めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Devourment / Butcher the Weak

アメリカのデスメタルバンドDevourment / Butcher the Weak をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 Devouementを全部聞くシリーズ。

2.内容

 自分が持っているのがどっちか自信がないが、ジャケは確か青かった気がするので、おそらく2005年に自主製作でリリースされた方の2ndアルバム。知らなかったんだけど、このアルバムは2006年に再録リリースされたバージョンもあるらしい。
 1stアルバム後に結構なメンバーチェンジがあった模様だが、基本的には同じようなスラミングブルータルデスの元祖的な音楽をやっているのだけれど、サウンドがだいぶ変わっている。一言でいえば音質と整合性が向上した。前作ではジャリジャリしていたギターがややクリアになっていたり、ドラムが硬質でカッチリしたいたりする。軽快で乾いたスコココスネアは聞かれなくなったので最初に聞いたときはやや寂しく感じたが、改めて聞くとハイクオリティで聞いてて気持ちいい圧力感のある強力なブルータルデスメタルに仕上がっていると思います。音色による印象の違いはあれど、高速ブラスト自体は健在だしね。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 1stとは別もんとしても、楽しめる作品。

4.どのような人に推奨するか

 まずは1st(1.3.8)を。気に入ったら以降の作品も、という流れでいいのではないかな。

三上延 / ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~

三上延 / ビブリア古書堂の事件手帖 第一作 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 おススメミステリーランキング上位にいたのと、名前を聞いたことはあるぞ!と思い買ってみた。

2.内容

 2011年、メディアワークス文庫から。表紙のお姉さんは作品のイメージ作りにかなり買っていると思う。本の知識と推理力以外は全くポンコツで、人見知りコミュニケーションも苦手な若く美女の古書店店主と、本を読まない(読めない)男が織りなすミステリー作品。栞子さんは所謂安楽椅子探偵で、とある理由により入院していて動けない中で、口頭で聞いた手がかりから、見てきたように事件に真相を言い当てちゃう系。1~3章はプロローグと小品で、4章がちょっとしたサスペンス。軽快でおどろおどろしい感じはしない、ライトな雰囲気(やってること自体は結構危ないと思うが…)。古書やそれにまつわる作者のエピソードが出てくるので、文学うんちく好きにはそういった点も好まれるかもしれない。個人的にはラブコメパートは求めてないんだよなぁ。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 ミステリー部分は普通。キャラクターと古書の雑学で楽しんだ。

4.どのような人に推奨するか

 ホラーや人死にの類ではなく、ライトな謎解き。あとは上述したキャラクター性。気軽に読めるミステリをお求めの方に。

中島敦 / 山月記・李陵

中島敦 / 山月記・李陵 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 妻の推薦と、『山月記』は教科書で読んだことあったからね。

2.内容

 33歳で亡くなった中島敦の短編小説集。新潮文庫から発刊されていて、『山月記』『名人伝』『弟子』『李陵』の4編を含む。いずれも昔の中国(春秋戦国~唐くらい)に取材した短中編。氏は漢学の家系だったらしいね。
 少年漫画みたいな弓巧者の描写(お互いが弓を引き矢を放つと、先端同士がぶつかって矢が落ちただの…)、弓を持たない弓名人への弟子入り、「不射の射」の極意を会得した紀昌のオチと、多分に寓話的な『名人伝』が面白い。
 同じ匈奴にとらわれた身でありながら、国を裏切った(と思われた)廉で一族郎党が故国に殺されて故国への忠義を失った李陵と、何年とらわれていようとも変わらない蘇武の対比と、李陵の心の葛藤がお見事な『李陵』。元の漢書史記には絶対こんなこと載ってないだろうに、事実あったことのように淡々と描かれているという凄さ。同時代の人たちと比べると、題材の関係もあって国/人物名がまず難しく、単語選びも漢文風で難解に思える。よく昔こんなの読んだな…。時代背景や倫理観は異なれど、語られている葛藤・怒り・悲しみは現代の人間でも共感を呼ぶものだと思う。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 良かった。

4.どのような人に推奨するか

 思想、中国の歴史/史書が好きな人かしら?たまにTwitterとかで山月記は好まれているのを見かけますね。

島田荘司 / 改訂完全版 占星術殺人事件

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

島田荘司 / 占星術殺人事件 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 これもミステリ会に名高い名作とのことで手を付けてみたよ。

2.内容

 原作は1981年、2013年に作者自身の手によって改訂され、講談社文庫よりリリースされた再発版。これがデビュー作らしい。裏表紙の説明を見ただけで、「これはあの漫画のアレでは?」と疑ってかかってしまい、読み進めると果たして本当にそうだったという。有名すぎるので、仕方ないね。冒頭プロローグに相当する人物手記(小説)が入口の扉を重くしている。いったん本筋に入ってしまえば、あとはあっという間だった。作中で2回、中座が入り「ここまでの推理材料で答えを出してみてね」の挑戦状が出される。解けるわけがないが…。やや猟奇的で本格的な「トリックの面白さ」が楽しい名作(ちょっと綱渡りすぎる気がするが…)。
 社会不適合者感がありありとしている名探偵:御手洗潔とそのバディ石岡のキャラクター性も、なんともホームズとワトソン君みたい。40年もの間迷宮入りしたままの難事件に挑むというストーリーであり、主人公たちからしたら「過去の話」であるため、彼らに危険が及んだりはしない。その意味ではその情報と謎解き過程を楽しむ、純粋なミステリーと言えるのかな。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 知っていてもびっくり。プロローグこそ重々しいが、本筋のホラー度はそんなでもない。むしろ軽快。

4.どのような人に推奨するか

 トリックの面白さと謎解きミステリー。

湊かなえ / 贖罪

贖罪 (双葉文庫)

贖罪 (双葉文庫)

湊かなえ / 贖罪 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 『告白』『少女』…と読んで来ての、これ。

2.内容

 2012年双葉文庫より発刊。原作は2009年。娘を失った母親と、その娘と一緒にいて殺人犯を目撃した4人の少女たちにまつわる話。各人の一人称視点での独白形式で少しずつ事件の輪郭と謎が明かされていくわけだが。同作者だが当たり前だろうけど、書きぶりは結構『告白』と似通っている部分がある。「xxxxでした。(改行)しかしそうではなかったのです。」みたいな必殺パターンが、一度気になると結構目につくね。2章の真紀センセイパートなど、作者の思想なのかキャラの思いなのかわからないが社会の理不尽さに対する一刺しがあって、作品とは無関係に世間の息苦しさに対してちょっとしたカタルシスを齎しますな。イヤミス(イヤな気分になるミステリー)の旗手と言われるし、実際達成感や謎解きの爽快感みたいなものはないんだけど、この作品に限らず作品の読後感は言うほど悪くないんだなぁ。でも暗い。事件のせいなのか、そもそも閉鎖的な村のせいなのか、登場人物がみんな何かしらおかしい気がする  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 さらりと読める。楽しませてもらいました。

4.どのような人に推奨するか

 ジメジメとした暗い内省的ミステリーをご所望の方に。

鳥飼玖美子 / 歴史を変えた誤訳

鳥飼玖美子 / 歴史を変えた誤訳 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 ブックオフで偶然見かけたものをタイトル買い。

2.内容

 1998年に『言葉が招く国際摩擦』というタイトルでジャパンタイムズから発刊されたものを、新潮OH!文庫が2001年に文庫化したもの。教養・雑学に特化したレーベルのようだ。作者の鳥飼さんは執筆時点で20年以上の通訳歴を持つ玄人というころで、信頼できるかなとも思った。
 インパクトの観点から文庫題が採用されたのだろうが、件名は旧題の方が的を射ていて、基本的には政治経済の世界における誤訳が事例として載っている。国家間でのコミュニケーション失敗、訳語の選択による誤解という「ことば」の話のみならず、訳語はあるが言葉が意味する内容のズレに起因する問題やそもそも訳語がない言葉など「文化」の話も語られる。というか「言葉」と「文化」は不可分であり文化的背景を理解したうえでの通訳が通訳者に求められるという話。
 一方で、(自己中心的な正義や責任回避による意図的な語訳は論外としても)、通訳者は主体である話者の代理人であり、言葉と文化を伝えるがための意訳はどこまで許されるのか、というジレンマもある。例えば「白足袋」という言葉を「white socks」にしてもその古めかしさや装いの雰囲気が全く伝わらないので、英訳時に「white gloves」としたものがある。なるほど、作者の意図した(その服装をさせた)雰囲気は英語文化圏の読者に伝わったかもしれないが、一方で「白足袋」という表現・文化は完全にオミットされているためこれを認識する機会もなくなっている、と。いっそのこと「Jikatabi」などとした方がよほど伝わるのではないか、といったような話が、松尾芭蕉の俳句『古池や…』の「蛙(kawazu)=Frog」についても言われていて、そうした通訳の「べき論」も非常に興味深かった。
  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 総じて面白かった。著者の経験上80年~90年代の政治テーマが多いです。

4.どのような人に推奨するか

 英語/語学好きは間違いなく楽しめると思います。歴史・現代史好きにも。

呉座勇一 / 応仁の乱

呉座勇一 / 応仁の乱 のレビュー。

1.作品を選んだ理由

 そーいや何年か前に売れたよなぁ…という程度の認識。あと、日本史をやってない自分からすると、応仁の乱はまったくブラックボックスであるため内容を知りたかった。何なら応仁の乱(1467年であることだけは覚えている)から戦国大名が割拠する16世紀後半まで何がどうなっているのかさっぱり分かってないので。

2.内容

 2016年、中公新書から発刊。新書なんだよな…帯には「40万部突破」とあるが、なんでそんなに売れたんだろうか?非常に不思議だ。応仁の乱としても物語は、この時期に詳細な日記を残している2人の僧、経覚・尋尊の視点を中心に読み解かれていく。山名・細川・畠山を始めとした勢力争いと、当代のトップである征夷大将軍足利義政とその跡継ぎ問題(その跡継ぎ問題は権力闘争のために担がれただけのようにも見えるが)、そしてその当主義政のなんとも言えない日和見主義、京都市街に広がる戦火、強力な武力と影響力を持つ寺と僧兵(今のイメージと合わないんだけど、幕府とも密接に関わり多くの人数を抱える宗教団体ですので)と、勝者もなく尻すぼみに終わる戦…と、この乱の概要は少しわかったような気になれる。文章自体は平易で読みやすいが地名・登場人物とその関係性がとにかく非常に多く、なかなか理解できない。フリガナと勢力図/関係図をもう少しつけてくれた方が嬉しかった。全く以て一言では語れない乱なのだな。
  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 応仁の乱で250ページ。読み通すにはなかなかパワーが要る。いや好きだけど。

4.どのような人に推奨するか

 日本史好き、応仁の乱に興味ある人向け。

Lovebites / Awakening From Abyss

Awakening from Abyss

Awakening from Abyss

  • アーティスト:Lovebites
  • 発売日: 2017/11/03
  • メディア: CD

日本のヘヴィメタルバンド Lovebites / Awakening From Abyss をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 一番最初に興味を持ったのは発起人且つリーダーのMihoさんのインタビュー。純粋なヘヴィメタルをやりたいという意気込みと、SodomのNuclear Winterを意識した曲があるという2点で好感を持った。あといつだかのLoudparkでちょっとお話できたので!

2.内容

 2017年、Victorからのリリース。極めてスタンダードでストレートな日本的メロディ(和音階という意味ではない)に溢れたヘヴィメタル。ガールズメタルという呼称・区分は失礼な気がするので自分はしない。宣言通り、ザクザクとファットなギターで刻まれるリフと、ハーモニーが乱舞するギターメロディーは極めてヘヴィメタル・パワーメタル的で、性別に言及する必要性を感じさせないものになっていると思う。スピード感と疾走感がある楽曲が多くテンションは総じて高め。ボーカルは別ジャンルでの活動歴があるシンガーを引っ張ってきたようで、芯がありよく伸びるいい声をしている。特に何かを衒うこともなく、パワーメタルな歌唱を女性が素直にやったらこうなった、という感じ。演奏はそのスピード感や刻みの多さも相まって多分にスラッシュ的でもあると思うのだが、ボーカルは常にメロディアスというのがポイント。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ええやん。メロいし力強いしで、スタンダードなヘヴィメタルで結構なことよ。

4.どのような人に推奨するか

 女性ボーカルのメタルを聞きたくて、ポップスではなくあくまでヘヴィメタルがいい!でもNightwishとかはWithin Temptationとかじゃなくて、もっと熱くなれる音楽がいいんや!という人。  

体験記:見えてくる光景 コレクションの現在地(アーティゾン美術館)

アーティゾン美術館の「コレクションの現在地」展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 特にその作品がとか企画がとかいう目的ではなく、単純にしばらく閉館していた旧ブリヂストン美術館が、装いも新たにアーティゾン美術館と名を変えて開館したということで、行ってきたもの。ずっと前から2020年に開館って言ってたから、長かったね。

2.内容

 展示内容は基本的にブリヂストン財団の所有品を展示してくれているというもので、久しぶりに開館する美術館が満を持して選り抜きのコレクションを選んだのだろうな、というもの。第一部では近現代(19世紀以降中心)の絵画作品、第二部はオールタイム…エジプト新王国 ラムセス2世治世下のレリーフ(紀元前1,200年くらい)や銅像といった3次元作品に、様々な国・時代の画家による絵が登場する。
 基本的にチケットは日時指定予約制で、いくつかの時間帯から選んでチケットを購入する。空きがあれば当日でも入れるようだが、この日は事前にチケットを購入して参戦。購入も支払いもWebで完結、入場もQRコード提示のみとラクチン。美術館の入場ゲートは6Fにあり、金属探知機と思しきゲートによる強固なセキュリティが敷かれている。全作品を見る場合、一本道ではなく行ったり来たりが発生する構成になっているため、最初は導線がわからず戸惑った。広さ・客入りの適切さ・空調・採光(展示室は当然照明管理されているが、各階展示室から出られる外周廊下は日ざらしで気分転換になる)と、それぞれの質が高い。一番うれしいのは、作品の前に原則「結界」がないこと。これによって、各作品を細部までゆっくり鑑賞することができる。このために入場時セキュリティが厳しいのかも知れないが、全然OK。一観覧者としては、やっぱり結界がないほうがいいLEDを用いたスリットライトによるサイン、フロアごとに異なる色がグラデーションを作る床板など、一定部分が欠けたパターンによるランダム性を感じる円柱など、建築部分に関する興味関心が湧いた。その意味では、展示室内には本ビルのデザインや素材を紹介するエリアもあってよかった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 初めて行く美術館なので、どーも美術館そのものの話になってしまった。快適でいいところなので、企画に関わらず再訪したいものだ。

4.どのような人に推奨するか

 今回の企画展示自体にはどうこうというのはありません。綺麗で新しい美術館に行きたい人は是非どうぞ。

Ex.ギャラリー

ビル入口 綺麗。

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ルノワール:座るシャルパンティエ

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エジプト新王国時代レリーフ。ちなみに、写真撮影は原則OK。

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藤田嗣治静物 やっぱり猫がいるんだよな

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森博嗣 / すべてがFになる

森博嗣 / すべてがFになる をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 本屋で「あっ、名前は良く知ってるやつだ」と思い、手に取ってみるとどうもミステリー作品らしいので買ってみた。

2.内容

 もともとは1995年に書かれた作品で、こちらは1998年の講談社文庫版。作者自身が名古屋大学 工学部の助教授ということで、コンピュータサイエンスや数字・数学に取り囲まれた世界観。とはいえ舞台は孤島のハイテク研究所ということで、ある種ミステリーのフォーマットとも言える環境。S&Mシリーズと言われる(S:犀川、M:萌の2人組ということか)連作のうち第一作目で、本作にてメフィスト賞を受賞している。
 ミステリー部分と「F」の謎はふむふむと思いながら読んだ。「F」に対する予想は部分的に当たったが、当然トリックには思い至らず。基本的には簡素な文体で進んでいくのだが、ドラマが動く場面で現れる臨場感ある鮮やかな描写とのギャップが合って良かった。そうだね、ホラーさや凄惨さというのはそこまで強くなく、ドラマティックという印象の方が強いかな。
 舞台設定の環境面でいうと、どうなんだろう、1995年当時のインターネット環境ってこんな感じ?という違和感はあったんだが。市井のネットカフェにあるような有象無象のPCから、大学や研究所のシステムにリモートアクセスできるというのは結構な疑問…しかもTelnetで…。まぁそれをいうと、15年近くも施設に閉じ込められたままの教授や怪しい研究所だっておかしな話だし、天才性や動機も微妙に腑に落ちない感はあったんだけど。まぁそういうものかと。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 長大な計画だなぁ。

4.どのような人に推奨するか

 ミステリー且つコンピュータサイエンス好きにいいのでは?きっと「F」が何であるかもわかると思いますぞ。

我孫子武丸 / 弥勒の手

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)

我孫子武丸 / 弥勒の手 をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 先に読んだ『殺戮にいたる病』が衝撃的だったので、さっそく別作品を手に取ってみた。

2.内容

 2005年の作品で、2008年に文春文庫から文庫リリース。怪しい新興宗教と、その宗教団体との関連性が疑われる殺人事件。殺人事件の真相と宗教団体に迫る2人の主人公(教師と刑事)、そして驚きの結末…。と、まぁそれは分かるんだけど、帯と裏表紙がちょっと煽りすぎなんだよなぁ…「空前絶後の驚きを編集部完全保証!!」とか。本作を手を取った理由の1つではあるから文句はあまり言えないけどね。
 ファンタジーやメルヘンではなく、あくまで人間社会を描いているのがイイ。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 私もこの宗教団体のシステムを立ち上げたいです。『殺戮にいたる病』ほどの衝撃度や尖り度ではなかったけど、普通に面白い。

4.どのような人に推奨するか

 捜査小説、サスペンスが好きな方。

体験記:ふつうの系譜(府中市美術館)

府中市美術館の「ふつうの系譜」展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 地元の美術館で、且つあの「へそ曲がり」展で面白い企画と講演をしてくれた金子学芸員ということで、これは行かざるを得ない。 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/futsu.htmlwww.city.fuchu.tokyo.jp

2.内容

 件名は辻惟雄『奇想の系譜』と一昨年~昨年くらいに流行った関連展示への意趣返しとでも言おうか。江戸当時における奇想/最先端に対し、ではその時代の「ふつう」ってなんだったのさ?という観点から、普遍的な美しい作品を中心に並べた展示。大半が敦賀市美術館からの借り物による、コラボレーション企画となっている。
 一言に「ふつう」といっても、平安時代から続くその世代の「普通」という価値観を示すものと、「普遍的な美」を追求したものと、異なる方向性のものが並んでいる。前者は「やまと絵」「水墨画」などの系譜、後者は円山応挙に代表される強固な観察力による写実性を追求したような美しい絵。後者は技法やコンセプトでいえば当時の最先端あるいは異端だったような気もするが、絵としてて見るとなるほど確かに、普遍的できれいな絵だなと現代でも感じられるもの。みんなが大好きな子犬の絵とかね。
 この展示に奇想の画家たちの展示はないので、奇想との対比は各自でお願いします、ということになるが、目を楽しませる絵の数々は心穏やかに見ることができる。また、金子イズムをどことなく感じる、ややトボけた雰囲気を纏いつつも丁寧で詳細なキャプションが非常に助かる。「展示内には作者の説明はありません」とのことで別冊で作者解説が配布されていたが、絵のキャプション+別冊解説と考えれば、むしろ十分な解説量になっていたと思う!

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 安定の出来。もっとやってくれ。

4.どのような人に推奨するか

 日本画好きは安定して訪れていただきたい。円山応挙長澤芦雪などの子犬が見れるよ。

Ex.ギャラリー

外観

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写真撮影用のボード

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Devourment / 1.3.8

1.3.8 [Explicit]

1.3.8 [Explicit]

  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: MP3 ダウンロード

アメリカのデスメタルバンドDevourment / 1.3.8 をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 2019年に新作が出てから、過去作をずっと聞いている。

2.内容

 1999年にリリースされた1stアルバム"Molesting the Decapitated"からの8曲に、新曲1曲、デモ3曲を加えて2000年に再発された、文字通り1.3.8なコンピレーションアルバム。手持ちはDispleased Recordsのもの。
 デキサスデスメタル…超低音で圧殺するようなヘヴィリフに、全く聞き取れない低音グロウル、リズミックなビートダウン、超高速ブラストビート。これらの要素を極端に先鋭化した超激しいデスメタル。昨今ではスラミングブルータルデスメタルバンドっていっぱいいるみたいだけど、それらの始祖と崇められるバンド。高めにチューニングされた跳ね返りのよさそうなスネアから繰り出されるどうやって叩いているのかわからない「スコココココ」といった超高速ブラストビートがとにかく印象的。この軽快なスネアサウンドは後発のアルバムでは聞けないので、彼らのラインアップの中でもある意味唯一無二。ドラムのために聞いている。
 新曲1曲は1stの曲と馴染んでいて違和感なし。デモ3曲はサウンドは荒いけど、十分迫力あり。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 名盤!この作品が上位互換なので、コレクション以外の目的で1stアルバムを別で買う必要はないです。

4.どのような人に推奨するか

 ブルータルデスメタルの基本盤なので、デスメタルファンはまず買うべし。

乙一 / 天帝妖狐

天帝妖狐 (集英社文庫)

天帝妖狐 (集英社文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2001/07/19
  • メディア: 文庫

乙一 / 天帝妖狐 をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 本屋をうろついていた時に「そういえば乙一って見たことあるなぁ~昔流行ってなかったっけ?」と思って買ってみた。

2.内容

 2001年、集英社文庫から。1978年生まれで、本作出版時点ではまだ23歳。ジャンプ小説大賞の投稿時は高校生だったというから、早熟な作家であることだ。本作は中編の『A MASKED BALL』『天帝妖狐』の2編を収録。前者はトイレの落書きをめぐる卑近で世俗的な世界観のプチホラー。後者はややファンタジックではあるがホラー要素は薄く、どちらかといえば人との繋がりにフォーカスされているような気がした。結構テイストが異なる作品が収録されているなと思った。ホラー成分として期待される悪意や恐怖感はさほどでもなく、原因や仕組みは特に明かされるでもなく、なんともカジュアルでライトな感じだったな。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 ケンタッキー食べながら、なんとなく読了。

4.どのような人に推奨するか

 どうだろう?これはホラーなんだろうか?青春小説的だと思ったけど。

我孫子武丸 / 殺戮にいたる病

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

我孫子武丸 / 殺戮にいたる病 をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 本屋で俗悪なタイトルとウエア表紙のキャプションに魅かれて購入。

2.内容

 1996年、講談社文庫から。作者の我孫子氏はゲーム『かまいたちの夜』でのシナリオライターを務めていたらしいというのは、買ってから知った。本格的なホラー&ミステリー。
 性的倒錯と悪徳がこれでもかというほどに詰め込まれ綿密に描写されるホラーパートが非常に恐ろしい。闇だとか未知への恐怖ではなく、残酷な肉体的な恐怖がある。東京で発生した猟奇的なシリアルキラー。読者目線では犯人は初めから分かっていて、犯人を含む複数人物の主観が入れ替わりながら物語は進んでいく。
 本作は所謂「叙述トリック」が使われており、正直一番最初は、最終ページ最終行を読んだその瞬間ですら、どういう結末だったのか、あのシーンは何だったのか、理解できなかった。「????」となっていた。その仕掛けが判ると、頭に思い描いていた映像が急速に塗り替わり、技術的な観点で大変に感心・感動した。これはスゴイわ…。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 読み終えるつもりはなかったのに、深夜までかけて一気に読了してしまった。その後呆けながら、めっちゃ事件の推移とトリックを考えた。そんな本。

4.どのような人に推奨するか

 まず前提として猟奇的で残酷な描写がOKな(耐えられる)人。そのうえで、叙述トリックとは何ぞやと思う人。是非。