めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

Deranged / (self-titled)

DERANGED

DERANGED

スウェーデンデスメタルバンドDerangedのセルフタイトル作品をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 2ndがよかったんでこれも大昔に買ったやつだよ。

2.内容

 2001年リリースの4thフル。これもLisnenable Recordsからだが、5曲目にボーナストラックが入っているので、多分日本盤。当時日本盤がSoundholicから出ていたらしい。これ何の絵?臓器?Amazonリンクの画像はタイトルのみでCensored(検閲後)だと思うんだが、手持ちのは蛆虫だか臓器だかの光沢感のある気持ち悪い絵をしておる。

 オールドスクールなリフで疾走する高速型デスメタルというスタイルは変わらず。2ndよりリフとリズムのバリエーションが出てきたというか、もっとCannibal Corpseに近づいた感じがしますね。低音でウゴウゴしている気持ち悪い猟奇的なリフが満載。メロディはなし!
 リフの輪郭や刻みがよくわかるザクザクとやや乾いたサウンドは2ndとは趣がちょっと異なっているが、分厚さとスピード感は維持されておりまだまだ勢いが感じられるのでOKです。なんだか楽曲の複雑さが増しているが、十分爆走しているといえる範囲かな。#6、#11はSEで不要。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 特徴的かというとあんまりだけど、標準的な良さ。

4.どのような人に推奨するか

 2nd”High on Blood"聞いて気に入ったらどうぞでもいいし、この作品から入ってもいいと思います。Cannical Corpse型のブルータルデスメタルが好きな人へ。昔調べたときはあまり評判良くなかったような気もするけど、別に悪くないぞい。

Deranged / High on Blood

High on Blood

High on Blood

スウェーデンデスメタルバンドDeranged / High on Bloodをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近6th買ったので。すごく昔に、デスメタルの名盤として紹介されているのを見たことがある。

2.内容

 これくらいの血液量ならまぁいいか。1998年リリースの2ndフルで、Regain Recordsというところからのリリースらしい。

 6thのイマイチぶりとは全然違う。ハイテンションに爆走しまくるドラムとCannibal Corpseを思わせるピッキングハーモニクスを織り交ぜた猟奇的な低音リフが織りなす、ハイレベルなブルータルデスメタル。プロダクションも湿った雰囲気のある分厚いギターの音であり、文句なし。ブルータルデスメタルといいつつ、リフのつくりや切り込んでくる無音階なギターソロはやはりUS系のオールドスクールデスメタルの感触を感じさせる。所謂2000年代以降のスラミングブルータルデスとは趣が違っていますぞ。
 最大の特徴はやはり「速いこと」!どこを切り取っても大抵、ツービート疾走かブラストビートかのどちらかをやっている。やはりブルータルデスメタルにはこういうスピード感がないとね…。まぁリフやボーカルそのものは結構普通だったりするのですが、この音の壁とドラムの勢いで聞けてしまうという作品。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 こういう作品がいいんじゃぁ~。

4.どのような人に推奨するか

 オールドスクールデスメタルでここまでスピードに振り切った作品ってあまりない気がするので、スピード派にはおススメだよ。

Amorphis / Magic & Mayhem : Tales From the Early Years

フィンランドメロディックデスメタルバンド Amorphis / Magic & Mayhem : Tales From the Early Years をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 3rd "Elegy"は昔よく聞いてたんですよお。リレコーディングアルバムが出てたのだね。気になって買ってみた。

2.内容

 2010年リリース、Amorphisの結成20周年を記念して作成された初期作からのリレコーディングアルバム。元はNuclear Blastからだが、これはVictorからの日本盤。アルバムのブックレットにはエサ・ホロパイネンの解説しかないが、日本盤としてはその対訳と、各楽曲の歌詞・対訳が載っている。まぁいいんじゃないでしょうか。

 楽曲は初期Amorphisのそのままですので、違和感なく聞ける。土着的な中東風半音階メロディを孕んだギターリフと執拗なリフレイン、グロウルとクリーンボイスの対比。もちろん微妙にアレンジされているが、骨格に変更はない。一番のポイントは、現ボーカリストのトミ・ヨーツセンによるリレコーディングということだろう。ボーカルスキルは間違いなく高く、初期の楽曲を全く違和感なく歌い上げているどころか、より深みを与えている。アレンジ以上に曲を強力に響かせているのは、北欧っぽくややザラつきながらも芯があって太いディストーションサウンドと、それに絡むシンセサイザーのリード隊。特にシンセサイザーは、「こんなに目立ってたか?」と思わせるほど様々な場面で楽曲を引っ張り主張する。#5 "On Rich and Poor"の中間部の民謡チックなリフが何度も繰り返さえるパートではチェンバロで同様のメロディを弾いたり、シンセリードで引いたり、壮大なストリングスをかぶせたり(これは原曲でもあったが)、と大活躍していて、さらにドラマティックになっている。そのほかでも原曲とは結構音色を変えてきている。

 1stは聞いたことないから知らないのだが、2ndでアンダーグラウンド感漂う泥臭い音だったものがビッグ&ファットなサウンドで聞ける。3rdは一番変化が少ないかも。あれはもともと結構ビッグなスケールのサウンドだったと思うよ。全体的にレベルアップしていてリレコーディングにありがちな「初期の方が勢いがあって良かったな」感は殆ど感じられない良作。
 ボーナストラックはThe Doorsの"Light My Fire"で、とくにどうということはないかな。うにょうにょしたシンセリードと、あくまでグロウルで歌うスタイルはちょっと面白い。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 リレコーディングには稀な良作。初期の名曲を網羅したベスト盤・入門作としても聞ける。

4.どのような人に推奨するか

 近作のAmorphisが好きで過去の作品持ってない人は、これでまとめて知るのも手だね。逆に、昔のAmorphisしか知らない人はこれを聞くと、知っている楽曲を通してバンドの成長というか、プレイングスキルを体感できるのでいいと思いますよ。

体験記:コートールド美術館展 魅惑の印象派(東京都美術館)

体験記シリーズ。コートールド美術館展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 なんか行きたかった。コートールド美術館がなんだか知らずに、でもバーの絵(マネ『フォリー・ベルジェールのバー』)は知っているなあと思って行ってみた。

2.内容

 土曜日朝9:00に上野に現着。誰もいないかとおもったけど、開館前から並んでる人っているんだね。以前のミュシャ展も開館前から行列が出来ていたけど、あれは初日だったからなぁ…。上野動物園に並んでる人もおり、そもそも上野恩賜公園が朝から人気ということが分かった。平和で天気も良くて良かった。

ミュシャ展の時

 チケットはオンラインでスマチケ購入済みのため余裕の入場。便利。そういやこの建物は、前に『奇想の系譜展』で来たな。音声ガイドは取り敢えず借りておくのがポリシー。三浦春馬くんがナビゲーターでした。音声ガイド借りるときに財布持っていないといけないから荷物に財布預けられないんだけど、あれ何とかならんのか?手ぶらで鑑賞したいんだが。

 企画展。全然知らなかったけど、レーヨンの製造で莫大な富を得たイギリスの実業家サミュエル・コートールドが蒐集した作品群。国立西洋美術館の松方幸次郎みたいだね。このコートールド美術館が改装・休館するので、所蔵作品をこの企画展で借りることができたということらしい。
 美術に明るくない自分でもその名を聞いた・作品を見たことがある19世紀後半の印象派巨匠の作品群がいっぱい。これってもしかして結構スゴイ展示なのでは?と入って思った。コートールド美術館が元は教育・研究施設の付属機関として作られたものであるからか、科学的な分析を含むキャプションがあったのが記憶に残っている。X線による筆致の解析だったり、下書き・書き直しによる制作過程から完成品への編成が説明されていて、ちょっと面白い。マネ『フォリー・ベルジェールのバー』は、画面右側に移りこんでいるのは鏡に映ったバーメイドの女性らしいのだが、鏡の角度的に「そうはならんやろ」というもので全然納得していなかったが、解析によるともともとこの女性の鏡像はもっと人物寄り(=より左、より自然な位置関係)に書かれていたものを、意図的に敢えて右側に移動して描き直しているということがわかるらしい。

 ブーダンの空の色、スーラの細かい点描(黒い木や青い水の中にオレンジを混ぜる科学的見地に基づいた色選び!)、毎度のようにダンス少女を描くドガ、妙にリアルな裸婦を書くモディリアーニオペラ座で他の観客を見たりキメポーズで視線を送ったりと全くオペラを見てない光景を描くルノワール『桟敷席』…桟敷席というのは、会場の上の方に設置された半個室のようなエリアで、当時は風刺画も含め絵画のテーマによく取り上げられたらしい…と、いろいろな作品が楽しい。あとやはりアンリ・ルソーは良い。その絵は平面的でどこか不安定で、正直「これって下手ではないのか?」と思うんだけど、それがなんかツボに入る。マネやルノワールも彫刻やってたんだね、一部作品では彫刻もありました(別にうまくはないけど)。終盤に思い出したようにロダンの彫刻がいっぱい並んでいたのにちょっと笑った。

 音声ガイドは普通、特に不可もなし。音楽が良かった!特によかったと思った曲は『グリーンスリーブスによる幻想曲』。暗くて寂しげでタイトル通り幻想的。コートールド本人を解説するパートで使われていたけど、そこだけ2回聞いた。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 とても良かった。みんなも行くといいよ。

4.どのような人に推奨するか

 美術の教科書に出てくるような人たちの、美術の教科書に載っているような作品が生で見れるよ。これって結構スゴイことだと思う。印象派は人気なのでいろんな展示をやっているけど、この展示はかなり強力な作品が集まっていると思った。

Ex.ギャラリー

美術館前

唯一のフォトスポット。ワイはおひとり様なんや…

体験記:不思議の国のアリス展(横浜そごう美術館)

www.alice2019-20.jp

体験記シリーズ。不思議の国のアリス展に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 QuizKnockとのコラボが切っ掛け。原作は読んだことないし、英語の教科書で出てきたハンプティダンプティしか知らんかったが、下記の本で予習してから行ったので結構わかったぞ。
metal-metal-slime.hatenablog.jp

2.内容

 月曜日は大抵の美術館は休んでいる。そごう併設の本館は会期中毎日営業だからすっごい。ちなみにそごうの由来は十河伊兵衛(そごういへえ)による江戸時代に創業された古着屋らしいね。知らなかった。また一つ勉強になってしまった。

 平日昼間で全然人がいなかったので並ばず快適に入場。音声ガイドは2種類あったが、せっかくなのでQuizKnockの方を選択。結構ガッツリとコラボしていらっしゃる…。入り口でキョロキョロしてたら「謎解きゲームは一時からですよ」と言われたが、特にやる気はなかったのでスルー。この謎解きもQuizKnock監修だったりしたのだろうか?

 展示はあの動画で大体見たイメージ通りで、色鮮やかな世界。お客さんが女子しかいない…。
 前半は同時代、テニエルやラッカムの絵、キャロル自身によるのスケッチ等が展示されている。こちらは前述の解説本で読んだ内容も含まれており、予習により楽しめたエリア。『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の2作品のストーリーを追いながらの挿絵の展示は全て撮影自由で、動画にも出てきていたフォトスポットもこちらにあった。
 後半はより後年の作家によるアリスの再解釈や、別メディアでの表現が出てくる。サルバドール・ダリがアリスを描いていたのは知らなかった!あと『はらぺこあおむし』のエリック・カールも…彼の絵は芋虫だと思ってみてたけど、顔が猫なのでチェシャ猫だったのだろうか(すまん、ちゃんと見てなかった)。あと、120年前に作成された8分少々の無声映画(元は12分だが8分のみ現存)がいたく感動してしまった。再現しようとした試み以上に、この映像の中の誰一人現代では生きていないけれど、作品と映像は今でも残っていて、こういう営みが確かにあったのだなという事実が心に来ました。あと、なぜか作品に詳しい警備員さんが映像や展示の解説をしていたちょっと面白かった。いい意味で。

 音声ガイドについて語っておくと、編集長・ナイスガイ・山本・山森・志賀の5名が2問ずつ10問をクイズを出題。ここではクイズは単に解説の手法であって、本筋では全くない。「ルイス・キャロルは写真に執心していた」という解説が書いてある中で「ルイス・キャロルが当時ハマっていたものとは?」といったクイズが出たりする。せめて誤答選択肢に何らかの関連性や解説があればよかったが、そういうわけでもなさそうだったので、あまりクイズの意味は感じなかったかな。解説そのものは真っ当で良かったと思います。喋りは志賀君が一番聞きやすかった。いい声だね。

 ミュージアムショップは悩んで悩んで結局しおりと原作(翻訳本)だけ購入。QuizKnock公式本や3月ウサギのトートバッグも迷ったが…買わず。あ、あと「水曜日のアリス」(雑貨屋)のバッグとかも売ってたね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 普通の満足度。でも行っておいてよかったよ。

4.どのような人に推奨するか

 アリス好きって世の中どれくらいいるものですか?女性はみんな通っている?好きな人は是非。知らなくても、一般教養として行くのもよいでしょう。きっかけはどうあれ、アリスのことを知れてよかった。

Ex.ギャラリー

入口

フォトスポット

この辺一帯は撮影自由

Mock Turtle(ウミガメモドキ)好きだわ

桑原茂夫 / 図説 不思議の国のアリス

図説 不思議の国のアリス (ふくろうの本)

図説 不思議の国のアリス (ふくろうの本)

桑原茂夫 / 図説 不思議の国のアリス のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 QuizKnockさんが不思議の国のアリス展でガイドやったりしてるやん。で、横浜の展示を見に行こうと思うんだけど、前知識を身に着けてみようと思って。

2.内容

 2013年に河出書房新社からリリース。図説というだけあってちょい大き目(雑誌サイズ)の書籍。ちなみに私は原作を読んだことはない(むかーし英語の教科書に出てきたハンプティダンプティだけは覚えているが、それだけ)。

 まずは作者ルイス・キャロルがアリスを書くに至るまでの背景。19世紀イギリス、数学教師をしていたキャロルは、近所の3姉妹に勉強を教えたりお話を聞かせたりと家庭教師みたいなことをしていたらしい。その次女(だったかな?)アリス・リデルこそが、『不思議の国のアリス』のモデルとなる少女であり、そもそもはキャロルが子供たちに語って聞かせたその場のおとぎ話が由来であるとのこと。すげぇ才能だ…。
 なお、本書後半でも紹介されるが、キャロルは幼女を非常に美しいものと捉えていたようで、交流を大変積極的に行っていたという。写真にも一家言あり、付き合いのあった子供たちの写真(中にはヌードもあるが…)がいろいろと残っている。美しいものへの憧憬という観点から行動であり、性的欲求はなかったというが…。

 その後、かなりの尺で『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の2作品のストーリーを、多くのテニエルの挿絵(これは見たことある!)と共に丁寧に教えてくれる。この解説がかなり素晴らしい。アリスにはその荒唐無稽なお話の中に、当時の世相(流行りもの、時事ネタ)や言葉遊びがふんだんに盛り込まれているのだけれど、このあたりかなり詳しくユーモラスに説明してくれる。特に後者の言葉遊びについては、英語だからこそ成り立つ表現も多く、これらを原文とともに紹介してくれるので、英語好きとしてはとても嬉しい。この辺りは、もともと子供たちに「語って聞かせた物語」であることを念頭に置くと納得感がある。だって、絶対子供たち興味持って面白がってくれるでしょ。キャロルすげぇ。

 この本のおかげでストーリーや登場人物もなんだか覚えたよ!アリス、3月ウサギ、チェシャ猫、マッドハッター(水銀を使うので精神異常を来す帽子屋が多かったから、とかなんとか)、眠りネズミ、なんか太った2人の兄弟、首切り好きの女王…。眠りネズミがどうでもよさすぎて好き。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは良い解説本。原作読んで、副読本にこれも持てば完璧。

4.どのような人に推奨するか

 解説も図も十分な量・質で、原作を読んでいなくても、原作を読んだ人以上に作品を知った気になれる気がする。おススメ。

Besatt / Anticross

Anticross [Explicit]

Anticross [Explicit]

ポーランドブラックメタルバンドBesatt / Anticrossをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 先日5thを書いた流れで、この10作目を購入したので。

2.内容

 2017年リリースの10thアルバム。元はWarherat Recordsからのリリースだが、アジア圏はZero Dimentional Recordが配給を担当している(ブックレットにっちゃんと書いてある)。手持ちのものもゼロ次元のもの。帯はついているが、特に解説とか対訳はないよ。安いし日本で配給してくれるだけで充分です。

 ポーランドブラックメタルです。前記事の5thから10年ほど経過しての10th。間の作品でどのような経過をたどっているか知らないので、5thとの比較しかできないが、一聴して曲のドラマチシズムとリフのバリエーションが増しているように感じる。怪しいメロディを紡ぐトレモロリフ、不協和音コードによる不穏な雰囲気、クリーンアルペジオ等の要素要素はそのままに、それぞれがレベルアップして個性を放っているというか。あと単純にメロディを感じるパートが増えているように思いますね。壮大な雰囲気を感じさせるエピックなリフや、とってもメロディアスなギターソロなんかも出てきます。ギターソロが増えたのは大きな変化だね。もちろんツービートやブラストビートで疾走するパートもあるんだけど、その上に乗るリフは低音かき鳴らし一辺倒ではなく、いちいち抒情性があるのだ。#4 "Battle"なんかはこれらの要素が顕著に出ていてよろしい。#6 "Hellish Circles"では朗々と歌うコーラスも聞けるぞ。
 サウンドもより分厚くプロフェッショナルになっており、B級感は感じられない。壮大さと抒情性が印象に残るアルバム。これは良いと思います。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 抒情的なメロディに溢れた良質なブラックメタル

4.どのような人に推奨するか

 このバンド、結構比較対象出すのが難しくないですか?Ulver 1st、Winterfyllethあたりを少しファストでブルータルな方向性に寄せた感じかなぁ。

Besatt / Black Mass

ポーランドブラックメタルバンド Besatt / Black Massをレビュー。 Amazonにもリンクはあったのだが、なぜか姿見の画像だった。書いてあるトラックリストはあっているんだが。

1.作品を選んだ理由

 いつだかのBlack Sacrificeで来日してたよね。同じくポーランドのFuriaと。それで知った。

2.内容

 2006年リリースの5thアルバムで、元はUndercover Recordsというところからのリリースらしいが、Zero Dimentional Recordからのリリースで買ったような。新譜1,500円は安いのでみんなゼロ次元で買い物するといいよ。

 ポーランドブラックメタルです。1991年から活動しているベテラン勢らしい。バンド名はスウェーデン語・ノルウェー語で"Possessed"…取り憑かれた的な意味ですね。ポッセッセドではないです。
 この作品で初めて聞いたのだけど、Immortalタイプの真っ当に真っ黒なブラックメタルをやっていると思います。ファストなパートが多く荒々しいブラストビートがもちろんカッコイイのだが、テンポを落とし歪んだアルペジオで神秘的で怪しい空間を作り上げるようなパートもあり、こちらも魅力的。初期UlverやAmorphisみたいにクリーンパートで朗々と歌い上げるような曲もあります。スピードパートとスローパートは半々くらい?ファストの方が多いかな?
 ギターはメロディックになりすぎもせず、しかしながら手の込んだ印象的なリフが多数あり、単調さは感じられない。刻みはなしだが、トレモロパワーコード・(クリーン)アルペジオ等を手を変え品を変えでリフを作りこんである感じ。ブラックメタルらしいやや薄っぺらい黒く歪んだギターサウンドなのだが、良く聞こえる太いベースサウンドと打音の重く金物の味付けがウマいドラムに支えられたバンドサウンドは、生々しくもすっきり軽快で音のバランスも良く非常に聞きやすい。ボーカルはブラックメタルの標準的なギャアギャア喚くスタイル。#4 "Final War"とか、めっちゃセイターンって叫んでますな。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 作りこまれた機械的サウンドではないんだが、すぐそこで演奏しているような音が良い。あと、ベースがよく聞こえるので高得点。

4.どのような人に推奨するか

 スピード凶向けというほどファスト寄りでもないし、メロディックブラック好き向けって程メロいわけでもないので、これというおススメの仕方が難しいんだが、いいリフと雰囲気を持ったブラックメタルを聞きたい人どうぞ。

大森洋平 / 考証要集

大森洋平 / 考証要集 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が図書館で借りてきたやつシリーズ。他人のチョイスで読む本って面白いですよね。自分が選ぶ本の選択肢は、基本的に自分の領域にしかないから。

2.内容

 2013年に文藝春秋社からリリース。NHKで歴史ドラマの時代考証などを担当されている方が、自身が仕事する中でまとめ上げ、そしてNHK内で定期的に頒布していたメモ集を文庫化したもの。タイトルは平安ごろに成立した仏教書『往生要集』から採られているとか。まずその往生要集を知らんかったわ…

 辞典形式で、あらゆる事物の時代考証メモが載っている。その範囲は物事や言葉はもちろん食料・植生や仕草にまで及んでおり非常に膨大だが、これでも掲載されているのはほんの一部に過ぎないようだ。本来は1万ページ(枚だったかな?)ほどあるというものを300ページ足らずの文庫本にしたわけだから、それもむべなるかな。
 さて、時代考証といったときにあなたはどの時代を思い浮かべるだろうか。歴史ドラマなんて言うと、所謂NHK大河ドラマでよくある戦国時代あたりが浮かぶかと思う。もちろんこの時代を対象とした考証も多くあるし、遡って平安時代が対象のものもあるのだが、もっと近代…明治大正から昭和も考証の対象になっているのがポイント。昭和ももはや歴史の一部であり、ドラマの舞台・時代設定によく使われるだろうから(太平洋戦争とか東京オリンピックとか)、考証対象になるのはもはや当然と言える。当時の市井の人々がゼロ戦を「ゼロ戦」と呼んだか?なんてことを考え出すと、脚本や舞台の全てが考証対象になってしまう。これは大変だよね。

 何のためにこんな考証をするのかというと、リアリティを持たせるため、ということに尽きると思っている。「リアルであること」と「リアリティ」は全然別の概念だと思う。殊歴史ドラマという観点では、考証されるべきは後者であり、リアルな再現に努めた結果ドラマが面白くならないのは本末転倒。本作中でも、ドラマでは歴史と異なるとわかっていながらも、そうしたある種の「開き直り」の精神を持ってフィクションの描写をすることはある、と述べられている。全くその通りだと思う。
 あと、やっぱり歴史ドラマとかやっていると「史実と異なりますおじさん」の投書やクレームが多いようで…作者の苦労が偲ばれる。この点については、歴史ドラマではないが、銀魂作者である空知英秋氏の『その前に幕末に宇宙人はいません。もっと勉強したまえ。』というフレーズを思い出した。フィクションとして楽しんでいこう。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 戦国~江戸期に「室町時代」という言葉はない。足利将軍の世、というのだ!

4.どのような人に推奨するか

 歴史ドラマは全然みませんが、歴史好き・うんちく好きなら楽しく読める本だと思う。日本語のありがちな誤り(正:火ぶたを切る、誤:火ぶたを切って落とす)などの由来も知れてうれしい。辞典形式なのでライトに手に取れるというのもメリット。人気を博しpart 2がリリースされている(未読)ので、そっちから手に取ってもいいだろう。

Five Finger Death Punch / The Way of The Fist

The Way of the Fist

The Way of the Fist

アメリカのヘヴィメタルバンド Five Finger Death Punch / The Way of The Fistをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 結構有名だよね。面白いお名前だと思います。

2.内容

 2007年リリースの1stフルですか?Spinefirmからのリリース。Panteraやスラッシュメタルに由来するようなムチムチしたディストーションサウンドによる低音での刻みリフにメロディ感のあるリードハーモニー、ツーバスを打ち鳴らすドラム、怒声と荒々しくもクリーンな歌声の2種類をシームレスに使い分けるボーカル(ハイトーンではない)による、2000年代ッポいヘヴィメタルサウンドです。マッチョ感ある。

 ボーカルスキルはまぁイイとして、楽曲がねぇ…。なんも考えず手癖で作られたような面白くないリフとメロディが多くて、印象に残らないのでした。そう思うと、演奏もなんかあまりカッチリ聞こえなくなるから不思議なもんだ。出てる音は高品質に出来ているとは思うんだけどね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 あんまり…。聞きやすいは聞きやすいのかな?

4.どのような人に推奨するか

 うーん、よくわかりません。普通。

ティム グリン=ジョーンズ / 「日常の偶然」の確率

「日常の偶然」の確率―あなたが本当の父親じゃない可能性から犯罪の遭遇率まで数字にしてみた

「日常の偶然」の確率―あなたが本当の父親じゃない可能性から犯罪の遭遇率まで数字にしてみた

ティム グリン=ジョーンズ / 「日常の偶然」の確率

1.作品を選んだ理由

 図書館うろうろしてたら面陳列されていたので目に入った本。ちょっと前によく書店で見かけたFACTFULNESSっぽい本だなと思ってタイトルで借りる。

2.内容

 2013年に原書房からリリースのソフトカバー本。タイトル通り、人間に関する様々な事象の確率をざっくり求めている本。前書きに「本書の主眼はそうした体験についてあれこれ考えてみることにあり、データの信頼性を追求するものではない」とある通り、精緻なデータ本ではなく、雑談ネタになるトリビア程度の位置づけの本。既存の統計データと確率の組み合わせ、確率と確率の組み合わせを用いて、もっともらしい数字を導いていく。自分が生まれる確率、双子になる確率、事後で死ぬ確率、ギャンブルで勝つ確率、天災に遭う確率…などなど。確率の出し方が、割合や百分率ではなくて、「N人にひとり」という書き方なのがなんか読みづらかった。
 それぞれの確率はそんなに真剣に算出しているわけではないのであまり重要ではなくて、既存データやテーマの土台となる背景の話に興味深いものがあった。「人口当たりの警察官が多い国」とか、モンティホール問題の由来(カナダのテレビ番組の司会者)とか、そういうトリビアの方が面白かった。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 基本的には「ふーん」と思って終わりの本。図書館で読む分にはいいが、購入しようとは思わないかなー。

4.どのような人に推奨するか

 トリビア好きに。雑談のネタにはなると思うよ。

Fleshgod Apocalypse / Agony

Agony

Agony

カナダのブラック/デスメタルバンドFleshgod Apocalypse / Agonyをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近めっちゃ好きで、とりあえず最新作までは揃えたぞ。この2ndが初聴。なお、1stとEP(Mafia)は持っていない模様。同郷のHour of Penanceが超高品質・超高速のブルータルデスメタルだったのと、メンバにも関連性があるということで気になっていたのだ。

2.内容

 2011年リリースの2ndフルで、Nuclear Blastからリリース。ボーナストラックにCarcassの"Heartwork"が入っているバージョンもあるらしいが、手持ちには入ってない。

 一言でいえば、ストリングスやピアノを中心としたオーケストレーションが全編に渡って満載の超高速ブルータルデスメタル。パッと思いつく類似バンドはブラックメタル界隈だけど、Anorexia NervosaやDimmu Borgirなどのバンド。ストリングスが紡ぐ旋律は、前者は「退廃」、後者は「荘厳」と言ったような言葉が思いつくのだが、本作については「悲歌(Lament)」という表現が当てはまるような気がする。半音階をふんだんに用いたメロディとコード進行は泣きに溢れている。
 ギターリフはドラムに合わせて地面を蠢いており、オーケストラyやピアノのメロディが支配的なこともあり、正直印象に残るものは少ない。コード感の表出やメロディックで華麗なギターソロで活躍しているがね。デスヴォイスに加えて、Paolo Rossi<ba, vo>の細い高音ヴォイスによるクリーンメロディが楽曲にアクセントをつける(本当にハイトーンなので、そこだけパワーメタルみたい)。そして、これだけ豪華絢爛にオーケストレーションを配しながらも、ドラムは手数が多く容赦ない硬質な音でひたすら高速ブラストビートを続けていて、そこがイイ。曲の良さと抜群のパワーと安定感、クリア極まりないサウンドにより、とにかく気持ちよく聞ける。バンドのブレインであるFrancesco Paoli<dr, gt>は天才やな…。Hour of Penanceの時もそういう印象を抱いたが 、イタリアの16th Cellar Studioってそんなにいいところなんだろうか?すごく音いいよね。

 このアルバムは曲間がなく気づくと別の曲に移っているのだが、最初はどの曲も高速で曲が変わったことの区別もつかないレベルだが、各楽曲は骨組み自体は結構シンプルなので、構成要素とメロディーを覚えてしまえば普通に区別がついて楽しめる。まぁでも金太郎飴と揶揄されるのもわかる。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 シンフォニックで、昂揚する泣きメロがいっぱいで、ブルータルで、ハイトーンもあってと、強い要素全部入り的なデスメタル

4.どのような人に推奨するか

 以後のアルバムは作曲力やシンフォニー度は向上するがブルータル度は下がっていくので、シンフォニックな中でもとにかく速くて勢いがあるサウンドが好きな人はこのアルバムがいいんじゃないでしょうか。

川上和人 / 鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

川上和人 / 鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 妻が図書館で借りてきたのをおススメされたのである。

2.内容

 2017年に新潮社からリリースのソフトカバー本。著者は鳥類学者の川上和人…もとい、子ども科学電話相談で有名な"バード川上"らしいですよ。

 元は雑誌「新潮45」に連載されていたのかな?小笠原諸島での現地調査だったり研究発表だったりの鳥類研究をテーマにしたエッセイ集であるのだが、その語り口があまりに面白い。語られる内容そのものはまさしく研究そのもので、専門に対する深い見識が伺える。一方、語彙に富んだ面白おかしい文体は一昔前(90年代末~2000年前半くらい)にあった所謂テキストサイトを彷彿とさせるし、端々に挟まれる漫画・アニメネタは非常にギークっぽくもある。
 最初の前書きを読んで、「あぁ、この人は面白い人なんだな」と思った。   

あなたには、鳥類学者の友人はおられるだろうか。多くの方にとって、答えは否だろう。原因の半分は、鳥類学者がシャイで友達作りが下手だからだ。残りの半分は、人数が少ないからである。

 終始こんな調子なので、学術研究としての内容を期待しては…まぁこの表紙とタイトルでそんな期待をする人はいないと思うけど、期待せずに楽しく読めるエッセイだと思ってください。研究者でありながらユーモアいっぱいで文才あります。でも、小笠原諸島やそこに住む固有種のことや、ウグイス(亜種)とハシナガウグイス(基本種)の違いのことなどもちゃんと知れるよ!

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 面白い。他の作品も読んでみたい。

4.どのような人に推奨するか

 先に引用したような調子に楽しみ親しみを覚える人には、とてもおススメな楽しいエッセイ集。

1349 / The Infernal Pathway

Infernal Pathway -Digi-

Infernal Pathway -Digi-

ノルウェーのブラック/スラッシュメタルバンド 1349のThe Infernal Pathwayをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 1349、前作から5年ぶりの新作ですよ!

2.内容

 2019年リリースの7thフル、Seasons of Mistから。手持ちはAvalonからリリースの日本盤で、#11に本作収録"Dodskamp"のノルウェー語版、#12に5thアルバムDemonoir(持ってない)に収録の"Atomic Chapel"の2曲がボーナストラックとして追加されている。

 前作6thの延長線上かなー。リフは高速刻みやコード感のあるトレモロに、ややメロディックなラインが増えたような気がするが、高速ブラストが乱舞するドラミングはまさにファストブラック/スラッシュメタルのそれである。サウンドはかなり前作に近い。ファットな刻みギターの音も、高速ながらクリアなドラムサウンドなど、アンダーグラウンド感は全くないです。6thよりブラック度は上がった気がする。前作がスラッシュ:ブラック=6:4だとするなら、今作は4:6くらいにはなっているんじゃないか?個人的にはこっちのほうが好き。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 ハイクオリティ。アングラ感があって尖っている1st~3rdの音が好きではあるが、プロフェッショナルなこれはこれで!

4.どのような人に推奨するか

 6thが好きな人は引き続きどうぞ。6thはあんまり…だった人にはおススメしないです。

体験記:おかえり「美しき明治」(府中市美術館)

体験記シリーズ。「おかえり「美しき明治」」に行きました。

1.鑑賞のきっかけ

 地元の美術館だから内容に関わらず行こうと思っているのです。あと、往訪日には講演会をやっていたというのもポイント。

2.内容

 先に講演会の方に参加。東京文化財研究所副所長 山梨さんによる「明治期における日英画家の交流について」をテーマとして90分ほどの公演。感想としては、「ワイみたいな素人が聞くにはレベル高くないっすか?」です。影響源や交流のあった画家には、同時代(より少し前)に隆盛したフランスのバルビゾン派(バルビゾン村に住み着いて自然を描くことに拘った一派)だったり、ラファエル前派(ルネサンス時代のラファエルを基本として自然をありのままにとらえようとした一派)だったりが、当然のように登場してくる。自分は偶々両テーマの企画展に行ってたからかろうじて理解できたものの、そうでなければ何が何だかわからなかったと思う。建築の観点では、日本に英国式建築を持ち込んだジョサイア・コンドルの話があったり、特に外国人には日光に人気があり、東照宮・陽明門をテーマとした作品が紹介された。
 うむ、大学の講義レベル。妻は美術を専門でやってたので非常に興味深く聞いていたようだ。私も面白く聞けたが、難しかった。隣のおじさんは寝てた…

 その後企画展へ。英国の画家が描いた明治期の日本。知ってる作品・作家とかは全然なかったんだけど、講演会の内容を念頭に置くと、展示されている絵の色遣いや光の表現・光源の置き方・遠近法に、確かにバルビゾン派やラファエル前派(ターナーあたり)の筆致を感じ取ることが出来た。そもそもテーマに自然が多かったね。人間が描かれないわけではないんだけど、自然の中の人間という感じがあって非常に綺麗だった。あと、やはり日本の風景だったり服装だったりが描かれているのは、親近感が持てる。
 あ、ジョルジュ・ビゴーは知ってたよ。みんなも教科用図書で日中露が釣りをしているあの絵、見たことあるんじゃないかしら。あの人、風刺画だけじゃなく油絵とかも描いてたんすね。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★ー
 講演会込みの評価。ありがとうございます。

4.どのような人に推奨するか

 英国好き、印象派好きは行けば楽しめると思うぞい。

Ex.ギャラリー

ポスター(美術館前)