じなんだろ?

4.どのような人に推奨するか

 特に思いつかないかな。短いのでサクっと読める。

阿刀田高 / ギリシア神話を知っていますか

阿刀田高 / ギリシア神話を知っていますか のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 『新約聖書を知っていますか』が入門編として大変面白かったので、ギリシア神話も。あと、ギリシア神話を勉強したかった。

2.内容

 1984年作、新潮文庫より発刊。根本的にギリシア神話自体が面白いという話は置いといて、その中でもおもしろそうなエピソードを取り上げて1編20ぺージ前後で、小説家らしい創作セリフも交えて流れを教えてくれる。物語自体が主眼ではなく、現代に残る言葉や星座との関連性などよくも教えてくれるので、知識欲が満たされる。この入門書の次に読むべき書籍も紹介してくれていて完璧。ギリシア神話は聖書のように原典があるわけではないので、「これを読め」があると助かるんだよなあ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 このシリーズは揃えていきたい。

4.どのような人に推奨するか

 ギリシア神話の初学者(知らないというレベルの人)におススメ。

堀啓子 / 日本近代文学入門 12人の文豪と名作の真実

堀啓子 / 日本近代文学入門 12人の文豪と名作の真実 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 明治~昭和期の文豪のことを知りたいなぁとおもってうろうろしていたら見つけた本。

2.内容

 2019年に中公新書から発刊。タイトルはややお堅いカンジだが内容は結構ライトで、文豪トリビア集みたいなもんだと思ってOK。12人を単体紹介するのではなく、何らかの関係性のある2人ずつをピックアップして対比させながら紹介していく。横の関係性が見えてくる方が面白いのでこの紹介の仕方は吉。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 折を見て読み返して勉強したい。

4.どのような人に推奨するか

 文豪トリビア好き向けかなー。入門か?と言われると、あんまり入門って感じはしない。

永江朗 / 「本が売れない」というけれど

永江朗 / 「本が売れない」というけれど のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 タイトル買いの新書。本が売れない読まれないと言われてる気がするけど、本当かどうか知りたいよね。

2.内容

 2014年にポプラ新書から刊行。活字離れという言葉は昔からあるものの、本自体は読まれていて売れている。ただ、本屋自体がもうからない仕組みになっていたりする。あんまり小売店に自由がなさそうな感じはするよね。店側で値段は変更できないし、入荷する本も自由に決められないようだ。また、ベストセラーばかり並ぶ結果、どの本屋も画一的な品揃えになってしまい本屋が面白くないという問題もある。確かに…。そうすると品揃えが幅広い大きい本屋に行く方がメリットがあるというのは作者も指摘する通りですわ。また、本屋以外としてのメリットを持つヴィレッジヴァンガードなども成功例として挙げられている。
 2014年時点での内容であり、2020年現在だと電子書籍の市場規模はまた違いそうだな。今調べたら2014年から2020年現在までで電子書籍の市場規模は倍近くになっている模様。書籍全体の市場規模はむしろ減少傾向にあるようで、特にコミックスの分野では電子版がかなりシェアを伸ばしているようだね。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 …といったことを考える切っ掛けになった。

4.どのような人に推奨するか

 本好きというか、書籍市場や流通に興味ある人向けです。

Invictus / The Catacombs of Fear

The Catacombs of Fear

The Catacombs of Fear

  • アーティスト:INVICTUS
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: CD

日本は長野県出身のデスメタルバンド Invictus / The Catacombs of Fear をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Twitterで宣伝を見かけたのと、ディスクユニオンに新品が面陳列されてたから買ったぞー。浅草デスフェスト2017のコンピにも入ってたけど、当日見たか覚えてない…(行かなかった方の出演かな…)

2.内容

 2020年にお馴染みObliteration Recordsからリリースされた1stアルバム。ジャケからも想像される通りのオールドスクールさで、カッコいいリフとスピード感に溢れたデスメタルをやっている。湿っているようでクリアなギターサウンド・メロディー・刻みにはMorbid Angelの1st(Altars of Maddness)ぽさを感じつつも、おどろおどろしい雰囲気は少なめ。流麗なギターソロやその前のめりなスピード感も相まってドイツ系のスラッシュメタルも想起しました(このバンドは演奏上手いです)。どちらかと言えばスカッとした爽快さを感じますね。歪みや音圧が強すぎない程よい軽快さを持ち合わせたプロダクションも心地よく、聞きやすい。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
  

4.どのような人に推奨するか

 スラッシュ由来の疾走感を持つオールドスクールデスメタル。オールドスクーラーにおススメします。クオリティは高い。

海堂尊 / チームバチスタの栄光

海堂尊 / チームバチスタの栄光 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 なんか名前は聞いたことあるよなぁと思って。

2.内容

 2006年に『このミステリーがすごい』大賞に選ばれた医療ミステリーの代表作。新装版として2015年に宝島社文庫から発刊された。心臓外科手術(バチスタ)で起きる術中死とその原因追及が主題のミステリー。主人公はどちらかというと閑職にいるタイプのパッシブな人間だが、これに相対する存在でありバディとしての役割を担う形で中盤から登場する厚生労働省の変なやつ・白鳥くんがとにかく存在感があり、エンターテインメント性を上げている。こんなやつおらんやろ…と思ったり、人をナチュラルに馬鹿にしまくっててイラっとしたり、抑圧的な空間で快刀乱麻を断つような一言を言ってくれたりと、物語中盤以降を大いに盛り上げてくれる。主人公じゃないからこそ輝くポジションかもしれん。
 トリックや動機はそんなに特筆するものではない。病院内の人間ドラマが中心の作品。そういう意味では実写ドラマ映えしそうではある。してたよね?多分。あと、おそらく順序が逆だと思うんだが、漫画『医龍』をどうしても思い出すよね。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 白鳥くん面白いわ。

4.どのような人に推奨するか

 病院内のドロドロした人間ドラマを中心としたミステリー。ミステリー成分よりドラマのエンターテインメント性の方が強いと思うので、そのような作品を好む人にかな。

村上春樹 / ランゲルハンス島の午後

村上春樹 / ランゲルハンス島の午後 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 自粛中に妻が小粒な本として持ってきてくれた。

2.内容

 元は1984年頃に雑誌に掲載されていたエッセイ24編+書き下ろし1編のエッセイ集+挿絵。時代を感じる描写はあるものの、つぶやいている内容は普遍的なのであまり気にせず読める。1編2ページ+挿絵が2ページといった形であっさりとした本で、各エピソードに繋がりもないので、単純にぼーっと読める。読みやすいよ。30分程度で読めてしまいます。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 普通。

4.どのような人に推奨するか

 小説は読んだことないけど、エッセイは何編か読んだことあるのだよね。小説の好悪はさておき、エッセイは素直に読めていいですよ。

原田マハ / サロメ

サロメ (文春文庫)

サロメ (文春文庫)

原田マハ / サロメ のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ジャケ買い原田マハさんは名前は知ってたが読んだことはなかった。美術テーマの小説がおおいのかな?と思ってた。

2.内容

 オール読物で2015年~2016年に連載されていた作品で、2020年に文春文庫から発刊。イエローの装丁(イエローブックになぞらえたか)とモノクロームの絵が目を引く。オール読物って文春だったんか。
 単行本化された作品を読む上で、当時の発表媒体は結構重要だと思うんですよね。この作品も連載らしく、「前回のあらすじ」とまでは行かんが、「以前こんな記載ありましたよ」的なrepriseが多く見受けられ、よく言えば親切。単行本で読むと、ちょっと前に読んだから知ってるよ!と思わなくもない。
 内容は、現代において『サロメ』の未発表の絵が出てきたところからスタートするが、物語の大半は過去編…すなわち画家オーブリービアズリーとその姉・女優のメイベル、作家オスカーワイルドをめぐる退廃的で暗い雰囲気の漂いまくるミステリ調の物語となっている。フィクションではあるものの、下地やキャラクターの背景は史実に基づくものであり、リアリティがある。まぁ司馬遼太郎の時代小説だと思って読むのがいいと思う。薄命の天才オーブリーは魔性の男ワイルドに魅せられていくが、芸術的な感性が高みに上る一方で本人はどんどんん不幸せになっていくような…あとお姉ちゃんのメイベルが弟のために枕営業も辞さない・弟がいちいちどこで何をするか気にする(昔はお姉ちゃんになんでも話してくれたのに…)などメンヘラ感が強く漂う。ワイルドとの出会いとは無関係にその気質がありそうな感じはするが、人間関係を通じてより深まってしまっている感はある。最終的に困窮して死ぬことが最初に示されていて、あとはどう堕ちていくのかを追う形になっているので、自然と暗くはなりますわね。
 最終盤、絵と共に出てくる物語とこのエンディングはどういうことなのだろう?事実として書かれているのか、(作中内における)物語なのか??お蔵入りになった英訳を読んだメイベルがこれを再現したということなんだろうか…。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 史実ベースで知ってる画家や作家が登場するので、キャラクター面は強いし読んでて楽しい。でも、それは内容とキャラクターを魅力的に描写出来ているからこそである。

4.どのような人に推奨するか

 19世紀イギリス好き、絵画好き、退廃的なミステリー好き。ワイルドの『サロメ』と間違って買う人がいるらしいが、ちゃんと中身と作者を見て買おうね…。

Defleshed and Gutted / Hibernaculum of Decay

defleshedandgutted1.bandcamp.com

アメリカのデスメタルバンド Defleshed and Gutted / Hibernaculum of Decayをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 ジャケ買いですわ。

2.内容

 2018年にリリースされた2ndアルバム。Load of the Sick Recordingというところからのリリース。テキサス出身で、ズンズンした抑揚のない低音リフ、ビートダウンしたスローパート、高速ブラスト、何言ってるかわからないグロウルというスタイルはやっぱりDevourmentのそれを思い出す。どちらかと言えばスローで迫力を強調したパートの方が印象に残っているかな。高速パートも十分早いけど…#6 なんかは超高速なパートと、そこからの落差が大きいスローパートでメリハリが明快に利いていてよろしい。リフや楽曲は普通。音楽性自体はアンダーグラウンド感ありありだけど、プロダクションはクリアで良好。ある意味本家より聞きやすいんじゃないのと思う。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 突き抜けたものはないが、普通にクオリティ高く聞ける。

4.どのような人に推奨するか

 スローな展開と高速ブラストが好きなスラミングブルータルデス好きに。