めたすらいむの舟

メタル/書評を通じて、ものを書く練習を行っています。原則平日朝更新予定。なお、推理\ミステリ小説のネタバレは書きません。

宮内悠介 / 月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿

宮内悠介 / 月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 先に『ヨハネスブルクの天使たち』『カブールの園』を読んで、その読み味に好感を覚え、他作品も読んでみたいと思った所でした。読むのは2作目。(コンピレーションで『スペース金融道』を読んでいたので、それを含めると4作目か)

2.内容

 2019年に光文社文庫からリリースされた碁と碁盤を中心とした連作ミステリ。といいつつ、ミステリ要素の部分は丁寧ながら地味というか、驚愕のトリックがどうこう言う感じではないです。表題作を除いては1編40~50ページくらいなのですが、その中でキャラクターとストーリーを丁寧に魅せていて、うまいなぁと思います。本格的に事件を取り扱うのは表題作のみですが、ちゃんと各編にミステリ的な謎と回答が用意されています。渋いというかじんわりとした読み味というか。
 主人公(のわりにあまり出てこない)の碁盤師・吉井利仙と、ライバル的である贋作師の安斎の関係は、『ブラックジャック』のBJとキリコを思い起こさせる。碁盤作りに対するスタンスは違うが、根底にある情熱や信念は近いというか。そして実際に物語を回すという意味での主人公、愼と蛍衣の10代棋士二人。この辺のキャラクターが短い中でよく表現されていて、もっとこのキャラクターで読みたいなと思わされました。
 碁盤や碁にまつわるうんちくも、知的好奇心を刺激されてGoodです。深草少将知らんかったわ…

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 良いじゃん。この作者はウマが合いそうな気がしてきた。

4.どのような人に推奨するか

 『ヨハネスブルクの天使たち』よりカジュアルで読みやすい。タイトルはすごくミステリっぽいですが、ミステリはあくまで1つの要素といった感じ。メインはキャラクターと人間ドラマだと思います。

柞刈湯葉 / 人間たちの話

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

柞刈湯葉 / 人間たちの話 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ハヤカワ文庫JAでSFもの読みたいなぁと思ったときに、『日常』などで知られるあらいけいいちさんの表紙が目に留まりました。表紙がキャッチーで何より。

2.内容

 2020年にハヤカワ文庫JAからリリースされた作者初のSF短編集。寒冷化が進んだ地球で雪原の旅を続ける少年を描いた『冬の時代』が、なんだかエモーショナルで好きです。長編にしてくれてもええんやで。たのしい超監視社会は作者自身も言うようにオーウェル1984』をベースにした喜劇的オマージュ。突然部屋の真ん中に岩が表れる『記念日』あたりも好きですね。藤子F氏の短編の中で「おやじロック」とかいう室内設置用の実質ただの岩が売られていたが、あれを思い出した。
 全6編。1編あたり50ページ前後で長くもなく、小難しいこともなく、各アイデアを楽しく読めた。作者の他の作品が出たら、今後も買おうと思った。横浜駅SFはまだ読んだことないけど。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 良き。

4.どのような人に推奨するか

 結構ポップなSFで、作者のアイデアを楽しむ系の作品です。世界観自体がハードであっても、表現がポップなので読みやすいし読後感がいいです。そういうのをお求めであればおススメです。

Mayhem / De Mysteriis Dom Sathanas

De Mysteriis Dom Sathanas

De Mysteriis Dom Sathanas

  • アーティスト:Mayhem
  • 発売日: 2004/03/26
  • メディア: CD

ノルウェーブラックメタルバンド De Mysteriis Dom Sathanas をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 映画『Load of Chaos』をきっかけに聞きなおしているpart2。

2.内容

 1994年の1stフル。レーベルはいろいろ。手持ちがどれだか分からん。レコーディング~リリースにいたる経緯や、Attila[Vo]、Euronymous[Gt]、Count Grishnackh[Ba]、Hellhammer[Dr]といった参加メンバーだけで一頻り語れる伝説的な1枚。殺人犯とその被害者が共演しているという事実。ググればいくらでも情報は出てきます。映画もご覧ください。

 とはいえ、そういったゴシップ的な一面を抜きにエクストリームメタルとして見ても、やはり名作だと思います。Attilaの呪言のようなボーカルが独自性に溢れすぎていて結構これが取り沙汰される気がするが(まぁ自分も初回聞いた時は驚いたけど)、前作よりもトレモロリフや怪しげなメロディが進化していて、それでいて1つ1つのフレーズはキャッチーで分かりやすいのです。もちろんHellhammerの高速タム回しやブラストビートも聞きどころデス。前作と比べて過激さそのものは減じていないと思うんだけど、楽曲の構成力・演奏力・音質の向上により、エクストリームでありながら怪しさや不気味さが大きく前面に出てきているのが本作ですね。

 しかしだ。EP(Deathcrush)から続けて聞くと、このアルバムは本当にめちゃくちゃ音質が良いなぁって思う。他のブラックメタル作品と比べても十分良いし、なんというか品質だけの話だけではなくて、楽曲の魅力を引き出す方向に非常に作用していると思う。湿り気を伴いながら黒く地を這うようなギター、ブイブイと歪んでギターと同化するベース、1つ1つの音がクリアに聞こえつつも微妙にエコー感のあるドラムといい、とにかく雰囲気がある。Euronymousは「今度のアルバムはすごく音質がイイんだ!」とか言っていたとかってどこかで見た記憶あるけど…本作はあらゆる意味で「音がイイ」と思いますね。「ブラックメタルは音質悪いのが正義」といった逆張り精神とは無縁の高品質なサウンドです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 やっぱ名盤だわ。  

4.どのような人に推奨するか

 このアルバムに関しては他に似ていると言える作品が全然思いつかない。ので、何が好きな人にとかすごく言いづらい。音楽としては、史料価値を抜きにしてもブラックメタルの名作として間違いなくおススメできる一品。いや、広義にエクストリームメタル好きに聞いてみていただきたいです。
 所謂ノルウェイジャンスタイルのブラックメタル好きにおススメできるかというとちょっと違う気もする。が、そんなことを言う人でこのアルバム聞いていない人がいるわけがないので、まぁええか。

Mayhem / Deathcrush

Deathcrush

Deathcrush

  • アーティスト:Mayhem
  • 発売日: 1999/04/20
  • メディア: CD

ノルウェーブラックメタルバンド Mayhem / Deathcrush をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 映画『Load of Chaos』をきっかけに聞きなおしている。

2.内容

 1987年のEP。いろんな版があるようだけど、自分が持っているのがどこのレーベルのかは忘れた。メンバーとかの情報も調べりゃわかる話だから自分が語らなくてもいいだろう。Metallumとか見てください。

 先に1st(De Mysteriis Dom Sathanas)を聞いてからこっちに遡って聞いた。当然1stはブラックメタル聞き始めの頃に聞いたもので、ブラストビート・トレモロリフ・呪詛的なボーカルと、あれこそがブラックメタルの標準形だと思った。(実際にいろいろとブラックメタル聞いていくと、その特異なボーカルワークもあってMayhemの1stっぽい音ってそんなにない気がするんだけどね)
 で、遡っての本作は大分別物に聞こえる。実際、De Mysteriis...の楽曲は1990年頃には出来ていたはずだし、曲のストラクチャは結構近いものもあると思うんだけど。異様に目立つ歪んだベース、ドカドカとパワフルなドラム、ざらついたエッジのあるギターといった諸要素は、初期SodomとかBlashphemy、Sacrofagoとかのスラッシュメタル/ハードコア由来のストレートな勢いを感じさせます。冷涼な感じはなく、熱量がある攻撃性の高い音楽です。その辺が1stと違うな―と感じさせる部分だと思います。一方で、#1とか#6のイントロとかにEuronymousのエレクトロな至高がちょっと出ている感じもあります。音質もこの手のジャンルにしては十分良いです。
 資料的な価値を抜きにしても、サウンドもリフもブラックスラッシュとしてハイレベルで良いものを持っていると思うんですよね。カッコイイです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 1つ1つのリフが結構いいんだよ。これが。  

4.どのような人に推奨するか

 前のめりで治安の悪いスラッシュメタル好き、あるいはブラックスラッシュ好きに推奨します。Aura Noir好きとかにも合うんじゃないかな。資料的な価値を抜きに「ノルウェイジャンスタイルのブラックメタルを聞きたい」という目的で本作を聞くと、期待した内容は得られないと思います。

アーシュラ・K・ル・グィン / 闇の左手

アーシュラ・K・ル・グィン / 闇の左手 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 SFマガジン ハヤカワ文庫50周年記念号における、訳者本人(小尾芙佐さん)の思い出の作品としての紹介が切っ掛け。なお、ゲド戦記は原作も映画も未体験だ。

2.内容

 原作は1969年で、本書は1977年にハヤカワ文庫入りしたもの。冒頭の通り、小尾芙佐さんの翻訳。橇を引く2人が氷の大地を歩き続ける表紙。読み終わった後に見ると、これいいなぁ。
 
 ジョジョ7部でジャイロとジョニーがひたすら旅をしているシーン(ドロドロのコーヒーを飲んでたりするあたりね)が脳裏に浮かんだ。13章における収容所への収監に始まる2人の逃避行のシーンね。作者はこのシーンが最初に頭に浮かんだという。舞台となる惑星はそもそも寒く(地球基準でだが)、雪が吹き荒れている。特に冬の脱走者は看守がいなくとも自然が殺すのでOKとまでされている。そんな厳寒の世界で、ひとっこひとりいない氷河を最小の装備で渡っていく旅の描写と、その中で生まれる異星人間での友情というか愛情というか相互理解…というのがいいですね。

 それがただのファンタジーだったらあまり面白くなかったかもしれない。本作は2名の主人公(アイとエストラーベン)の主観視点で主に進行されるが、いくつかの章では全く異なる民話や調査資料から世界観が語られる。序盤から作中内専門用語の連発でさっぱり単語の意味がわからないが、物語の進行といくつかの挿話を経て「発情期にのみ性別の発生と性的行為が行われる両性具有の人々が暮らす世界」の世界観が少しずつ分かってくる。舞台中では異星人という位置づけである地球人のアイがこの世界を理解していくように。この両性具有人と地球人(単性人)の差異と交流というテーマだけでも十分に語りがいの思考実験になっていると思う。面白いです。

 ちなみに16章(エストラーベンの日記)内の太字タイトルはこの星における暦(月日)を表しています。最初人名かなにかかと思って意味が分からなかった。というかエストラーベンの日記であることすら分からんかったぜ…。2周目読んだらこの辺の単語の意味が分かったうえで読めるから、また違った感覚で読めそう。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 これは確かに名作かも。

4.どのような人に推奨するか

 世界観と単語を理解するまでは読みづらいと思うが、登場人物は少なくストーリーは分かりやすい。ハードウェア的なテクノロジーに突っ込んだ作品ではなく、哲学的な思索の方にポイントがあると思いますので、そういう作品が好きな方に推奨します。

Symphony X / Twilight in Olympus

Twilight in Olympus

Twilight in Olympus

  • アーティスト:Symphony X
  • 発売日: 1999/03/23
  • メディア: CD

アメリカのプログレッシブパワーメタル、Symphony X / Twilight in Olympusをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近Symphony Xばかり聞いていますシリーズ。この作品だけは大昔に買って持っていたので聞いたことがあったのだが、当時は特にピンとこなくて聞いていなかったのだ。Dream Theaterは大好きだったのにね。

2.内容

 1998年に日本のZero Corporationから(同年にInside Out Recordから)リリースされたバンドの第4作。ジャケットが物凄いギリシャ神話アピールをしてくるが、多分内容はそこまでギリシャ神話ではない。Orionという曲はあるけど。このジャケットデザインは、Dream Theaterの"Images and Words"や"Awake"を手掛けたのと同じ人らしいですね。(Dan Muro氏)

 冒頭にも書いたけど当時は地味でピンとこないなぁーとか思って全然聞かなかった。ネオクラに興味がなかったからかもしれないが…。#1 "Smoke and Mirrors"はイントロだけであんまり盛り上がらない疾走曲だなぁとか思ってた。今もその感想自体はあんまり変わらないんだけど、Symphony Xの真骨頂は多彩な展開を見せるエピック曲にあるということがわかると、本作の印象が結構変わる。
 本作はスピード感のある曲が少なく、やや長尺で展開が多めな曲が多いです。疾走曲っぽいのは#1と#4 "In the Dragon's Den"くらいかな。それよりは、長尺曲の出来の良さを挙げたい。本作最長の13分を誇る大曲 #4 "Through the Looking Glass"、2nd~3rdっぽい雰囲気を残すミドルパワーメタル曲の#6 "The Relic"、ヘヴィでダークでプログレメタルな#7 "Orion - The Hunter"、イントロから露骨な和音階に琴を取り入れ、テーマも雪女な#8 "Lady of the Snow"(ちなみに楽曲全体を聞くとそんなにベタベタに和音階な曲だなぁとは思わないです)と、後半にいい感じの楽曲があるイメージです。
 個人的には前作の楽曲の充実ぶりには及んでないなと思いますが、エピック曲の強化が図られた良作です。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★-
 前作と比較するからだけど。楽曲はイイもの揃ってます。

4.どのような人に推奨するか

 3rdをよりエピックな方向に伸長させた内容なので、プログレメタラー向けになりました。ただし、この作品を聞くのは3rdを聞いて気に入ってからでも別にいいと思います。逆に本作から聞いて3rdに遡るのもいいですが、最初に聞くならやはりバランスの取れた3rdかな?

Symphony X / The Divine Wings of Tragedy

Divine Wings of Tragedy (Spec) (Dig)

Divine Wings of Tragedy (Spec) (Dig)

  • アーティスト:Symphony X
  • 発売日: 2004/01/13
  • メディア: CD

アメリカのプログレッシブパワーメタル、Symphony X / The Divine Wings of Tragedyをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近Symphony Xばかり聞いていますシリーズ。

2.内容

 1996年に日本のZero Corporationから(1997年にInside Out Recordから)リリースされたバンドの第3作。日本で先行発売されるくらい人気だったんですねえ。

 20分を超える大作の表題曲を始めとして、楽曲の構成力がどんどん上がってきている。一方でネオクラシカルで妖艶なメロディにも磨きがかかっており、ヘヴィさとメロディとプログレッシブさのバランスが彼らのカタログの中で最もいいんじゃないかと思わせる。
 ところで、このアルバム、発売当時はヘヴィになったとかPanteraっぽくなったとか言われたってマジですか?2nd "Damnation Game"と連続で聞いても全然そうは思えないんだが。当時の感覚ではそうだったのか?#1 "Of Sins and Shadows"のリフだけ聞いてそう判断したとかかね。

 閑話休題。1曲1曲の質の高さは過去最高です。#1 "Of Sins and Shadows"のテンションの高い歌メロに中間のQueen的な大仰なコーラス、からのギターソロとキーボードソロのバトルは素晴らしい。#2 "Sea of Lies"はRacer XのTechnical Difficultiesかな?というような細かく刻まれるリフとエキゾチックなメロディ、超高速なシーケンスギターフレーズが聞きどころ。#3 "Out of the Ashes"はイントロからクラシカルなメロディにハープシコードの乱舞で最高にニヤニヤできる。#4 "Accolade"はImages and Words期のDream Theaterを思わせるキラキラしたキーボードを中心にメロディックに展開するエピック曲。こういう曲がこのバンドはうまい。#5 "Pharaoh"はタイトルそのまんまにエジプシャンな音階で展開される佳曲。#6 "Eyes of Medusa"は本作の中では最もヘヴィ寄りの曲かな。地を這うようなザクザクしたリフを中心に展開するミドルテンポの楽曲。#7 "The Witching Hour"はイントロから1st "Masquerade"レベルの怪しげなメロディが連発されるニヤニヤもんの楽曲。#8 "The Divine Wings of Tragedy"はオープニングの重層的なコーラスから心を引き付けられる。このバンドの集大成のように彼らの音楽性・パターンが詰めこまれた聞きごたえのある曲。#9 "Candlelight Fantasia"はラストにしてゲロ甘で最高にメロディアスなパワーバラード風の楽曲。とにかくサビメロが超いい。

 このアルバムは本当に楽曲の魅力が凄いです。メロディもインストパートもどうにも「キャッチーになりきれない」絶妙なラインであり、それが一聴した時の地味さにつながるわけですが。周回で聞きこんでいくと、どこもかしこも聞いてて面白いパートばかりです。プログレメタルおじさんも納得。

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 文句なしに素晴らしい。

4.どのような人に推奨するか

 基本的には2ndの延長です。ネオクラ要素、プログレメタル要素がバランスよく配合されて高レベルにブラッシュアップされている。パワーメタルっぽい曲よりエピックな曲の強力です。ネオクラ・プログレメタル好きに超おススメです。このバンドを初めて聞く方は、これが1作目としていただくのが良いでしょう。ちなみに、初期より最近の作品の方向性を知りたいのであれば、後2015年作"Underworld"を推奨します。

清水潔 / 殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件

清水潔 / 殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 ブックオフをウロウロしていた時に特価コーナーで見かけて、タイトルとノンフィクションものということで魅かれました。作者やこの本のことは知らなかったです。

2.内容

 2014年、新潮文庫からの作品です。2016年頃にどこだかの書店が作者名もタイトルも隠して『文庫X』として売り出した書籍。あれが本作だったということは、読み終わった後に知りました。

 確かにこれは凄く心に残る本だった。メディアや報道・警察・裁判所・弁護士・検事の役割や職業倫理というものを考えさせられます。誤りを認めることができない巨大組織の問題というのもなんとなく分かる気がします。DNA型調査の信頼性にケチが付いた場合、これを根拠に行われた調査の信頼性が損なわれる。それだけなら再検査でも再調査でもすればよくて、費用面はあるにせよ組織にとってはまぁどうにかなる話で。それよりも 、DNA型導入を決めた上役の責任問題になるとか、これを守るための嘘や隠蔽が追求されるとか、そっちの方がイヤだったりするんじゃないですかね。すべての官公庁で一事が万事こんな問題を抱えてるまでは考えないが、大小はあれど類似した話は「巨大組織の問題」としてどこにでもありそうだな。
 警察発表や政府発表を一次ソースとしてそのまま報道するのも、低リスクで楽だし、(公式発表通りという意味では)間違いがないからなんだろうな、と思いました。自分が新聞社にいて、そういう仕事の仕方をしない自信はない。

 などなど。あとは、単純にこの清水さんという人の信念と行動力が凄いなぁと。文章にも「その思い」が詰まっていて、ぐいぐいと引っ張られる。劇的なノンフィクションである。この人は週刊誌報道やテレビ報道畑の人ということであり、ちょっとメディアの見方が変わりますね。単純と言われそうだけど。

 後書きにあった調査報道のカテゴリ分類。放っておいてもいずれ明らかになる「エゴスクープ」は、報道側は第一報を競って争うが、いずれ分かる視聴者にとってはなんら価値のない競争であり価値のない報道だという。確かにそんなニュース速報が多い気がしてきたよ…。もっと本書のような発掘型・思考型のスクープが増えるといいですね。最近は大手新聞社やテレビは全然で、文春あたりが独自ネタをつかんでいるイメージがあるわ。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 『文庫X』での推され方も頷ける素晴らしい本でした。

4.どのような人に推奨するか

 上記に挙げたような報道・警察・裁判所・弁護士・検事の問題などに興味がある人。例えば自殺者や天災の被害者に群がるマスコミに嫌悪を感じたことがあるとか、裁判所のクソ判決に納得できなかったり、警察の不祥事に怒りを感じたりとか、そういったレベルのことです。そういった思いを少しでも持ったことがある人は、この本を間違いなく興味深く読めると思います。

折原一 / 耳すます部屋

耳すます部屋

耳すます部屋

折原一 / 耳すます部屋 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 なんかミステリを読みたくて、そういえば以前と『倒錯のロンド』って読んだけどどうだったかなぁと記憶もあいまいなままブックオフで購入。

2.内容

 原作は2000年の単行本で、講談社文庫から2003年に文庫発売された短編集です。書かれた年代は90年代ということになりますかね。登場人物の描写は確かに90年代臭い。
 舞台は現代でありとても日常的な風景。コンテンポラリーなホラー要素のあるミステリです。1つ1つの短編に仕掛けがあるということは分かる。例えば本書1作目だったら、主人公(お母さん)が娘の友人を刺殺したと思わせる描写をしておいて実は…というオチが待つ。しかし、まぁなんというか悪くいうとそれだけ。淡々とした文章なのは好き好きだからいいとして、登場人物がその舞台を説明するための装置という感じで生きている感じがしない。「ここがオチですよ!」とアピールする傍点もうっとおしく感じる。
 文章自体は平易で読みやすく10編読み通しましたが、読んでて楽しくはなかったです。読後の感想も他に特にないです。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★---
 うーんこの作者とは合わない気がしてきた。

4.どのような人に推奨するか

 特にないかな。

Time Requiem / The Inner Circle of Reality

The Inner Circle of Reality

The Inner Circle of Reality

  • 発売日: 2003/05/14
  • メディア: MP3 ダウンロード

スウェーデンのシンフォニックメタル、Time Requiem / The Inner Circle of Realityをレビュー。正式には、Richard Andersson'sが付くんだろうか??それはSpace Odysseyの方だっけ。Burrn誌とかで見たことある気がするよ。

1.作品を選んだ理由

 ネオクラシカルなバンドを探していて。そういやこの人の名前とTime Requiemってバンド名は聞いたことあるが、曲は知らんなあと思い。

2.内容

 2004年にRegaion RecordsからリリースされたRichard Andersson率いるスウェーデンネオクラシカルパワーメタルバンドの2作目。Richard以外のメンバーは全く知らない…
 なんというか、いかにもクラシカルだったり中近東風だったりの「それっぽい」フレーズと展開が派手に連発されるので、好きな人にはハマるのかもしれないが… 曲とボーカルがあまりよくない気がする…。疾走する#1 "Reflections"や初期Dream Theaterっぽいすねぇ~と思う#7 "Hidden Memories"などでフレーズフレーズで耳を引くものがないわけではないんだけど、楽曲が印象に残らないです。…あ、今#7 "Hidden Memories"の最初のメロ聞いてたけど、Sonata Arcticaの"My Land"みたいだなって思った(Sonataの方が先)。
 分かる人には『様式美』の一言で通じるのかもしれないが、言葉(ジャンル名)として好きじゃないので使いません。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 むーん。面白くない。

4.どのような人に推奨するか

 派手でクラシックっぽく、若干プログレメタル風なパワーメタルが聞きたい人におススメ。ボーカルが弱くてもキーボードが乱舞してればOKな方に。
 自分はSymphony Xの類似バンド探してこのバンドを聞くにいたったが「あぁ、Symphony Xって曲いいんだな!」ということを図らずも再認識する結果になりました。

谷崎潤一郎 / 陰翳礼讃

陰翳礼讃

陰翳礼讃

谷崎潤一郎 / 陰翳礼讃 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 谷崎である点と、タイトルで気になっていた。だって陰翳だぜ。暗そうでよいなと思ったのです。

2.内容

 小説だと思ってた!これはエッセイ集ですね。昭和5年~23年の間に文藝春秋婦人公論中央公論などの雑誌にて発表されたエッセイ7編をまとめたものです。文庫の初版は1975年。中公以外でも文庫が出ているようだが。
 表題の『陰翳礼讃』は一言でいうと食事・建築・文学等の様々な観点から東洋(日本)と西洋の美的感覚や趣向の際について述べたものです。 その他、懶惰(なまけ)、客嫌い、旅、厠(トイレ)など、テーマ別の論考が続いています。  谷崎のエッセイは初めて読んだけど、構成がわかりやすくて文章も面白い、それでいて谷崎の鋭い意見が入っている。というか、この捻くれた感じがとても良い。
 観光地として荒らされた宿や食事に旅情がないのでマイナーな隠れ宿を探したい、他の人に広まってほしくない(宿の経営的には広がったほうがいいに決まってるけど)、電車でのんびり揺られている移動そのものが気持ちいいぞ、といった旅に関するいろいろ。
 『客嫌い』では、昔は喋るのが得意だったはずだが会話嫌いを貫きとおして年を取った結果気づいたら全然喋れなくなってたとか、自分から会いたい時に会う友人以外の自分が望まない来客は全部お断りだし会話したくない、という客嫌いぶりは正直共感する。自分もわりとそんな感じだし…

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 エッセイのテーマ自体も卑近で面白いんだけど、やはり文章力・描写力があるなぁ。

4.どのような人に推奨するか

 芸術・恋愛・旅・交友・怠け・トイレと、テーマそのものは現代でも十分通用する、頷ける内容です。身近なテーマで気楽に読めます。暗いとか怖いとかもないので、気楽にフムフムと谷崎の考えを読みたい方におススメ。

Derdian / New Era Part1

New Era, Pt. 1 [Explicit]

New Era, Pt. 1 [Explicit]

  • 発売日: 2005/02/01
  • メディア: MP3 ダウンロード

イタリアのパワーメタル、Derdian / New Era Part1をレビュー。

1.作品を選んだ理由

 シンフォニックパワーメタルでいいのないかなぁと思い、Vision Divineの直近のヴォーカルさんであるIvan Gianinniさんが籍を置くこのDerdianにたどり着いたわけです。名前は前から知ってたけどね。来日もしたことあるよね。

2.内容

 2005年にSteelheart Recordsからリリースされたイタリアのシンフォニックキラキラクサメロパワーメタルの1stアルバム。この手のバンドは日本で人気があるからなのか、Soundhollicから日本盤が出ている。

 しかし。これは確かにスゴイ。ここまでのブッちぎったクサメロをよく臆面もなく連発できるな、と思わざるを得ない。シンフォ/ネオクラ系によくある半音階を効果的に使ったマイナー調泣きメロディ、あるいはRhapsodyもかくやと言うようなヒロイックで勇壮なメロをとにかく詰め込んだ、ポジティブさとスピード感に溢れたメロディックメタル。シンセサイザーもかなり聴いていて大仰さを助長している。
 このバンドの凄いところは、ボーカルだけとかコーラスだけクサメロというわけではなく、イントロ、バッキングや合いの手的なオブリガード、ギターソロ等、とにかく全編全楽器に渡ってそのようなクサメロが盛り込まれているという点であるな。初期Children of Bodomの"Hatebreeder"あたりはクラシカルでキラキラな間奏が結構あったと思うんだけど…あれを1曲丸ごとでやっているような感じで、ちょっと聞き疲れするレベルでメロディック。演奏やアレンジにそんなに複雑な部分はなく、あくまでも感触はストレートなパワーメタルです。

 ボーカルが細いとか音質があんまりよくないというレビューも見かけた。確かにそう思わなくもないが、別に気になるほどではない。まぁメロパワだしこれくらいが聞きやすいんじゃないの?という気もする。あまりにヘヴィ・ファットなサウンドだとしんどかったかもね。   

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 

4.どのような人に推奨するか

 Rhapsodyのキラキラなメロディとアレンジはそのままに、シアトリカルさを減退させて、パワーメタル方面に全力で舵を切ったような音楽性です。クサメロ愛好家には大変おススメできる一品だと思います。

東野圭吾 / 仮面山荘殺人事件

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

東野圭吾 / 仮面山荘殺人事件 のレビューです。

1.作品を選んだ理由

 近所の書店でポップアップされていたため。東野圭吾3冊目というのと、いかにも王道なクローズドサークル的な殺人事件ミステリを読みてぇな、と思った。

2.内容

 ポップされていた割に1995年と割と昔の作品であった。友人知人が集まったとある山荘で休日を過ごしていると、そこになぜか銀行強盗を済ませたばかりの逃亡犯が逃亡中の隠れ家としてこの山荘に乗りこんできて、全員が人質に取られる。そんな異常事態の中、ある故人の死亡理由に関する疑念が登場人物の間で膨らんでいき…という、なんというか山荘に集まっただけでも何かしら事件が起こりそうなところに、強盗まで来てしまうというわちゃわちゃした内容です。強盗との生活に慣れるうちに登場人物の緊張感も薄れてきて、監禁状態であるにも関わらずどんどん個人の死に関する内容にフォーカスされていく不思議。
 犯人はだれなのかいろいろ想像巡らせながら読んではいたものの…このオチは想像できんかった。犯人がどうとかではなく、もっと別のところでトンデモナイ結末が待っています。ちょっと型破り的ではあるんだけど。まぁ仕掛けがわかったあとだと、作品名や各章タイトルが伏線と言える気がする。
 巻末の折原一さんの解説が「私も同じトリック考えてたのに先にハ票されたので嫌いw」な内容でちょっと面白かった。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★--
 事件の起因となった出来事自体は悲しい内容ではあるものに、全体的に作者の他作品より情動的な部分が薄めなような気がします。喜劇的でもあります。

4.どのような人に推奨するか

 まぁ所謂どんでん返しであることは間違いない。事件内容はさておき、オチに騙されたい人どうぞ。

Adagio / Life

ライフ

ライフ

フランスのプログレッシブメタル、Adagio / Lifeをレビュー。

1.作品を選んだ理由

 最近プログレメタラーなので、いろいろそれっぽいものに手を出しています。古き良きテクニカル・メロディアスを求めて、そういや昔Adagioの1st買ったけどあんまり聞いてはいなかったなぁというところが再聴のきっかけ。

2.内容

 2017年にZeta Nemesis RecordsからリリースされたStephan Forte率いるフランスのバンドの第5作目。Zeta Nemesis Recordsってどこ?Metallum見ると本作とStephanのソロアルバムっぽいものしかないから、自身のレーベルなのかな。2021年現在バンドはON-HOLD…活動休止中とのことで、現時点の最終作です。

 むかーし聞いた1st "Sanctus Ignis"の記憶は、こねくり回したアレンジとメロディを持ったネオクラシカルでシンフォニックなパワーメタルという感じです。今聞きなおしてもあんまりその印象は変わらず。
 一方の本作。とにかくその1stとは全く別物と言えるサウンドになっております。シンフォニック・クラシカル・パワーメタルな要素に魅力を感じていた人からすると全然刺さらない内容かもしれません。
 Djentっぽく変則的に刻むマシーナリーなリフからクリーンなアルペジオにメロディックなソロプレイやエキゾチックなフレーズと幅広いギターワークを中心に、抑制されたダークな雰囲気・歌メロと、様々に展開するリズムと変則拍子を持った、やや長尺でミドルテンポの楽曲が並びます。オールドスクールなメタルっぽさはかなり薄まっていて、モダンな雰囲気です。#3 "Subrahmanya"のイントロやコーラスのリフなんかは分かりやすくDjentリフだけど、暗く静謐なパートや、部分的に1stを思わせるイイ感じの歌メロ、ギターメロディの織り交ぜ方がこのバンドならではという感じがします。#9 "Torn"あたりは。強力なボーカルメロディにピアノとストリングスが絡む比較的わかりやすい楽曲と言えるかもしれない。

 全体的に派手さはなく、寧ろ地味とも言える作風で、パワーメタル的な即効性は全然ないです。なんだけど、これがプログレメタル耳にはとても心地よい。怪しくも印象的なメロディが多く、1つ1つのフレーズが良く練られていると感じます。なんか繊細というか痛切というか、Fragile(壊れそう)な雰囲気と緊張感があって、それがとても気持ちいい。また、本作から加入のKelly Sundown Carpenterさんの太くよく伸びるヴォーカルワークが非常に素晴らしいというのも大きなセールスポイント。ヴォーカルが強力ってのはやはりいいことだ。  

3.感想/評価(★の5段階)

 ★★★★★
 期待していたものと全然違うけど、それはそれとしてめちゃくちゃクオリティ高くて面白い内容なのでビビりました。凄いね。

4.どのような人に推奨するか

 1stのシンフォニック・クラシカル・パワーメタルな要素に魅力を感じていた人には推奨しません。テクニカルというわけでもないです。しかしながら、暗く美しさメロディと構築力の高いヨーロピアンなプログレメタルな楽曲は非常に魅力的。Paradise Lost以降のSymphony Xをもっと繊細にした感じなので、そういうのが好きな人にはおススメできます。